Semua Bab ロート・ブルーメ~赤ずきんは金色の狼に食される~: Bab 31 - Bab 40

57 Bab

黎華街、再び⑤

「あ、の……せめてシャワーを……」 学校の帰りにそのまま来たから……抱かれるならせめて綺麗な状態でにしたい。  でも、そんな私のささやかな願いも紅夜は叶えてくれない。「無理、待てない」 短くそう口にしたと同時に、彼は私にのしかかる。  そして膝立ちの状態で私を見下ろした。 満足そうに微笑む紅夜の白い肌が、夕日に照らされ赤く染まっている。  光が反射して、赤いピアスがきらめいた。 ああ、やっぱり紅夜は赤が似合う。  赤い――花のような人。 つい、抵抗も忘れて見惚れてしまう。  そんな私に気付いた紅夜は楽しそうに笑った。「そんなに熱い視線で見られると、本当に抑えが効かなくなるんだけど?」 そうしてベッドに片手をつくと、もう片方の手がブレザーのボタンを外す。  その手がすぐに首元のリボンを外しにかかるけれど、私はもう抵抗する意思を失っていた。  熱を孕んだ紅夜の目を見つめ返すことしか出来ない。 普段は感情の読み取れない冷たい目をしているのに、そこに熱がこもったときだけは焦がされそうなほどの感情が読み取れる。  赤い炎が揺らめいていそうな、その綺麗な瞳から目が離せない。 制服のリボンを外し、ブラウスのボタンも外しながら紅夜は口を開く。「……確かに俺は色々仕込んだけど、最終的に選んだのはお前だよ、美桜」 「っ!」 その通りだった。 自分の女である証を先に渡していたり、シルバーリングとヘアクリップの交換を指示したり。  色々仕組まれたことはある。  でも、それでもこの街に来るかどうかを選ぶのは私自身だった。 最後の選択肢は、私に委(ゆだ)ねられていた。「選んで、決めたのはお前。そうしてまた俺の元に来たからには……」 シュルリと、髪を結んでいたリボンを解かれる。  そのリボンについている花のモチーフに、紅夜は口づけた。「もう、手放してやらない」 彼の瞳の炎がひときわ明るく揺
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-28
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知り合う①

 ……。「髪乾かす時間はないから洗うなよ?」 浴室の外からそんな声が掛けられる。「時間がないのは紅夜がギリギリまで離してくれなかったからでしょう!?」 シャワーを浴びながら文句を言うと、紅夜はむしろ笑って「美桜が可愛いのが悪い」なんて返してきた。「もう!」 あのあと、我慢できないと言った言葉通りに紅夜は私を強く求めてくれた。 それはいい。 でも、一度で済ませてくれなかったのは予想外だった。 しかもレストランを予約していたらしく、余韻に浸る間もなく部屋を出る準備をしなくてはならなくなった。 レストランなんていつの間に予約していたのかと思ったら、愁一さんから私が街に来たという知らせを受けた時点で予約をしていたらしい。 嬉しいと言えば嬉しいのだけど……。 どれだけ私はハラペコだと思われてるんだろう。 やっぱりあの時お腹が鳴ってしまったのは不覚だった。 一生悔いるんじゃないかと思ってしまう。 でも、予約していたことをギリギリになってから言うとか……。 これは私怒っても良いんじゃない? 怒りを胸に残したままシャワーを終えた私は、用意されていた服を着る。 でも身だしなみを整えてリビングルームに行き、紅夜の姿を見た途端怒りが収縮してしまった。 うわっ、カッコイイ……。 紅夜は黒のスーツに身を包み、髪型も前髪を上げるようにセットしていた。 ネクタイは暗めの赤で、用意されていた私の服と同じ色だと気付く。 私が今着ているのは赤いミモレ丈のワンピースだ。 袖口には同色のレースもあしらわれていて、大人っぽさの中にも可愛さがある。 普段と違った様子の紅夜と、そんな紅夜に合うように見繕われたワンピース。 なんだかとても嬉しくて、わずかに抱いていた怒りなんて消えてしまった。 紅夜は私を見つけると、嬉しそうに笑顔
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-29
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知り合う②

「紅夜は……学校に行ったことないの?」「……」 生まれたときから黎華街に住んでいると言った紅夜。 この街には学校なんて無い。 街から出られないと言った彼は、どうしていたんだろう。「……」「……」 沈黙が重い。 特に怒ったりしている雰囲気は感じないけれど、やっぱり聞かれたくなかったことなんだろうってのは分かった。 沈黙に耐え切れなくなって、答えなくても良いと言おうとすると――。「……学校は、行ったことないよ」 静かな声音で答えてくれた。「俺はこの街からほとんど出たことはないし、基本的に出ることはない。学校には通ったこともない」 寂しさとか、悲しさとかの感情はない。 ただ淡々と静かな声が言葉を紡ぐ。「義務教育課程はホームスクーリングで教えてもらったし、伝手のある融通の利く学校に在籍だけはしていたから一応中卒までは学歴がある。あとは……いずれは高卒認定もらえるように勉強だけはしてるかな」「そう、なんだ……」 それしか言えなかった。 怒っているわけでもなく悲しんでいるわけでもないのに『ごめん』というのは違う気がして……。 だから、私は代わりに笑顔を向ける。「教えてくれてありがとう、紅夜」 謝罪の代わりに感謝を示す。 でも、紅夜はそんな私に少し驚いたように目を開き、妖艶さをたたえた笑みに変える。「いや……代わりに俺からも質問があるからな」「質問? 私に?」 何が聞きたいんだろう?「このリングと交換するって言ったあのヘアクリップ。大事なものって聞いたけど……なんで?」「え?」「誰かから貰ったもの、とか?」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-30
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会合①

 紅夜が予約したレストランはいわゆる高級レストランだった。  ドレスコードが必要になるような……。 はじめは緊張してしまったけれど、注文する前にコース料理が運ばれてきた。  紅夜を見習いつつ食事をしているうちに料理の美味しさもあって緊張がほぐれていく。「紅夜はこういう店によく来るの?」 会話をする余裕も出てきた。「いや、あまり来ないな」 「え? じゃあどうして?」 慣れているし、服装も雰囲気も似合っているから、いつもというわけじゃ無いだろうけどそれなりに来ているんだと思った。  だからどうして今日ここを予約までして選んだのか聞くと。「……どうしてだと思う?」 優しげな微笑みと挑発的な眼差しが返ってくる。「紅夜はいつもそうやって私に答えさせようとするけれど、分からないことは答えられないよ」 少しムッとしてそう返す。  いつもいつも思い通りにいくと思わないで欲しい。  そんな、ささやかな反発。 私の反発を紅夜は逆にからかってくるだろうか?  そう思って身構えたけれど、返ってきたのは思いがけず素直な言葉だった。「……カッコつけてみたかったんだよ」 「え?」 「何だかんだ初めての“彼女”だし。……ガラにもなく浮かれてるみたいだ」 少し皮肉が混じった笑み。  でも、純粋な喜びが前面に出ていた。  不覚にも胸がキュッと締めつけられる。「あ、私が初めてなの?」 「ああ。部屋に連れ込んだのも初めてだし、何よりそのリボンを渡したのも初めてだ」 と、私の髪を彩る赤を指差す。  紅夜の女である印。  “彼女”が初めてだとしても、女性経験まで初めてってわけじゃないだろう。  でも、それでも……。 あ、マズイ……すごく嬉しい……。 少しうつ向いて、にやけてくる口元を隠す。  でも隠し切れていなかったみたい。「……何? 嬉しい?」 「うっ……嬉しい、よ?」 図星を指されて一瞬誤魔化そうとしたけれど、誤魔化せるわけないと踏んで素直に答えた。「じゃあこれは答えて。美桜は? お前は俺が初めての“彼氏”?」 そう聞く表情は優し気だけれど、瞳の奥はヒンヤリしている。  さっきヘアクリップを誰に貰ったのかを質問してきたときと同じだった。  初めてじゃないと言ったらどうなるんだろうと思いながら、私は正直に答える。「初めてだよ。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-31
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会合②

「そう言えば、お前家には連絡してんの?」 「え?」 食事を終えてレストランから出ると、そう聞かれた。  自然と指を絡め繋がれた手を引かれながら、私は答える。「あ、今日は朝のうちに叔母さんのところに泊まりに行くって言っておいたから――あっ」 言い終えた途端余計なことを口にしたと気づいた。  紅夜の顔がとても楽し気に笑みを作る。「そうか……“朝のうち”に言ってあったのか」 「あ、その、えっと……」 動揺しすぎて目が泳ぐ。  今日は朝家を出る前から、紅夜に会いに来て夜は帰らないと決めていたってことになる。  実際その通りなんだけれど、それを紅夜に知られるのは死ぬほど恥ずかしい。「本気で、俺に食われる気満々だったってことか」 「い、言わないで……」 言葉にされると本気で恥ずかしい。  もう瀕死だ。「なんで? 俺は嬉しいけど?」 「ううぅ……」 そう言われてしまうと心のどこかでそれならいいか、と思ってしまう自分がいる。 良くない……良くないけれど……。「恥ずかしがってる美桜可愛すぎ。……でも――」 と、少しかがんだ紅夜は私の耳元で続きを囁く。「可愛すぎてここで襲いたくなるから、ほどほどにな?」 「っ!?」 ここで襲われるのは困る!  一気に羞恥心より恐怖心が勝った。「さ、早く行こう。会合ってどこでやるの?」 シャキッと背筋を伸ばして妖しくなりそうな雰囲気を壊す。  そんな私の思惑も、分かってるとばかりにクスリと笑った紅夜は「こっちだ」と手を引いて私を連れて行った。 ともに歩きながら紅夜が「ああ、そうだ」と思い出したように前を見たまま話す。「美玲のところには俺が連絡しておいたから」 「……え?」 美玲って、叔母さん?  やっぱり紅夜と叔母さんは知り合いなの? わずかだった疑問が一瞬で膨れ上がる。  どうしたって気になってしまう。「ねえ紅夜。紅夜と叔母さんって、どんな関係?」 聞くと、振り向いた紅夜は静かな瞳で私を探るように見た。「知り合い、ではあるんだよね?」 何かを見透かそうとしている眼差しに少し怯みながらも聞くと、フッと彼の口元がゆるんだ。「ま、そうだな。……でも詳しいことは明日美玲に聞けばいい。一度連れて来いって言われたからな」 そう言うと、彼はまた前を向いて
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-31
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会合③

 予想通り物騒な話なんかもあったけれど、その中にどうして議題に上がるのか不思議なほどほっこりする話が混じる。 例えば、バーの裏に住んでいるおばあさんがまた猫にエサをやっているとか。「またあのばあさんかよ。仕方ねぇ、今回も猫は追い出してばあさんには注意な」「はい、わかりました」 なんて愁一さんと他の幹部が真面目に話しているから変な気分だった。 それでもやっぱり物騒な話の方が多くて、その中には一昨日のことも話に上がる。「あと、一昨日敵対したから拘束した連中ですが……やはりあいつらの手のものだったようです」 その報告に、つまらなそうにただ聞いていただけだった紅夜の眉がピクリと反応する。「潜入経路は吐かせて既に潰してあります。……ただ……」「ただ? なんだ?」 愁一さんがうながすと、報告していた彼はあからさまに動揺を見せて紅夜を怖がっている様だった。 それでも報告しないわけにはいかないんだろう。 恐る恐る口を開く。「一通り吐かせることは出来たんですが、そのあとで一人逃してしまって……」「は?」 聞いたことがないほどの低い声が紅夜の口から出てきた。「なに? お前ふざけてんの?」 それは、本気の怒り。 でも、紅夜の怒りは真っ赤に燃える様なものではなくて……。 ただひたすらに冷たい、氷のようなものだった。 私に向けられているわけじゃないのに、凍えてしまいそうなほどの怒り。 直接怒りを向けられている彼はもはや顔面蒼白。「逃がすとかありえないだろ。お前殺されたいの?」 ガタ、と音を立てて紅夜が立ち上がる。「っ! そ、れは」「おい紅夜落ち着け」 紅夜の怒りにヤバイものでも感じたのか、愁一さんが止めに入る。「あ? シュウ、お前も分かってんだろ? アイツらにはカケラも隙を作るわけにはいかないって」「分かってる。でも取り敢えず落ち着け。彼女も怯えてるぞ」 紅夜はハッとして私を見る。 私は、怯えてるんだろうか……。 自分じゃちょっと分からない。 確かに殺気すら感じた紅夜は怖かった。 体も、震えていると思う。 でもただただ目が離せない。 そんな私に紅夜は手を伸ばす。 でも何をためらっているのか途中で止めてしまった。 だから、私の方からその伸ばしかけの手を掴む。 その手に体温を感じ、確かな温かさを知ってホッと表情を緩める
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-31
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会合④

「っ! ……え?」 どうして突然抱き締められたのか分からない。  でも、苦しいほどに抱き締めてくる紅夜を拒むことは出来なかった。 どれくらいそうしていたのか。  しばらくしてふーっと息を吐くように力を抜いた紅夜。  そうして見えた彼の表情は、初めて見る優しい顔をしていた。「……悪い、苦しかったか?」 「え?」 「顔、赤い」 「あっ……」 確かに少し苦しかった。  でも、赤いのはきっと紅夜の初めて見せる表情のせい。 だって、愛おしいものでも見るかの様に、どこまでも甘く優しい笑みだったから……。「……おかしくないさ」 「え?」 「俺があのまま凍ってしまうんじゃないかと思ったってやつ」 「あ……」 「多分、それほど間違ってはいない。この街で温もりに触れることが出来ることなんてほぼない。だから俺は、ああやって怒っては常に心を凍らせてきた」 淡々と、他人のことを話すように紅夜は語る。「別にそれで構わなかった。温もりは求めるだけ無駄なものだったから」 「そんな……」 無駄だと言い切ってしまえる紅夜は、この街でどう過ごしてきたというのか。  悲しい表情すら見せない彼に、泣きたくなった。「そんな顔するな。今は、お前がいてくれるんだろ?」 「え?」 また甘くとろける様な微笑みを向けられる。  そのまま慈しむように、額にキスが降りた。「…… マイナ・ゾンネ」 「え?」 「ドイツ語で、俺の太陽って意味。美桜は、俺に唯一温もりをくれる太陽だよ。……本物の太陽は、攻撃的だからな」 と、優しげだけど少し皮肉げに笑う。  そう言えば、太陽の光に弱いと言っていたっけ。 でもそっか。 私が紅夜の太陽なら……。「じゃあ、私がいれば紅夜は綺麗に花を咲かせられるかな?」 常々花のような人だと思っていたせいか、そんな言葉が出てきてしまった。「え……?」 不審そうな声が紅夜の口から漏れてハッとする。  男の人に花とか、失礼だったかな?「あ、ごめんね。初めて会ったときから何でか紅夜のこと花の様な人だと思ってたから……」 だからついそんな言葉が出てきてしまったんだと誤魔化す。「花って、どんな……?」 でも紅夜はさらにそう聞いてくるから。  だから、私はもっと具体的に話した。「どんなって
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-31
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花畑①

 その夜は今まで以上に甘く強く求められ、私は上手く応えることも出来ず翻弄された。  どうしたの? と聞いても、優しく微笑んでキスを落とされるだけ。 嬉しいのに、どこか物悲しくて……。  でもそんな事を考えていると、余計な事を考える暇はないだろうって激しく求められる。 知りたいと思った紅夜の事を知る事が出来ているのに、どうしてか不安が過ぎる。  その不安を振り払いたくて、私も紅夜を求めた……。  ――そんな夜を過ごした、翌朝。 「……美桜、立てるか?」 「……心配するくらいなら手加減して」 「それは無理」 「もう……」 正直言って、腰が痛い。  むしろ紅夜は何故大丈夫なのか本気で知りたい。 私の体力がある程度回復するまで待っていたら、日は結構高くなっていた。  朝食は紅夜が作ってくれたトーストとサラダと目玉焼き。  料理は大して作らないとは言っていたけれど、これだけ作れるなら充分なんじゃないかな? というか、私ごちそうになってばかりじゃない?  私だって作れるのに……。「なんだ? 渋い顔して、苦手なものでもあったか?」 「ううん」 聞かれて、首を振る。「たまには、私が作りたいなって思って……」 「手料理、食わせてくれんの?」 「出来るならそうしたいんだけど……」 言いながら、食材はどうすれば……と考える。  この街にスーパーマーケットなんて庶民的なものはない。  叔母さんはあまり料理をしないみたいで近くの店にデリバリーを頼んでいると言っていたし……。「紅夜はこの食材をどうやって調達しているの?」 街の外には出ないと言っていた紅夜。  それなのに多少なりとも食材を保管しているなら調達方法があるはずだ。「ん? 近くの店に卸してる業者から直接調達したり、赤黎会の連中に頼むこともあるかな?」 「うーん……それだと私が直接調達することは出来ないよね」 「じゃあ、来週は食材買ってから来いよ」 「え?」 「作ってくれる料理の材料買ってから街に来いよ。重くなりそうならシュウ貸すし」 「いや、愁一さんは貸し出しするようなものじゃ――じゃなくて」 思わず突っ込んだけれど、言いたいことはそこじゃない。「来週で、良いの?」 「ん?」 「会いに来るの、来週で良いの?
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-31
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花畑②

 エレベーターに乗ると、紅夜はいつもなら降りるときにはしないことをする。『認証完了致しました』 機械音声のあとに現れる数字。  その地下を表すB2の表示に彼は触れた。「俺の秘密を教えるって言っただろ?」 驚く私に紅夜はいたずらっぽく笑う。  確かに昨日そう言っていたけれど……。  地下は、この街の本質がある場所……じゃなかっただろうか?  あのときは誤魔化されたけれど、間違いじゃないと思っていた場所。「……いいの?」 「ああ。……美桜に、見て欲しい」 本当にいいのか確認すると、真剣な表情で返される。  どこか緊張している様にも見えた。  その緊張が移ったかのように、私は身を引き締める。 この街の本質。  紅夜の秘密。  この街の地下に、いったい何があるのか……。  知らずゴクリと唾を飲み込んでいた。 エレベーターが止まり、扉が開くと目の前には長い廊下が伸びている。  紅夜に連れて行かれるまま、その廊下を真っ直ぐに進む。  突き当りにはドアが一つ。  そこにも暗証番号を入力するためのパネルがある。 厳重だ。  こんな厳重に守られた場所に、何があるんだろう。 緊張に、心音が早くなりわずかな冷や汗が流れる。  開けられたドアの中は何やら様々な機械が置かれた部屋だった。 軽く見回して分かったのは、何かをコントロールするための機械だってこと。  紅夜は一度私から離れてその機械をいくつか操作する。  そして、更に奥にあるドアに誘なった。「……おいで、美桜」 誘われるままに紅夜の元へ行く。「これが、俺の秘密。……そして、この街の本質だ」 そう言って開けられたドアの向こうには、赤が広がっていた。  これだ。  見た瞬間、そう思った。 目の前に広がったのは、ライトに照らされその色を鮮やかに主張する赤い花だった。  アサガオ科の花だろうか。  でも見たことのない赤い色をしている。 そう。  見たことが無いはずなのに、これだと思った。 暗い場所で、赤い花弁を鮮やかに浮かび上がらせるようなその姿。  この花たちと紅夜のイメージがピッタリ重なる。「どうだ?」 緊張した声が掛けられた。  どうしてそんなに緊張しているんだろう?  そう疑問に思ったけれど、どこまでも続く赤い花の絨毯に圧倒されていた私はただ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-31
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花畑③

「ロート・ブルーメ?」 「ああ。ドイツ語で赤い花って意味だ……。単純だろ?」 「……」 シンプルと言えばシンプル。  でもどんな感想を言えばいいのか分からなくて黙っていると、紅夜は続けて話す。「この花が出来たときに、仮の名前として付けただけだったらしい。でも開発者が亡くなって、そのままになってしまったんだ」 仮の名前なら単純なのも頷ける。  そう思いながら私も花畑を見渡していると、淡々と重大なことを告げられた。「この花は、俺の母親が開発したものらしい」 「え?」 「母親は美玲と同じ研究者らしくて、俺が産まれるギリギリまでこの花の開発を頑張ってたそうだ」 それで、紅夜を産んで亡くなってしまった……。「この花の根はな、薬になるんだ。ただ、少し毒性があるからそれを取り除くための研究を美玲がやってる」 「あ、だから《研究者》……?」 「そうだ。そして俺は本当は《管理者》って言うよりただの《管理人》。この花を育てて管理するための存在なんだよ」 そう言った紅夜は悲しげにも見えたけれど、誇らしげでもあった。「紅夜の、大切な仕事なんだね」 「ああ、俺にしか出来ない仕事だ」 「紅夜にしか?」 いくらなんでも花を育てるだけなのにそれは言い過ぎなんじゃ、と思う。  でも紅夜は真剣だった。「この花は繊細だって言っただろ? 温度や湿度、気圧の変化だけでもすぐに枯れてしまう。しかも太陽光だと焼けてしまって地上では育てられない」 「あ、だから地下に……」 「それでも紫外線は必要だから、そっちの量も調節したりして……俺は感覚で分かるけど、他の人じゃあ無理だろうな」 「感覚って、アバウトな……」 少し呆れたけれど、実際そういうのは感覚でやるしか無いんだろう。  多分、単純な数値では表せられないものだろうから。「でもそっか。紅夜にしか出来ないことなんだね……」 これが紅夜の秘密。  多分、秘密の全てではないけれど一番大事なもの。  それを教えてくれたことに嬉しさが湧き上がる。  でも、やっぱり疑問はまだあって……。「じゃあ、この街の本質ってどう言う意味? 薬の原料になる花をこの街の地下で育てているのが本質?」 「……まあ、そんなトコ」 あ、違うんだな。 すぐにそう思った。  少なくとも、もっと複雑な理由がありそうだ。  でも教
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-31
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