Semua Bab 捨てられたΩは沈黙の王に溺愛される: Bab 31 - Bab 33

33 Bab

第30話:再訪の道

まだ夜が明けきらぬ薄明の空の下、リリウスはひとりカイルの部屋の前に立っていた。軍服の襟を正し、窓から差し込む冷たい空気に、そっと目を細める。荷物は小さな鞄ひとつだけ。必要最低限の衣類、数枚の書類、そして抑制剤。“また戻るんだ、あの場所へ”心の奥に、わずかにざわつく何かを感じた。だが今の彼には、それに呑まれるほどの脆さはなかった。扉が静かに開く。「……もう、行くのか」低く、よく通る声。カイルだった。軍装はそのままに、だが胸元のボタンだけが外れている。昨夜、眠らずにいたのだとわかる。「……はい。先に、お礼を言っておこうと思って」リリウスがそう言うと、カイルは何も言わず、ただゆっくりと歩み寄ってきた。そして、腕を伸ばす。「……っ」驚いた声も出せぬまま、リリウスはその胸に引き寄せられた。広く、温かく、しっかりとした腕だった。それは保護ではない。庇護でも、命令でもない。ただ、彼を“人”として包もうとする、等しい者としての抱擁だった。「気をつけろ。……あいつらは、お前をまた“道具”として扱うかもしれない」囁くように耳元で紡がれた声が、皮膚の奥まで染み入る。そのとき、カイルはわずかに顔を伏せ――リリウスの首筋、うなじへと鼻先を寄せた。「……?」リリウスが反射的に体を強張らせたとき、カイルは静かに、そこへ呼気を吹きかけた。それはまるで、匂い付けのような動きだった。αがΩに対して本能的に行う、所有の意思表示。意味をなすものではないのに、リリウスの心に小さな衝撃が走る。部屋の外で、ディランが足を止めた。扉の隙間から覗いた彼の眉がぴくりと動く。(……やってるな。完全に意図的じゃない。けど無意識なら、それはそれで問題だ)軍人として数多のαの動きを見てきた彼には、その行動の意味が明白だった。支配でも、所有でもなく――縄張り本能に近い感情の現れ。「……はぁ」小さくつぶやき、ディランはノックもせず踵を返す。一方、リリウスは抱かれたまま、少し遅れてその意味に気づいた。「……それ、意味は……」「知ってる。意味はない。だが……しておきたかった」そう答えたカイルの声は低く、どこまでも穏やかだった。「……お前が帰ってきたら……話したいことがある」「……話したいこと……?」「そうだ。だから、必ずここに帰ってこい」リリウスの胸
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-06
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第31話:偽りの王城

王城の客間に通されたリリウスは、じっと壁に目を据えていた。簡素な木椅子に腰掛け、両手は膝の上で揃えられている。拘束はされていなかった。けれど、それ以上に重い「空気」が、彼の動きを縛っていた。──逃げることは許されない。それは、部屋に入った瞬間から突きつけられた「空気」だった。扉の外には護衛兵が控え、廊下の先には王太子直属の諜報部の者らが配されている。リリウスは再び、王都の中心で「閉じ込められた」のだった。「……ご苦労だったな」開かれた扉の奥、現れたのはレオン・アルヴァレス。飾り気のない白の軍服のまま、ゆっくりと歩み寄ってくる。その手には、何故か一輪の白い百合。「お前がここに戻ると信じていた」「……信じていた?」リリウスは冷ややかに言い返した。胸の奥に、乾いた笑いが込み上げる。「雪の中でのことはお忘れですか?」「雪の中?」レオンは微笑を浮かべたまま、軽く首を傾ける。「どういう話だっただろうか?」「……あなたが“捨てた”んです。僕を、番だと呼びながら、雪の中にね。たった一度も見ようとしなかった」レオンの微笑がわずかに歪む。「違う。あれは……術式だ。惑わされたんだ。お前も、俺も」「惑わされた」リリウスが目をわずかに見開き繰り返す。そして小さく笑った後にレオンがそうしたように、首を傾げた。「あれがあなたの意思ではなかった。……便利ですね。すべてを“魔術”のせいにすれば、何もかも帳消しになると思ってる」「リリウス」レオンの声が低くなる。「お前は戻ってきた。今さらここから出られると思うな。お前は王命によりここへ戻された。すでにクラウディアの使節団が到着している。彼らに“番”が不在と知られれば、取り交わした協定は白紙だ」リリウスの眉が動く。クラウディアの使節団。自分の想定がここまで合っていたことに、内心声を出して笑いたいぐらいだった。そしてカイルの言葉──“あいつらは、お前をまた“道具”として扱うかもしれない”も見事に合っている。「……じゃあ、僕は“契約書のハンコ”みたいなものですね」「違う。“象徴”だ。お前は我が家門の誇り、未来そのものだ」「なら、せめて誇りらしく扱ってくれればよかった」その言葉に、レオンの目の色が変わる。彼の手が伸び、リリウスの腕を掴んだ。「……お前は俺のものだ。他の誰にも触れさせない」
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第32話:再会の爪痕

クラウディア使節団が王城へと入城したのは、午前の陽光がまだ柔らかさを残す頃だった。旗印を掲げ、整然と行進するその一行は、リリウスの目にまぶしすぎるほど鮮やかに映った。銀糸を織り込んだ藍色の軍装、見慣れた紋章。そしてその中央、馬を降りる青年の姿に、リリウスの胸が痛むほど波打つ。──ヴェイル=アランディス。かつての幼馴染。王家に連なる分家の生まれであり、すでに自らの番を持つα。そして何より、リリウスが“本当の自分”でいられた数少ない相手だった。「リリウス……無事で、本当に良かった」ヴェイルが口を開く。声音も、表情も、あの頃のままだった。「……ヴェイル……」声が出そうになる。そのときだった。「これ以上の会話は許可していない」横から伸びてきた手が、リリウスの腕を乱暴に引いた。レオン=アルヴァレス。「リリウスは我が国の王太子妃の位にある。クラウディアの王子であったのは以前のことだ。外交儀礼の名のもとに不必要な接触は控えていただこう」その言葉に、ヴェイルの視線がわずかに鋭くなる。「……必要か否かを判断するのは、王太子殿下ではなく我々です」背後に控えていたマリアン──ヴェイルの番であり、外交官としての地位を持つオメガの女性が静かに進み出た。「リリウス=クラウディア様の心身の安全を確認するのは、クラウディアから派遣された使節団の正当な権利と認識しております」王太子の眉間にかすかな皺が刻まれる。「……ならば、その確認はこれで十分だ。彼は無事だ。この国でも丁重に扱っている。これ以上深入りする必要はない」その言葉の端々に滲む苛立ち。ヴェイルは、リリウスへと視線を戻す。「本当に、大丈夫か?」その目には、飾らぬ友情と憂慮があった。リリウスは短く頷きかけ──それすらもレオンの視線に遮られた。「リリウス、そろそろ下がれ」「……っ」その場を立ち去るよう強く促され、リリウスは一礼し使節団の前を離れた。だがその背には、ヴェイルとマリアン、双方の視線が確かにあった。***その日の夕刻、王城内の応接室。リリウスは無言のまま、机上に置かれた茶に手を伸ばすことなく座っていた。レオンは椅子にもたれ、窓の外を見やる。「クラウディアは、お前を必要としている。だがそれは、今のままでは不可能だ。だからこそ、我々が“正しい番”であることを示さねばならない」「
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-08
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