All Chapters of ベルティア・レイクはバッドエンドを所望する: Chapter 21 - Chapter 30

30 Chapters

第3章:真実の片鱗 5

 「そういえば、パーシヴァル殿下とのことは本当なのか?」 ちょうどティーセットが運ばれてきたタイミングでライナスが質問を投げかける。ベルティアが「本当なのかと申しますと……?」と首を捻ると、ライナスはお茶を一口飲んで苦い顔をした。もちろん紅茶が苦かったわけではなく、分かっていないベルティアに対してそんな顔をしたのだ。「あー…言い方は良くないけど、ベルティアが兄上から乗り換えた、みたいな話が」「ライナス殿下は信じている、ということですね」「違う違う、違うって! 兄上を散々振ってるベルティアが隣国の王太子とって、あり得ないと思ってる。大方、兄上を諦めさせるための恋人のフリとかだろ?」「殿下とはまともに会話ができるので嬉しいです、本当に」「はは……」 ベルティアも紅茶を一口こくりと嚥下する。果実とバニラの甘さが際立つフレーバーティーで、すっきりと飲みやすい紅茶だった。紅茶と一緒に出されたパウンドケーキもしっとりとした味わいで文句なしに美味しい。さすが王族御用達の店と言ったところだろうか。「それで、その成果は出てるのか? 出てないように思えるけど」「……婚約の書状が届いたんですから、成果は出ていないと言っていいかと」「ははっ、そうだよな。兄上は本当にしつこいから」「俺には何も魅力はないのに、どうしてこうも……いっそのこと俺が婚約でもしたら諦めがつきますかね」「いやぁ、どうだろう。兄上は多分、相手を殺すかもな」「……意外と想像できるのでやめてください」 前世のベルティアがゲームをプレイしているときはエンディングを見るまで、ノアや他の攻略対象者たちが闇落ちする片鱗は見えなかった。でも今の時点で思うのは、全員何かしらの事情があってベルティアに惹かれ、近づいているということに間違いはない。 今のところライナスだけはその片鱗を見せていないが、彼もどうせベルティアと結ばれたら狂うムーングレイ王家の一人。
last updateLast Updated : 2025-07-08
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第4章:断罪へのカウントダウン 1

  ――夢を見た。 今までの人生であまり嗅いだことがない、重すぎる鉄の匂い。どろりとしたそれがつま先に触れる寸前に足を引っ込めると、ジャラッと金属同士がぶつかる音がした。 まるで囚人のような足枷が装着されていて、そこから伸びている鎖が後ろの柱に括り付けられている。手首も同じように重い拘束具がつけられていて、後ろの柱に背中がぶつかってそれ以上は逃げられないことを瞬時に悟った。「――ベルティア」「あ、ぁ……」「お前のために、邪魔者は全員殺した。これでお前は俺を選んでくれるな?」 全身に返り血を浴び、片手には赤く染まった剣、もう片方の手には国王陛下の首を持ったノアがにっこりと微笑んでいる。そんなノアから逃れるために身を捩るが、ベルティアに逃げ場はなかった。「これでグラネージュは俺とお前の国だ。俺たちの仲を引き裂く者はもういない……ベル、幸せになろう」 血で染まったノアの手がくいっと顎を持ち上げ、静止する間もなく唇が重なる。誰のものかも分からない血の味が口の中いっぱいに広まって、ベルティアはただただ泣きながらそれを受け入れるしかなかった。 ノアを狂わせてしまった自分が悪い。だから、彼を受け入れなければ―― 「愛している、ベルティア・レイク。これでお前も幸せだろう?」 ――俺の『|幸福《しあわせ》』は…… 「……はぁ、は……ッ!」 目が覚めてすぐ周りを確認すると、なんの変哲もない寮の部屋だったことにベルティアは安堵した。うなされて起きたので汗をびっしょりかいていて、服が肌に張り付いて気持ち悪い。ベルティアは汗で額に張り付く髪の毛を掻き上げ、寝巻きのボタンを外しながら浴室へ歩みを進めた。 こういう時、寮暮らしでも一室ずつ浴室がついていてよかったと心から思う。寮に住むのは大体実家が遠いベルティアやジェイドなどの生徒が利用するのだが、部屋も貴族仕様である。ベルティアは特待生というのもあり学費や食費は無
last updateLast Updated : 2025-07-09
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第4章:断罪へのカウントダウン 2

 「もしも許されるなら、卒業後は僕と一緒にアルべハーフェンへ……それが僕の願いなんだ、ベルティア」 驚きの展開に戸惑っているベルティアに、パーシヴァルは更に衝撃の告白をした。卒業後にアルべハーフェンへ一緒に行ってほしいということは、すなわち結婚してほしいということだろうか? もちろんそれ以外の理由も考えられるけれど、パーシヴァルの目にはただの友人には向けない欲が含まれているのが分かった。なんせ長年、こんな瞳をノアから向けられてきたから。「えっと、あの……っ」「アルべハーフェンへ一緒に行くことに関しては、返事は急がなくて大丈夫。卒業してからも時間はあるから、追々と言うことで。ただ、このブローチは受け取ってくれると嬉しいんだけれど」 正直な気持ちを言うと、好感度の数値に振り回されないパーシヴァルからの告白は嬉しい。アルべハーフェンはグラネージュと違って自由な国だというのも聞いているし、国外追放されたらアルべハーフェンに移住するのも一つの手だと思っていた。 でもパーシヴァルとの関係が『友人』ではなく『恋人』になるとしたら、それはかなり迷う。なんせ彼は『聖なる瞳の幸福』の続編のメインキャラクターであり、セナのシナリオが終わったら自然と続編に話が移行するだろう。 そうなった時、彼を好きでいたらベルティアはまた辛い目に遭う。 彼には彼の相手がいて、その人と恋に落ちるのが自然なのだ。ノアのことを想っているけれど諦めないといけない今と同じで、ベルティアの心はまたすり減ることになる。そう思うと、パーシヴァルとの関係を変えるのはベルティアにとってもかなりリスクがあると思えた。「……パートナーの件は、ありがとうございます。3年生は絶対参加なので、どうしようか悩んでいたんです」「そうか、パートナーがまだ決まってなくてよかったよ」「パーシヴァル殿下のお誘い、喜んでお受けいたします。よろしくお願いします」「ああ、こちらこそ」「卒業後のお話はまだ待っていただけたら……す
last updateLast Updated : 2025-07-10
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第4章:断罪へのカウントダウン 3

  パーシヴァルからパートナーの申し込みをされ、ノアからカフスボタンをプレゼントしてもらってからしばらくして、ノアとセナがお揃いのイヤリングをしていると話題になった。二人の耳元にキラキラと輝いているイヤリングは華美なものではないのに人目を惹き、今年のムーン・ナイトの主役だと生徒たちの間で歓声が上がっている。 セナは照れたように「僕のほうから申し込んだんですよ」と言っているが、丁寧な細工が施されたあのイヤリングはノアルートに進むとパートナーの申し込みイベントでノアからもらうものだ。なので、セナは自分からノアに申し込みをしたと言っているけれど、ベルティアにはそれが真実ではないことくらい分かった。 ベルティアはと言えば、制服の胸元にパーシヴァルからもらったブローチをつけ、ノアからもらったカフスボタンは寮の机の上に置かれている。ベルティアとパーシヴァルがお揃いのブローチをつけていることを知った生徒たちはいつも通り「男爵令息には似合わないわね」などと陰口を言われている。これではどちらが悪役か分からないほどだ。 ゲームのベルティアはパーシヴァルの存在は薄かったので、パートナーはその都度変わった。セナがどのルートを進んでも、ゲームの中のベルティアは攻略対象者からもらったセナのアクセサリーを盗んで困らせるというシナリオだったのを思い出した。「ベルティア先輩、なんだかお久しぶりですね!」「そうですね。……温室以来でしょうか」「あっ、そうだ、あの時ですね……!」 《セナ・フェルローネ 好感度:72%》 セナの好感度は会わない間に70%まで落ちていたはずだが、ベルティアと会って2%増えた。先日、街で会った時にライナスから聞いた話がベルティアの頭を過ぎる。 セナにはベルティアの嫌がらせがほとんど効かないこと、なぜセナにもベルティアに対しての好感度の表示があるのかということ。考えても分からないので思考を放棄していたけれど、久しぶりにセナと対峙すると彼の好感度表示が気になって仕方がない。 あまりにもじっと見すぎていたからか「僕の頭になにかついていますか?」と
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第4章:断罪へのカウントダウン 4

  セナから半ば強制的にブレスレットを贈られたベルティアは、彼の言う通りそれを外せないままムーン・ナイトまで過ごすことになった。そしてもちろん、目敏い生徒たちからベルティアとセナが同じブレスレットをつけていると見つかったのは言うまでもない。「お前さ……なにしてんの?」「……俺のせいじゃないもん」「だからセナ殿には気をつけろとあれほど……」「ですから、俺のせいじゃないんですってば……」 ベルティアがパーシヴァルとセナのパートナーになっていると噂が広まり、節操なし男爵令息だと悪口を言われている。ブレスレットを外したいけれどセナから死ぬと脅されているため、もし本当にそうなったら困るから外すこともできない。そんなベルティアを見兼ね、呆れ顔のジェイドとライナスから呼び出されたのだ。「一応確認するけど、お前が申し込んだわけじゃないよな?」「んなわけないだろ! セナ様から、本当は俺に申し込もうと思ってたって言われただけだよ……」「ムーン・ナイトのパートナーが二人いるなんて前代未聞だぞ。セナ殿の相手は兄上だし、お前の相手は隣国の王太子。王族を馬鹿にする行為と言われても反論できないな、これじゃ」「ノア殿下へのフォローはお願いします、レイナス殿下」「はぁ!? なぜ俺が……最近の兄上はあまりにも感情がなさすぎて、話しかけにくいんだよ。お前がちゃんとフォローするんだな」「そんなぁ……俺のせいじゃないのに……」 噂があっという間に広まったのでセナとお揃いのブレスレットをつけていることをパーシヴァルに告げると、彼は「セナ殿から頂いて断れなかったんだろう?」と、詳細を話していないのに理解をしてくれて助かったものだ。 ノアに関してはライナスの話の通り、最近はベルティアに無関心である。ブレスレットにも興味がないのか、今までなら何も言わずとも獣のような鋭い視線を送ってきていたも
last updateLast Updated : 2025-07-12
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第4章:断罪へのカウントダウン 5

  それからあっという間にムーン・ナイトの当日になり、朝から学園内は浮き足立っている。セナのお披露目パーティーの時と同じようにベルティアの衣装はパーシヴァルが用意をしてくれて、白を基調とした綺麗な服にまた度肝を抜かれた。「やっぱりベルティアは何を着ても似合うね」「そんなお世辞を……今回も素敵な衣装を用意してくださってすみません、ありがとうございます」 セナが来るかとヒヤヒヤしたけれど、結局会場のエスコートはパーシヴァルがパートナーとして務めてくれた。セナはといえば、最後にノアと一緒に入場して他の生徒たちの話題を攫ったものだ。「ベルティア先輩! 今日も素敵なお衣装ですねっ」「パーシヴァル殿下のおかげです。セナ様も素敵ですよ」「ありがとうございます、嬉しいです!」 一度目のダンスが終了した後、セナは笑顔でベルティアの元へ駆け寄ってくる。お披露目パーティーの時と同じようにセナとノアはリンクコーデになっていて、まさしくムーン・ナイトの主役だと言えるだろう。 ただ忘れてはいけないのが、セナとベルティアの腕にはお揃いのブレスレットが輝いているということ。セナはするりとベルティアの手を握り「ベルティア先輩、僕と一緒に踊ってください」と微笑んだ。「えっと、でも……」 注目されるのは避けたいけれど、この会場にいること自体が注目の的なので意味がない。それでも一緒に踊るのは……とパーシヴァルやノアに助けを求めたが、二人ともあっという間に女生徒たちに囲まれて助けは求められなかった。「王子様とじゃ幸せになれないよ。主人公である僕の手を取らなくちゃ」「えっ?」 セナにダンスホールへ手を引かれながら、周りの音楽や会話に紛れて彼の言葉がよく聞き取れなかった。でも『主人公』という言葉だけは聞こえた気がする。その言葉をセナがどういう意味で使ったのか分からなくて呆然としていると、いつの間にかベルティアがリードされる側でダンスが始まろうとしていた。「お、俺がこっち側なんですか?」
last updateLast Updated : 2025-07-12
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第4章:断罪へのカウントダウン 6

  翌日、頭の痛さと体のだるさで目が覚めた。「なんか……頭も体も重い……」 まさかムーン・ナイトのダンスパーティーで2回踊っただけで筋肉痛にでもなったのだろうか。普段ほとんど椅子にばかり座っているから筋力が落ちたのかもしれない。「ていうか、ここどこ……」 ぼーっとしながら起き上がり、ベルティアは見知らぬ部屋をぐるりと見回す。全く見覚えがない豪華な部屋に違和感を覚えていると、部屋の一角に座っている人物を見て広いベッドの上を後ずさった。「のっノア殿下!?」 ベッドから一番離れている部屋の隅っこ。固い椅子に座って片膝を抱え、薄いブランケットを羽織ったまま眠っているノアがいた。ドッドッドっと心臓が大きく脈打つが、ベルティアは昨夜のことを思い出して顔から火を噴き出しそうになった。「な、なんでおれ、あんなことに……!」 セナとダンス中に突然体中が熱くなり、頭はぼーっとしてどうしようもなかった。駆けつけてくれたノアに嬉しくなって、彼に助けを求めたのも覚えている。そして、このベッドの上で何を言ったのかも。「……何時間、そうしていたんですか……」 シーツを体に巻きつけたベルティアはベッドを降り、膝を抱えて寝落ちているノアの側に静かに歩み寄る。床にはムーン・ナイトで着用していた服が散らばっていて、眠っているノアは白いシャツだけを着ていた。 そして、腕まくりしている彼の太い腕にはいくつもの引っ掻き傷。何かが侵入してきたのかと思ったが、彼の爪の間に血が固まっているのを見てベルティアの胸はぎゅっと締め付けられた。きっと、痛みでベルティアを襲うのを耐えていたのだろう。そう思うとまたじわりと目に涙が浮かんだ。「……どうした、どこか痛いところが……?」「っ!」「体がおかしいだろう……? まだ眠っていたほうが
last updateLast Updated : 2025-07-13
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第5章:すべてが終わる日 1

  ――今まで散々拒否してきたくせに、人間というのは欲に逆らえない、本当に情けない生き物だ。「あッ、やあ゛……っ!」「ん……ベル、腰が逃げてるぞ。上手に熱を逃さないと、苦しいだけだ」「ひっく、う……殿下のばか、いじわる、恥ずかしいからいやだって、何回も言ってるのに……!」「……逆効果だ、それは」「ひぁー……ッ」 ぐちゅぐちゅ、卑猥な水音が静かな部屋に響き渡る。血管の浮き出る太い腕の中に抱かれ、肌触りのいい柔らかい服はいつの間にか脱げてピンっと主張するピンク色の突起が唾液で光っていた。強すぎる快感の波に堪えられず足を閉じて膝をこすり合わせると、ぐいっと広げられてベルティアはさらに顔に熱が集中した。「俺のための体になったんだと、ちゃんと見ておきなさい」「や、やです、やだ……っ! でんかのためじゃない、もん……」「そうか。でも、すごいな、ベル……蜜が溢れてくる。本当に女性のようになるんだな」「じょせい、って……誰と比べてるんですか……」「ふ……本の知識だ。むくれてくれるな」 体の中に太い指が二本入って、何度も出し入れされるたびに水音が響く。唇が溶けそうなほど甘い口付けを何度も繰り返されながら、どうしてこんなことをしているんだっけ、とベルティアはドロドロにとろけきっている頭の中で考えた。 オメガに転換しているのは自分でも気が付いていなくて、ムーン・ナイトの会場でヒートになってからノアの部屋に運ばれ、今に至る。初日はベルティアに手を出すのを我慢していたノアだけれど、アルファの庇護欲が働いてベルティアが部屋から出ることを拒み、二人ともいつの間にか欲に忠実な獣に成り下がっていた。 散々ノアのことを拒否していたくせに、ベルティアの体
last updateLast Updated : 2025-07-13
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第5章:すべてが終わる日 2

  オメガに転換して初めてのヒートが落ち着き、ムーン・ナイトからしばらくしてやっとノアから外出許可が出たベルティアは、学園内のサロンでセナと対峙していた。「……|ノア殿下《アルファ》の匂いがしますね、ベルティア先輩」 《セナ・フェルローネ 好感度:30%》 ノアの好感度が急激に増したかと思えば、セナの好感度は激減していた。彼は今までのような天真爛漫な態度ではなく、光り輝いていた瞳には空虚だけが映っているように見える。セナのあまりの変わりように恐怖すら抱いたが、彼とは話さなければならなかったのだ。「セナ様、先日のムーン・ナイトではご迷惑をおかけしました」「迷惑というより、悲しいっていう感情のほうが大きくて困りました」「……」「まさかベルティア先輩がオメガになるなんて誤算でした。はぁ……ほんとに……」 セナは額に手を当て、難しい顔をしてため息をつく。なんとなく『そうかも?』と思っていた疑いが確信に変わった気がした。「もしも違ったら戯言だと思って聞き流してほしいんですが……セナ様って、|転生者《そう》ですよね?」 ベルティアが真っ直ぐ見つめると、空虚を映していた金色の瞳がギラリと光る。セナはハニーピンクの髪の毛をがしがしと掻き回し、ごくんっと音を立てて紅茶を飲み干した。「マナーがなってないって怒らないんですか?」「もうその必要はないかと、俺は思います」「必要ですよ。つい半年前までただの平民で、マナーの欠片もないんですから」「そういう意味ではなく、俺がセナ様に嫌がらせをする意味がない、ということです」「……ノア殿下や他の攻略対象者とじゃ、幸せになれないのに」 セナからは確実な答えがなかったが『攻略対象者』という言葉が出てきたので、彼もベルティアと同じように転生者なのは確実だった。「ノア殿下やジェイド、ライナス殿下たちは&hel
last updateLast Updated : 2025-07-14
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第5章:すべてが終わる日 3

 「……大丈夫だったか?」「オメガ同士ですよ? 心配しすぎです」「……セナ殿はお前を狙っているように見える」 セナと話をした後、隣室のサロンで待っていたノアはむすっとしたような顔をベルティアに向けた。彼は誰でもかれでも敵に見えるのだなと思うと可愛らしく思えて、ベルティアはくすくす笑いながらノアの頬を撫でる。彼は不満そうな顔をしながらもベルティアの細い手に顔を擦り寄せてきて、そのまま近づいてきたノアの唇が重なった。「学園内でこういうことをするのは、だめです……誰かに見られたら大事ですよ」「ふ、この学園の中で俺より偉い人間が? 口封じをしよう」「そういう態度はいかがなものかと。破滅の王の道を歩んでしまいますよ」「冗談だ」 ベルティアが見た夢の話をノアにすると、彼はそうならないように王位継承を放棄すると言い出した。ライナスがいるから国自体は大丈夫だと笑うので、滅多なことは言うものではないとベルティアが窘めたものだ。「それで、大事な話とやらはできたのか?」「はい。本来は国のためにある力ですが、セナ様に“聖なる瞳”のお力を貸していただきました」「……何が分かった?」 セナが持つ『聖なる瞳』の力はいわゆる千里眼で、遠くの様子や未来を見通すことができるとされる能力のことだ。本来は国の安泰のために使われる力だが、今回はベルティアの友人として私的に行使した、というていで話を進めることにした。「ノア殿下。もし殿下が本当に俺との未来を歩んでくださるのであれば……今度の卒業式の前に、一緒に行きたい場所があるんです」「行きたい場所?」「はい。できればルーファス殿下の日記を持って……もしかしたら日記が消失することになるかもしれません。それでもよければ、ですが……」「分かった。必ず行くと約束しよう」「理由も聞かずに即答ですか
last updateLast Updated : 2025-07-15
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