五年の結婚生活が、一瞬にして馬鹿らしいものに思えた。「明日の月次報告会で、雨音に君の企画案を発表させる」夫の若林慎一(わかばやし しんいち)は顔を上げることなく告げた。私は整理していた資料を置き、聞き間違いだと思った。「え?」「雨音は入社したばかりで、力を見せる機会が必要だからな。君の企画案を使う」彼はようやく顔を上げたが、その目には議論の余地など欠片もなかった。「あれは私がコンテスト用に準備した作品よ」「どうせ君は毎年賞を取ってるんだから、今回ぐらい譲ってやれよ」彼の口調はあまりにも軽く、当たり前のことを言うかのようだった。「それに、会社は新人を育てる必要がある」私は目の前にいる五年間ベッドを共にしてきた男を見つめていると、急に彼の顔がぼんやりとして見えた。「この企画のために私がどれだけ徹夜したか分かってる?それを入社したばかりの新人に渡すって言うの?」「雪乃、そんなにケチケチするなよ。企画案の一つぐらいで」彼は表情を冷ややかにした。「もう決めたことだ」私は両手をぎゅっと握りしめ、怒りで身体が熱くなるのを感じた。結婚五年の夫が、私が何日も徹夜して作り上げた企画を、入社してたった半月の新人に丸ごと渡してしまうなんて、想像もしていなかった。月次報告会で桜庭雨音(さくらば あまね)が、私が三日三晩かけて練り上げた企画案を手に堂々と発表しているのを見た時、胸の奥がざわついた。会議室の同僚たちは雨音に感心したように見つめ、部門長も満足そうに何度も頷いている。中には、この新人のアイデアがどれほど素晴らしいかをひそひそと話し合っている者までいた。私は会議室の最後列に座り、私より七つも年下のあの子が洗練されたスーツを着こなし、上品な手つきでスクリーンに映し出された私の必死に作った企画を指さしながら、居並ぶ全員に「自分の」アイデアを説明している光景を見つめていた。慎一は議長席に座り、目には満足と誇らしさが浮かんでいる。まるで掘り出し物の人材を見つけたとでもいうように。彼は雨音を公然と称賛し、彼女は会社でここ数年めったに見ない創造性豊かな新星で、皆が見習うべき人材だと言った。気づけば、拳を机の下で固く握りしめていた、爪が掌に食い込むほどだった。会議終了後、私は慎一のオフィスの前で待ち構えた。彼
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