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All Chapters of only/otherなキミとなら: Chapter 241 - Chapter 250

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第240話 お茶会⑤

 鈴木がおずおずと手を伸ばして、理玖の顔に顔を近づけた。 吐息を吸い込むと、急激に欲情が高まった。 (頭の芯が痺れてくる。目の前の唇を吸いたくなる。衝動が抑えられない)  自分から手を伸ばして鈴木の唇に吸い付いた。 (ぁ……、美味しい。もっと、もっとこのフェロモンを吸いたい。きもちぃ)  興奮が高まって股間が熱くなる。 総てをこの人に捧げてしまいたくなる。 「理玖、きもちいい? 僕のモノになったら、もっと気持ち善くなれるよ」  鈴木の声が頭に響く。 もっと気持ち善くなれるなら、そうなりたい。 そう感じる反面、それを冷静に俯瞰する自分もいた。 (快楽で思考を麻痺させて、命令を刷り込む。気持ち良いと抗う気が起きない)  キスする鈴木の目を眺めて、理玖は動きを止めた。 それ以上、唇を押し付ける気になれなかった。 「鈴木君は、こんな風に大勢の人とキスするの、辛くない? 僕には酷く無理しているように見えるけど」  鈴木が動きを止めた。 表情が固まった顔に、更に続ける。 「世の中にはフリーセックス派もいる。性嗜好は個人の自由だ。君が望んでそうしているなら、良いと思うけど。もし好きでもない相手との性交を辛いと感じるなら、やめるべきだ。心を病むよ」  鈴木が、すっと身を引いた。 「ちょっとは酔っているように見えたのにな。向井先生には空咲さん以上に効果がないですね」  鈴木が自嘲気味に笑う。 その顔だけで、この行為を不本意に感じていると、理解できた。
last updateLast Updated : 2025-11-22
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第241話 お茶会⑥

「まず、otherに対して効果があるのは、SAフェロモン本来の快楽を昂らせる効果が先行するから。快楽と紐づけて催眠を掛けやすくなる。唐木田さんや冴鳥先生、晴翔君もだけど、正直で素直な質の人ほどかかりやすい」  相手に対して疑いがなかったり、或いは同情していたり、好意を持っていたり。 そういう肯定的な感情が、催眠効果を押し上げる。 「催眠……?」  晴翔が不思議そうに問う。 理玖は頷いた。 「そう、これは催眠術だ。だから僕は始める前、しつこいくらいに晴翔君に僕を思い出させて、僕だけを考えるように促した。鈴木君のフェロモンに煽られている間中、晴翔君は僕のことを考えていたよね?」  問い掛けると、晴翔が当然と言わんばかりに深く頷いた。 「理玖さんのことしか、考えませんでした。最初から理玖さんとキスしてるって思い込んでたから、途中からぼんやりしても、ずっと理玖さんしか浮かんでこなかった」  素直な晴翔が可愛い。 可愛いから頭を撫でた。 「僕を想像しながら鈴木君とキスした晴翔君は、鈴木君のフェロモンに酔いながら僕に支配された。結果、洗脳の主人《master》が鈴木君から僕に置き換わった。だから、鈴木君の命令ではなく僕の命令に従った」  鈴木の命令で気持ち良くなるはずの晴翔は、理玖の命令で気持ち善くなった。 催眠効果はあった、ということだ。 「なんか、手品みてぇだね」  佐藤が、ぽつりと零した。 「催眠術も、巧妙な心理トリックという点では手品みたいなものですからね」  臥龍岡が大袈裟に息を吐いた。 「なる
last updateLast Updated : 2025-11-22
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第242話 お茶会⑦

 改めて席を移動する。 大きなテーブルの上にはケーキスタンドが立って、ケーキやスコーン、サンドウィッチが載っている。 数種類の紅茶も準備されていた。 「ディナーの時間ではありますが、向井先生たっての御希望でしたので、アフタヌーンティを準備させていただきました」  席に着くと、鈴木と佐藤が紅茶を準備してくれた。 「ケーキはイチゴのショートケーキにオペラ、エクレア。サンドウィッチはハムと卵、スコーンにはクロテッドクリームとマーマレードジャム。先生の好みに合わせました」  ひとしきりメニューを聞いて、理玖はふむ、と顎に手を添えた。 「紅茶は?」「ダージリン、濃いめがお好きですよね?」  臥龍岡がニコリと笑んだ。 大体、予想通りだ。 しかし、隣の晴翔は不可解な顔をしている。 きっと、理玖の実家に帰った時のメニューと比べて困惑しているんだろう。 「……、理玖さんはラズベリーのムースみたいな酸味がある方が好きで、チョコ系はあんまりですよね。ジャムも木苺やブルーベリージャムが好きだし、紅茶はミルクティが好きだからアッサムだし」  晴翔のコソコソと理玖に耳打ちする。 確かに、理玖の好みに合わせたのだとしたら、見当違いだ。 そもそも理玖の好みを臥龍岡が知るはずがない。 (そう、だからこれは僕ではなく、僕の《元》の人間に合わせた趣向だ) 「曾祖父レイノルド・シュピリの好みを覚えていてくださって、ありがとうございます。マザーは存外、記憶力の良い方なんですね」  晴翔の顔が強張った。 臥龍岡の隣に腰掛けた鈴木が、理玖を睨んだ。 どうにも嫌われてし
last updateLast Updated : 2025-11-23
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第243話 お茶会⑧

 臥龍岡の目が晴翔に向いた。 「説得は、一応してくださったようですね。約束通り、向井先生の正体について、RoseHouseは口を噤みましょう。成果として持ち帰ることができれば、のお話ですが」  臥龍岡が人差し指を口元に添えた。 わざわざ晴翔一人を呼び出して、理玖の出生の秘密を告げ、それをネタに脅して、RoseHouseに抱き込もうとした。マザーが望む、最大の成果を得るために。 (だから、その状況を利用してクローンを否定しないつもりでいたけど。相手の秘密を暴露するなら、まずは自分の秘密から明かさないと、説得力がないな)  資料を一通り再確認し辿り着いた新たな真実は、晴翔と確認し合った限りでも軽くない。 出生の秘密なんでデリケートな話を赤裸々にぶつけるなら、自分の事実も正々堂々話すべきだろう。 「念のためお伝えしますが、僕はレイノルド・シュピリのクローンではないですよ」  臥龍岡が表情を止めた。 紅茶を飲み干し、カップを差し出す。 「お代わり、お願いできますか? 可能ならミルクティがいいです。紅茶はアッサムで」  後ろに座っていた佐藤が立ち上がり、準備を始めた。 理玖は自分からスコーンを皿に取った。 「ロンドンのスコーンはジャムなしでも充分美味しくて、僕は使う習慣がありません。日本のスコーンはジャムがあった方が美味しいけど、クロテッドクリームだけで食べるのが、本当は好きです」  理玖を眺めていた臥龍岡が納得の顔をした。 「なるほど、向井先生がアフタヌーンティを希望された理由は、これでしたか。しかし食の好みは後天的に変化するものです。それだけでクローンを否定する材料にはなりませんよね」  理玖は紙袋の中から、冊子を二冊
last updateLast Updated : 2025-11-24
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第244話 お茶会⑨

「臥龍岡先生は、自分が安倍忠行氏のクローンではないと知っていたんじゃないですか? 貴方こそが安倍晴子氏と忠行氏の実の息子であり、シュピリの実験の成果だった。しかしその結果は、マザーが望む結果ではなかった」  臥龍岡が、理玖が差し出したノートを手にとり、広げた。 他の女を愛した夫の精子から生まれた子供。 遺伝子的に晴子と忠行の子でも、それは晴子の望む子供ではなかった。 「マザーにとっては失敗の結果。俺は、実験の失敗作です。そんな事実はマザーにとり成果ではない」  臥龍岡が自嘲して吐き捨てた。 やっとその口から本音が流れ落ちた。 「だから貴方は忠行のクローンとして、マザーのdollとして生きると決めた。それは愛してくれる父親に報いるためでもあったのでしょう。しかし、それだけではなかった」  理玖は鈴木に目を向けた。 「RoseHouseから里子に出される時は、一文字の名前が二文字になるんだったね。圭君は鈴木の家に里子に入っているのに、名前が一文字のままだね」  ビクリ、と鈴木の肩が震えた。 「レイノルド・シュピリが日本で実験をしていたのは2001年まで。圭君が生まれたのはその二年後。だから曾祖父の実験結果はないし、明確な証拠はない。故に、ここからは僕の推論です」  理玖は佐藤が隠していたRoseHouseの実験結果を取り出した。 冊子を見付けて、臥龍岡が目を見張った。 「どうして、その冊子を、向井先生が……。……あぁ、だから先生は、圭の事情にまで辿り着いて」  臥龍岡の顔には焦燥と、若干の恐怖が滲んで見える。 思考力がある臥龍岡は、おおよその事情を察したらしい。
last updateLast Updated : 2025-11-24
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第245話 お茶会⑩

 臥龍岡が鈴木の手を握る姿は、まるで抱きしめているようだった。 こんな風に肩を寄せ合って、今まで生きてきたんだろうと思った。 「余計な話ついでに、二人にとって折笠先生は愛人ではない。叔父さんにあたる人であり、父親のようなものだった。どうして、殺したんですか?」  臥龍岡の手を握って俯いていた鈴木が、唇を噛んだ。 「殺してない。僕らは悟さんを、殺してなんか……死んでほしく、なんか……なかったのに」  ぽたぽたと透明な雫が零れ落ちた。 その姿は、倒れている折笠を見付けた時の、狼狽える鈴木の姿に繋がった。 晴翔が辛そうな目を向けていた。 「殺そうとしたのは、事実ですよ。悟さんにはDollの罪を総て被って、死んでもらう予定でした」「マザーの指示だったから? 臥龍岡先生は本当に折笠悟を殺しきれましたか?」  理玖の質問に、臥龍岡が弱々しい笑いを零した。 「意地悪な質問をしますね。どうせ向井先生は気が付いているんでしょ。殺せなかったんですよ。いくらマザーの命令でもできなかった、なのに。悟さんは自分で自分の心臓を止めた」  命令には従った。 けれど、できなかった。 マザーの支配から抜け出しきれない臥龍岡を見て、折笠もまた、決断した。 「どうして折笠先生がそんな真似をしたのか、臥龍岡先生だって気が付いていますよね」  蘆屋が話していた、軽い冗談のような話。 『わからせてやろうと思ってね』  折笠の決断の代償は、この二人にとって小さくなかったはずだ。 「……五年前に
last updateLast Updated : 2025-11-25
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第246話 お茶会⑪

「今なら、やめられるでしょう」  理玖の震えた声が響く。 臥龍岡や鈴木だけでなく、晴翔も理玖を振り返った。 「全部、壊せばいい。間違った世界は根底から崩して、木端微塵に破壊すればいいんだ」  理玖は立ち上がり、臥龍岡の隣に立った。 「最後の確認です、臥龍岡先生、鈴木君。貴方たちはこのまま一生、マザーのdollでいたいですか?」  理玖を見上げる臥龍岡が息を飲んだ。 「自分を愛しもしない、道具扱いする母親の虐待の元で一生を終えたいというのなら、それでいい。自分の人生は自分で選択すべきだ。否定しない。けどもし、その場所から抜け出したいと思うなら、僕の手を取ってください」  臥龍岡に向かい、手を差し伸べた。 「状況は変わったはずだ。今なら頼れる協力者がたくさんいる。変えたのは、折笠先生だ。二人を守って救うために僕を呼んで、二人のために折笠先生がこの状況を作った。僕は折笠先生が命懸けで作ったきっかけを絶対に無駄にしない」  理玖の手を臥龍岡が見詰めた。 「僕なら、さらに状況を変えられる。変えて見せる。だから僕に、力を貸してください」  理玖は臥龍岡を目をそらさずに見詰めた。 臥龍岡の視線が、テーブルの上の秘密箱に向いた。 徐に手を伸ばして、臥龍岡が秘密箱を手に取った。 「向井先生がこれを持ってきた時点で、我々の負けでしたね。父さんが俺たちを……、向井先生を導いた」  箱を見詰める臥龍岡の目は懐かしそうで、切なくて、理玖の方が胸が締まった。 隣で臥龍岡と同じように箱を見詰める鈴木の目が、涙に歪んだ。 「
last updateLast Updated : 2025-11-25
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第247話 お茶会⑫

 臥龍岡が、不意に顔を上げた。 「まだ向井先生のお願いを聞いていませんが。俺に叶えて欲しいお願いは、何ですか?」「あぁ、それについては……」  理玖の言葉を遮るように、突然、唐木田が起き上がった。 大あくびをして伸びをしている。 ドキリとして、理玖と晴翔は固まった。 (タイミングが悪い。できれば最後まで寝ていて欲しかった)  そんな理玖の想いとは裏腹に、唐木田が眠そうに目を擦りながら周囲を見回す。 「ふぁ、良く寝たなぁ。あれ、ここ、どこだ?」  鈴木が慌てながら駆け寄った。 「冬志……、唐木田、さん。説明はちゃんとするんだけど、今は……」  近付いた鈴木を見付けて、唐木田が微笑んだ。 逞しい腕が伸びて、鈴木を抱きしめた。 「何か、すっきりした良い顔になってるな。良いこと、あったか? もう好きでもない相手とエッチなコト、しちゃダメだぞ」  宥めるように、唐木田が鈴木の背中を摩る。 「……しないよ。しなくても、良くなったよ。僕はもう冬志以外とエッチなコト、したくないんだ」  小さく零れた鈴木の言葉に、理玖は晴翔と顔を見合わせた。 「最初に冬志が気付いてくれた。心配してくれた。僕がRISEのメンバーだって知ってるのに優しかった」「それはそうだ。俺は警察官だから。それに、圭が可愛いから」  そう言って、はたと唐木田が顔色を変えた。 「けど俺、おじさんだからな。圭
last updateLast Updated : 2025-11-26
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第248話 お茶会⑬

「いくつか聞きたい話としておきたい話があります。この場所は秘匿性も高いし都合がいい。盗聴器でマザーに情報を流したり、していませんよね」  臥龍岡に目を向ける。 「マザーは、そういう発想まで浮かばない人です。むしろ盗聴は向井先生の方でしょ。礼音がいるだけでも、こちらとしては結構なリスクでしたよ」  臥龍岡がいつもの調子で語る。 ちょっとだけドキリとした。 今日も七不思議007の協力の元、理玖のジャケットには盗聴器が仕込んである。 最初は場所もわからなかったから、GPSも完備だ。 理玖たちを尾行した警察官がこの場所を包囲しているはずだ。 「もう何がバレても構いませんけどね。RISEは向井先生に乗っ取られたわけだから」  臥龍岡の言い方は人聞きが悪い。 何となく、してやったりな顔をして見えるのは気のせいだろうか。 しおらしくされると、理玖の方がやり辛いから、調子が戻ってくれるのは良いのだが。 「でしたらまず、臥龍岡先生たちには今まで通りRISEの活動を続けてもらいます。あくまでマザーのdollとして、僕とは表面上、敵対していてください。それが僕の作戦です」「臥龍岡先生や鈴木君、秋風君を守る手段にもなる、と理玖さんは言っています」  言葉を挟んだ晴翔を不本意な気持ちで見上げる。 例によってやはり、王子様スマイルを向けられた。 「そうなると俺はマザーに今日のお茶会の成果を持ち帰らなければならなくなりますが」  椅子に掛けたまま、足を組んで肘を付く臥龍岡は、吹っ切れた表情をしている。 逆にラスボス感が増して見えるのは何故だろう。 「それこそ、向井理玖がRoseHouseの実験の一切を引き受ける、です。最初に話したでしょ
last updateLast Updated : 2025-11-26
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第249話 追憶の恐怖①

 花園礼が児童養護施設に孤児として引き取られたのは0歳の時らしい。 生まれたての赤ん坊が施設の玄関に捨てられていたのだそうだ。  孤児を育てる施設であるRoseHouseでは珍しくもない話だ。 RoseHouseには一歳より以前から暮らしている孤児が多くいた。 そういう場所だと世間が認識しているせいで、捨てる場所に選ぶ親が多いのだろうと思っていた。  礼は八歳の時に栗花落の家に里子として引き取られた。 栗花落の家から申し出があり、薔薇園小学校を卒業するタイミングで養子縁組して名前が変わる予定だ。 礼より三歳年下の音は一年後、秋風の家に養子に入ることが既に決まっていた。 だから、礼と音が一緒に過ごせるのは、礼が小学生の間だけだった。  RoseHouseでは基本、年齢ごとに生活空間が分けられる。 しかし、例外があった。 RoseHouseのmasterpeace、手本にするべき完璧な人間である叶と圭は、兄弟だ。 二人は施設内でも特別なフロアの特別な部屋で生活していた。  それに習うように、兄弟は同じフロアで、時に同じ部屋で生活する。 礼と音は歳が離れているのに同じフロアで生活していた。 かといって、施設の職員から兄弟として扱われたことはなかった。 『同種の子供』  定期健診の時に、医者が時々口にする台詞を、深く考えもしなかった。 小学五年生の冬、聞いてはいけない言葉と知ってはいけない事実を耳にした、あの時までは。  事件が起きた、あの日は、礼と音は揃って敷地内の病院に入院していた。 小児喘息の小発作、いつもの症状だ。 いつも同じようなきっかけで、同じようなタイミングで発作を起こす。 「病気まで同じタイミングなんて
last updateLast Updated : 2025-11-27
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