司会の人が壇上で誓いの言葉を朗読し終えたが、新郎がなかなか壇上に上がってこないのだ。すると来賓席では招待客たちがひそひそと囁き合い始めた。私はすぐに、これはまた私を辱めようとしているんだ、と悟った。案の定、来賓席にいる田中慎也(たなか しんや)は、指輪を弄びながら、私の義理の妹である神崎清子(かんざき きよこ)の方を向いて笑いかけた。「清子、結婚式って面倒くさいし、つまんないって言ってただろ?誓いの言葉を述べて指輪を交換するだけだって。今日は一人だけの結婚式を見せてやるよ。どうだ、面白いだろ?」兄の神崎優(かんざき ゆう)はすぐに慎也の意図を察し、マイクを握って大声で宣言した。「結婚式、中断します!」幼馴染の鈴木翔(すずき しょう)もつかさず大声で叫んだ。「清子!こっちを見ろ!」その瞬間、頭上から水風船が落ちてきた。とっさに私は避けたが、それでも不意を突かれ、思いきり頭から水を被ってしまった。髪はびしょ濡れになって顔にくっ付き、ドレスもビショビショになって水が滴り落ちていた。私はドレスの裾をぎゅっと掴んだ。清子は、ようやくくすくすと笑い出した。慎也はゆっくりと近づいてきて、私の心配をするような素振りを見せたが、口調は軽薄だった。「どうしたんだ、美咲。機嫌が悪くなったのか?」彼は翔の方を振り向き、冗談めかして軽く殴った。「やりすぎだろ。美咲は今日、花嫁なんだぞ!」もしかして彼は本当にやりすぎたと思っているのかもしれないと私がそう思い始めたその時、彼は、本来なら私の左手の薬指にはめられるはずの指輪を、箱ごと私に差し出した。「結婚したくて、花嫁になりたかったんだろ?叶えてやったぞ。司会者も、付き添いも、招待客も呼んでやったんだ」私の冷たい視線に気づくと、彼は鼻で笑った。「そんな目で見るなよ、俺が本当にお前と結婚するつもりだと思ってるのか?願いを叶えてやっただけで、本当に結婚するとは言ってないぞ」最後に、彼は親切にも付け加えるかのように言った。「結婚指輪、なくすなよ。新郎がいなきゃ、指輪をはめてもらえないからな。ああ、忘れてた。この結婚式には新郎がいないんだったな」「まさか、新郎もいない結婚式だったとは!」翔は、嘲笑を隠そうともしなかった。「でも、美咲は慎也と結婚する気満々だった
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