紗菜が出張しているのは、南方の小さな町だった。この時すでに最後の仕事を終えた紗菜は、環境の良い民宿にチェックインしていた。「彼のことは無視して」紗菜は父と電話中だ。颯真がまだ自分に説明しようとしていると聞いて、きっぱりと拒否した。その後、両親と少し世間話をしてから電話を切った。妊娠して三ヶ月が過ぎ、紗菜も今の体の状態にはもう慣れていた。体型が目立たないロングワンピースを着た紗菜は、民宿の店主からもらったお菓子を手に取り、スケッチブックを持って外にスケッチに出かけようとしていた。一方、颯真の状態は良いとは言えなかった。彼は愛梨からの電話を見もせずに即座に切り、手元のビールを掴んで一気に流し込んだ。病院から帰宅すると、紗菜の持ち物はすでにすべてなくなっていた。彼女が丁寧に整えた部屋は、すっかりがらんとしていた。颯真は力なく床に倒れ込んだが、ふとソファの隙間に紙が挟まっているのを見つけた。慌てて起き上がり、手を差し入れて取り出してみた。それは男性用タキシードの設計図だ。紗菜はファッションデザイナーだが、本当の夢は画家として個展を開くことだ。しかし、颯真との結婚のために夢を諦め、デザイン会社に就職した。その後、彼女は毎年結婚記念日に夫婦の衣装を自らデザインしていた。この設計図は、今年の記念日のために彼女が描いたものだった。颯真はその時、自分がこの設計図を受け取った時の表情を思い出そうとした。彼は思い出せなかった。ただ、受け取ってすぐにどこかに置きっぱなしにしたことだけ覚えていた。彼が設計図を裏返すと、そこには紗菜の美しくて力強い文字が並んでいた。【颯真!今年で結婚5年目だよ。今でもあなたのことが大好き!でも最近ちょっと痩せたんじゃない?前に買った服、大きく感じるよ。ちゃんとご飯食べてね!今年の礼服は純白にしたよ、あなたの職業にぴったりだと思って。職位の昇進、うまくいきますように!もし昇進できたら、私たちの関係を公表しようよ。それから、赤ちゃんを作ろうよ、ね?……】この後は、紗菜の何気ない独り言が続いていた。だが颯真の目はすでに涙でにじんで、文字が見えなくなっていた。何度も涙を拭こうとしたが、かえって涙は止まらなくなった。ついにはその設計図を抱きしめて、
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