シェイドが意識を取り戻すと、そこはそれまで居たシームルグの坐す大聖堂ではなく、何処までも何処までも暗澹たる闇が支配する不気味な空間だった。 「ここは──」 「──ここは、お前が胸の内に秘めたる闇を具現化した空間。恐怖、不安、怒り、憎しみ、悲しみ……それらが混ざり合った、混沌とした場所である。精神世界……と、言い換えることも出来るであろうな」 シェイドの疑問に答えるように、頭の中にシームルグの凛とした声が響く。 「お前たちの肉体と精神を我が力で以て分離し、それぞれを己が負の感情により構築された精神世界へと隔離した。試練に打ち勝たねば、セラフィナにも、キリエにも、再会することは決して叶わないと心得よ」 「試練、ねぇ……ここで一体、俺に何をさせるつもりだ?」 「今に分かる──私が言わずとも、な」 直後──闇の中より音もなく、一人の男が現れた。 豪奢な法衣に身を包んだ初老の男。若い頃は整っていたであろう青白い顔には皺が刻まれ、昏く澱んだ双眸は底なしの沼を想起させる。その男の顔に、シェイドは見覚えがあった。決して忘れることのない、忘れようもない忌まわしい相手。この手で殺してやりたいとさえ願う怨敵。 「枢機卿……クロウリー……」 何故、お前がここに居る──シェイドが尋ねるより早く、枢機卿クロウリーと瓜二つの姿をしたその男は剣を抜き、シェイドを一太刀で両断しようと襲い掛かってきた。 「──ちぃっ!!」 十字架を象った大剣が、唸りを上げて振るわれる。シェイドはその一撃をバックステップで躱すと、懐から取り出した煙幕弾を相手の足元に放り込む。 そのまま袖口に仕込んだ飛刀(ダガー)を取り出し、クロウリーの背後へと回り込む。左肩口から心臓目掛けて一撃を加えようとした刹那── 「……ごふっ!?」 クロウリーの気配が消え、それと同時にクロウリーが放ったと思われる無数の稲妻がシェイドの胸を貫いた。 大量に吐血しながら仰向けに倒れ込んだシェイドの
Last Updated : 2025-07-24 Read more