大野くんの部屋は三階で、室内は物もあまりなく家具もとてもシンプルなデザインだった。男の人の部屋へ入るのは初めてで、少し緊張してしまう。ていうか、テーブルを前にして正座をしている状態だ。少しどころかかなり緊張している。当たり前だけど自分の部屋とは違う。本棚には、難しそうなネットワーク関係の参考書や情報処理の本が並ぶ。勉強家なのかな、と思った。キッチンでは大野くんがフライパンを振っている。今日は市販品ではなく、大野くんが作ってくれるらしい。私はそれをぼーっと見ていた。何か手伝うと言ったけれど、座っててとここに押し込められたのだ。意外と手際がいいんだな、と思ったりして。いつも自炊しているのだろうか。やがて、目の前に湯気の立ち上るチャーハンと餃子が差し出された。美味しそうな香りが部屋いっぱいに漂う。「すごい、大野くん料理男子だね」「今時の男は作れて当たり前でしょ?」「そうなの? しっかりしてると思う」感心しながら、手を合わせていただきますをする。チャーハンは醤油ベースで香ばしさがあり、とても美味しい。ほっぺたが落ちないように、思わず頬に手を添えてしまうほど。「姫乃さんがぼんやりしすぎ」言われて、ドキンと胸が大きく高鳴った。そんなことを言われたのは初めてだったからだ。ドキドキと鼓動が速くなる。「私、ぼんやりしてる?」恐る恐る聞くと、大野くんはチャーハンを食べながら大きく頷いた。当然でしょと言わんばかりの視線に、思わず頬が緩む。「うわー。初めて言われた。なんか嬉しい」「変なの」「だって、まわりのみんなは私を完璧とか高嶺の花とか言うの。全然そんなんじゃないのに、どんどん話が大きくなっていく。私がちゃんと否定できたらいいんだけど、なんかタイミング逃しちゃうっていうか、流されるというか」「そういうところがぼんやりしてるよね」大野くんが冷静に言う。 大野くんにとって、私は高嶺の花でもなんでもなくてただのぼんやりした人に見えているなんて、嬉しいのとちょっと情けなさも相まって苦笑いだ。だけどやっぱり嬉しい。私のことをそういう目で見ない人がいるんだなって。
Terakhir Diperbarui : 2025-06-06 Baca selengkapnya