「あの、間宮さん……?でしたっけ?」「渚でいいよ。千尋」相変わらずニコニコと笑って青年は千尋を見つめている。「あなたは私を知ってるんですか?」以前のストーカー事件のこともあるので慎重に尋ねた。「うん、千尋のことはよく知ってるよ。ねえ、まだ夜ご飯食べてないよね? 僕どうしても君と一緒に行きたいお店があるんだ。話はご飯の後でもいいでしょう?」年齢の割にあどけない話し方をする渚を見て、千尋は少し警戒心を解いた。それに人混みの中で話をする方が身の安全を図れる。「そうですね。では行きましょう」千尋は頷いた——**** 2人の様子を里中は物陰から盗み見ていた。「あの男、誰だ? 2人の間に微妙な距離感を感じるから彼氏っていう感じでも無さそうだし……。あ! 何処かへ行くみたいだ」里中はの後をつけようとして、足を止めた。「何やってるんだ、俺。これじゃストーカーしてた長井と同類じゃないか……。やめた、帰ろう」里中は踵を返すと2人とは反対に背を向けて帰って行った。酔いはとっくに冷めてしまっていた。(くそっ……面白くない)むしゃくしゃする気持ちで、里中は人混みに消えて行った――**** 渚は鼻歌を歌いながら千尋の前を歩き、時折千尋の方を振り向いては笑顔で笑いかけてくる。(何だかすごく人懐こい男の人だな……)程なく歩くと渚は足を止めた。「ほら、ここだよ」そこは昔ながらの洋食亭だったが……。「あ、ここは……」千尋は思わず声に出していた。この洋食亭は生前、祖父と何度も一緒に食事をしに来ていた店であった。けれども祖父が亡くなってからは一度も千尋はこの店を訪れることは無かった。「ほら、千尋。早く入ろう」渚は促すとドアを開けて千尋を先に中へ入れる。テーブルに着くと渚はメニューを千尋に手渡してきた。「ねえ、千尋はいつも何を食べてたの?」「え……と、私は大体いつもオムライスを注文していました」「そっかー。じゃあ僕はそれにしよう! 千尋が食べてた味がどんなのか知っておきたいからね。千尋は何にするの?」「それじゃ、私はビーフシチューで」「うん、それもとっても美味しそうだね。じゃ注文しよう。すみませーん」渚は手を挙げて大声で声をかけると女性店員がやってきた。「ご注文はお決まりですか?」「オムライスとビーフシチューをお願いします」渚が注文をし
Terakhir Diperbarui : 2025-04-09 Baca selengkapnya