鈴木がおずおずと手を伸ばして、理玖の顔に顔を近づけた。 吐息を吸い込むと、急激に欲情が高まった。 (頭の芯が痺れてくる。目の前の唇を吸いたくなる。衝動が抑えられない) 自分から手を伸ばして鈴木の唇に吸い付いた。 (ぁ……、美味しい。もっと、もっとこのフェロモンを吸いたい。きもちぃ) 興奮が高まって股間が熱くなる。 総てをこの人に捧げてしまいたくなる。 「理玖、きもちいい? 僕のモノになったら、もっと気持ち善くなれるよ」 鈴木の声が頭に響く。 もっと気持ち善くなれるなら、そうなりたい。 そう感じる反面、それを冷静に俯瞰する自分もいた。 (快楽で思考を麻痺させて、命令を刷り込む。気持ち良いと抗う気が起きない) キスする鈴木の目を眺めて、理玖は動きを止めた。 それ以上、唇を押し付ける気になれなかった。 「鈴木君は、こんな風に大勢の人とキスするの、辛くない? 僕には酷く無理しているように見えるけど」 鈴木が動きを止めた。 表情が固まった顔に、更に続ける。 「世の中にはフリーセックス派もいる。性嗜好は個人の自由だ。君が望んでそうしているなら、良いと思うけど。もし好きでもない相手との性交を辛いと感じるなら、やめるべきだ。心を病むよ」 鈴木が、すっと身を引いた。 「ちょっとは酔っているように見えたのにな。向井先生には空咲さん以上に効果がないですね」 鈴木が自嘲気味に笑う。 その顔だけで、この行為を不本意に感じていると、理解できた。
Last Updated : 2025-11-22 Read more