「奥様?」出雲は彼女の前で立ち止まり、にこっと笑った。「本当に奥様ですね。見間違えたかと思いました」「出雲......」紗夜はようやく安堵の息をつき、問いかけた。「どうしてここに?」「えっと、母さんのために薬を取りに来たんです」出雲は袋の薬を持ち上げて見せる。「奥様はお帰りになるところですか?」紗夜は頷き、自分の車を見やって少し気まずそうに言った。「まさか急に壊れるなんて思わなくて......動かなくなっちゃったの」それを聞いて、出雲は自ら車を確認した。「エンジンの問題っぽいですね。修理に出さないと。ちょうど、車の工場やってる友達がいるんで、電話したらすぐここまで来てくれて、車ごと持っていけますよ」言うが早いか、すぐに電話をかけ、場所などを伝え終える。「奥様の連絡先いただけます?修理できたら、友達から直接連絡が行きます」紗夜は自分の番号を伝えた。「そういうことで。頼んだよ」電話を切った出雲は、OKサインを作って見せた。「全部手配しました」あまりの手際の良さに、紗夜は少し驚き、そして感謝した。「ありがとう、助かった」もし彼がいなければ、いつ解決したかわからなかった。「いえいえ」出雲は朴訥とした笑みを浮かべ、自分の連絡先も渡す。「また何かあったら、遠慮なく言ってください」紗夜は礼儀正しく頷いた。実際のところ、人に頼るのはあまり好きじゃない。車が引き取られた後、タクシーで帰ろうとアプリを開くが、ちょうど退勤ラッシュで、二分経っても応答がない。紗夜は眉を寄せた。それを見て、出雲が口を開く。「よかったら、送りましょうか?」紗夜は少し迷った。本当に、人を煩わせるのは苦手だ。断ろうとした瞬間――「大丈夫です。僕の家、奥様のとこに行く方向と同じなので、ほぼ通り道です」出雲が先に気遣うように言った。「それなら......お願いしようかな」紗夜は頷き、バッグを取って彼についていく。停まっていたのは黒いカイエン。紗夜の目にわずかな驚きが宿る。――料理人ってそんなに稼げるの?その視線に気づき、出雲は照れたように笑う。「これ、友達の車なんです。ちょっと借りてるだけ」なるほど。「どうぞ、奥様」彼は助手席のドアを開けた
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