彼の、美しい金色の瞳を見たときに体中に衝撃が走った。 別にあちらは睨んでいたとか警戒心たっぷりの鋭い瞳だったとか、そういうことではない。ただ、全てを見透かされているような、過去のことも未来のことも全てを知られているような『恐怖』にも似た感情を抱いた。 一度目が合っただけでそんなことを思うくらい彼の瞳は美しく、それと同時に嫌悪した。「――セナ・フェルローネです、よろしくお願いします」 セナ・フェルローネ。 耳馴染みがいいアルトボイスが丁寧な自己紹介をしてくれたのだが、ベルティア・レイクは目の前の出来事になぜか混乱して、何も反応できずにただただ息を飲み込む。 そっと差し出された手が幾重にも重なって見えるのはきっと幻覚で、あまりの衝撃にベルティアの目が現実を拒否しているためだ。思考や本能が彼を拒否しているような感覚があって、セナの手を握り返せない。 周りにいる生徒たちがザワザワと騒ぎ出し、いつものように「男爵家のくせに、差し出された手を拒否されてるわよ」「まぁ。王太子殿下の"お気に入り"はやはり格が違いますわね」といった陰口が聞こえてきて耳を塞ぎたくなった。「………すみません、失礼します」「あ、ちょっと!」 セナの手だけではなく人や物、建物までもが重なって見える。ずきんずきんと痛む頭を押さえながら、ふらつく足取りで建物の影に隠れるとベルティアは膝から崩れ落ちた。「は、はぁ……ッ」 割れそうなほど痛む頭を両手で抱えながらその場にうずくまると、頭の中には走馬灯のように映像が流れ込んでくる。ただ、その走馬灯の内容は自分が知らないものばかりで、他人の記憶を覗き込んでいるようだった。「何なんだ……っ!」 見知らぬ『誰か』の記憶。 大量の記憶が入り込んできて、容量を超えた頭の中はパニック状態。ぷつんっと何かが切れてベルティアの頭の中は真っ白になり、地面に倒れ込んだ。『心の準備ができたらSTARTを押してね!』「すたー…と……?」 意識が途切れる間際に聞こえた女性の声に導かれるように、冷たい地面の上でぴくりと指が動いた。
Terakhir Diperbarui : 2025-06-23 Baca selengkapnya