人は衝動に駆られると、つい理性を失いがちだ。晩餐会のオークションには十二点の出品物が並び、そのどれもが貴重な品だった。翔雅は澄佳を食い入るように見つめていた。彼女が一瞥でもくれれば、ためらうことなく札を上げ、その品を落として贈るつもりだった。結果、競りの半分以上は翔雅の独壇場となり、数十億円を投じて八つの逸品をさらっていった。「さすが一ノ瀬社長、実力が違う」ざわめきの中、人々は感嘆の声をもらした。やがて壇上に呼ばれたのは翔雅。司会を務めるのは篠宮だった。笑顔を浮かべながらも、内心では「まったく、愚か者め」と毒づきつつ、彼女は落札品を手渡し、形式的な言葉を添える。「これらはすべて一ノ瀬社長のものとなりました。どうか大切に扱っていただければ幸いです。そして、一ノ瀬社長のご厚意に感謝申し上げます」割れんばかりの拍手。篠宮が手で合図を送る。「それでは一ノ瀬社長からひと言、お願いいたします」待ってましたとばかりに、翔雅はマイクを握った。視線はただ一点、舞台下に座る、あの天女のような女性に注がれる。喉仏が上下し、低い声が響いた。「皆さまご存じのとおり、私は一介の経営者にすぎません。信仰を持たず、ただ金こそが信念と信じ、いかにして最も早く利益を上げ、新しい技術や製品を生み出すか——そのことだけを考えてまいりました。かつて私には妻がおりました。名家の生まれで、努力せずとも人の上に立てるような女性でございました。しかし、ある日彼女は申しました。「私の胸の奥には理想があります」と。私はそれを信じず、信仰を持たぬがゆえに、妻を失ったのでございます。今、私はお尋ねしたいのです。彼女の胸には、今もなおその理想が生き続けているのでしょうか。そして私、一ノ瀬翔雅には、なおもその理想に寄り添い、敬い、仰ぎ見る資格があるのでしょうか」場内が凍りついた。誰のために大金を投じ、誰に向けた言葉なのか、誰もが悟っていた。だが——その想いは徒花。夢に見た人は、心を寄せてはくれなかった。スポットライトが澄佳を照らし出す。逃げ場はない。彼女はただ篠宮を睨んだ。さきほど舞台上で指を鳴らしたのが合図だったことを、見逃すはずがない。澄佳は静かに立ち上がり、涼やかな顔でマイクを手にする。「一ノ瀬社長のお心遣いに感謝
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