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水鏡の星詠의 모든 챕터: 챕터 251 - 챕터 260

275 챕터

東端の座標 ①

 フェルミナ・アークの東端──アークセリアへと続く地下道の近辺で、グレタ一行は足を止めていた。 それは次の一手を見極めるための戦略の時間だった。 彼らの立つ場所はフェルミナ・アーク──古くから魔力の流れが交錯する土地であり、かつて幾度も争いの火種となった場所だった。 アークセリアが騒がしい。遠くで風が唸る音が響いている。アークセリアで何かが起きているのは間違いなかった。 グレタの背後には鋭い眼差しを光らせる女性戦士カリス、そして三人の仲間──防衛担当のロラン、砂紋占師のミリア、そして斥候のテオ──が、緊張した面持ちでグレタの動きを見守っていた。 斥候とは偵察任務の専門家であり、高い機動力と隠密性を兼ね備えている。戦闘よりも情報収集が主な目的と言って良い。 グレタ一行は広場の古い井戸の縁に腰かけ、グレタの話を静かに聞いていた。「エクレシアの門は開かなかった」 グレタの声には抑えられた怒りが込められている。「ヴェルディア家から譲り受けた記録の印……あれが鍵のはずじゃった。まんまと騙されたな」 グレタの手にはヴェルディア家の紋章が刻まれた『記録の印』が握られている。その冷たい感触が、グレタの不信をさらに煽る。「どうもヴェルディアの連中は信用できません。グレタ様、あの名家はエクレシアの封印に関わった者たちです。今もなお、ゾディア・ノヴァと何らかの形で繋がっている可能性が高いかと」 カリスが剣の柄に手をかけ、視線を鋭く走らせた。「分かっておるよ。あの連中が信用ならんことくらい。それでも、接触せねばならん時もある。──これを得た以上、決して無駄ではなかった。奴らの動向も分かったことじゃしな」 グレタが記録の印を胸の前に掲げた。 カリスとグレタの会話に防衛担当のロランが割って入る。「手を結ぶ可能性もあるということは、まだ支配を諦めてないってことか。それは面倒だな」 そう言いながら、ロランは周囲に目を走らせ、苔むした石畳の端に足を運んだ。地面のわずかな傾斜を確認するように、足元を踏みしめながら立ち位置を変える。 背後の木々との距離、仲間との間合い──すべてを無言で測っている。ロランの動きには派手さはない。だが、何かが起きた時に誰よりも先に盾となる覚悟が、そこに現れていた。
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東端の座標 ②

「ヴェルディア家は頑固でしたからね。グレタ様の説得に彼らは最後まで抵抗していましたから。気になるので、ちょっと占ってみましょう」 砂紋占師のミリアが小瓶をひとつ取り出し、光にかざした。 それはミリアが占具として用いる特製の小瓶── 中には、フェルミナ・アークの地脈から採取された微細な砂が封じられている。魔力の流れに敏感なその砂は、未来の兆しに応じて様々な形に砂紋を変える。 砂の粒子が瓶の底に複雑な紋様を描き始めた。「……これは何かが割れる印」 ミリアは誰に語るでもなく、静かに呟いた。「裂け目の兆し──天と地の均衡が崩れるかもしれません」 その言葉が地に吸い込まれるように消えた瞬間、突如として空気が軋んだ。 雲の層がゆっくりと歪み、白い仮面をつけた人影が次々と姿を現す。彼らは風を裂くことなく、無言のままアークセリアの空へと滑っていった。「第二波か……。波状攻撃を仕掛けるつもりのようですね」 ミリアは淡々と述べた。驚きはなく、ただ予見が現実に重なったことを確かめるような口調だった。 グレタが視線を上げた。しかし、ミリア動揺、その表情に変化はない。 ロランは腕を組んだまま、仮面の数を黙って数えている。斥候のテオも、この先の行動を考えているようだった。一歩だけ前に踏み出し、風の流れと地面の震えを確かめている。 誰も驚いた様子を見せない。 それは経験がなせる業であり、幾度となく異変の兆しを見てきた者たちの、身に染みついた備えだった。「終息は見えない。始まるのは、これから」 ミリアは瓶の砂が描いた紋様を見つめながら呟いた。 風が再び静まり返る。「グレタ様。今のはゾディア・ノヴァですか?」 テオが訊いた。「そうじゃ、第一波は、誰かは知らんがの」 グレタは上空を見据えたまま答えた。「ゾディア・ノヴァの他に襲う者がいるとしたら、ヴェルディア家しか考えられません。もしそうなら、両者は示し合わせていたことになります。アークセリアに異変が起きた直後に向かったということは──ゾディア・ノヴァは、事前に何かが起きると知っていたということです。奴らが手を結んでいたとしても、何も驚きはしません。」 テオは一拍置いて、さらに続けた。「グレタ様に記録の印を渡したのは、私たちを追い払う為だったのかもしれませんね」「それは、どういう意味じゃ」 グレタ
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東端の座標 ③

「ヴェルディア家め……ゾディア・ノヴァと手を組み、アークセリアを我が物にしようと企むとは」 グレタの声が地下通路の湿った石壁に反響する。 風が静まり、遠くアークセリアへ向かった白い仮面の集団の余韻が、なおも一行の心に重くのしかかっていた。 斥候のテオが一歩前に出て、地面の微かな震えを足裏で感じ取った。「グレタ様、俺が先に行ってアークセリアの様子を見てきます。ゾディア・ノヴァの動き……ヴェルディアの裏切りが本当かどうかを確かめないと。未だ狙いは定かではありませんし」 テオの物腰は柔らかい。気配を断つ技術にも長けており、相手に警戒されることなく近づくことができる。斥候としての鋭い観察力もまた、テオの大きな武器だった。 テオは言葉を残すと、風の流れに身を重ねるように姿勢を低くした。「テオ、一人で行くのか? 危険すぎるぞ。あの白い仮面の連中、ただ者じゃない」 カリスが剣の柄を握り、眉を寄せた。「カリスの言う通りだ。斥候としてテオの目は確か。だが奴らの素性が見えない今、一人で行くのはリスクが大きすぎる」 防御担当のロランがテオを見据えて言った。 その様子を見ていた砂紋占術師のミリアが、おもむろに瓶を傾ける。 瓶の中で上から下へ砂の粒子が流れ落ちていく。砂の流れが不自然に揺れている。砂の粒子が途中で渦を巻き、底に届く前に跳ね返っていた。 ミリアは目を細め、瓶の底に浮かび上がった紋様を見つめた。「アークセリアで天変地異がこれから起きるのは、さっき言った通りだけど……」 ミリアは言葉を止めて、再び砂紋を見つめる。「テオは生きてる。だけど、通るべき道がテオを拒んでいる」 ミリアが読み解くと同時に、瓶の砂が底に沈んだ。「死なないのなら、行くよ。戦うわけじゃないし」 テオは即座に言った。「そうね。だけど心配だから、私も行くわ」 ミリアが瓶をしまいながら言った。「今の占いは、あくまでもテオが一人で向かった場合の未来。私が同行すれば、その未来は変わる。何らかの形で影響を与えることになるからね。良い方向に私が導くわ」 グレタは二人を見やり、短く息を吐いた。「行ってくれるか、テオ。だが無茶はするな。アークセリアの状況を確かめたら、すぐに戻ってくるんじゃぞ」 グレタは記録の印に視線を落とし、そして言葉を続けた。「ゾディア・ノヴァとヴェルディアの
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潜入調査 ①

 地下通路の空気は冷たく、湿った苔の匂いがテオの鼻を突く。仄暗い通路を進む彼の足取りは、音を置き去りにするように静かだった。 斥候として鍛えられた感覚で、地面の震えや空気の流れを読み取りながら、アークセリアの地下出口へと近づいていく。 その少し後ろを、ミリアが歩いていた。瓶を腰に収めたまま、足音を響かせることなく、空気の揺らぎに意識を研ぎ澄ませている。 通路の天井に開いた隙間から、陽光が差し込み、埃の粒が光の筋の中で舞った。その光がテオとミリアの影を揺らし、壁に沿って伸ばしていく。 テオが出口の石扉に手をかけようとした時、不穏を感じた二人は動きを止め、息を潜めた。 外から伝わる微かな振動──風に混じって、不穏な魔力の気配が漂っている。 白い仮面の集団はすでに上空を通過したはずだが…… 魔力の尾のようなものが、扉の向こうで揺れている。 テオは扉に手を添え、扉と地面から伝わる振動に意識を集中させた。振動の向き、間隔、深さ──それらを読み取ることで、通りすぎたのか、あるいは留まっているのかを探ろうとする。 その隣で、ミリアは瓶を取り出し、蓋をわずかに緩めた。内部の砂が空気の流れに反応し、ゆるやかに揺れ始める。粒子の動きは通り過ぎた者の痕跡ではなく、今も近くに漂う魔力の存在を示していた。「まだいるみたい」 ミリアが囁き、隣にいるテオに告げる。 テオは頷いて扉から手を離した。 このまま扉を開ければ、気配を察知され、瞬く間に見つかるだろう。相手も、それくらいの能力は備えているはずだ。 その判断は、二人の感覚が一致していた。「便利だな、それ。未来を予見するだけじゃないんだ」 テオが瓶に視線を向けながら言う。「まあね。私は気配を感じ取るなんて器用なことはできないから、これを使ってるの」 ミリアは瓶を軽く揺らしながら答えた。「ただ、予見と言っても大雑把なものだけどね。事象には多くの要因が絡むから、細かいところまでは読めないし、遠すぎる未来も無理。あくまで、流れの兆しを掴むだけ」 ミリアは瓶の蓋を閉じながら、手元に視線を落とした。その仕草に焦りはなく、占術師としての冷静な距離感と揺るぎない理解が宿っている。 気配が薄れ、振動が途絶えたのを確認してから、テオは石扉に再び手を添えた。わずかに開いた隙間から外の空気が流れ込み、地下の湿気と混ざり合う。
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潜入捜査 ②

「白い仮面の連中が地表を歩いていた理由はこれか?」 テオの視線が広場から外れ、街並みへと移った。 瓦屋根の連なりは崩れ、石畳の道は裂け、かつて整然としていたアークセリアの街並みが、赤く染まった霧の中で沈黙している。「うん、毒を避けたんだろうね」 ミリアが言う。「上空は地上よりも毒が拡散しやすい。だから地表に降りたってことか……。それにしても酷いな」 テオが広場を見据えて言った。「でも、全部じゃない。崩れてるのは、毒霧の濃度が高い広場と、その周辺だけ」 ミリアは広場から目を外側へ移した。 広場を中心に破壊と静寂が分かれている。 建物の崩壊は広場の周辺に集中しており、遠くの街並みには、まだ形を保った屋根や尖塔、石像が残っている。 風が吹き抜け、霧がわずかに流れた。 テオはその動きを目で追いながら、空気の層の変化を読み取る。「雲が霧とは逆方向に進んでる」 霧は北へ向かっている。だが、その上空では、白い筋雲がゆるやかに南へと流れていた。「それって、どういうこと?」 ミリアは視線をテオに向けた。「空気の層が上と下で分かれてるってこと。きっと地表は冷えているんだろう。重い空気が沈んでるはずだ。霧はその流れに乗ってる」 テオは広場に目を向け、そして続けた。「毒霧が地表の方が安定している理由も、それで説明がつく。今なら広場まで行けるかもしれない」 そう言って、テオは伏せていた身体を起こした。「風下へ行こう。動くなら今だ」 テオとミリアは屋根の上から地上へ降り立った。 空気の流れさえ読み間違わなければ、歩いても問題はないはずだ。 二人は北へ流れる毒霧を再度、確認すると、南へ向かって瓦礫の間を縫うように進んで行った。 テオは足裏に伝わる地面のわずかな沈みや硬さに意識を集中し、喰い花の根の分布を探るように進行方向を微調整していく。できる限り、喰い花との遭遇は避けたい。 ミリアは瓶を胸元に抱え、砂紋の変化を見つめながら歩を合わせた。瓶の中で細かな砂が円を描いている。ミリアは、その紋様が一部、崩れているのに気付いた。「テオ」 ミリアが呼びかけ、テオが振り返る。「砂紋が乱れてる。広場の毒霧の流れが変わったんじゃない?」「いや、風の流れは変わってないな」 だけど、乱れている。風の影響ではない──ということは……「だったら、毒霧そのも
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潜入捜査 ③

 二人は言葉を交わさず、風の隙間を縫うように進んでいく。 風の向きは、まだ安定している。今なら広場まで難なく辿り着けそうだ。「ねえ、テオ。白仮面も同じことを考えてるんじゃない? あの人たちも風下に向かっていると思うんだけど」 ミリアが言った。「だろうな。あいつらは風を読む技術を持ってる。毒霧の流れを見て、地上を選んだんだ。むやみに広場に向かうはずがない」 テオは足元に意識を向けながら続けた。「振動の向きからしても、奴らは同じ方向に向かってる。奴らが、どこかで待ち構えていない限りは、奴らと鉢合わせることはない」 ミリアは瓶を傾け、砂紋を確認した。 円は崩れていない。魔力の流れに乱れはなさそうだ。「そうね。砂紋も安定してるし、今のところは安全かな」「問題は……奴らが何故、広場へ向かっているかだ」 テオは瓦礫の影に目を向けながら言った。 広場には毒霧が蔓延している。それでも白仮面はあえて中心へ向かっている。 その理由は一体、何か──「アークセリアの住民も、喰い花も集まっているのも、広場……」 ミリアが言いかけて、思考の流れを変えた。「つまり、あそこを狙えば、街の心臓を押さえられる。でも、それだけじゃない。どうして、広場でなければならなかったのか……」 ミリアは瓶を見つめながら続けた。「地形、魔力の流れ、人の動線──全部がそこに集まってる。あの人たちは、それを計算して動いているのだと思う」 ミリアは広場周辺の地形を頭の中で思い描いた。 放射状に伸びる通り、四方に繋がる門──街の中心として設計された構造になっている。「広場って街の動脈みたいなものよね。人が集まる場所で、外からの出入りもそこを通る……」 ミリアの声に思索の熱が滲んでいた。「つまり、閉じ込めるには最適ってことか」 テオが応じる。「そう。逃げ場を塞げば包囲できる。そして外部からの侵入も遮断できる。喰い花で毒を撒き散らせば、そう簡単には近づけなくなる」 ミリアは瓶の中を広場に見立てて、テオに説明した。「白仮面たちは、何らかの形で障壁を作るつもりなんじゃないかしら。もしそれが完成すれば──住民たちの逃げ道は完全に断たれる」「奴らの目的は、殲滅と分断ってところか」 テオとミリアは事の深刻さに息を呑んだ。「広場を制圧すれば、街の心臓を握れる。人の流れも、魔力の流
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優雅なる毒の前触れ ①

 石畳の冷たさが背に残っている。 身体はまだ重く、指先に力が入らない。意識が朦朧としている。 アリシアは足元の感覚を確かめるように、ゆっくりと立ち上がった。──まず、状況を把握しなければ。 アリシアは周囲を見回した。 礼拝堂がすぐ近くに見える。ほんの数十歩の距離。──そもそも、私は何をしに礼拝堂から出てきたんだっけ。 アリシアは手の中にあるエルヴァイト鉱に気付いた。 かすかに光を帯びている。 その光が、記憶の糸を静かに手繰り寄せる。“樹木の様子がおかしい。植物が何か良からぬものを撒き散らすかもしれない” ヴィクターがそう言ったことで、私は外へ出たのだ。風の道筋を探り、空間の歪みに触れるために── 空気の流れを掴まなければならない。そう思って舞おうとした時、突如として視界が歪んだ。 街が崩壊し、風の流れが途切れ、世界が一瞬で沈黙した。 時間が切り取られ、意識だけが宙に浮いたような感覚── 気づいたら地面に倒れていたのだ。 たが、それだけでは説明がつかないことがある。 身体が動かなかった──これは、どのように説明すれば良いのだろう。 頭を打ち付けたわけではない。それを証拠に痛みも、怪我もない。身体と意識の接続が一時的に断たれたかのように、身体の感覚が曖昧になっている。 外傷というよりは、内側から起きた異常────何かが、私の神経に触れたのかもしれない。 瓦礫の向こう、崩れかけた街路の隙間に赤い花が揺れている。その揺れは舞踏のように美しい。しかし、その優雅さが、かえって不気味でもあった。その揺れ方に、どこか意図のようなものが感じられるのだ。 アリシアは視線をさらに遠くへ移した。 空気は澄んでいる──少なくとも、この周辺だけは…… しかし、その先、街路の奥には濁りがある。 明らかに空気の層が違っている── その濁りの中に、人影が見えた。 地面に倒れたまま動かない者、ふらつきながら歩いている者。夢遊病者のように意識の芯を失った足取りをしている。きっと自分がどこにいるのか、何をしているのかも分かっていない。目的もなく、ただ空間を彷徨っている。──あの花だろうか。あの花が私を、街の人たちの意識を奪い取ったのではないか。 もし、そうならばヴィクターが言っていた通りだ。おそらく、何らかの刺激を受けて防衛反応を起こし、毒を撒き
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潜入捜査 ④

 広場の中心では、赤い霧がゆっくりと渦を巻いていた。喰い花の群生が脈打ち、根を地面に深く食い込ませている。 その周囲には倒れた人々の姿がまだ残っていた。 うずくまって動かない者、横たわり手足を痙攣させている者、意識を奪われたまま、呼吸だけを続けている者──「生きてるのに、魂だけ抜かれたみたいだな……」 テオは足を止め、息を呑んだ。 目の前の光景に思考が一瞬、凍りついたようだった。「これが喰い花の毒の力……意識を奪って、身体だけを残すなんて……」 ミリアは瓶を握る手に力を込めたまま、倒れた人々を見つめた。 唇がわずかに震えている。 それでも、ミリアは視線を逸らさない。現実を見届けようとしている。「だけど、不思議と亡くなっている人はいないみたいだな」 テオは周囲を見回し、人々の胸の動きを確認した。 呼吸が止まっている者はいない。命は、かろうじて繋ぎ止められている。 その言葉は安堵というより、戸惑いに近い。 テオは、しばらく沈黙した後、さらに続けた。「奴らは毒を使って、邪魔な存在を殲滅するつもりじゃなかったのか……?」 予想と現実が食い違っている。これは一体、どういうことだろう。「支配するつもりじゃない? 命を奪うのは、権力を牛耳っている人たちくらいでさ」 ミリアが即座に答えた。「なるほど。奴隷は必要ってことか。利用価値のある者は生かしておく──そういうやり方なのかもな。確かに、その方が効率的だ」 テオは息を吐いて、広場に咲く、喰い花を見据えた。 喰い花の揺れが肯定するように縦に揺れている。 二人はしばらく沈黙した。 風が吹き抜けるたび、倒れた人々の髪がわずかに揺れる。それが返って生々しく、恐怖を掻き立てた。「急ごう。これは第二波、第三波がある。一度で完結するものじゃない。風が安定している今のうちに、もう少し近づこう」 テオとミリアが瓦礫の隙間を抜けて、広場へと接近していく。「……喰い花の根、動いてない?」 ミリアが周囲を見渡しながら言った。「そうだな。いつ毒が噴き出しても、おかしくはない」 テオの目が、地面の脈動と風の揺らぎを交互に追っている。「白仮面もいないしね」 ミリアが呟く。 毒が吐かれることを知っているのだろうか。だから寄り付かないのかもしれない。「そうなんだよな。さっきから姿を全く見せていない
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潜入捜査 ⑤

「どうして?」 ミリアが立ち止まり、テオを見つめる。「……あいつら、たぶんだけど、僕らが広場に向かっていることを知っている」「え?」「だって考えてもみろ。毒の影響を避ける為に、僕らは白仮面と同じ進行方向を辿ってる。それなのに一度も姿を見ないなんて、そんなこと有り得るか?」 風はまだ流れている。 ということは、毒もこの場所から風に乗って流れていることを意味する。時間が経てば、いずれ毒の効力も薄れていく。「もし奴らの目的が、アークセリアの権力者たちを閉じ込めることなら、毒を滞留させるために障壁を張るはずだ。風を遮断し、空気を淀ませ、逃げ場を奪うような工作をね」「そうね。だから私たちが助けに……」 ミリアは頷きかけ、ふと言葉を止めた。 その瞬間、何かに気づいたように目を見開く。「……あっ、そういうことか」 ミリアは言葉の続きを飲み込んだ。「このまま進めば、俺らも閉じ込められるってことだ。奴らは、そのタイミングを見計らっているのかもしれない」「だから、姿を見ないわけか……」 ミリアが呟いた。 風が瓦礫の隙間を抜け、二人の間を静かに通り過ぎる。その一瞬の静けさが、言葉よりも重く響いた。「ミリア、アークセリアの人たちを救いたいんだろ?」 テオが視線を向ける。「……うん。そうだけど」「それなら、このまま中には入らず、白仮面を探し出さないか。あいつらの目的を止めるぞ」 僕らは戦いには向いていない。だけど、奴らを攪乱することならできる。 ミリアは戸惑いつつ、瓶の中の砂紋を見た。──選択の岐路に立っている今、果たして、どちらへ進むべきか。 まだ、事象に直接的な影響は与えていない。広場に向かっても、特に危険はないだろう。だけど、状況が劇的に好転することもない。 幾らか人を救うことができる程度────本当にそれで良いのか。 喰い花は再び毒を放つ。一時的に凌いだとしても、次の波でまた新たな犠牲が出るのは避けられない。「円はまだ崩れていない。だけど、中心がわずかに揺れてる……。これは外に向かったケースね」 ミリアは瓶を傾けながら、砂紋の動きを見つめた。 テオが言うように白仮面を探すなら、遭遇する可能性が飛躍的に高まり、自ずと危険性は増す。 揺れながらも砂紋が円を保っているのが、唯一の救いだ。 その危険の先にこそ意味がある──砂紋
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優雅なる毒の前触れ ②

「一人では……どうすることもできない」 アリシアは掌の中の鉱石を見つめ、唇を噛んだ。 かすかな光が脈打つように揺れている。 赤い喰い花が再び毒を撒けば、また辺りに蔓延する。 風の流れを把握するために礼拝堂から出てきたとはいえ、セラのいない今となっては、それは、もう意味を成さない。 当初の目的は、毒の種類と効能をセラが解析し、私が風の流れを読み、毒の拡散方向を把握することだった。──まさか、こんなにも早く撒かれるとは…… だけど、諦めるわけにはいかない。 私が諦めてしまえば、セラやヴィクターはおろか、アークセリアの人たちも救うことができなくなる。起きてしまったことを悔やんでいても、何も変わらないのだ。 次にどう動くか──それだけが重要だ。 そう思い、アリシアは自身を奮い立たせた。──しかし一体、私に何ができるというのか。 再び毒が撒かれたら、もう対応することはできない。かといって、毒を吐かせぬように止める手立ても見つかっていない。──どうすれば? そもそも、この街は、いったい何によって破壊されたのか。 街は崩れ、空気は濁り、命の気配が薄れている。 何が引き金だったのか──それすら分からない。 だけど、原因を突き止めなければ、次の波に抗う術も見つからない。 アリシアは周囲を見回した。 一人では限界がある。 私のように動ける人が、どこかにいないだろうか。一人では届かない場所でも、知恵を重ねれば、あるいは── アリシアは瓦礫の陰に身を隠しながら、街路の隅々を慎重に探した。空気の濁りは街路の奥へと続いている。 ふらつきながら彷徨う町民たちの間を縫うように視線を滑らせていると、視界の端に異様な光景が飛び込んできた。 その中に──奇妙な姿。 アリシアの心臓が跳ねる。 見たことのない存在── 黒いローブに身を包み、白い骨のような仮面をつけた者たち。 人の形をしているのに、人ではない何か。 アリシアは咄嗟に瓦礫の裏へ身を縮め、息を殺した。──あれは危険だ。あれが、この街を壊した者たちだ。 直感がそう告げている。 相手に気付かれないように息を潜めて眺めていると、白仮面の一人が音もなく地面に降り立ち、そして、ゆっくりと杖を持ち上げた。 旋回する杖の先端が空を切るたび、軌跡が残像のように揺らめき、空間に見えない紋を描いて行く。
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