私が去った後のクズ男の末路

私が去った後のクズ男の末路

Par:  風羽Mis à jour à l'instant
Langue: Japanese
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結婚して四年、周防 舞(すおう まい)(旧姓:葉山)の夫はふたりの結婚を裏切った。彼はかつて好きだった女性を狂ったように追いかけ、若い頃の後悔を埋め合わせようとした。 舞は彼を心から愛し、必死に引き止めようとした。 けれど、夫はあの女を抱き寄せながら冷笑した。「舞、お前には女らしさが微塵もない。その冷たい顔を見てると、男としての気持ちなんてこれっぽっちも湧かない」 その瞬間、舞の心は音を立てて崩れ落ちた。 もう未練はなかった。彼女は静かにその場を去った。 …… 再会の日、周防京介(すおう きょうすけ)は彼女を見ても、かつての妻だとは気づかなかった。 舞はデキる女の鎧を脱ぎ捨て、しなやかで艶やかな女性へと変わっていた。彼女のもとには名だたる者たちが群がり、権力者として名高い九条慕人(くじょうぼじん)でさえ、彼の舞にだけは微笑んだ。 京介は正気を失ったかのようだった。彼は毎晩、舞の家の前で待ち、小切手や宝石などのプレゼントを贈り続け、挙げ句の果てには心まで差し出そうとした。 周囲の人々が舞と京介の関係を不思議がると、舞はさらりと笑った。「周防さん?あの人なんて、私が寝る前に読んで閉じた、ただの本よ」

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Chapitre 1

第1話

結婚して四年、まだ「七年目の浮気」なんて言葉さえ縁のない頃に、周防京介(すおうきょうすけ)はすでに外に愛人を囲っていた。

立都郊外の高級別荘。

その門の前で、周防舞(すおうまい)(旧姓:葉山)は高級車の後部座席に座り、夫が女と密会する光景を静かに見つめていた。

あの女はまだ若く、白いワンピースに身を包み、清らかで人目を引くような美しさがあった。

二人は手を繋ぎ、まるで深く愛し合っている恋人のようだった。京介の顔には、舞が一度も見たことのない優しさが浮かんでいた。

女が顔を上げ、甘えるように声を上げた。「足、痛い……京介、抱っこして?」

舞は思った。京介が応じるはずがないと。彼は感情を表に出さず、気難しい男だ。どれだけ新しい相手を可愛がっていたとしても、そんな甘ったるい要求に応えるような人ではない、と。

だが次の瞬間、舞の予想は無惨に打ち砕かれた。

夫は女の鼻先をそっとつつき、その仕草には抑えきれない優しさが滲んでいた。そして腰に手を回し、彼女を軽々と抱き上げる。まるで壊れ物を扱うかのように丁寧に、大切そうに。

女の白く細い手は自然と男のたくましい首筋へと伸び、黒く艶やかな髪を撫でていた。

京介のその首筋には赤い痣がある。見た目はどこか艶っぽく、触れると敏感に反応した。かつて、舞がベッドの中でうっかりそこに触れたとき、京介は彼女の細い腕を押さえつけ、恐ろしいほど激しくなった……

そして今、京介はもはや抑えきれず、女の子の身体をあずまやの太い柱に押しつけた。その目は輝いていた。

舞はそっと目を閉じた。もう、これ以上見ていたくなかった……

舞は、京介がこんなふうに誰かを想い、狂おしくなる姿を今まで一度も見たことがなかった。

なら、自分は何だったのだろう?

結婚前、自ら追いかけてきたのは他でもない、京介の方だった。「舞、お前は俺の権力の場で最も適したパートナーだ」

そのたったひと言に、舞は愛してやまなかった芸術の道を捨て、何のためらいもなく周防家に嫁ぎ、名声と利益の渦巻く世界へ飛び込んだ。まるで炎に惹かれて飛び込む蛾のように、恋に焼かれるように。

そして四年の歳月が過ぎ、京介は一族の実権を手にした。

舞は、あってもなくてもいい存在、切り捨てられる駒に成り下がった。彼は舞が堅すぎる、女らしさに欠けると嫌がり、外で女を囲い、愛人遊びにふけるようになった。

舞、あなたは本当に甘かった。滑稽なほどに。

……

目を再び開いたとき、舞の瞳には、もはや愛も、憎しみも残っていなかった。

感情が消えた今、残るのは金の話だけだ。

京介が愛人と密会しているこの別荘、実は、夫婦の共有財産だった。

舞はこの不倫カップルに甘い思いをさせる気にはなれなかった。前の席に座る秘書・安田彩香(やすだあやか)に、ほとんど吐息のような声で尋ねた。「この三ヶ月、京介はずっと彼女と一緒だったの?」

彩香は素早く答えた。「その女の名前は白石愛果(しらいしまなか)です。京介様の幼馴染みですが、あまり賢い子ではありません。三ヶ月前、京介様が周囲の反対を押し切って彼女を会社に入れてから、徹底的に庇ってきました」

一束の資料が舞の前に差し出された。

舞は資料をぱらぱらとめくりながら、ふと思った。自分は、彼らを許すことができるかもしれない。

もちろん条件付きだ。京介がきちんと夫婦共有財産を分けてくれるなら、舞はその金と株を受け取って、きっぱりとこの関係に幕を下ろすつもりだった。

車窓の外、秋の葉は黄金にきらめき、夕日がさらに一層の輝きを添えていた。

舞は気持ちを整え、京介に電話をかけた。数回の呼び出し音のあと、ようやく彼が出た。おそらく、愛人との甘い時間を過ごしていたのだろう。その声は相変わらず、上から目線で冷ややかだった。「何か用か?」

舞はまつげを伏せ、静かに問いかけた。「今日、私の誕生日なの。家で一緒に夕食、どう?」

電話の向こうで、京介はしばらく黙っていた。

男というものは、帰りたくない時にはいくらでも理由を見つけるものだ。たとえば「外せない接待がある」だの、そんなありふれた言い訳を。

けれどその時、舞の耳に、あの女の甘えた声がはっきりと届いた。「京介、まだ終わらないの?彼女と話すなんて許さない……」

京介は一瞬言葉に詰まった。少しの間を置いて、彼は気まずそうに淡々と口を開いた。「他に用がないなら、切るぞ」

ツーツ……通話終了の音が舞の耳に響いた。

それが京介のやり方だった。いつだって迷いはない。情を引きずることもない。

彩香が怒りをあらわにした。「京介様、あんまりです!忘れてしまったのですか……」

しかし、舞は気にしなかった。

むしろ内心では、こう呟いていた。——ごめんなさいね、京介様。甘い恋と可愛い女の子に夢中なところを邪魔しちゃって。でも仕方ないわね、法律上の周防夫人の機嫌を損ねたんだから。

舞はふっと微笑んだ。「忘れたんじゃない。気にも留めてないだけよ。彩香、この別荘の水道と電気、それからガスも全部止めてちょうだい。そうすれば、あの男も帰る場所を思い出すでしょう」

彩香は思わず感嘆の声を漏らした。「本当に見事なやり方ですわ」

けれど舞は何も答えなかった。顔を横に向け、静かに車窓の外へと視線を向ける。

黄金の落日が地平を染め、夕雲は幾重にも重なって、空に厚い壁を築いていた。

あの年の夕暮れも、同じように空は赤く染まっていた。

あのとき舞は京介に問いかけた。

「私たちの契約は一生もの?絶対に裏切らない?」

京介は力強く頷き、言い切った。

「舞は俺にとって、何よりも大切な存在だ」

けれど、今の彼は違った。

その言動が突きつけてくるのはただ一つ。金さえあればいい、という現実。

舞の目尻を伝い、涙が一筋落ちた。

一滴の涙が、舞の目尻を伝って落ちた……

……

舞はロイヤルガーデンの別荘へ戻った。

半時間後、秘書が離婚協議書を持ってきた。

舞が求めるのは、財産の半分。

シャワーを浴びたあと、服を身に着けようとしたはずなのに、いつの間にかドレッサーの前に立ち、真っ白なバスローブを脱ぎ捨てた。水晶のシャンデリアの明かりの下、鏡に映る裸の自分を静かに見つめ、舞は言い知れぬ感情に胸を締めつけられた。

働き詰めの年月に削られ、身体はふくよかさを失っていた。をだが白く透き通るような肌はなお冷ややかな気品をまとっていた。

だが、それは痛いほど明らかだった。舞の身体には、男を惹きつけるだけの魅力が足りなかった。そうでなければ、京介が他の女に心を寄せることなどあるはずもなかった。

舞はあの若い女の姿を思い浮かべた。京介がその瑞々しい身体と絡み合い、自分とは比べものにならぬほど激しく求め合っている——そう考えた刹那、舞は眉をひそめ、そんな想像に囚われた己を深く恥じた。

そのとき。クローゼットの扉が、静かに押し開けられた。

京介が帰ってきたのだった。

彼はクローゼットの入口に立っていた。

高級ブランドの黒いシャツにスラックス、その洗練された装いが、すらりとした体を際立たせている。明るい照明の下、上品で立体的な顔立ちは、大人の男だけが持つ魅力に満ちていた。

舞は思わず考えてしまう。この男は、たとえ兆を超える資産がなかったとしても、この外見ひとつで女を惹きつけるに違いない。

四年もの間、共に眠った自分はある意味、損をしてはいないのかもしれない。

二人の視線がふと交わった。何も言わずとも、互いに心の奥を読み取っていた。

京介はゆっくりと歩を進め、舞の背後に立つ。そして、ふたりは並んで鏡の中の姿を見つめた。舞はすでに衣服を整えていた。滝のような黒髪はきちんとまとめられ、湯上がりとは思えぬほど、隙のないキャリアウーマンの姿を保っていた。

京介の脳裏に蘇るのは、新婚の夜の光景。まだか弱さを残した彼女が、男の体を前にして小さく震えていた。

新婚の夜、彼らは何も起こらなかった。そして半月後、仕事上のトラブルが起きたあの夜。舞は京介の胸に身を縮め、震える声で彼の名を呼んだ。京介は彼女をしっかりと抱きしめ、その晩、ふたりはようやく「本当の夫婦」になった。

彼らの夫婦の営みは、本当に数えるほどしかなかった。

家では舞は尊い奥様。栄光グループでは権力を握る社長。どこにいても彼女は完璧で、冷たく、隙を見せない女だった。

たとえベッドの上でさえ——京介ははっきりと言い切れる。舞は一度たりとも心を解き放ち、快楽に身を委ねたことはなかった。

やがて時の流れとともに、京介の胸には虚無だけが静かに広がっていった。

そんな彼が、からかうように舞へと歩み寄り、言葉を投げた。「別荘の水道と電気、止めたのはお前だろう?ただの親戚の娘にちょっと世話を焼いただけで、不機嫌になるなんてな」

舞は鏡の中で彼と目を合わせた——

京介の脳裏をよぎったのは、冷たい算段だった。この数日、舞は排卵期のはずだった。

彼はそっと手を伸ばし、舞の耳たぶを撫でながら、顔を近づけて低く囁いた。「誕生日だから?それとも……欲しいんだろう??奥様、まだ二十六だってのに、随分と強いじゃないか」

口にする言葉は下品だったが、舞にはわかっていた。京介が何を望んでいるのかを。

彼は子供を欲しがっている。

周防祖父は今も栄光グループの株を10%握っている。京介は子供を手に入れ、その存在を交渉の切り札にしようと目論んでいた。

しかし、京介は知らなかった。彼らには子供ができる可能性は低いのだ。あの事件の時、舞が彼を突き飛ばして外へ出たその直後、何者かに腹を強く蹴られた。それ以来、彼女の妊娠の可能性は限りなく低くなっていた。

舞はそっと目を閉じ、胸の奥に広がる悲しみを押し隠した。

だが、京介は珍しくその気になっていた。

彼は舞の身体をあっさりと抱き上げ、主寝室の柔らかな大きなベッドへと横たえた。そのまま、彼の身体が覆いかぶさってくる。

舞はどうして承諾するだろうか?

舞は京介の胸を押さえ、黒い髪が白い枕の横に半分広がり、浴衣が少し緩んでいた。「京介!」

けれど京介は舞の顔を見据え、魔法に囚われたように顔を寄せてきた。触れ合った瞬間、その体は今にも溢れ出す衝動に飲み込まれようとしていた。

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Commentaires

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asagao
まだ100話あたり。これからどうなるの~
2025-09-01 18:45:40
1
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MIKO
京介が心を入れ替えてハッピーエンドに向かうかと思いきや、悲劇が起こるなんて...また奇跡が起きて舞と京介が幸せになる日が来ますように...
2025-08-25 14:27:58
3
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まかろん
最近はこのお話の続きが一番楽しみです。真実が明るみになるのが他の作品より早いのでスッキリも早い そして、泣けます 新しい局面にきたので、明日からの更新がまた楽しみです 京介が受け入れてもらえるまでの道のりは長そうですが応援してます
2025-08-11 00:43:02
5
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まかろん
他の作品より展開が早い方だと思います でも、もっと白石家族にざまぁがあってほしいです 毎日更新が楽しみ 結構なける
2025-08-08 20:23:20
4
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まかろん
いま一番続きが楽しみなお話でランキングにあがってきてないのが不思議なくらいです が、あらすじと本編が全然合致していないことが気になります 149話ですが、まだあらすじにもストーリーがさしかかっていないということでしょうか
2025-08-04 09:58:36
7
user avatar
さくら さくら
とても面白いところで終わっている。100話以降もよろしくお願いします。
2025-07-10 01:50:57
7
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第1話
結婚して四年、まだ「七年目の浮気」なんて言葉さえ縁のない頃に、周防京介(すおうきょうすけ)はすでに外に愛人を囲っていた。立都郊外の高級別荘。その門の前で、周防舞(すおうまい)(旧姓:葉山)は高級車の後部座席に座り、夫が女と密会する光景を静かに見つめていた。あの女はまだ若く、白いワンピースに身を包み、清らかで人目を引くような美しさがあった。二人は手を繋ぎ、まるで深く愛し合っている恋人のようだった。京介の顔には、舞が一度も見たことのない優しさが浮かんでいた。女が顔を上げ、甘えるように声を上げた。「足、痛い……京介、抱っこして?」舞は思った。京介が応じるはずがないと。彼は感情を表に出さず、気難しい男だ。どれだけ新しい相手を可愛がっていたとしても、そんな甘ったるい要求に応えるような人ではない、と。だが次の瞬間、舞の予想は無惨に打ち砕かれた。夫は女の鼻先をそっとつつき、その仕草には抑えきれない優しさが滲んでいた。そして腰に手を回し、彼女を軽々と抱き上げる。まるで壊れ物を扱うかのように丁寧に、大切そうに。女の白く細い手は自然と男のたくましい首筋へと伸び、黒く艶やかな髪を撫でていた。京介のその首筋には赤い痣がある。見た目はどこか艶っぽく、触れると敏感に反応した。かつて、舞がベッドの中でうっかりそこに触れたとき、京介は彼女の細い腕を押さえつけ、恐ろしいほど激しくなった……そして今、京介はもはや抑えきれず、女の子の身体をあずまやの太い柱に押しつけた。その目は輝いていた。舞はそっと目を閉じた。もう、これ以上見ていたくなかった……舞は、京介がこんなふうに誰かを想い、狂おしくなる姿を今まで一度も見たことがなかった。なら、自分は何だったのだろう?結婚前、自ら追いかけてきたのは他でもない、京介の方だった。「舞、お前は俺の権力の場で最も適したパートナーだ」そのたったひと言に、舞は愛してやまなかった芸術の道を捨て、何のためらいもなく周防家に嫁ぎ、名声と利益の渦巻く世界へ飛び込んだ。まるで炎に惹かれて飛び込む蛾のように、恋に焼かれるように。そして四年の歳月が過ぎ、京介は一族の実権を手にした。舞は、あってもなくてもいい存在、切り捨てられる駒に成り下がった。彼は舞が堅すぎる、女らしさに欠けると嫌がり、外で女を囲い、愛人遊びにふけるようになった。舞、あなたは本当に甘か
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第8話
舞は駐車場で、九郎と出会った。九郎も少し意外そうで、しばらく考えてから舞のそばへ歩み寄り、深いまなざしで言った。「本当に栄光グループを離れるのか?」舞は軽くうなずいた。「ええ、離れるつもりよ」彼女は手に持っていた箱を車のトランクに放り込み、トランクを閉めると振り返り、九郎に向かって淡々と話した。「あの夜のことはありがとう」九郎は彼女の顔を見つめた——淡々とした表情、山のように動じない様子、これは彼が知っている舞。あの夜の彼女の美しさと脆さは、まるで夢のようだった。九郎の目は深く沈んでいて、彼は控えめに軽くうなずいた。「些細なことだ」彼は冷淡な口ぶりではあったが、舞の車がゆっくりと駐車場を出ていくと、その場に立ち尽くし、長い間その背中を見送っていた。その表情には、何か考え込んでいるような気配があった。……夜の8時、舞はロイヤルガーデンに戻った。彼女が車を降りると、正面から丹桂の香りが漂ってきて、心を癒した。別荘の使用人が出迎えに来て、恭しく尋ねた。「今夜は奥様お一人でお食事なさいますか?それとも旦那様をお待ちになりますか?キッチンの料理はすでに準備が整っておりますので、すぐにお出しできます」舞は少し考え、静かに言った。「今日から、私の三食はもう準備しなくていい」使用人は驚き、尋ねようとしたが、舞はすでに玄関を抜け、ホールに入り、ゆっくりと階段を上っていた——二階は、明るい灯りに包まれていた。舞は歩みを緩め、華やかな廊下を静かに見つめながら、一歩ずつ進んだ。その一歩一歩に、彼女は京介との過去を、ふたりの歩んできた道のりを思い出した。それは、とても困難で、深く心に刻まれた日々だった。そして、とても痛みを伴うものだった……「京介、あなたが権力を望むなら、私が手伝う」「京介、私たちはずっとこんなに苦しいままじゃないよね?」「京介、痛いよ、お腹がとても痛い」「申し訳ありません、周防夫人。検査の結果、あなたが妊娠する可能性は非常に低いです。養子を考えることをお勧めします」……この十数メートルの短い距離は、まるで舞の一生を歩き終えたかのようであり、彼女の京介に対するすべての感情を締めくくる道のりでもあった。夜風が頬をかすめ、舞の顔は冷たくなっていた。彼女は寝室のドアを開け、そっと壁の灯り
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第9話
その一枚の紙、その上の一字一句を、京介は何度も繰り返し読んだ。目がひりつくほどに、何度も何度も――突然、彼は舞の痛みを理解した。舞が流してきた涙の意味が、ようやく胸に落ちた。突然、彼はあの夜の駐車場で、舞がなぜあれほどヒステリックになって自分を責めたのかを悟った。「京介、どうしてたった五分の時間すらくれないの?京介、あなたは昔の京介のままなの?」舞はもう、子どもを産めなくなっていたのだ。彼は舞を愛していない。だが、舞は彼にとって、大切な存在だった。彼女は四年間、彼と共に過ごし、人生でもっとも暗かった時期を共に乗り越え、そして、彼が権力の頂点に立つのを見届けてくれた。結婚するとき、彼らは二人の子供を産む約束をした——すべての夢が実るように、ずっと平和に暮らせるように。一人は「実」と名づけ、もう一人は「和葉」と名づけるつもりだった。京介はゆっくりとベッドの縁に腰を下ろした。彼のいつも凛々しい顔には、今や一抹の疲れが見えた。彼は衣のポケットからタバコを取り出し、ライターで火をつけて強く吸い込んだ。こけた頬が深く落ち込み、そこには男だけが持つ沈黙の魅力があった。寝室の入り口で、使用人がおずおずと報告した。「中川さんがお見えです」京介は返事をしなかった。中川は病院から駆けつけてきたが、床一面に散らばるガラスの破片を見て、完全に呆然としてしまった。京介様は、見捨てられたんだ……だが、中川は優秀なワーカーだった。すぐに感情を抑え込み、冷静さを取り戻すと、プロとして淡々と京介に次の対応を問いかけた。淡い青色の煙が京介のかすんだ顔を包み込む中、彼は静かに言った。「まずは抑えろ。何があっても、舞が俺と別居したことは外に漏らすな」中川は頷いた。彼女は上司の顔を見つめながら、ふと分からなくなった。周囲の誰もが、京介夫妻はただの利害関係だと言っていた。なのに、どうして今、夫人がいなくなっただけで、京介様はまるで……男として何か大切なものを失ったかのように、こんなにも打ちひしがれているのか?京介様は本当に夫人を愛していないのか?……舞はあるマンションに引っ越した。それほど広くはない、120平方メートルほどだが、立地と内装は最高で、寝室の窓を開けると、街の夜景の半分が見えた。翌日、彼女は祖母を訪ねた。
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第10話
京介の目には、明らかに男としての欲が滲んでいた。舞は少し苛立ちを覚えた。彼には会いたくなかった。離婚のことは、弁護士を通して処理すれば済む話だ。彼女はドアを閉めようとしたが、京介の方が一瞬早かった。彼は足を持ち上げてドアを押さえ、そのまま簡単に中へと入り込んできた。ドアが閉まった瞬間、舞は彼に抱きしめられた。京介は彼女の細い腰を強く抱きしめ、力いっぱい自分に引き寄せる。そして狂ったようにキスを重ねてきた。舞は必死に振りほどこうとしたが、まるで抵抗が利かず、二人は半ば拒むように、半ば求め合うように、もつれ合いながらソファの前までたどり着いた。柔らかいソファの上では、男の動きはさらに自由を得た――京介は、これまでこんな姿を見せたことはなかった。明るい光、女の柔らかい声も、男の理性を取り戻すことはできなかった。淡い赤色のほくろが目に入るまで、京介は少し落ち着いた。重く荒い呼吸を押し殺しながら、熱を帯びた唇を舞の耳元へ近づけ、かすれた声で囁いた。「お前は……俺のことが好きなんだろ?」舞の体が硬直した——彼女は京介が好きだった。二十歳のころから、ずっと。京介も、それを知っていた。だがこの何年もの間、彼は一度もそのことを口にしたことはなかった。なのに、いま突然、こんな状況で聞いてくるなんて。舞は、彼が何かおかしくなったのではないかと思った。そんな恥ずかしい言葉を、この場で答えるはずもなかった。舞が何も言わなかったので、京介は彼女を押さえつけて、そのまま求めようとした。二人はソファの上でもつれ合い、舞は彼の黒く短い髪をつかみ、かすれた声で息をついた。「京介、落ち着いて。今日は私の排卵期じゃない……あなたがどれだけ頑張っても、私のお腹に種をまくことはできないわ」その言葉に、京介は少しだけ顔を上げた。彼の深い瞳がじっと舞を見つめる。小さく整った瓜のような顔立ちは透けるように白く、湿った黒髪がコーヒー色のソファにふわりと広がっていた。黒のシャツはすでに乱れ、何ひとつとして彼女の身体を隠しきれていなかった。その姿は男の本能を強く刺激するものだった。けれど、京介の目元は静かに赤く滲んでいた。彼はそっと手を伸ばし、優しく舞のお腹に触れた。とても柔らかく、そして平らだった。舞はわずかに首を持ち上げ、かすれる声で再び告げ
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