「え?!」珠緒の顔色が一瞬で変わり、真っ先に声を上げた。「竹内さん、最初に約束した内容と違うじゃないですか......!」本来の約束では、彼女たちのスタジオが展示会場の花の装飾を担当し、その代わりに彩側が花芸作品のブースを一つ用意する──双方にとってウィンウィンの協力関係のはずだった。なのに彩は、紗夜の作品で注目を集め終わった途端、彼女たちを切り捨てたのだ。「夏見社長、落ち着いてください」彩は穏やかな声で、怒りに震える珠緒と対照的に落ち着いていた。「私たちも次の展示のために総合的な判断をしただけです。信じられないなら、長沢社長に聞いてみてください」その言葉に、珠緒の燃え上がった怒りは無理やり飲み込まれた。文翔を敵に回せるほどの力なんて、彼女にあるわけがない。けれど、文翔は紗夜の夫じゃないの?そこまで冷たいなんて......珠緒はそっと紗夜のドレスの裾を引き、彼女に動いて欲しいと示した。だって撤下されたのは、紗夜が何日も徹夜して仕上げた作品だ。文翔が本当に彼女に対してそこまで冷酷だというのか?紗夜はその意図を理解し、静かに息を吸うと文翔を見上げた。「長沢社長、撤去しなければならない理由を教えていただけますか?」「作品自体に問題はない」文翔は彼女を見つめ、薄く唇を動かした。「相応しくないだけだ」抑揚のない声。感情など一欠片もない。紗夜は指先でドレスを強く握った。──相応しくない。その短い言葉が、彼女の努力全てを否定した。いや、それだけじゃない。文翔が「相応しくない」と言ったのは、作品だけじゃなく──彼女自身だ。彼にとって紗夜という存在そのものが「合わない」のだ、と。その場の人間たちは皆、同情の色を浮かべた。だが同情だけだ。文翔を怒らせるリスクを負って、彼女の味方をする者などいない。この個室で絶対的な権力を握るのは文翔だ。おまけに皆の頭の中にはこういう推測もよぎる──「さっき小林先生が竹内さんの申し出を断って、逆に深水さんの作品を褒めてたよな?あれ、竹内さんに恥かかせたってことじゃ」「だよね、それで長沢社長が撤去を決めたんだ」「まあ、自業自得?竹内さんの顔踏んだらそりゃ......長沢社長だって黙ってないってことでしょ」珠緒は聞こえて
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