「あなぐま亭……ルリア宝飾店……あ、クナード古書店! ︎︎陛下、宰相は西門に向かっています。声も聞こえます。……アックティカ……隣国ですね。我が国の機密を手土産に、丞相に取り立てる密約を交わしているようです。機密は軍部の配属地や、構成、軍備の取り引きについて」 イオハ様の声を遮り、つらつらと並べると、また訝しむ視線が刺さる。虚空を見つめる私は、知らない者なら気味悪がるのも仕方がない。 でも、それはあまり気にならなかった。だって、傍では殿下がずっと手を握ってくれているし、両陛下、妹君は疑いもなく受け入れてくれるのだもの。「アックティカか……また面倒な所に行ってくれたものだな。あの国は好戦的で、王は戦に明け暮れ、国元にいることの方が少ないと聞く。宰相が強気だったのも頷けるな」 アックティカは、深い森を境に隣合う国家だ。元は小さな農業主体の国だったけれど、現国王エネメス三世が実権を握るとがらりと変わった。陛下の言うように、色々な国に戦を仕掛けては、周辺諸国の領土を侵犯するようになったのだ。 それは戦とも呼べない、野蛮な手段で行われる。山岳の麓に位置する地形を使い、川の下流に毒を流したり、収穫間際の農作物を奪い、餓死に追い込んでいく。国軍も、自国の兵は少なく、傭兵が大半を埋めていた。 傭兵を雇うのもタダでは無い。その資金源が宰相だったとすれば、丞相という好条件も有り得ない話じゃないだろう。「つまり私達の敵は、宰相という個人から、アックティカという国単位になったと。これは大きな戦になるかもな……」 渋い表情で唸る陛下に、王妃様が労わるように手を重ねる。陛下もそれに応え、優しく握り返した。 そして私に視線を移す。「しかし、すごいねリージュ。アインに聞いてはいたけど、ちゃんと力を使いこなしてる。まだ二日しか経ってないのに、本当に勤勉な子だ。それに、ミーレの話しとも辻褄が合うみたいだし、取り引きの様子をアインも視ている。やるべき事は分かっているから、引き続き協力してくれると助かるよ」 両陛下に微笑まれ、心が暖かくなる。私でも役に立てた事が嬉しい。照れる私に、殿下は更に勇気をくれた。
Last Updated : 2025-09-07 Read more