Semua Bab あなたからのリクエストはもういらない: Bab 31 - Bab 40

56 Bab

㉛女神さま

「わ〜っ。もしかして、僕の女神さまですか!?」美月は目の前でその瞳をキラキラとさせている男の子の言葉に、パチパチと瞬きした。如月尚は楽しそうにくすくすと笑い、その男の子、真田准(さなだじゅん)6歳の小さな頭を撫でた。「そうよ。よくわかったわね?」そう言うと、彼は心外だ!とでもいうように「当たり前だよ!彼女は僕の女神さまだよ!?わからなくてどうするの!?」と力説した。美月には何がなんやら訳がわからなくて、親友の袖を引いた。「どういうことなの?」その困惑した表情に、尚は悪戯っぽく笑って言った。「つまりね、彼は、あなたのファンなの」「ファン?」益々訳がわからない。自分は大学を卒業してすぐに希純と結婚した。公の場で何かした憶えなどないのだ。「人違いじゃー」「違いますよっ」言いかけると、すぐに否定された。「人違いなんかじゃありませんっ。ずっとあなたに憧れてたんですから!あなたは僕の女神さまです!」そう言い切りながら、准は嬉しくてニコニコが止まらない。美月はとりあえず、この話は後で尚に訊こうと思い直し、曖昧に微笑った。「すみません、先生。この子はどうもあなたに対して想い入れが強くて…。ご不快でしたよね」美月の困ったような笑みに准の父親で、聖人の兄である真田怜士(さなだれいじ)が口を開いた。彼は真田家の当主で、真田グループ総帥だ。希純は佐倉グループの社長ではあるが佐倉家の〝次期後継者〟というだけで、佐倉家当主は彼の父親だ。その違いがこんなにも貫禄に現れるものなのか…。美月は感心した。でもー希純と比べてもおそらく数歳歳上なだけでこれほどの権力を持つ男の子供が、こんなに純粋培養っぽい子でいいのだろうか…。美月がそう思っていると、それを察したかのように、怜士が彼女を見て淡く微笑んだ。「いつから来ていただけますか?」そう問われて、美月は姿勢を正した。「準備もありますから、できれば週明けからでいいでしょうか?」「わかりました」怜士は頷くと、美月に手を差し出した。それが握手を意味していると気付いて、彼女も慌ててその手を出した。大きな掌に包まれて少し居心地の悪い気持ちでいると、そこに小さくて可愛い手が加わった。「よろしくお願いしますっ。美月先生!」彼の目は相変わらずキラキラしていて、美月はその可愛らしさに思わずニッコリと
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-06
Baca selengkapnya

㉜困惑

ピロンメッセージの通知音が鳴った。「!」マジですか、奥さま…。会議中、こっそり携帯を見たかと思ったら驚愕の表情を浮かべた中津に、希純が問うた。「どうした?」「あ、いえ…」言えない。とりあえず、今は言えない。中津はさっきまでの驚きに満ちた顔を通常モードに戻し、サッと携帯をポケットにしまった。「私用なら後にしろ」「あぁ…、はい」「?」彼らしくない、歯切れの悪い返事に、訝しげに眉を寄せた希純はじっと中津を見たが、何も言わないのでそのまままた、前を向いて会議に集中した。中津は顔には出さないが、もう会議に集中している場合ではなかった。この場には第2秘書の坂本を始め、他にも秘書は何人もいる。議事録は後で確認すれば良いしー。出てっちゃ駄目かな…?一瞬、本気で思った。会議後。「後半、集中できてなかったな?」そのまま希純のオフィスに呼ばれ、問われた。中津は他の秘書を全て下がらせてからため息をつき、覚悟を決めて頭を下げた。「申し訳ありません。奥さまから連絡がありまして…」「美月から?」希純の眉がピクリと動き、中津を睨みつけた。「なんだ?お前ずいぶん仲がいいんじゃないか?」「やっぱりそこですか…」呆れたように言った中津に、不機嫌を隠さず息を吐き出す希純は、指でデスクの表面をコツコツと叩きながら言った。「まぁ、いい。それは後だ」後なのかよ。思わずツッコんでしまった。最近ツッコミがくせになってきたな…。苦笑すると、希純からジロリと睨まれ、コホンとわざとらしく咳をした。「美月、何だって?」彼がそわそわと訊いてくる。「え、あぁ…。就職したそうです」「……は?」中津の言葉に呆然とした希純が、すぐに気を取り直して確認してきた。「就職?…て、あの〝就職〟か!?」「他にどの〝就職〟が?」「???」希純の頭の中で大量の?マークが飛び交っていた。なんで今更?ずっと家にいて、何もやった事なんかないのに??なんでだ?金がないわけないし…何だったら、最近すごい使ってるぞ??別にいいけど。なんだ?気分転換か!?「……」おぉ~、悩んでるな〜。中津は、目の前でじっとデスクの一点を見つめて考え込んでいる希純に、視線を据えた。すると、それに気づいたかのように彼が顔を上げた。「どこで、何の仕事だ?」「え…と。それなんですが……」や
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-10
Baca selengkapnya

㉝出会いⅠ

希純は、美月と初めて会った日のことを思い出していた。といっても、最初は一方的だった。美月の通っていた音楽大学は、年に一度、学生の習熟度を披露する【発表会】があった。もちろん全学生が出るわけではなく、成績優秀者と講師陣からの推薦があれば出ることができる。美月は、どうやら1年時は出場できなかったようなのだが、2年から卒業までは毎年出ていた。その初めて出場した発表会があった年、希純は社長職を継いだばかりで毎日のように早朝から深夜まで働き詰めで、精神的にかなり追い詰められていた。その頃、希純がピアノ曲の鑑賞が趣味だと人伝に聞いた取り引き先の部長から、「自分の姪がその発表会に出場するので、見に行かないか」と誘われた。その男の目的が〝姪の紹介〟だということはわかっていたが、とにかく癒しが欲しかった希純は誘いに乗った。〝紹介〟などは適当に流しておけば良いと思っていた。会場には出場者の親兄弟や親戚、他にもどういう関係なのかわからないが結構沢山の人たちがいて、正直学生の【発表会】ということで侮っていた希純は驚いた記憶がある。そして始まった彼らの演奏に、希純は程々に満足した。技術的に上手いなとは思うが、ただそれだけだった。まぁ、まだ学生だしな…。そう思いながら、せっかくの休日だからと、彼らの演奏をBGM代わりに目を閉じて休息していた。そうして、何人かの演奏が終わった頃、とても耳に心地良く流れる曲に目が覚めた。ハッと思った時にはもう遅く、演奏者は拍手と共に舞台袖に引っ込んでしまっていた。「………」急に目を覚ましてじっとステージを見つめる希純に、連れの男が訝しげに問いかけた。「お知り合いでしたか?」「……いや」そう言ったきり、黙ったまましばらく目を凝らして会場の中を見回していたが、やがてため息をつくと、諦めたようにまた、目を閉じたのだった。希純は思った。また来年も来よう。その時は、あの演奏者を見つけてみせる!そう決意して、その年はそのまま帰ったのだった。〝部長の姪〟の紹介の事は、忘れていた。そうして、次の年ー。希純は一ヶ月前からこの日を楽しみに、1日空けておく為にがむしゃらに仕事をこなした。その日は彼の秘書の中津を連れ、演奏者を見つけたら渡そうと小さな花束まで用意していた。「食事の場まで用意されるなんて、その方は女性なんですか?」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-10
Baca selengkapnya

㉞出会いⅡ

その頃美月はー。自分の順番がくるまで、楽譜のチェックに余念がなかった。彼女は演奏の時暗譜する為、楽譜にある指示も全部頭に入れ込む。もう何百回となく弾いてきた曲だから、暗譜は完璧にできている。あとは、この世界に入って行くだけー。美月が目を閉じたその時、軽いノックの音が響いた。「美月、そろそろステージ横に待機」「うん」呼び出しに来た親友の如月尚は、振り返った彼女の、その立ち姿の品の良さと美しさを絶賛した。「美月、最高に綺麗よ!今日のステージはあなたの為って言ってもいいくらいだわ。なんでトリじゃないのかしらね!」それを聞いて、美月はふふっと嬉しそうに目を細めて微笑い、彼女を軽く小突いた。「言い過ぎよ。先輩たちに失礼よ」「ふふふ…」尚は美月の上品な雰囲気が好きだったが、その謙虚さはいただけないと常々思っていた。誰が見ても一番綺麗で、誰に訊いても一番上手く弾いてるのに。だがこれ以上言っても彼女が受け入れることはないことを知っているので、尚は「ま、そのうちね」と苦笑して、2人で控室を後にした。演奏後。ステージを降りて控室に戻って来た美月は、尚と「この後何処に食事に行こうか」と話していた。そこへ、「浅野美月さん、お客さまよ」と会場係の女性講師から言われた。美月は尚と顔を見合わせ、彼女に続いて控室を出ると、そこに後の夫となる佐倉希純と彼の秘書が立っていたのだった。「どちらさまですか?」その澄んだ声音と、彼女の清廉で高潔な雰囲気に、希純の思考は一瞬にして囚われた。「…こんにちは。佐倉希純と申します。彼は私の秘書です」「……」そう言いながら微笑む男に、美月はパチパチと瞬きするだけで特に返事はしなかった。ただ少しだけ傾げた首にはらりとかかった髪の毛が、彼女の疑問を呈していた。希純はコホンと空咳をし、緊張した様子で言った。「昨年あなたの演奏を聞いて、ファンになりました。なので、これをー」その言葉と共に目の前に差し出された小さな花束に、美月は目を丸くした。「ファン…ですか……」「はい」「……ありがとうございます」「……」会話が終わった。いやいや、はよ食事に誘ってくださいよ。横で見ていた中津は心の中で言い、そして如月尚は口に出して言った。「もういいですか?」「?」急に口を出してきた美月の友達らしき女性に、希純は戸惑
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-10
Baca selengkapnya

㉟出会いⅢ

「尚、ごめんね。嫌な役させて…」男たちを見送って、控室のドアを閉めたところで美月にそう言われた尚は、一瞬「?」と思ったが、その次に「ああ!」と思いあった。「何言ってるの。あなたはああいう人のあしらい方なんて、知らないでしょ?いいのよ」「でも…」気にしている美月に、手っ取り早く尚は提案した。「ど〜しても気になるって言うなら…今日の食事は奢ってちょうだい。それでチャラ!ね?」明るく言うと、やっと美月は笑って頷いてくれた。それを見て、彼女は苦笑して思った。本当にこの娘は人が良いわ…。これでこの先大丈夫かしら。そのうち身包み剥がされたりしないでしょうね?最悪、命まで獲られそうだわっ…。親友の行く末が心配で、まるで母親のようだと自分を顧みた。その日2人は連れ立って食事に行き、男たちの事はほぼ頭の隅に追いやっていた。そして、翌日。美月は担任から学長室へ行くように言われ、そこで昨日会った男の秘書という人物と再会した。そこで彼女は、男が佐倉グループの社長であり、彼が自分をこの先支援していきたいと思っている、という旨を明かされたのだった。「……」正直、どうでもいい。お金には困ってない。だけどー。美月は貰った名刺を見て、考えた。この人の支援を受けたら、私も家を出ることができるかしら…?彼女の頭の中でぐるぐると思考が回っている事を、中津は見抜いていた。「お返事はすぐでなくても構いません。なんせ、1年も待ったのですから。今更あと数日待つくらい、なんて事はないでしょう」「……」〝1年待った〟という言葉に、美月は心を撃たれたような気がした。胸の中の痛みに首を傾げ、彼女は頷いた。「相談して、明日、ご連絡させていただきます。いつ頃がお手隙ですか?」「……」その返事に中津はちょっと感動した。こちらが〝支援したい〟と言っていて、美月から〝支援してほしい〟と言っている訳でもないのに、気を遣ってくれるなんて……。今まで希純に纏わりついてくる女たちは皆、なんの自信なのかチヤホヤされることを望んでいた。彼女たちと比べても、この浅野美月という女性は際立って美しいし、品がある。社長、グッジョブ!中津の中で、彼女が社長夫人候補No.1確定になった瞬間だった。「いつでも構いません。もし気になるようでしたら、私の方にメッセージを送っていただければ、折り返し
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-10
Baca selengkapnya

㊱焦り

「社長?」思考の海に沈んでしまっている希純に声をかけ、中津は言った。「どうしますか?奥さまには残念ですが、このお話しはお断りするよう言いますか?」「いや…」希純の反応に、中津は片眉を上げた。「まさか、容認なさると?」「いや…」どっちだよ。中津は、希純がただ呆然として、思考が働いていない事に気付いた。まぁ当然だろう。真田怜士は希純にとって、仕事上だけでなく、実は美月に関してもライバル関係のようなものだった。あの、初めて美月に会いに行った日、同じ会場で真田怜士…彼もいたのだ。その息子らしき子供もいた。後で聞いたところによると、彼も美月の支援を申し出たようだったのだ。おそらく、その息子の講師になったというのだろうが…。偶然なのか、偶然を装った必然なのか。珍しく中津も、不快感をその目に宿していた。「くそっ…今頃になって…!」希純はダンッとデスクを叩き、イライラと舌打ちした。あの後なんの接触もない事から、美月がなんだかんだで希純と恋愛関係になり結婚までしたことで、あの男も諦めて、この件に関してはもう終わったことだと思っていた。それが今頃、まさかの出来事だった。「誰かの紹介か?」希純が訪ねる。「おそらく、ですが。奥さまの友人の、如月尚ー」チッ!あの女か!!中津の言葉を最後まで聞かず、希純にとって天敵とも言える妻の親友、如月尚が、まさか今頃になってこんな傍迷惑なことを仕出かしてくれるとは!!と歯軋りした。「美月にメッセージを送れ。『真田怜士には関わるな』と」「……かしこまりました」中津は携帯を取り出し、美月へのメッセージを打ち込み始めた。そうしてしばらくして、帰ってきた返事が『関係ない』の一言だけだった。希純にはわからなかった。なぜ美月が、こんなにも自分に怒っているのか。なぜこんなにも反抗的で、容赦がないのか。なぜこんなにも、自分を困らせるのか!もしかして、真田と密かに会っていたのか。彼を好きになってしまったのか…?だから、こんなにもあっさり俺を捨てるのか!?希純は考えに囚われて、まともに判断できなくなっていた。そこへーピロン。今度は希純の携帯にメッセージがきた。2人揃って急いで確認すると、『奈月のSNS見たわ。まだ離婚もしてないのに、待てないの?忠告しておくわ。彼女には新しいドレスを贈りなさい。例えお
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-10
Baca selengkapnya

㊲怒りⅠ

家政婦の三和良子はキッチンでお茶を用意しながら、自分の不運を呪っていた。夕方、そろそろ夕食の支度でもと冷蔵庫を覗いていたところ軽やかなドアチャイムが鳴り、慌てて玄関に向かうと、そこには既に2人の男たちが立っていた。「あ、あの…」良子は戸惑っていた。誰??彼女は奈月の実家である浅野家で新しく雇われ、ここに連れて来られたので、希純や中津を知らなかった。ただ、希純に関しては、奈月と一緒に写った写真を見たことがあったので、もしかして……と推測することができた。「奈月はどこだ?」ジロリと睨まれ、ひぇっと首を竦めた。「聞こえないのか?」再度静かに問われて、彼女はブンブンと頭を振り、慌てて言った。「な、奈月さまは、お友達とお買い物に出ていらっしゃいますっ」「買い物?」ふんっ…!ずいぶんと呑気なものだ!希純はイライラとした雰囲気を隠しもせず、リビングに入るとソファにドサリと座った。別荘に着いて、希純はすぐにその変わりように驚いていた。美月の為に整えた庭が、いつの間にか全くその様相を変えていたのだ。彼女の好きだった清楚な見た目の花々は全部抜かれたのか、そこには真っ赤な薔薇が植えられていた。庭の奥に入ってみると、植えられた花は元の通りだったが、大した手入れをされておらず、荒れた感じになっていた。そして美月が最も好きだった、紫陽花が植えられた庭の一角に、小さな土の盛り上がりまであった。どう見ても何かの墓だった。なんだ、これは!?希純はぎゅっと拳を握り締め、それでも一旦怒りを胸に収めて玄関に向かった。鍵は持っていたが、礼儀として一応チャイムを鳴らした。そして、出迎えられる前に扉を開けて中に入ったのだがー。希純は信じられなかった。目の前に広がる空間のどこを見ても、自分が美月の為に施したものとは違っていたのだ。中津も、驚いて声も出ない様子だった。奈月…!希純の額には、今にもブチ切れそうな青筋がくっきりと浮かび上がり、その顔は怒りに染まっていた。「お、お茶をどうぞ……」震える手で湯呑みを置き、良子はすぐさまキッチンへと引っ込んだ。そして急いで奈月の携帯に連絡をしたが、彼女は全く出ようとしなかった。諦めずに何度もかけたがその内ブツッーと切られ、それからは電源を落としたのか、全く通じなくなってしまった。どうしようっ…。良子は焦っ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-12
Baca selengkapnya

㊳怒りⅡ

「捨てろ……」「え?」俯いて怒りのオーラを撒き散らしている希純が、静かに感情を抑えた声で言った。「この部屋のものを全て捨てろっ」「かしこまりました!」希純の怒りもなんのその、中津は勢いよく返事をしてすぐさま廃品回収業者に連絡した。中津はこの部屋に入った瞬間、奈月を「終わったな」と思って嗤った。彼女は希純の逆鱗に触れてしまったのだ。インテリアを変えるのはまだしも、誰が見ても奈月と希純が夫婦であるかのように主寝室を整えたのは、やり過ぎだった。希純は怒りのままに、クローゼットの中の自分のジャケットを取り出してゴミ箱に投げ入れ、ベッドサイドに飾られた、いくつもの写真立てを床に叩きつけた。確かに、これはないわなぁ…。中津は大きく息をつき、割れた写真立ての中にある彼らの写真を見た。そこには、彼ら2人が寄り添いあって微笑っている姿があった。だが、中津は覚えていた。これは昨年、美月と奈月の父である浅野家当主の誕生日祝いを、佐倉グループのホテルでした時のものだった。当然部屋には彼女たちの両親を始め、彼女らと希純、それに中津も招かれていた。そこで彼らは楽しそうに食事をし、写真を撮り、和気あいあいと過ごしていた。きっとその時、奈月が希純に頼んでツーショットを撮ったのだろう。一見普通の、ただの義兄と義妹の写真だ。だがこれを写真立てに入れて寝室に飾ることで、なぜこんなにも意味深なものに見せることができるのだろう…。中津は、彼女のこのあざとく腹黒い本性に気付かない希純を、実は大物なんじゃないかと思ってしまった。そうでなければ、こんなに鈍いはずがない。「社長、書斎の方にも行かれた方がよろしいのでは?」希純の背中に向かって問いかけた。美月のウェディングドレスなど一式は、特別に造った展示室に飾ってあった。大きなショーウィンドウのような、ガラス張りの展示スペースの中でマネキンに着せて、ジュエリーやティアラ、靴など、使用した物は全て丁寧に飾られていたのだ。もちろんそこを勝手に開けられないよう、厳重に鍵をかけていた。その鍵は、希純の書斎に仕舞ってあったのだ。2人は主寝室を後にして、書斎へと向かった。中に入ると、ここはそれほどいじった様子はなかった。ただやはり、デスクの上にはさり気なく2人の写真が飾られていた。「……」希純はじっとそれを目にし
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-12
Baca selengkapnya

㊴怒りⅢ

「三和さんー?」数時間後、やっと帰って来た奈月は、そこにいる希純を見てパッと笑顔になった。「希純兄さん!」そう言って駆け寄ろうとしたが、彼の冷たい視線に足を止め、不思議そうに首を傾げた。「義兄さんと呼べ、と言ったはずだが?」「……」「理解できないか?」奈月は、今日に限ってとても冷たい希純の雰囲気に戸惑っていた。ちらりと見ると、彼の秘書の中津も、無表情で自分を見下ろしていた。「え…と、義兄さん…?」「ああ。突然だが。奈月、ここを出て行け」「え!」驚きに固まって、その後、彼女は吹き出した。「やだ、義兄さん。なんの冗談なの?」彼女は、希純が自分にこんな酷いことを言う訳がないと思った。だから、これは彼なりの冗談なのだ。笑えないけど。奈月がくすくすと笑っていても、他の誰一人として笑わなかった。「?」ようやくおかしいと思ったが、それでも彼女は希純の言葉を信じていなかった。「どうしたの?何かあったの?」何を言っても希純は黙って、その冷たい眼差しで彼女を見つめるだけだった。そうして、ようやく奈月も理解した。本当に、彼は自分に「出て行け」と言っているのだ。そう悟った彼女は、突然怒りを爆発させた。「なんでよ!!なんで、私が出て行かないといけないのよ!」ダンッと足を踏み鳴らした。「奈月さま…」「あんたは黙ってなさいよ!!」ギロッと睨まれて、良子は身を竦めた。「彼女にあたるな」冷たく注意されて奈月は口を噤み、なんの感情も映してない希純の目に動揺した。「どうして?私、何かしちゃったの?」目に涙を浮かべてみても、彼は黙っていた。「義兄さー」「そもそも、ここに住んでいいなんて言ってない」「!」泣いて縋ろうと思っていたら、ピシャリと言われた。住んでいいとは言ってない?そんなの嘘よ!奈月は言い返そうと息を吸い込んだ。でも、その前にまた希純が言った。「ここを勝手に改装して、庭もめちゃくちゃだ。美月の物に勝手に手を出して、俺が黙っていると思ったのか?」「それはー」奈月は希純のガラス玉のような瞳に見据えられて、身体が勝手に震え始めた。「寝室の写真もなんだ?」「……」次々と責め立てられて、奈月はぎゅっと手を握り締めた。なによ。どうして、そんな事言うの?お姉ちゃんの物を使ったから何だっていうのよっ。じわじわと涙が滲ん
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-12
Baca selengkapnya

㊵最後の夜

奈月は今日、友人たちとランチにショッピング、それからカフェなどいろいろな所に行って遊んできた。その支払いは、全てこの希純兄さんから貰ったカードで賄った。友人たちは、そんな自分の豪勢な生活ぶりを羨ましがって、益々気分が上がって、今日のお出かけの記念にとお揃いでスカーフを買った。もちろんハイブランドのものだ。そうして気分良く帰ってきたら希純兄さんが来ていて、本当に嬉しかった。なのにー。「廃品回収業者を呼んである。要るものは取っておけ。でないと何も持たずに出て行く事になるぞ」「そんな!」奈月はびっくりして、足元がよろけてしまった。希純の雰囲気からそれが本気であることを知ると、急いで2階へと階段を駆け登って行った。そうして主寝室に行った奈月は、その有様に一瞬呆然とした。床には粉々になった写真立て。ごみ箱には無造作に捨てられた希純の服。そのどれもが、彼女が毎日眺めて悦に入っていたものだった。この様子だけでも、希純がまるで奈月のものの様に扱われることに不快感を覚えている…というより、怒りを感じていることがわかる。「酷い……」奈月は小さな声で呟くと、砕けたガラスの中で笑っている2人を見つめて言った。「本当に、私の勘違いだったの…?」奈月は綺麗で優しい姉が大好きだった。その姉が選んだ相手は、やっぱり素敵な人だった。小さな頃から姉のものは自分のもので、誰もそれを咎めなかった。両親たちの愛も、友人たちの好意も、全部自分のものにしてきた。姉だって、それで文句も言わずにいた。嫌なら嫌って、駄目って言えば良かったのに、いつも優しく微笑んでいてー。だから自分は勘違いしたのだ。希純が姉のものなら、自分のものにしていいはずだ、と。それを今になって文句を言われても、困るわよ!奈月は一人胸の内で言い訳をしていた。「奈月さま…」声に振り返ると、三和良子が心配そうに部屋を覗いていた。「なによ。嗤いに来たの?」そう言うと、彼女は悲しそうに瞬きをして、静かに部屋に入って来た。「お手伝いします」「……」奈月は、自分が彼女に対して、決して優しくなんかなかったと知っている。それなのに、彼女は最後に自分に優しくしてくれる。この気持ちをどう表したら良いのか、奈月にはわからなかった。ただ、涙が滲んできて、鼻の奥がツンと痛くなった。「ありがとう…」小
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-12
Baca selengkapnya
Sebelumnya
123456
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status