陣内杏奈は初めて母親になった喜びで、寝るのがもったいないくらいだった。少し時間が経つと、すぐに娘の様子を見たくなってしまう。寝室の明かりが薄暗くなると、九条津帆はソファに戻って横になった。そして、そっと目を閉じながら囁いた。「おやすみ。夜中に、莉緒を連れて行くよ」陣内杏奈は断ろうとしたが、言葉にする前に、九条津帆は眠ってしまったようだった。薄暗い光の中、彼は静かにソファに横たわり、片腕をベビーベッドに伸ばして、慣れた手つきで優しく揺らしていた。その微かな揺れが、陣内杏奈の心を締め付けた。人の心は、皆、血の通ったものだ。陣内莉緒への愛情、そして自分への思いやり。陣内杏奈だって、何も感じていないわけじゃない。しかし、二人の間には、もう遅すぎるのだ。子供だけが繋ぎ止めるには、あまりにも脆すぎる。残りの人生を妥協したくはない。だから、きちんと話し合わなければならない。二人の間に、きちんと線引きしないと......例えば、子供に会いたければ、もう少し大きくなってから、週に二度、迎えに来てもらうとか......心の中が混乱し、陣内杏奈は安眠できない。夜中、陣内莉緒が目を覚まし、小さく泣いた。九条津帆は疲れていたのか、起きる気配もない。陣内杏奈は起き上がり、あやし、おむつを替え、ミルクを飲ませた。陣内莉緒は満足そうにベッドで再び眠りについた。こんなに可愛い子を見たら、誰だって心がとろける。陣内杏奈はベビーベッドに寄りかかり、しばらく娘を見つめていた。ベッドに戻ろうとした時、九条津帆が何も掛けていないことに気づいた。空気はひんやりとしていて、少し肌寒い。陣内杏奈は少し考えて、薄い毛布を取りに行き、掛けてあげようとした。まさか九条津帆が寝たふりをして、ただ自分を誘い寄せようとしていたなんて、陣内杏奈は夢にも思わなかった。毛布を掛けようとした瞬間、陣内杏奈の腕が掴まれ、抱き寄せられた。次の瞬間、陣内杏奈は熱い男の腕の中にいた。陣内杏奈はドキッとした。薄暗い中で見上げた九条津帆の瞳は、男の色気を帯びていた。そこには、かつて見たことのない、自分への渇望が溢れていた。心臓が高鳴る。「津帆さん!」陣内杏奈は九条津帆の体に抵抗し、これ以上近づかせまいとする。そして、とまどいながら囁いた。その声はあまりにも柔らかく、新婚時代の夜を思い
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