捨てられたΩは沈黙の王に溺愛される

捨てられたΩは沈黙の王に溺愛される

last updateLast Updated : 2025-11-05
By:  めがねあざらしOngoing
Language: Japanese
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番に捨てられ、雪の中に置き去りにされたΩ・リリウス。 魔力を封じられた彼を拾ったのは、“沈黙の王”と呼ばれる軍総帥カイルだった。 「役に立つなら使う」──そう言いながらも、冷たいはずの手はなぜか優しい。 やがて始まる、命令でも義務でもない愛。 そしてリリウスを捨てた番は、全てを奪われていく。

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Chapter 1

プロローグ

雪が降っていた。

目の前の世界が、ただ白く、遠ざかっていくようだった。

その中に、馬車の車輪がきしむ音だけが、現実を引きずっていた。

「これで終わりだ。番なんて幻想、今さら引きずってどうするんだよ」

淡々とした声だった。

その声を出した男──レオンは、もうこちらを見てもいなかった。

ただ背を向け、黒い外套の裾を翻して、雪の中に消えかけている。

リリウスは唇を噛んだ。けれど、血の味さえもうわからなかった。

手の甲に、淡い蒼の刻印が光っている。

番の契約。それは「誰かに選ばれた」という証だったはずだった。

「……君は……番だろう……?」

言葉を吐きかけたその瞬間だった。

馬車の陰から現れた影が、リリウスの首筋に触れた。

「これだから、あの国の人間は嫌いなんですよ……」

それは魔術師だった。

魔術師は基本的にクラウディアの魔塔に所属している。

そうでない魔術師は魔術師と認められない。

しかし、リリウスがその顔を見たことはなかった。

彼は淡々と呪文を紡ぎ、掌に輝く印をリリウスの身体に刻んだ。

そしてその瞬間、世界からすべての音が消えた。

魔力が沈黙する。声が届かない。

神への祈りも、家族への叫びも、何一つ反応しない空白の中。

雪が、ただ落ちてくる。

それだけが、世界の答えだった。

彼は捨てられたのだ。

番としてではなく、Ωとしてでもなく、

ただ“リリウス”という存在そのものが、価値を剥奪されて――

世界はその事実に、静かに、知らぬふりをした。

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