暗く冷たい地下室から3年ぶりに引きずり出された私・大江雨音(おおえ あまね)の目に最初に飛び込んできたのは、大江和也(おおえ かずや)が白石鈴(しらいし すず)の長い髪を優しく結い上げている光景だった。その傍らでは、私の実の息子である大江健介(おおえ けんすけ)が、無邪気に手を叩いてはしゃいでいる。「わあ、鈴ちゃんすっごくきれい!ねえねえパパ、いつ鈴ちゃんをお嫁さんにするの?」和也は口元に甘い微笑みを浮かべ、愛おしそうに鈴を見つめる。鈴もまた、頬を染めて恥ずかしそうにうつむいた。まるで絵に描いたような幸せな家族の団欒――それをぶち壊したのは、私の乗る古びた車椅子が立てた「ギシッ」という無粋な軋み音だった。音に気づいた和也が、氷のように冷たい視線を私に向ける。「3年前、お前が鈴を陥れて賞を奪おうとしたこと……三年経って、少しは反省したか?」私はただ、彼を静かに見つめ返した。地下室に幽閉されていたこの3年間で、この男に対する愛情などとうの昔に消え失せ、残っているのは底知れぬ絶望だけだ。私が押し黙っていると、それまで和也の背中に隠れるようにしていた鈴が、おずおずと口を開いた。「雨音さん……もしかして、まだ私のこと恨んでるの?」彼女はか弱く震える声で続ける。「あの時、コンクールの決勝直前で雨音さんに原稿を盗まれちゃって……私、怖くてついメディアにすがっちゃったの。ファンの人たちがあんなに過激な行動に出るなんて、本当に思わなくて……」――ファンの過激な行動、だと?よくもそんな白々しい嘘が吐けるものだ。愛する女の窮地を救うため、和也が裏社会の人間を雇って私の両足を叩き潰したことは火を見るより明らかだった。そもそも、事の真相は全くの逆なのだ。鈴は私の書いた作品を丸ごと盗用し、『天才若手脚本家』という名声とともに私の人生を乗っ取った。だが、自力でまともな作品など書けるはずもない彼女は、決勝戦で提出する原稿を用意できず、あろうことか私に原稿泥棒の濡れ衣を着せたのだ。「この泥棒!鈴ちゃんのものを盗む悪いおばさん!」突然、タタタッと駆け寄ってきた健介が、私の車椅子を力任せにドンッと突き飛ばした。よろめく車椅子を見て、鈴がわざとらしく健介の頭を撫でる。「こら、健ちゃん。いくらなんでもママに向かってそんなこと
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