誠健は思わず「好きになるわけないだろ、あんな短気な女」と軽口を叩こうとした。けれど、口に出す直前で言葉が止まった。知里とこれだけ長く一緒にいて、そんなこと一度も考えたことがなかった。ただ気が合えば一緒にいる、合わなければ離れる。それだけだった。自分の気持ちを、本気で向き合って考えたことなんて、一度もなかった。そんな誠健の脳裏に、初めて「答えの出ない問い」が浮かんだ。向かいの智哉がふっと笑った。「今のお前、三年前の俺にそっくりだな。あのときの俺も、佳奈とは相性が良くて居心地いいから付き合ってるって思ってた。でも、将来のことなんて一度も真剣に考えたことなかった。それが原因で、大きなすれ違いを生んで……結局、取り返すのに地獄を見たよ。お前も、俺と同じ道を歩みたいのか?」当時、智哉がどれだけボロボロになっていたかを思い出して、誠健は即座に返した。「バカ言うなよ、俺はお前みたいにアホじゃない。佳奈はお前のことが大好きだったのに、お前は疑ってたじゃん。俺と知里の関係は、そういうのとは違うんだよ。変なこと言うなって」智哉は「このバカ」と言いかけて、飲み込んだ。「……まぁ、なんでもないってことにしとくよ。でもさ、お前、知里との間に誤解がないって、どうして言い切れる?もしかしたら、もっと深いすれ違いがあるかもよ。一生埋まらないくらいのな」と淡々と答えた。「縁起でもねぇこと言うな!俺はただ、あいつとどういう関係にすべきかまだ決めかねてるだけだ。もし本当に結婚なんてしたら、あの短気に俺が耐えられるかどうか、考えてんだよ!」「だったらやめとけ。そうしてる間に、別の男に取られるだけだ。聞いた話だと、知里のお母さんが見合い話を進めてるらしいよ。俺、資料見せてもらったけど、結構いい男たちだったぞ。少なくともお前よりは真面目そうだった。ちゃんと家庭を大事にしそうな、ね」自分の目の前で親友に他の男を褒められて、誠健はカッとなった。「お前、誰と一緒に育ったと思ってんだ!?なんでそんなに外野目線なんだよ!」智哉はクスッと笑った。「知里は俺の息子の義理のお母さんだからな。俺としても、ちゃんとした義理の父さんを見つけてあげたいのさ。少なくとも、自分が何をしたいのかもわかってないような、チャラついた男じゃなくてな」誠健は怒りで胸が苦し
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