「誰も目覚めない村。けれど、誰も死んでもいないというのなら――わたしが、その夢の続きを歩こう」第一幕:白銀の森、沈黙の案内その村へ向かう道は、誰にも教えられなかった。ただ、旅の道中に出会った老婆が、手紙のような語りで言ったのだ。「そこは、冬が続くのよ。春が来ない村。でもね……誰も泣かないの。泣く暇も、ないのかもしれないわね」ファドがひそひそとロホに話す。「ねぇ、嫌な予感しかしない。ほら、“誰も泣かない”とか、“春が来ない”とか、ホラーじゃん。絶対なんか出るでしょ。しかも、雪!」「雪が怖いの?」「いや、雪の中の“静かすぎる場所”が怖いの!」そして、たどり着いたその村は――雪に閉ざされ、音のない、永遠の眠りのような場所だった。第二幕:動かぬ人々、揺れぬ時間村の家々には灯がともり、暖炉の火も燃えていた。鍋の湯もわずかに立ち上っている。しかし、人々は皆、眠ったままだった。老いた者も、子供も、若者も。誰もが、まるで物語の一節で止まった人形のように――呼吸していた。ロホはゆっくりとひざまずき、眠る少女の頬に手を添える。「……生きてる」ファドが言う。「これ、全員が同じ夢見てるとか……?」「それが“誰かの魔法”なら、何かがまだ“生きてる”ってことよ」第三幕:夢の主村の奥、白い教会のような建物に足を踏み入れると、そこにはひとりの“少女”がいた。少女の名は、ソルナ。凍てついた花の上に座り、目を開けたまま、微動だにしない。だが、ロホが近づいたとき――少女の瞳が、こちらを見返した。「あなたは、夢の外から来た人。でも、ここはもう夢になった場所……わたしの、“もう来ない春”なの」少女はかつて、村でただ一人生き残った“魔導の子”だった。冬の凍結病が村を襲ったとき、彼女は魔法で皆を“眠らせる”ことで命を救った。だが、春が来なければ、彼らは目を覚まさない。「私は、起こすことができない。誰かが、続きを歩いてくれないと、私は……ただ、春を待つ人形になる」第四幕:歩く者の祈りロホは、そっと髪を編み込み直す。そして、火のない指先で、空を指し示す。「……冬は、終わらせるものじゃない。“超える”ものよ」彼女は魔法を使う。自らの魔力で、村全体に**“春の幻”**を編み上げる。花が咲き誇る幻影鳥の囀り冷えた空気を包む、微か
Last Updated : 2025-07-16 Read more