「小池拓也、もういい加減に自己中心的なのはやめてくれない?何度言えば私を解放してくれるの?」薫の瞳には失望と苛立ちが渦巻いていた。彼女は顔を背け、拓也を見ようともしない。拓也は呆然と唇を震わせたが、結局かすれた声で「ごめん」と呟くのが精一杯だった。この数日、彼が口にした謝罪の言葉は、過去数年分を合わせても足りないほどだろう。今日の花束は薫を喜ばせるどころか、むしろ彼女の嫌悪を増幅させてしまった。拓也は無力感に押し潰されそうになりながら、薫の横顔を見つめた。喉元に鈍い痛みがこみ上げる。「薫……教えてくれないか?俺、覚えるから。どうしたら薫さんが笑ってくれるのか、本当にわからなくて……」かつての傲岸さは影を潜め、今や彼は迷子のように首を垂れていた。脆いガラス細工のような佇まい。「もういいの。昔には戻れない」窓ガラスに額を預けながら、薫の声は冷え切っていた。「七年かかってもできなかったことが、今さら急にできるとでも?」「私、新しい人生を始めたんだ。お願い、放っておいて」そう言い切った薫の肩には、目に見えるほどの疲労がのしかかっていた。もはや小池拓也という男の人生に巻き込まれる気力など、残されていないのだ。拓也は虚空を見つめて長い沈黙を重ね、ようやく息も絶え絶えに「わかった」と応じた。薫を家まで送り届けた後、彼の車は深夜までその場を動かなかった。運転席から見上げる窓の明かりに、ソファで待ち侘びる薫の笑顔が重なって揺れる。自分が頑固者だという自覚はあった。一度決めたら骨抜きになるまで突き進む性分。でも薫だけは諦められない。ハンドルを握る手が震えた。今日の自分の愚かさが、今さらのように胸を締め付ける。万人に通用する恋愛法則なんて存在しないのに、人目を憚らない派手なアプローチが薫の好みだと、なぜ気付けなかったのか。しかもこの間、秘書に命じて姜清寧に同じ手を使わせたばかりではないか。薫の部屋の明かりが消えるまで、拓也は車中で時を刻んだ。日曜日。小春日和の穏やかな午後。光に誘われた薫は動物園へ向かっていた。鏡の前で髪を整える手が、どうにも落ち着かない。約束の時間直前になってようやく身支度を終えた。初めてのデートらしき光景に、光も普段と雰囲気を変えていた。授業では老成した服装
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