フェルミナ・アークの東端──アークセリアへと続く地下道の近辺で、グレタ一行は足を止めていた。 それは次の一手を見極めるための戦略の時間だった。 彼らの立つ場所はフェルミナ・アーク──古くから魔力の流れが交錯する土地であり、かつて幾度も争いの火種となった場所だった。 アークセリアが騒がしい。遠くで風が唸る音が響いている。アークセリアで何かが起きているのは間違いなかった。 グレタの背後には鋭い眼差しを光らせる女性戦士カリス、そして三人の仲間──防衛担当のロラン、砂紋占師のミリア、そして斥候のテオ──が、緊張した面持ちでグレタの動きを見守っていた。 斥候とは偵察任務の専門家であり、高い機動力と隠密性を兼ね備えている。戦闘よりも情報収集が主な目的と言って良い。 グレタ一行は広場の古い井戸の縁に腰かけ、グレタの話を静かに聞いていた。「エクレシアの門は開かなかった」 グレタの声には抑えられた怒りが込められている。「ヴェルディア家から譲り受けた記録の印……あれが鍵のはずじゃった。まんまと騙されたな」 グレタの手にはヴェルディア家の紋章が刻まれた『記録の印』が握られている。その冷たい感触が、グレタの不信をさらに煽る。「どうもヴェルディアの連中は信用できません。グレタ様、あの名家はエクレシアの封印に関わった者たちです。今もなお、ゾディア・ノヴァと何らかの形で繋がっている可能性が高いかと」 カリスが剣の柄に手をかけ、視線を鋭く走らせた。「分かっておるよ。あの連中が信用ならんことくらい。それでも、接触せねばならん時もある。──これを得た以上、決して無駄ではなかった。奴らの動向も分かったことじゃしな」 グレタが記録の印を胸の前に掲げた。 カリスとグレタの会話に防衛担当のロランが割って入る。「手を結ぶ可能性もあるということは、まだ支配を諦めてないってことか。それは面倒だな」 そう言いながら、ロランは周囲に目を走らせ、苔むした石畳の端に足を運んだ。地面のわずかな傾斜を確認するように、足元を踏みしめながら立ち位置を変える。 背後の木々との距離、仲間との間合い──すべてを無言で測っている。ロランの動きには派手さはない。だが、何かが起きた時に誰よりも先に盾となる覚悟が、そこに現れていた。
최신 업데이트 : 2025-09-26 더 보기