All Chapters of ベルティア・レイクはバッドエンドを所望する: Chapter 31 - Chapter 40

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第5章:すべてが終わる日 4

  とうとう卒業まであと二日となり、学園内はムーン・ナイトの時と同じように慌ただしく、全生徒がそわそわしている。そんな中、ノアとベルティアは学園を休み、半日かけてベルティアの実家へと足を運んでいた。「お、王太子殿下……!?」「どどどうして王太子殿下が!?」「ベルティア、どういうことなの!」 帰省するという手紙を送る暇もなく急いで移動してきたものだから、ベルティアの両親や祖母はノアの突然の訪問に卒倒寸前だった。王宮の馬車だとは分からないもので、従者もレオナルドと他数名しか連れてきていないけれど、小さい村なのですぐに噂は広まるだろう。「レイク家の“呪い”について、殿下と一緒に終わらせに来ました」「え……?」「ベルティアを思い悩ませる前に、話し合うべきだったと反省しています。実は、俺の手元にはルーファス王子の日記があり……オメガの魔女の存在を知っていました」「な、なんてこと……!」 ノアが懐から古びた日記帳を取り出すと、レイク家の屋敷の中に『第三者』の重い空気が流れた気がした。ノアのアルファとしての威圧感とは全く違う、上から圧し潰されそうな圧迫感に呼吸が苦しくなる。それはベルティアだけではなく、この場にいる全員がそれを感じているようだった。「ルーファス王子の日記には、アウラへの謝罪や後悔、そして愛が綴られています。どうやら彼は生涯、アウラだけを愛して永遠の眠りについたようです」「アウラから妊娠を告げられたあと、本当はローズウッド公爵令嬢とは婚約を破棄しようとしていたらしいんです」「ただ、ローズウッド公爵令嬢が聖なる瞳の力を開花させ、その頃の王家は保守派だったこともありアウラとの未来は断念したと」「……今でもそうだけれど、片方の話だけを聞いたらいけませんね」「人は口があるのだから、きちんと話し合うべきだと思いました。……俺が言えることでもありませんが」 
last updateLast Updated : 2025-07-16
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第5章:すべてが終わる日 5

  ベルティアとノアはレイク家で夕食を共にし、日が暮れて夜の帳が降りた頃に森の中へと足を進めた。「ベル、手を」「そんな、大丈夫ですよ?」「お前の手に触れる口実だ。言わせないでくれ」「……それは失礼しました」 恥ずかしそうに笑うノアの手を取り、ゆったりとした足取りで歩き出す。ただ、あまりにも辺りが暗いのでベルティアが人差し指でスッと宙を切ると、二人の周りだけがほわっと淡く輝いた。「驚いた。もう魔法を習得したのか?」「習得というか……体が“思い出した”みたいです」「そうか、元々魔力がすごかったと言っていたものな」「まだそういう感覚には慣れませんが、魔力が暴走する恐れはなさそうです」「ベルや家族が望めば、レイク家はベドガー家のように伯爵位を与えられるだろうな。ただそうなると、グラネージュでは衰退しつつある魔力回復事業をベドガー家と同じように担う必要があるが……」「国のために必要なことであればもちろん協力しますよ」「……伯爵位を授かれば、俺とベルが結婚することに反対する人は出てこないだろう」 ノアの言葉にベルティアはハッとした。グラネージュでは王族と結婚できる身分は伯爵位以上と決まっているので、ノアはひどく嬉しそうに笑っている。彼がそう言っても爵位を授けるのを決めるのは国王陛下なのだが、男爵令息に正式な婚約の申し込みをするため陛下を説得した王子なので、レイク家がもう一つの魔術師家系だからと説得したら本当に爵位も授与されるかもしれない。 ベルティアは呪いのことを知るより前(正確には、前世のことを思い出す前)は身分とバース性の違いでノアのことを拒否していたけれど、今となってはそのどちらも理由にできなくなった。呪いに関しても今から解きに行くので、本当にもう逃げ場はない。 《ノア・ムーングレイ 好感度:99%》 彼の頭上に表示されている数値を見て、今は不思議と幸福感でベルティアの小さな胸は満たされてい
last updateLast Updated : 2025-07-17
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第6章:幸福の果て 1

  運命の卒業パーティー当日。 ベルティアは明日の午後には発つ予定である寮の部屋で、パーティー用の二着の服を壁にかけて難しい顔をしていた。「これは、どうしたら……」 重すぎるため息を吐き、額に手を添えて文字通り頭を抱える。どちらの衣装を着て会場へ向かえばいいのか分からないのと、この服を贈ってくれた相手のどちらを尊重するべきか悩んでいた。「ベルティア、準備にはまだ時間がかかるか?」「わ、わーっ! 待ってください、入らないで!」「何を慌てて……まだ着替えていなかったんだな」 一度は拒否したのだが、ノアがどうしてもと言うので卒業パーティーはベルティアがパートナーになることになった。約束していた時間になってもベルティアが来ないので心配してくれたのだろう。ノアが寮の部屋に迎えに来たのだが、まだ着替えていないベルティアを見て目を丸くしていた。「すみません、その……」「……なぜ二着も衣装が?」「え、ええっと……」「俺が贈ったのは一着だったはずだが、こちらは誰から?」 壁に掛かっている衣装はノアから贈られた白い衣装と、パーシヴァルから贈られた深い青色の衣装だ。ノアはベルティアとお揃いにしたのか普段はあまり着用しない白い衣装を纏っていて、いつもより一層眩しく見える。 ノアはムスッととした顔で青い衣装を指差し、ベルティアは罰が悪そうに「パーシヴァル殿下からです……」と呟けばチッと舌打ちが聞こえた。「それで、なぜ二着とも壁に掛かったままなんだ? もしかして、どちらを着るか迷っているわけじゃないよな?」「うっ」「……ベルティア」「だ、だって……隣国の王太子からの贈り物を無下にはできません……」「はぁ……考えてみなさい、ベル。俺のエスコー
last updateLast Updated : 2025-07-18
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第6章:幸福の果て 2

 「ノア・ムーングレイ殿下、ベルティア・レイク様のご入場です」 ベルティアの着替えに時間がかかってしまったので、パーティー会場への入場は二人が最後になった。ノアと腕を組んで会場に足を踏み入れると、ベルティアを待っていたのは他の生徒たちからの陰口だ。「最後の最後まで、本当に図々しい方ね……」「ノア殿下とセナ様のご婚約の話は白紙になったらしいですわよ。でも、パーシヴァル殿下とパートナーになってらっしゃるセナ様も素敵ね」 この卒業パーティーでは、本来なら聖なる瞳のセナのパートナーはノアやジェイドなどの攻略対象者の誰かだった。ただ、ベルティアが隠しルートをクリアしたことで彼のパートナーも変わったらしい。 そもそもセナは主人公だったにもかかわらずベルティアにばかり構っていたので、他の攻略対象者たちとの関係が進んでいないのだ。ノアが相手ではないのなら、セナのパートナーは隣国の王太子であるパーシヴァルになるのが妥当と言えば妥当である。 ノアと一緒に歩きながらパーシヴァルとセナが談笑している姿が見え、本編では見られなかった二人の姿はお似合いだなと感じた。「この佳き日を、長い年月を共にした仲間たちと迎えられたことに感謝している。学園生活を通して生涯の友や、永遠の愛を与えられるような人と出会えたのではないだろうか」 ノアがグラスを片手に挨拶をしていて、ベルティアはそんな彼を見上げながら今でも彼のパートナーとしてこの場にいるのが信じられなかった。 ゲーム本編ではノアの挨拶のあとにベルティアはセナへの嫌がらせの件を問い詰められ、断罪される。断罪されたベルティアのその後は詳しく描かれていなかったけれど、一人ぼっちになった彼はどこへ行ったのだろう。今となってはそのバッドエンドを見ることはもう叶わない。 ただ、最後まで何があるか分からないので少し緊張していると、ノアの挨拶が締めに入ったところで「少し発言をよろしいでしょうか?」とパーシヴァルが手を挙げた。「もちろんだ、パーシヴァル殿」「卒業後はアルべハーフェンに戻る身ですので、この場でグラネージュの皆さんに
last updateLast Updated : 2025-07-19
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第6章:幸福の果て 3

 「……セナ様は、どちらかと言えば“受け”だと思うんですけど、なぜ俺に対しては“攻め”みたいな態度なんです?」「え? だって前世の俺はベルティア先輩を抱きたいと思っていたからですよ」「だ……っ!?」 セナがペロリと唇を舐め、くいっとベルティアの顎を指先で持ち上げる。ベルティアより少しばかり身長は低い彼だけれど、意外とそういう行動が様になっていてドキッとした。「ふふ、可愛い。やっぱり僕に乗り換えませんか?」「やっ、セナさま、それは……!」「……セナ殿。いくらあなたでも、許容範囲を超えていますよ」「……ちぇ。屈強な護衛ですね」「お、王太子殿下を護衛だなんて!」「あっ、怒ってくださいます? やっぱり僕にはマナー講師が必要だと思いませんか?」「セナ殿!」 前世のセナは攻め気質だったようだが、ベルティアに怒ってほしいのだとニコニコしている彼を見るとMの気質もあるのかもしれない。セナはわざとノアを煽るようにベルティアの腕にしがみついていて、ノアはただただ何か言いたげな視線だけを向けてムッと唇を尖らせていた。「今考えれば、もっと早くフェロモンレイプしてもよかったかなって」「はい!?」「オメガのフェロモンで誘えばよかったなって思ったんですけどぉ……ムーン・ナイトの時にはもうオメガに転換していたみたいなので、遅かったです」「……セナ殿はやはりベルティアにそういう気持ちが?」「はい。ベルティア先輩って可愛いですもん。パーシヴァル殿下だってそうですよね?」「僕はベルティアを結婚相手としてアルべハーフェンに連れて帰るつもりでしたから」「……君は本当に、人を惑わせる天才だな」「お、俺のせいじゃないですよっ」 ハーレム展開に陥るのは主人公で
last updateLast Updated : 2025-07-20
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第6章:幸福の果て 4

  卒業パーティーは何の事件も起こらずに終わり、ベルティアはゲームが終わったその先の朝を迎えた。今までの出来事が全部夢だったとか、前世の自分に戻っていたとか、そんな都合のいいことはない。きちんと『ベルティア・レイク』として、本編のエンディングの先に存在しているのだ。「……夢じゃなくてよかった」 実はセナと出会って倒れてからずっと眠りについていて、今までの出来事が全て夢だったという最悪のシナリオではなくてよかったと心の底から安堵の息を吐く。ベッドから降りて寮の部屋のカーテンを開けるとピカピカの太陽が空に浮かんでいて、まるでベルティアのこれからを祝福してくれているようだった。「ベルティア先輩、いますか?」 「セナ様?」 「あ、荷造りの最中にすみません……少しお時間ありますか?」 「もちろんです。狭い部屋ですがどうぞ」 荷物の最終確認をしているところにセナが現れ、すっからかんになったベルティアの部屋に招き入れた。どうぞと言ったもののベルティアはセナの後ろから現れた人物を見て、思わず持っていた本を床に落としてしまった。「えっ、お、オリヴィア嬢……っ!?」 セナの後ろから現れたのは、お披露目パーティーの時に庭園で会ったきりだったオリヴィア・ローズウッドだった。彼女は顔や姿を隠すようにローブを羽織っていて、ベルティアの困惑した声に顔を上げる。ローブの下から覗き込む彼女の緑色の瞳と目が合い、ベルティアの心臓は大きく跳ねた。「突然訪問してしまって申し訳ありません、ベルティア様」 「ベルティア様って……! そんなふうに呼んでいただけるような身分では……っ」 「いいえ。わたくしの中で貴方様は唯一無二の神のような存在ですから」 「神!?」 「ああ、本当に……っ! なんってお可愛らしいの!?」 「ひぁっ」 オリヴィアはセナと同じで転生者だと聞いていたけれど、一度会った時に高圧的で威圧感がすごかった彼女のことを忘れられないベルティアはひどく驚いた。なんせ彼女はベルティアを蔑んでいた大きな瞳を輝かせ、ベルティアの両頬を包み込んで大興奮しているのだ。
last updateLast Updated : 2025-07-21
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第6章:幸福の果て 5

   卒業後、寮を出て久しぶりに実家で一週間ほどゆっくり生活したベルティアだったが、ノアが迎えに来て再び王都へと戻ることとなった。「急かしてすまないな、ベルティア」 「いえ。何もご連絡がないので夢だったのかと思っていたところでした」 「はは、いつからそんな冗談を言えるようになったんだ」 ノアに連れられてきたのは王宮からほど近い小ぢんまりとした屋敷。小ぢんまりと言っても馬車が停まると門を開ける門番がいるし、庭園を手入れしている庭師、家の中には数人の使用人が二人を出迎えた。「お帰りなさいませ、ノア殿下、ベルティア様」 「えっと……?」 「今日からお前の住まいだ。俺も時々帰ってくる」 「はい!?」 「あまり大きすぎる屋敷だとベルティアが遠慮すると思ってな。ここは自由に、お前の家として使ってくれ」 「“俺も時々帰ってくる”とは……?」 「そのままの意味だ。王宮で俺の側近だった者たちから選りすぐりの者を選んでこの屋敷に連れてきたから、俺のオアシスだといっても過言ではない」 「ベルティア様。私はメイド長のマリアンヌと申します。昔、ノア殿下と家族のフリをしてレイク家に泊まらせていただいた者でございます。今日からベルティア様のためにこの屋敷で働けること、使用人一同嬉しく思っています」 「えっ、あの時の……!?」 ノアとベルティアが運命の出会いをした日、ノアの母親のフリをしてレイク家に滞在していた女性がこの屋敷のメイド長になったらしい。同じ学園の生徒たちからは敬遠されていたベルティアだが、ノアが直々に選んで連れてきたという使用人たちはみんな好意的な笑みを浮かべている。 ノアのことなので、自分とベルティアの関係を認めている者たちを連れてきてくれたのだろう。その心はきっと、ベルティアが気を遣わず過ごせるように、と配慮してくれた結果なのだろうなと勝手に想像した。「俺たちの婚約手続きはもうすぐ承認されるだろう。そしたら自分は王太子の婚約者だと言いふらしてくれ」 「そんなことしません。聞かれたら答えるだけにします」 「はぁ、こうなってもつれ
last updateLast Updated : 2025-07-22
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エピローグ

  ◆数年後「妖精さん、父様と作ったクッキーはいりませんか?」「あら、ありがとう! リュシアンは本当にいい子ね」「えへへ! じょうずに作れたから、いっぱい食べてくださいね」 王宮の庭園にある噴水で暑さをしのいでいた妖精たちに、今朝焼いたばかりの小さなクッキーを配って回る息子の姿をベルティアは微笑ましく見守っていた。「我が息子は妖精たちに愛されているな」「あなたではなく俺に似たのかもしれませんね」「ふ、当たり前のことを言わないでくれ」 ベルティアの背後から現れたノアに顎を掬われ、口付けられる。何年経っても彼の唇は甘くて熱くて、とろけてしまいそうだ。触れるだけの口付けをしたあとお互いに顔を見合わせて、今朝会ったばかりなのに久しぶりの再会とでも言うように抱き合った。「明日からパーシヴァル殿下の来訪で忙しくなるな」「セナ様が久しぶりに会うからと、お茶会の予定をびっちり詰められました」「あの二人も仲睦まじそうで何よりだ」 グラネージュとアルべハーフェンの共同研究の仕事を通し、セナとパーシヴァルは結ばれる結果となった。前世でゲームをプレイしていたベルティアだけではなくセナ自身もまさかの展開に驚いていたけれど、彼の優しさにベタ惚れしてしまったようだ。聖なる瞳であるセナの嫁入りは両国を結ぶ架け橋としても祝福され、数年前に二人は結婚した。 ベルティアに関しては共同研究が始まって割と早めにレイク家は伯爵位を授与され、ノアの熱望により二人はすぐに婚儀を挙げ、可愛らしい息子のリュシアン・ムーングレイに恵まれた。そして今、第二子を妊娠中だ。 グラネージュは数年前には想像もできなかったほど魔力が回復し、かつて絶滅したと言われていた妖精たちが国中を飛び回るようになった。今でもまだ安定した作物の収穫や魔導士の育成にベルティアやジェイドは奔走しているが、毎日充実した生活を送っている。 ちなみに、今のところノアが闇堕ちする気配はない。 彼はずっと優しくて、愛情深くて、ベルティアを一途に想っている一人のアルファだ。一時期
last updateLast Updated : 2025-07-22
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番外編:ノア・ムーングレイの告白 1

  俺の人生が変わったのは、7歳の夏だった。 もともと体が弱かった俺は異常気象だという暑さのせいで体調を崩し、王都を離れた場所で静養することになった。次期国王として期待されているが、周りからは病弱だと陰口を言われているのも知っている。自分の情けなさに、俺は泉のほとりで項垂れていた。療養のためローズウッド領へ向かう途中、馬車の揺れに耐えられなくなって休息を取ったのだ。 従者たちは俺を心配してくれているが、一人になりたかった。将来国を背負う身でありながら、こんなにも弱い自分が嫌で仕方がなかった。鬱蒼とした森の中、青白く光る泉の前で俺は膝を抱えていた。「ねぇ、どうしたの? 具合が悪いの?」 突然かけられた声に顔を上げた瞬間、俺の世界は一変した。 夏の日差しに照らされたダークブロンドの髪が風に揺れ、澄んだ青い瞳が心配そうに俺を見つめている。まるで絵画から抜け出してきた天使のような少年がそこにいた。 その瞬間、胸の奥で何かが弾けるような感覚を覚えた。これが恋だと理解するには俺はまだ幼すぎたが、確実に、何かが始まったのだと感じた。「待ってて、人を呼んできてあげる!」 慌てて立ち上がろうとする彼を「いいんだ」と止めると、彼は安心したように微笑んで水筒を差し出してくれた。その屈託のない優しさに、俺の心は完全に奪われてしまった。「ここ、涼しいね」 「そうでしょ! 女神様の魔法がかかってるんだよ」 彼――ベルティア・レイクが泉に向かって手を合わせ、俺のために祈りを捧げる姿は本当に女神様のようだった。その純粋な心に触れた時、俺は確信した。この人こそが、俺の生涯の伴侶になる人だと。 わがままを言ってレイク男爵家に数日滞在させてもらった時間は、俺の人生で最も幸せな時間だった。ベルティアと過ごす時間は宝物で、彼の笑顔、声、仕草、全てが愛おしかった。一緒に森を歩き、一緒に食事をし、一緒に本を読んだ。彼は俺を『ノア』と呼んでくれ、身分など関係なく接してくれた。 7歳の俺にとって、それがどれほど貴重なことだったか。王子として生まれた俺は、常に特別扱いされ、距離を置かれて
last updateLast Updated : 2025-07-23
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番外編:ノア・ムーングレイの告白 2

  ベルティアが王立学園に入学する前年の冬、俺は王宮の古い書庫で運命的な発見をした。 その日は珍しく雪が降っていて、授業が早めに終わったため時間を潰そうと普段は足を向けない書庫に立ち寄ったのだ。埃をかぶった古い書物の間を歩いていると、一冊の革装丁の日記が目に留まった。『ルーファス・ムーングレイ』 表紙に金文字で刻まれた名前を見て、俺は息を呑んだ。ルーファス・ムーングレイ――確か何代も前の国王で、聖なる瞳の令嬢と結婚をした王だと前に勉強した。 そんな人の日記が見つかり何気なく手に取って開いた瞬間、俺の人生は再び激変した。 最初のページには、美しい文字でこう記されていた。『アウラ・レイク――私の愛した人の名前を、ここに記す』 レイクという姓に心臓が跳ね上がった。ベルティアと同じ姓の女性について書かれているのか。好奇心に駆られて読み進めると、そこには俺の知らない王家の歴史が詳細に記されていた。『今日、森の泉で美しい女性と出会った。アウラ・レイク。彼女の瞳は聖なる光を宿し、その微笑みは私の心を一瞬で奪った』 泉での出会い――まるで俺とベルティアの出会いと同じではないか。震える手でページをめくり続けた。『アウラとの愛は日に日に深まっている。だが、私には既にアリシア・ローズウッド公爵令嬢との婚約がある。この身分の違い、この立場の違いがどれほど重いものか』 だんだんと内容は深刻になっていった。アウラが妊娠したこと、それを王家に報告した時の騒動、そして最終的にアリシア嬢が聖なる瞳の力を開花させたことで情勢が一変したことが記されていた。『アウラを捨てることなどできない。だが王家の跡継ぎとして、聖なる瞳を持つアリシア嬢との婚姻を選ばざるを得なかった。私は最低の男だ』 そして、俺が戦慄した記述がそこにあった。『アウラが私に呪いをかけた。レイク家の者と結ばれたムーングレイ家の者は破滅の道を歩むと。彼女の憎悪と絶望が込められたその呪いを、私は甘んじて受け入れよう。それが彼女を裏切った罰なのだから』 その瞬間、俺の世界は暗転し
last updateLast Updated : 2025-07-24
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