離婚届は30分前に印刷したばかりのものだった。  その前に、私はリビングのソファで一晩中座り続けていた。  ダイニングテーブルには、私が心を込めて作った十数種類の料理が手つかずのまま残っている。  ウルトラマンのテーマケーキも、すでに溶けて原形を失っていた。  昨日は息子の健太郎の誕生日だった。  夫の悠一は健太郎を迎えに行って一緒に誕生日を祝うから、準備をするようにと言っていた。  でも、私は待てども待てども、結局待っていたのは美奈の「四人家族」投稿だった。  なんて滑稽なんだろう。  悠一は私が離婚を切り出すとは思っていなかったようで、眉をひそめ、離婚届を破り捨てた。  彼は不愉快そうに言った。「理沙、また何を言い出すんだ?ただ健太郎を連れて美奈と会ってきただけで、言い忘れただけだろ?」  そう言うと彼の視線はその食卓に移り、目の奥に一瞬の罪悪感がよぎった。  彼は少し声のトーンを和らげて言った。  「悪かったよ、昨日は連絡し忘れた。これからは気をつけるよ。  ここは俺が片付けるから、少し休んでくれ。昼に健太郎と一緒に外で食べよう」  彼はいつもこうだ。一度は叩くけど、すぐに飴をくれる。  自分がひどいことをしたとわかっていても謝りはしない。ただ、少し私に譲歩するだけ。  もし私がその譲歩に従わなければ、彼は私と冷戦を始める。そして私が耐えきれずに折れるのを待つのだ。  今までは私がいつも彼に折れてきた。でも今回は違う。私はもう一枚の離婚届を取り出し、テーブルの上に置いた。  「何十枚も印刷したんだ、好きなだけ破ってみなよ」  悠一は怒りに任せてコップを割った。  彼はイライラした表情で私を睨みつけて言った。「結局のところ、健太郎が美奈のほうを好いているのが気に入らないだけだろ?  理沙、お前が忘れちゃいけないのは、全部お前が美奈に借りがあるってことだ!  俺と健太郎が彼女たちを助けるのは、お前の罪を償っているんだ!」  償い?私に一体どんな罪があるというの?  私は美奈と親友だった。大学3年の夏休み、彼女が遊びに行こうと誘ってきた。  夜になり、帰る時、私は大通りを通りたかった。でも彼女は近道をしたがり、「友達が近くにいるから大丈夫だ」と言っていた。  だか
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