「具合でも悪いの?」藤堂言は陣内杏奈の手から自然に袋を受け取ると、中身をチラッと見てすぐに確認した。そして心から喜びながら言った。「妊娠したのね!津帆は?どうして一緒に来てくれなかったの?あんまりじゃない!」陣内杏奈は慌てて言った。「今朝、分かったばかりで、まだ津帆さんには伝えてない」藤堂言は優しく微笑んで言った。「それなら、早くこの知らせを伝えてあげないと。津帆はきっと喜ぶわ」陣内杏奈は少し照れた。こんなおめでたいことは、自分から伝えるよりも、陣内杏奈自身から九条津帆に伝えた方が、二人の親密さが増すに違いないと藤堂言は思った。妊娠が確定したことで、陣内杏奈の行動はさらに慎重になった。車に乗り込むと、彼女は井上に言った。「九条グループへ」井上はハンドルを握りながら、軽い冗談を言った。「最近、奥様と津帆様は仲が良いですね。後で会社で食事でしょうか?」陣内杏奈は軽く微笑んだ。「そうなると思うわ」夫との色々なことは、運転手に話すわけにはいかない。車が走り出すと、彼女は診断書を握りしめ、言葉にできないほどの高揚感を感じていた。初めて母親になるという複雑な心境だったが、この子にすべての愛情を注ごうと思った。15分ほど後、ピカピカの車は九条グループの正面に停まった。陣内杏奈は井上に、先に帰っていいと伝えた。午後は九条津帆の車で帰れるから、と。井上は、これ以上邪魔をするのはよそうと思い......杏奈がビルに入っていくのを見届けてから、車を走らせた。九条グループは、以前、九条津帆の結婚を公表していた。フロント係は陣内杏奈の顔を知っていたので、彼女が来るとすぐに駆け寄った。「奥様、ご案内します!社長は今、会議中です」陣内杏奈は断った。「一人で上がる」フロント係は微笑んだ。「分かりました。では、伊藤さんに電話でお知らせしておきます」伊藤秘書は九条津帆のチーフ秘書で、陣内杏奈が来たら彼女が直接対応するのが当然だった。フロント係が恭しく丁寧なのは、陣内杏奈が社長の妻だからというだけでなく、彼女が偉ぶらない人柄だったからだ。すぐに、伊藤秘書が階下へ降りてきて出迎えた。陣内杏奈を見ると、伊藤秘書は驚いた様子で申し訳なさそうに言った。「あいにく社長はランチミーティングで、たった今専用エレベーターで地下駐車場へ行かれたと
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