All Chapters of いなくなった愛犬を探していたら異世界で獣人王になっていて、俺は愛妃になれと攫われた!(交際0日で獣人王と婚約しました)): Chapter 21 - Chapter 30

38 Chapters

金のオルフェ

 理久はずっと自分でも、失敗した時の気持ちの切り替えは早い方だと思っていたが…… 今回は、なかなか上手くいかなかった。 そして結局…… クロの両親の今日一日の予定が詰まっていて、クロの風呂や着替えなどもあり、元の豪華な朝食を再び用意して食べる時間が無かった。 大きく長いテーブルに、人数分の紅茶とサンドイッチだけがぽつんと用意される散々な結果になってしまった。 入り口から向かって左側に、理久、クロの順で並んで座って、それに対面する形でクロの両親が座った。 そして、その他に二人の同席人がいた。 一人はクロの従者で、名はレメロン。 レメロンは、クロの横に椅子を持参し着座した。 クロと年は近い感じのやはり犬系の美形獣人で、見るからに頭がキレそうな容姿。 そして、もう一人は…… さっき理久が椅子の数を気にしていた事は正しかった。 犬系獣人でなんと隣国の王子様でクロの幼馴染オルフェで、クロの両親の横に座った。 大広間は、この6人だけになった。 しかし、それにしても……と…… 理久は、メンタルをやられたままで、クロを含めた回りに座る獣人達をチラチラと見た。 そして……(これが……これが……異世界の実力か……ヤバ!キラキラして眩し過ぎる!) 獣人達の美形割合いの高さに圧倒され、理久の緊張感はおのずと更に高まってしまう。 クロもかなりの美形だが…… 逞しく勇ましい感じのクロと違って、特にオルフェは、長い金髪も麗しい正に美しく上品なまるで絵に描いた様な正統派王子様だった。「すまない……理久殿、アレクサンドル。オルフェが、どうしても二人に会いたいと言ったもので連れて来た」 クロの父がそう申し訳無さそうに言うと…… オルフェは、クロに向かいニッコリして言った。「すまない、アレク……本来私は来るべき立場では無いし、おじ上、おば上にも断られたんだが……お前が愛してる人間がどんな人間か、どうしても見たくて……おじ上達に何度も頼み込んだんだ」(愛?!愛してるって!……) 理久は、自分の事を言われているのと、日本男子にとって直球過ぎるフレーズに顔を赤くし固まる。「お前は、俺……いや、私の兄弟も同然だ。よく来てくれた!新ためて紹介する。私が愛してる理久だ!」 クロの方はそう言い理久の肩を抱き、オルフェにニコリと微笑んだ。「はっ……初めまして…
last updateLast Updated : 2025-07-12
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一角獣と飛竜

 予定が狂い、朝食会は短時間で終わった。 それでもクロの両親は、理久と僅かだが和やかに会話出来て礼も言え満足気だった。 クロの父は、すでに国王を退位しているので、今はこの城とは別の城に住んでいる。 理久とクロも笑顔で、城の赤絨毯の敷かれた長い廊下で、両親の帰りを見送った。 クロは、この時も横にいる理久の右手を強く握り離さなかった。 クロは、最初はこの会食で理久と結婚する事を両親に告げるつもりだったのに、本当にクロは「結婚」のけの字も食事中には出さなかった。 しかし、結婚の話しが出なかった事で、理久は、クロがちゃんと理久の結婚は出来ないと言う気持ちに配慮してくれたんだと安堵した半面、何故が心がモヤモヤした。 酷くモヤモヤした。 この気持ちが、クロへの罪悪感なのかそれとも何なのか、理久は、両親の背中を見送りつつ思った。 そして、理久は、オルフェが気になって仕方なかった。 クロの両親を見送った後、オルフェも帰った。 オルフェも別れ際笑顔だったが、理久にだけはそれがどうしても造りモノに見えて仕方無かった。 そして何より…… オルフェの食事の仕方が流石上流階級の者らしくて、ただ紅茶を飲みサンドイッチを食べるだけでも美しく品格があった。 あの品格は、誰でもすぐに身に付くものでは無いと理久は思う。   理久は、ただの日本の一般高校生の自分と真の王子様との格の違いを見せつけられた。 そして…… クロのプロポーズを断ったのは、理久本人なのに…… 逞しく勇壮なクロと、美しく麗しいオルフェ…… 二人並べると、文句が付けようがない完璧な一対に見えた。 クロの横には、理久よりオルフェが似合う気がして理久は、さっきより更にどんどん自信を喪失していた。「さぁ!理久!これから一緒に町に遊びに行こう!でも、その前に、動物好きなお前に見せたいモノがある!」 そんな元気の無い理久の顔をずっと見ていたクロは、急にそんな事を言い出して、理久の右手を強く握ってきた。 クロはそのまま理久の手を引いて、城の裏手の、明るい日差しの降り注ぐ広大な草地に連れ出した。 そこは、時折駆け抜ける涼やかな風が爽やかな薫りを纏い煌めき、色鮮やかな花や短い緑草を揺らす。 従者レメロンや護衛の獣人騎士達は気を遣い、理久とクロからかなり離れた場所に待機していた。 理久は眼前、少し
last updateLast Updated : 2025-07-13
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ゴンドラ

 理久は、クロと同じくライトブラウンのマントを着て頭からそのフードを被った。 そして、町へ行くなら、てっきりドラゴンの背に跨り大空をひとっ飛びと…… 淡い期待をしていた。 だって、遠くの空には、人が乗っているだろうドラゴンがかなり飛んでいた。 しかし、現実はそんな簡単な事じゃないらしい。 クロは一匹のドラゴンに、理久を前にして二人で跨りはしたが…… 理久が不慣れで空から落ちたら大変だと、ドラゴンに地上を歩かせ城を出た。 ドラゴンは、鞍のお陰もあるが、歩く速度は速いが理久が想像したより遥かに乗り心地いい。 そして彼らは、水の中をも泳ぎ獣人や荷物を運ぶ。 正に、陸海空なんでもいけるオールマイティだった。 背後には、従者のレメロンもドラゴンに乗り後を付いて来る。 他の獣人騎士達は、私服に着替え、それぞれ町に秘密裏に潜伏し理久とクロを警護する。 クロは、獣人の余り通らない裏道を行く。 城は、小高い丘陵にあるから、町に下り着く前から遥か遠くに巨大な城壁が見えている。 そして、町がかなり規模が大きい様子も見える。 その中を水路が張り巡らされてる事、家が無尽蔵に立ち並ぶのが、竜の背の理久にも確認出来た。 だが理久は、落ちないようにと、クロが後ろから抱き締めてくるのに焦っていた。  強さもそうだが、密着度合いが半端なかった。 理久とクロのズボン越しの下半身が密着する。 特に、クロの股間が理久の下半身にグイグイグイグイ押し当てられる。 そして、竜の背の振動が、それに更に拍車をかけた。 理久の気のせいか?…… クロのアソコが固くなっている気がする。 しかも、クロのアソコは、やはり大きく感じる。 摩擦を生みながら擦れる部分が、燃えそうに熱い。 そして、だんだん理久自体のアソコもおかしくなりそうで……(これは、ただドラゴンに乗ってるだけだ……意識するのがおかしい。それにクロは……あの犬のクロで……俺とクロは男同士で……) 理久は、額に薄っすら汗をかき始めた。 そして、動揺をなんとかしようと心の中で何度も何度も呪文のようにそう呟くが、一行に収まる気配は無かった。 やがて、そうしている内に…… ただ回りを木々に覆われた、人のいない静かな石のブロックの水路の船着き場に来た。 そこには、すでに一艘の美しい赤いゴンドラがあって、ゴンド
last updateLast Updated : 2025-07-14
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ゴンドラ2

 本当にさっきまで、理久の乗るゴンドラが滑る水路の回りは静かで木々が生い茂っていただけだったのに…… 突然明るくなったかと思うと空間が一気に開け、前方には広い広い青空と……そこを飛ぶドラゴン達。 左右には、令和の日本とは全く風景の違う、本場中世西洋風の沢山の家や店。 正に理久が目を瞠る異世界が広がっていた。 そして、パンや肉を焼くいい香りを風が運んで来る。 しかし、理久はそれにも驚いたが、それ以上に感嘆したのは、そこを行く交う者達の姿だった。 人間の姿に頭に獣耳が付いた獣人の多さにも圧倒されるが…… 他にも、狐や熊、獣そのままの姿で服を着て二足歩行する者もいるし…… 妖精達も、蜂のように沢山気忙しく飛び回っている。 ここは、色々な見た目の者達の自由な世界。 生命力に溢れた沢山の声と活気が、理久にもビシビシ伝わってくる。「凄いよ!クロ!色々な種族の人がいるんだ!」 理久がそう言うと、隣りで理久に密着して座っていたクロが穏やかに微笑んだ。 しかも、いつの間にかクロは、ごく自然に理久の左手を握っていた。 周囲に気を取られていた理久は、ここにきてやっと気付き、思わず顔を赤らめた。 しかし、すぐに気付かなかった理由は、それだけではないかも知れないと理久は思う。 クロが今は犬でなく獣人であっても、理久にとってあまりにも自然にも感じるのだ。 クロが理久の隣りにいる事も…… クロが理久の手を握るのも…… クロの体温を理久が感じるのも…… 息をしてるように自然にも感じる。「そう、ここは大昔から、色々な見た目、色々な種族が共に暮らす自由な国なんだ。フードを被っていたら分かり辛いが、たまに人間もいるぞ」「え?人間?」 自分以外にもこの世界に人間がいる事に、理久はキョトンとして小首を傾げた。「ああ。たまに。ごく、たまにだが」「ええ!そうなんだ。これから俺はこの国に何度も来るから、俺がこの世界に何度も通ってる内に、この世界で暮らす人間にも会えるかも知れないな」 理久は、屈託無くそう言ったのだか、クロが一瞬、表情が曇った気がした。「クロ?……」 理久が心配そうになると、クロはすぐに笑顔になり、前方の右側を指さした。「理久!あそこ見てみろ!」 理久がそこを見ると、一面に出店や屋台が出ていて、巨大露地マーケットになっていた。「後で
last updateLast Updated : 2025-07-15
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ゴンドラ3

「宝石店?」 理久は、戸惑う。「ああ…そこで真紅のエーヴィゲ、リーベと言う宝石を買って、指輪はまだ受け取ってもらえないだろうからネックレスにして貰う。理久……それを受け取ってくれないか?」 そう言うクロの真剣な顔も近くて、理久は焦る。「ほっ……宝石って……まさか高いんじゃ……そっ、そんなのいいよ……俺、高校生だし……」「理久……頼む……受け取ってくれ……お願いだ……エーヴィゲ、リーベを贈られた者は、贈った者を終生、死ぬまで忘れず思い出すと言う言い伝えがある……だから……だから……受け取ってくれ……」 クロは、今度は理久の両手を握って懇願した。 その必死さに、理久は少し体を斜め後ろに引いて苦笑いした。「ハハっ……クロ……やだな……そんな物無くても、俺がクロの事忘れる訳ないじゃん。それに……それになんだか……もう二度と会えないようなその言い方が、何かイヤだ……絶対にイヤだ!」「イヤか?……俺に、会えなくなるのは?……」 クロが、更に真剣な顔を向けて理久を見詰め尋ねる。 ただでさえイケメンだが顔を引き締めると、更にその度合いが上がる。 一瞬、変な間が空いた。「あっ!当たり前だろ!イヤに決まってる!」 そう理久が叫ぶと、サッとクロが動いた。「理久!理久!理久!」「クッ……クロ!」 理久は、横からクロの逞しい体に強く抱き締められ、体を動かせ驚く。 その理久の動きで、ゴンドラが左右に揺れる。「あっ!危のうございます!」ゴンドリエーリが焦り、大声をうわずらすた。「すまん!ついうれしくて……」 クロが、理久をまだ抱き締めながら振り返り、背後のゴンドリエーリに向かい苦笑いした。「すいません!」 理久もクロの腕の中から、ゴンドリエーリを見て赤面しながら謝った。 だが、そこに…… 水路を吹くさやかな風に混じるように、誰かは知らない男の声が理久の耳に入った。「異世界の人間よ……良いのか?王にあんな事を言っても?」「え?」 理久は、ハッとした。「クロ……たった今、俺に何か言った?」 クロは、キョトンとした。「いや……何も言ってないぞ」 やはり、それはそうだろう…… 明らかにクロと声が違うし、ゴンドリエーリも言った様子が無い。 だが理久は、ハッキリ聞こえたその声に、嫌な胸騒ぎがした。
last updateLast Updated : 2025-07-16
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マガト

 理久は、クロと手を恋人繋ぎしながら…… 頭にフードは被ったままだったが、体全体に水路の優しい風を感じながら…… ゴンドラから眺める、異世界の美しい西洋風の町並を長い時間堪能する。 理久に体を密着させ横に座るクロの、尻尾が機嫌良さそうにフリフリされる。 背が高く筋肉もありガッチリした体格で、正に獣のような獣人王クロ。 でも理久は、それを見ているとなんだか、クロがめちゃくちゃかわいく見える。 町の至る所に走る水路には、いくつもの美しい眼鏡橋が掛かる。 そこから、色々な見た目の獣人達が、たまにこちらに手を振ってくれ…… 下を通り抜ける理久とクロは、それに応え振り返す。 町のどこも見ても穏やかな空気を感じる。 遠くには、巨大な大聖堂や大きな離宮も見える。 このまま、クロと一緒にどこまでも、どこまでもこの世界を旅したい気持ちだった。 しかし、やがてゴンドラは、沢山の獣人が行き交う巨大露天マーケット近くの船着き場に着く。 クロは、理久の手を握ったままゴンドラを降りた。 クロは、理久の手を離さない。 男同士だし……と、理久は回りを気にしたが、獣人達は、誰もそんな事を誰も気にもしてない。 すると、遠くからいい香りがした。 さっき理久が食べそこねたこの世界しか無い、プリンスメロン程の大きさのマガトの実だ。  マガトは、露天の台で、沢山の他の珍しいフルーツと共に4分の1にカットされた物や丸々一個が並べられ売られている。 相変わらず皮も身も、紫の宝石のように輝いている。「理久……」 その前で立ち止まった理久に、クロが心配そうに声を掛けた。 きっと、さっきの理久の失敗を思い出したんだろうと、クロが心配してると感じた理久。 だから、クロのお陰でもう大丈夫と言う思いを込めて微笑んで言った。「美味そう!」 クロもニッコリして、すぐにカットした物を一つ買ってくれた。 そしてそのまま、クロ自身の手で理久の口元に持ってきてくれた。「あっ……えっと……」 一瞬理久は戸惑ったが、嬉しそうにニッコリしながら尻尾が揺れるクロを見て、カプっと控え目にマガトの果肉にかぶりつく。 そして、驚愕した。「うっ、うまい!」 なんだろう……日本では食べた事ない味。 そして、凄くとろけるように甘いのだが、どこかサッパリもしてる。「じゃぁ……次、クロの番!
last updateLast Updated : 2025-07-17
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露店マーケット

 巨大露店マーケットのほんの一画。 理久とクロは、手を繋いだままそこの騒ぎの方へ行く。「何かありましたか?」 理久が、同じように集まってきていた中の一人の猫獣人のお爺さんに尋ねた。「どうも、肩が当たったとか当たらなかったとかで、可哀想に、1人を5人で取り囲んで、土下座しろだの金を出せだの言っとる…助けようとした通りがかりの別の男もいたがあいつらにかなわなくて逃げてしもうた」 理久が、そう言った老人の視線の先を見ると…… 確かに、露店と露店の間の広い通路に1人のウサギ獣人青年がヘタリ込みながら、地面で手探りで何かを探していた。 そしてその周りを、5人のガラの悪い男の犬獣人達が取り囲み、罵声を浴びせたりゲラゲラ笑い声を上げて見ている。 よく見るとヘタリこんだ青年は、どうもぶつかって飛んだメガネを探しているらしく…… それを、ガラの悪い獣人の1人が右足のかかとだけ地面に着け、今にも踏み割ろうとしていた。 理久は我慢出来なくなり、そのメガネから先に奪い返えそうとクロの手を離し動こうとした。 だが……「理久……」 クロがその理久の腕を持ち止めると…… 近くに来ていた私服の沢山の護衛兵にも待ての合図を送り、サッと、大きな体なのに疾風のように横から消え…… 次の瞬間、クロは、メガネを踏み割ろうとしていた男を殴り飛ばして、メガネをその手にして奪い返していた。「クロ…」 余りの早業に一瞬呆然としたが理久はすぐ、青年の元に駆け寄り声を掛けた。「大丈夫ですか?」 すると青年はハッとして、すぐおっとり言った。「えっ、ええ、大丈夫だと思います…」 クロは、メガネを青年に渡す。 理久が手を貸し、メガネを掛けた青年はゆっくり立ち上がる。「おっ、なんだぁ~?テメぇらぁ!」 残りの4人の内のリーダーが凄んだが…… クロは、理久と青年を背中に庇うと、手を組み合わせ指をポキポキ鳴らした。 4人の男達は、クロの圧倒的な強い野獣のようなオーラに一度は後ろに下がる。 しかし……「やっちまえ!」 リーダーの一言で、4人が同時にクロに襲い掛かった。 しかし、クロは、驚くべき速さと強さで、周りの露店に被害も出さずあっと言う間に他の4人も殴り飛ばした。「ちっきしょー!」 4人はもう立ち上がれ無かったがが、リーダーがまだクロに抵抗しようとする。 しかし
last updateLast Updated : 2025-07-19
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アビ

 助けたウサギ獣人は、アビと言った。 アビはやはり、捻挫し歩き辛い状態だった。 クロは、アビをおぶって、理久と2人でアビの家まで送り届ける事になった。 理久は、アビの手提げ袋を持つ。 そんな中、理久はふと、アビを背に歩くクロの横顔を見て思った。(ただの一般獣人をおぶって歩く王様など、クロの他にいるだろうか?) あの理久の世界にいた犬のクロそのまま…… やはり人型のクロも、本当に優しくて実直で逞しい。 なのに…… そんな獣人のクロのプロポーズを断り、自分はあと数時間で自分の世界に帰ってしまう。 帰れば、理久は高校や塾に日々追われ、なかなかクロには会えなくなる。 クロも、暫く忙しくて会えないかも知れないと言っていた。(本当に、俺はもうすぐ……一人で……東京に帰るのか?) 理久にふっと疑問が浮かんだ。 そして、理久の胸に激しくズキッと痛みが走った。 クロの城の回りに広がる巨大な町の庶民の家は、殆どが素朴なヨーロッパ風の石造りだ。 大きければ、5階建ての集合住宅もある。 けれどそれらが、美しい水路の間とモザイクのような石畳みの小路が迷路のように走る中にひしめく様。 それは正に、理久に異世界にいる事を体感させた。 それ程は歩かなかった。 やがて、一軒の小じんまりした珍しく木造の平屋に着き、そこがアビの家だった。 中に入ると、ウサギ獣人青年と産まれたばかりのウサギ獣人の赤ちゃんがいた。 赤ちゃんは人間と成長は同じで、産まれて4ヶ月だそうだ。 理久は、まさか……これが男性同士の夫婦で子供が産まれると言う事かと思ったが…… 実はお兄さんで、赤ちゃんはお兄さんの息子ジュリらしい。 アビの足に、薬草の湿布をし包帯を巻き治療を終えると、アビが助けてもらったお礼に昼食をご馳走したいと言ってきた。 理久とクロは遠慮したが、アビの押しにお言葉に甘える事にし、その後宝石店へ行く事にした。 アビの家は、庭に沢山の、理久には珍しい薬草や花が咲いていた。 それらが、家の中から窓を通して絵画のように見える。 そして、よく外の日差しが入る明るい、整頓された部屋。 鼻をくすぐる、何か美味しそうな料理の香り。 なにもかもが穏やかでのんびりしていた。 だから…… 理久もすっかり、アビに対する警戒心と言う物を失くしてしまった。「クロ!見て!ジュ
last updateLast Updated : 2025-07-20
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暗黒の世界

 理久に笑みが浮かび、思わず犬のクロに言うように口走ってしまった。「クロが1番かわいいよ。それに、クロが1番毛がキレイだよ」「理久……」(しまった!つい……) 理久は慌てたが、後の祭り。 理久は赤ちゃんを抱いたまま、うれしそうなクロに背後から抱き締められた。「クッ……クロ……」 理久は、顔を高潮させ焦るが、クロは気にしない。 そしてクロは、更にご満悦になり、耳がピンとして尻尾をブンブンして言った。「理久……こうしてると、まるで俺達に子供が産まれたみたいだな……俺は……理久そっくりのかわいい子供がいい……」 背の高いクロが腰を屈め、背後から理久の耳元に低い甘い声で呟いた。「おっ!……俺そっくりの……子供?」 理久の声が裏返る。「ああ……きっと、理久そっくりで、でも、頭に俺そっくりの黒い毛の犬耳があって……小さくてかわいいだろうな……」 クロが息混じりに、又理久の耳元で囁く。 理久は思わず、自分そっくりのバブバブの黒犬耳の赤ちゃんを想像してしまう。「理久……」 クロは、理久の耳元に柔らかくキスして、更に理久の髪に優しいキスを落とした。 そして…… 腰を伸ばし、あらためて理久を後ろから抱き締めた。 グイグイと、クロの股間が又理久の背中に当たる。 クロのそこが少し大きく固くなっているので、理久は増々赤くなり慌てて諭した。「クっ……クロ……ここ……人様のお宅です!」 すると近くで、突然声がした。「いやー。理久さんとクロさん、仲がいいですね。こうしてると本当に親子3人に見えますよ」 アビがニコニコしながら、不思議な位足音も気配も気取られずいつの間にか理久達の眼前いた。「あっ……いや……そのすいません……」 理久がドギマギすると、アビはクスっと笑い言った。「いやいいんですよ。やはり犬系の獣人は、愛情表現がとても大きくて深くて好きな者には忠実なんだとあらためて感じました。私には親しい犬系の獣人がいないので……」「えっ?!獣人って、やっぱり種類によって、性格が違うんですか?」 その言葉に、理久は今更ながら驚く。「そうですよ。猫系獣人は、例え恋をしても気分屋が多くて束縛を嫌いますから、余り恋愛や結婚には向いてないし、我等ウサギ系は余り争いを好まずのんびりした者が多いです」 そう言うアビは見た感じ、正にそのウサギ系そのもの
last updateLast Updated : 2025-07-21
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暗黒の世界2

理久が四方の暗闇に固まっていると…… 急に前方一部だけ、スポットライトのようにそれ程明るくない光がついた。 そしてそこに黒いフード付きのマントを頭から被った何者かが立っていた。 だが、理久には、顔は分からない。 どこからか生温かい風が何度か吹き、そのマントが揺れる。「ハハハ!どうだ……恐ろしいか?!」 突然、野太く低い声が辺りに響く。 やはり、あのゴンドラで聞いた声に間違いないと、理久は思う。 だが……「アビさん……これはどう言う事ですか?!」理久は、声は違えど目の前の人物を確信して叫んだ。 深い沈黙の時間が、一瞬訪れた。 しかし……「えっ?えっ?理久さん……声を変えたのに何故僕だとわかりました?」 アビは、すぐに間の抜けた自声を出し、頭のフードをサッと取り、整った顔に眼鏡を掛けた。 理久は、アビの足元を指さした。「さっきの風で、湿布を固定してる足元の包帯が見えてました……」 アビは、一瞬固まったが…… すぐに呑気そうに苦笑いした。「あー……これだから、僕はやっぱダメなんだなぁ……」「ちゃんと答えて下さい……これは何んの真似ですか?!クロにも何かしてるんじゃ?!」 普段穏やかな理久の顔に怒りが浮かぶ。 だが……「理久さん……クロさん……いえ……獣人のアレクサンドル陛下を愛しておられますか?」 アビのその質問に、理久は又固まる。 獣人のクロを愛しているかどうか?(愛って……なんだ?何がどうだったら愛してる事になるんだ?) 愛…… それは、理久が今まで意識して考えた事の無い言葉だった。 そして、理久にとって、簡単に答えを出せる、言える軽いモノでなかった。 相手がクロだからこそ、尚の事だった。 それに、アビの言い方から疑念が湧く……「アビさん……最初から、クロが国王だと分かっていて……罠に嵌めたのか?」 アビは、まっすぐ理久を見た。「それは、半分正解で、半分は違います。僕は、本当に男達に暴力を振るわれていて、そこを理久さんとアレクサンドル陛下にたまたま助けてもらいました」「じゃあ!これはどう言う事なんだ?!」 理久は、アビの元に走りアビの胸元を掴んだ。 アビは、呑気な雰囲気を出しながら、時折目付きと声が鋭くなる。 そして、訳の分からない力を使う危険な雰囲気も漂わせている。 しかし、理久
last updateLast Updated : 2025-07-22
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