月子は物覚えが良く、絵を描くことも例外ではない。空間認識能力が高いため、彼女は奥行きや対称性のある水墨画が好きで、それが数学の公式を連想させるらしい。数ある被写体の中でも、彼女は特に竹を描くのが好きだった。子供の頃、月子はいたずら好きで、よく優光の描いた絵を勝手に持ち出していた。そして今でも、アトリエには彼の絵が何枚か飾ってある。当時の月子は興味のあることが多すぎて、絵に集中できなくて、習っても三日坊主で、しかもよく悪戯していた。そこで優光は、彼女が落ち着きがなく、大成しないと判断し、教えるのをやめたのだ。洵は笑いをこらえきれず言った。「彼の絵を盗んで、こんなにも長い間隠していたのか?見つかって怒られるのが怖くないのか?」しかもその数はかなり多く、オークションに出せば、彼女の小型スーパーコンピューターが買えるほどのお金になるかもしれない。月子は言った。「清水先生は見て見ぬふりをして、私に譲ってくれたのよ」洵は言った。「都合のいい解釈だな。お前のことなんて、多分とっくに忘れてるんじゃないのか」この共通の幼少期の思い出が、洵と月子の距離を縮めたようだ。月子の悪戯を思い出し、洵も笑えて来た。そして、仕方なく褒めた。「今の絵はなかなかいいじゃないか」褒められて、月子の機嫌は良くなった。「ありがとう」すると、洵は尋ねた。「いつからまた描き始めたんだ?」月子は答えた。「ここ数年ね。絵を描いていると心が落ち着くの」洵の瞳が曇った。ここ数年、心が落ち着かないのは、間違いなく静真のせいだ。しかし、月子が過去のことを口にするたびに、彼が露骨に嫌な顔をするのは良くない。まるで静真がまだ重要な存在であるかのように思われてしまう。あの馬鹿には、もう自分の感情を揺さぶる資格などないはずだ。「それは良かった。何年も練習した成果を見せつけて、彼を見返してやればいい」月子は複雑な気持ちで言った。「過去のことを今更持ち出してどうする?それに、私が真面目にやらなかったせいで、彼がよく怒って去って行ったのも事実よ。しかも、清水先生はこれでも国宝級の芸術家なんだから突っかからないほうがいいわよ」しかし、洵はあっけらかんとした態度だった。「俺は根に持つタイプだからな。相手が誰であろうと関係ない」そう言われると、月子は何も言えなかった。
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