「結姉……好きだよ」颯君は私をぎゅっと抱きしめた。とろけそうになるそのセリフが、何度も頭の中を駆け巡る。それ以上何かするわけでもなく、ただずっとお互いの温度を感じている時間。ただ、時計の秒針が動く音と、2人の吐く息の音だけがかすかに響いていた。私は思った。今の私にとって、颯君のこのピュアで真っ直ぐな気持ちはすごく新鮮で、大人のドロドロした醜くて汚い部分を綺麗に洗い流してくれる。このまま、ずっとこうしていたい。颯君の腕に包まれていたい――と。だけれど……そんなことが許されるわけもなく……「あっ、ご、ごめんね、颯君。あの、うん。私は……これでも一応、人妻なの。いろいろなことがあって、まだ頭の中が整理できないの。今日のことは……少し考えさせて」上手く言えない、だけれど、今の私にはそれしか言えなかった。颯君は、下を向いたままうなづいた。「結姉、困らせてごめん。でも、結姉を苦しめたくて言ってるんじゃないんだ」「もちろん、わかってるよ。ありがとう。じゃ、じゃあ、降りるね。完成させてもらえたら嬉しいし、また絵の続き描いてね」「……うん。絵は……必ず完成させる」***私の絵が完成したのは、それから数日後のことだった。「ありがとう、結姉。最後まで付き合ってくれて本当に……ありがとう。おかげで良い絵が描けた」颯君が見せてくれた「私の絵」。あまりにも素敵で体が震える。「……素敵……」完成前から最終工程は見ないようにしていた。私の心が感動に包まれた瞬間だった。「これが私?信じられない……」「綺麗でしょ?」「……私じゃないみたい」「結姉だよ、そっくり」「……だけど、こんなに綺麗で透明感があって……やっぱり私とは違うような……」「結姉を見たまま描いた。何も違わない。あなたはこういう風に見られてる。とっても綺麗で、素敵な女性。もちろん、気持ちも込めた。結姉のみんなを包む優しさ、みんなを元気づけようとする明るさ、そして……時々見せる寂しさも。全部、ここに込めたから」「颯君……」あまりにも優しいセリフに涙が頬をつたった。「結姉を描くことができて、本当に幸せだった。ありがとう」そう言って、颯君は私の涙を指で拭った。「こんなに素敵に描いてもらえるなんて、私こそ幸せだよ。でも、この絵はどうするの?」「この部屋に飾っておく。イーゼルに
Last Updated : 2025-07-20 Read more