All Chapters of 断罪された悪妻、回帰したので今度は生き残りを画策する(Web版): Chapter 41 - Chapter 50

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第1章 39 トマス

「それでは王女様。一緒に野戦病院に参りましょう」町長が声をかけてきた。「ええ。分かったわ」返事をしたその時。「ちょっと待ってください!」声を上げたのはトマスだった。「どうしたのだ? トマス」町長さんがトマスに尋ねた。「はい、王女様と2人きりで話したいことがあります。……王女様。よろしいでしょうか?」「トマス……」恐らく私が倒れた件で話があるのだろう。私としてもその方が都合が良かった。トマスと2人きりになれれば【エリクサー】の原液を渡すことが出来るからだ。リーシャを完全には疑いたくは無かったが、それでも人目に付く前に彼に早急にこの万能薬の元を渡してしまいたかった。「ええ、分かったわ」次にその場にいる全員を見渡した。「私は少しトマスと話をしていきますので、皆さんは先に野戦病院に行って貰えますか?」「ええ、分かりました。では私どもは先に参ります」町長さんは眼鏡の青年と部屋を出て行った。「それじゃ、姫さん。また後でな?」スヴェンは笑みを浮かべて部屋を後にする。そしてリーシャだが……。「クラウディア様。私もここに残って話を聞いては駄目ですか? 私はクラウディア様のメイドです。お傍にお仕えするのが私の役目ですから」リーシャは両手を前に組み、願い出てきた。「リーシャ……」どうしよう、困ったことになった。トマスも困り顔でリーシャを見ている。すると……。「駄目だ、いくら専属メイドだからと言って、クラウディア様が彼と2人だけで話をすることを望んでおられるのだから邪魔立てするな。我々も行くぞ」ユダが迫力のある目でリーシャを睨みつけた。「う……」リーシャはその迫力に押され、次に私を見た。「ごめんなさい、リーシャ。話が済んだらすぐに行くから……ユダ、リーシャをお願いね」「はい、承知いたしました」ユダは頷くと、リーシャに声をかけた。「行くぞ」「は、はい……」ユダに連れられたリーシャは名残惜しそうに何度もこちらを振り向きながら去って行く。そんな彼女に笑みを浮かべ、私は手を振った。****「……随分あのメイドの方は王女様を慕っていらっしゃるのですね」「え? ええ。そうね」トマスの問いにあいまいに答えた。「それよりも王女様。もしかして倒れられたのはあの薬を作られたからではありませんか?」トマスはあえて何の薬なのか、名前
last updateLast Updated : 2025-08-04
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第1章 40 『クリーク』の人々

 野戦病院に到着し、扉を開けて驚いた。まだ夜明け前に関わらず、そこにいた全員が立ち上がって整列し、こちらをじっと見つめていたのだ。そして整列した人々の中心に立っていた人物は町長と眼鏡の青年だった。「え……? 一体これは何?」戸惑っていると、隣に立つトマスが言う。「ここにいる人々は全員王女様が持ってきてくださった薬のお陰で怪我から回復した者達なのです」「そうだったの……」すると町長が前に進み出てきた。「王女様、貴女様は私達の命の恩人です。この中にいる者達の中には酷い怪我のせいで意識が戻らず、ただ死を待つ者達も大勢いました。ですが王女様のお陰でここにいる全ての怪我人が救われたのです。本当に…ありがとうございます。そして我等を見捨てたのだと勝手に決めつけ、王女様に大変失礼な事を申し上げてしまったこと……。お詫びのしようがありません。本当に……大変申し訳ございませんでした!」町長は私に頭を下げてきた。そんな町長に私は声をかけた。「そんな、頭を上げて下さい。お礼なんていいのです。領民を助けるのは、当然のことなのですから」「ですが、王女様に対しての非礼は許されるものではありません。どのような罰も受ける覚悟でございます!」メガネの青年が訴えてくる。「罰も与える気は一切ありません。むしろお詫びをしなければならないのは私の方です。助けに来るのが遅くなってしまったばかりに、命を落としてしまった方々も大勢いたはずですから」そのことを思うと、申し訳ない気持ちで一杯だ。「いいえ、死んでいった者達は本当に怪我の状態が酷く……とても助かる命ではありませんでした。そのことで責めてしまったこと……本当に申し訳なく思っております」傍らに立つトマスが再び謝罪してきた。「でも、皆さんの怪我が治って、本当に良かったです。そして、ここへ来るのが遅くなってしまったこと改めてお詫び申し上げます」私は頭を下げた。「王女様! どうか頭を上げて下さい!」町長の言葉に顔を上げると、今度は人々から一斉に声が上がった。「王女様は我等の命の恩人です!」「これからは国ではなく、王女様に命を捧げます!」「何かあれば、我等が一丸となって王女様をお守り致します!」「王女様は我等の聖女だっ!」彼等は皆笑顔で口々に私に訴えてくる。「え……?」回帰前…私はこの町の人々から罵声を浴びせ
last updateLast Updated : 2025-08-05
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第1章 41 夜明けと共に

 午前5時――野戦病院で簡単な非常食をいただいた私達は、徹夜で疲れた体を休める為に町長に案内されて野戦病院からほど近い2階建ての宿屋へ案内されていた。町長の話では、この宿屋は今は戦争の影響で廃業になってしまっているらしい。「どうぞ王女様とメイドの方はこちらのお部屋をお使い下さい。お付きの人達は隣の個室をご用意致しました。皆様徹夜されてお疲れでしょうから、どうぞごゆっくりお休み下さい」私とリーシャが案内されたのは2人部屋で、スヴェンとユダ達は隣の個室をそれぞれあてがわれることになった。部屋には木製ベッドが2つ、丸テーブルに椅子が2脚置かれていた。「まぁ、床も壁も天井まで全て木で出来ているわ」部屋に入った途端、リーシャは口にした。「申し訳ございません。もっと良い部屋をご用意できれば良かったのですが、何しろ戦争によって建物がかなり消失してしまったものですから」町長は申し訳無さそうに頭を下げてきた。「いいえ、別におかしな意味で言ったわけではありません。部屋全体が木の香りで満ちていて落ち着いてるのでゆっくり休めそうです。こんな素敵な部屋を用意していただき、ありがとうございます」私は笑みを浮かべてお礼を述べた。するとすぐ側で話を聞いていたスヴェンも頷く。「うん、俺もこの部屋が気に入ったよ。やっぱり木に囲まれていると落ち着くよな」私とスヴェンの言葉に気を良くしたのか、町長は笑みを浮かべて話を再開した。「そうおっしゃっていただけると嬉しいです。部屋は質素かも知れませんが、この宿屋の裏手には温泉が湧いているのです。是非、お入りになって下さい。お身体の疲れが取れますよ」「温泉ですって!? 聞きましたか? クラウディア様!」ずっとお湯に浸かることを望んでいたリーシャは余程嬉しかったのか手を叩いた。「え? ええ。そうね。温泉に入れるのは嬉しいわ」私はリーシャに同意した。「それでは残りの皆様はお隣の大部屋に案内させていただきます」町長が男性陣に声を掛け…隣の部屋へ移動しようとした時。「町長」それまでずっと沈黙を守っていたユダが声を掛けた。「はい、何でしょう?」「クラウディア様とメイドの部屋は分けてくれ。見たところ、部屋はまだ余っているだろう?」「え!?」驚きの声を上げたのはリーシャだった。「な、何故ですか? 私はクラウディア様の……」
last updateLast Updated : 2025-08-06
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第1章 42 2つの提案

「どうしたの? リーシャ。随分ご機嫌ね?」私は今までと変わらぬ態度でリーシャに接することにした。リーシャはユダを怪しんでいるけれども、今の私には彼女を疑うべき存在かどうか判断できない。何しろ実際私の感覚では46年間彼女と離れていたことになるのだから。「はい。町長さんがこの宿屋の裏に温泉があるって話していましたよね? なのでこれから一緒に行きませんか? 湯浴みのお手伝い、させていただきます」よく見るとリーシャは右腕から布を被せたカゴを下げている。恐らくあの中にタオルや着替えが入っているのだろう。「そうね……」ここはリーシャと一緒に温泉に行くべきなのだろうか? 少し躊躇していると、前方からトマスがこちらに向ってやってきた。「クラウディア様、お疲れかもしれませんけど少々お話したいことあるのですが……よろしいでしょうか?」そしてチラリと隣に立つリーシャを見た。あ……もしや……。「え……? でもこれから私はクラウディア様と温泉に行くのですけど。そうですよね? クラウディア様」リーシャは私に同意を求めてくる。「でもリーシャ。トマスだって徹夜明けで疲れているのに、わざわざ私に話が会って訪ねてくれたのだから、先に彼の話を聞くことにするわ。湯浴み位1人で出来るから、貴女は1人で先に行って?」「え……? ですが……私は……」するとそこへ扉が開く音と共にユダが現れた。「お前はクラウディア様のメイドなのだから、主の言うことを聞くのが当然だろう?」「う……わ、分かりましたよ。何もそんなきつい目で睨まなくてもいいじゃないですか」リーシャはよりにもよって、『エデル』の兵士であるユダに言い返してしまった。「目つきの悪さは生まれつきだ。早く行って来い」「言われなくても行きます。それではクラウディア様、申し訳ございませんがお先に温泉に行って参ります」リーシャは頭を下げると、足早に立ち去っていった。「ユダ……貴方、私の隣の部屋だったのね?」リーシャが去った後、隣に立つユダに声をかけた。「ええ、そうです。……すみませんが、中に入ってもよろしいですか? あまり廊下で話はしたくないので」ユダは小声で尋ねてきた。「ええ、でもトマスと話が……」「僕にも関わる話なのでご一緒させて下さい」「トマス……」そのことでピンときた。恐らく、トマスもリーシャの話をユ
last updateLast Updated : 2025-08-07
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第1章 43 裏切者?と新たな仲間

「ユダ、それって私とリーシャを2人きりにさせない為に?」「ええ、勿論そうです。リーシャは怪しい。俺の目から見てもあまり彼女はメイドらしさを感じられません。それだけではありません。あのサムと言う男の傷に薬を塗って傷口が光り輝いた瞬間、リーシャは呟いたのです。『やっと見つけた』と」「え……?」その言葉を聞いた時、背筋に冷たいものが流れるのを感じた。「その口ぶり……ひょっとするとリーシャはエリクサーを探していたってことになりますよね?」トマスが同意をもとめるかのように私に尋ねてきた。「え、ええ……そうよね……」もうリーシャがエリクサーを探していたことを認めざるを得なかった。ただ、今の段階ではリーシャが狙っているのはエリクサーだけなのか、それとも錬金術師を探しているのかは分からない。単にエリクサーだけを探したかったから、私の持ち物を探そうとしていたのだろうか?回帰前のリーシャは怪しいところは何も無かったのに……。「クラウディア様」不意にユダが話しかけてきた。「何?」「これで分かりましたね? リーシャが怪しいと言うことは。本来であれば、ここで彼女を置いていきたいくらいですが……」「え? リーシャを置いていく!?」そんな……!しかし、ユダはため息をついた。「だが、それも出来ない」「ええ。そうですよね」その言葉に頷くトマス。「もしかしてリーシャが手に入れたいのがエリクサーだとすると、この町にあるのは分かり切っているから……?」「その通りです。もし、ここにリーシャさんを置いて行けば、彼女は折角我らの為に王女様がくださった貴重なエリクサーを盗んでしまうかもしれない」「だから、我々の旅に同行してもらうしかない。それに……」ユダは私の目をじっと見つめた。「もしかすると、リーシャは誰かの命令で動いていると言うこと……?」「ええ、その通りです。何しろエリクサーは誰もが喉から手が出るほど欲しくてたまらない薬ですからね。彼女の背後には大きな組織が存在しているかもしれない」「そうよね。脅迫されているかもしれないものね?」私はまだ心のどこかでリーシャを信じたかった。誰かに脅迫されていて、エリクサーを探すように命じられていたと。「……とにかく、途中でリーシャを捨てていくことは危険です。『エデル』に到着するまでは彼女を監視しながら旅を続けるしか
last updateLast Updated : 2025-08-08
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第1章 44 驚きの言葉

「それでは話は終わりましたので、我々はもう行きます。あまりクラウディア様の部屋にいると色々な者達に怪しまれてしまうかもしれませんからね。特にリーシャには」ユダはリーシャの名前を遭えて口にした。「そ、そうね……。そろそろここで話は終わりにした方がいいかもしれないわね?」「ええ、そうです。今はまだ誰が敵か味方か分からない状態ですから、それにクラウディア様はかなりお疲れのようですので。それでは行こう、トマス」「はい、そうですね」ユダに声をかけられたトマスは立ち上がった。「クラウディア様、もし温泉に行かれるのでしたら俺が誰もこちらの部屋に近づけないように見張っておりますが……いかがなさいますか?」「温泉……」あまり長い間この部屋にとどまっていてもリーシャに怪しまれるかもしれない。けれども私は心のどこかでリーシャを信じたい気持ちがある。それにまだ『エデル』までの道のりは遠く、旅は続く。無事に辿りつくまでは用心に越したことは無いのかもしれない。「そうね、温泉に行ってくるわ。それではユダ。疲れているところ悪いけど私が不在の間、部屋の見張りをお願い出来る?」「はい、大丈夫です。俺は兵士ですから多少の疲れ位平気です」「では外で待機しておりますので準備をどうぞ」「分かったわ」すると今まで黙って私たちの会話を聞いていたトマスが声をかけてきた。「王女様、温泉の場所まで僕が案内しますのでユダさんと外で待っていますね?」「ええ。ありがとう」ユダとトマスが部屋から出ていくと、私は温泉に行く準備を始めた――10分後――カチャ……扉を開けて部屋の外へ出ると、ユダとトマスがこちらを振り向いた。「王女様、準備は出来ましたか?」「ええ、大丈夫よ」「それでは参りましょうか」トマスに促され、ユダに声をかけた。「ユダ。よろしくね?」「はい、承知いたしました。ところでクラウディア様……」「何?」「くれぐれもリーシャに怪しまれないようにして下さい」「……ええ。分かっているわ」「では行ってらっしゃいませ」「行ってくるわ」ユダが頭を下げてきたので、軽く手を振るとトマスに連れられて温泉へ向かった。**「ユダさんて、不愛想ですけどいい人ですよね?」宿屋の廊下を歩き始めると、すぐにトマスがにこやかに話しかけてきた。「そう? 本人が聞いたらきっと喜ぶ
last updateLast Updated : 2025-08-09
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第1章 45  信頼できる人物とは

「スヴェン、リーシャが『エデル』の兵士と仲良くなっていたって本当なの?」「もちろんさ。さっき温泉に行った時、入り口でリーシャの姿を見かけたから声をかけようとしたら兵士と仲よさげに話していたから驚いたよ。ひょっとして野戦病院で傷病兵の治療に当たっている時に親しくなったのかな……?」「そうなのね。きっと気があったのかしら?」スヴェンに動揺している姿を見られてはまずい……。何故なら彼は何も事情を知らないのだから。それに何よりユダに良い感情を抱いていない。無事に『エデル』に辿り着くには警戒を怠らず、何も気付いてないふりをして乗り切らなければならないのだから。すると、何を思ったのかトマスが口を挟んできた。「ですが、リーシャさんは僕が気付いたときは野戦病院にいませんでしたよ?」「あ、そう言えばそうだったな。確か井戸で汚れ物の洗濯をしていたって言ってたな。あれ……? うん、そうか。なるほどな」スヴェンが何か思い出したのか、頷いた。「どうしたの? スヴェン」「ああ、今思い出したんだけど、そう言えばリーシャと話をしていたあの兵士の姿もあまり野戦病院で見かけなかったんだよ。ひょっとして2人は一緒に井戸で洗濯をしている内に仲良くなったのかもしれないな」人の良いスヴェンは2人がどうやって親しくなったのか、自分の中で結論付けてしまった。「「……」」けれど、その話を聞いて穏やかでいられなくなったのは私とトマスの方だった。ひょっとしてリーシャは初めから『エデル』の兵士と内通していた? 今迄旅の途中で彼等の文句を言っていたのは私を油断させる為だったのだろうか?一度疑心暗鬼にとらわれてしまうと、中々拭い去ることができない。「どうしたんだ? 姫さん。顔色が悪いぞ?」スヴェンが驚いたように声をかけてきた。「そ、そう?」「ええ、スヴェンさんの言う通りです。王女様、酷い顔色をしていますよ?」トマスも心配そうに私を見ている。「大丈夫よ……」しっかりしなければ。『エデル』に嫁げば、私はこの先もっと周囲を警戒して生きなければならない。『聖なる巫女』と呼ばれるカチュアがアルベルトの前に現れ、彼と離婚を成立させるまでは……。これくらいのことで動揺するわけにはいかない。私は深呼吸して、気持ちを落ち着けるとスヴェンとトマスに声をかけた。「心配掛けてごめんなさい。や
last updateLast Updated : 2025-08-10
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第1章 46 沸き起こる彼女への疑念

 宿屋を出るとそのすぐ裏手に平屋建ての石造りの温泉施設が建っていた。出入り口の木製扉は2箇所あり、建物の奥からは薬草のような香りが漂っている。「こちらは右側が女性用、左側が男性用となっております。どうぞ身体の疲れを癒やして下さい」トマスが説明してくれた。「ええ。連れてきてくれてありがとう。でもこの建物は戦争でも無事だったのですね? 良かったです」「はい、この町が狙われたのは主に武器倉庫でしたから」「そうだったのね……」すると突然女性用の出入口の木製扉が音を立てて開き、奥からリーシャが姿を現した。「あ! クラウディア様! それに……」「トマスです。リーシャさん」トマスは笑顔で挨拶した。「そうでしたね。確かトマスさんと仰る方ですよね。すみません、名前をまだ覚えていなくて」頭を下げるリーシャ。「いいえ、そんなことは気にしないで下さい。ところで『クリーク』の温泉はいかがでしたか?」「はい、とても気持ちが良かったです。何だか身体が元気になれた気がします」「そうですか、それは良かったですね」にこやかに対応するトマスを私は感心しながら眺めていた。するとリーシャがこちらを振り向き、声をかけてきた。「クラウディア様は今から温泉なのですね」「ええ。そうよ」「それではお手伝いいたしましょうか?」「えっと……そうね……」メイドとしてはリーシャの台詞は当たり前なのだろうが、先ほどのスヴェンの言葉が頭から離れず、対応に困ってしまった。するとトマスがまるで助け舟を出すかの如く、リーシャに声をかけてきた。「リーシャさん。実は今後のことで大事なお話があるので、ひとまず宿屋に戻りませんか?」「え? 旅のことで……ですか? でも、私はクラウディア様のお手伝いを……」チラリとリーシャは私を見た。「私のことなら大丈夫よ。それに折角温泉から上がって来たばかりの貴女に手伝ってもらうのは気が引けるわ? これから後最低でも5日以上旅は続くのだから自分のことくらい、1人で出来る様にならないとね」「そうですか……?」「ええ、そうよ。それよりトマスさんが貴女に大切な話があるそうだから、まずは彼の話を聞いてあげてくれる?」「分かりました。クラウディア様がそうおっしゃるのであれば、そのようにいたします」そしてリーシャはトマスを振り返った。「では参りましょうか、リ
last updateLast Updated : 2025-08-11
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第1章 47 『クリーク』の今後と揉め事

 温泉は薬草湯のようで、若草色にハーブのような香りのするお湯だった。「確かにこの温泉に入ると疲れが取れそうね」誰もいない温泉のお湯に浸かりながら回帰前のことを思い出していた。前回、『クリーク』に立ち寄った時には温泉の存在すら知らなかった。何故なら町の人達から敵意のある目で睨みつけられ、しまいには命の危険すら感じるほどの悪意を向けられて逃げるようにこの町を去って行ったからだ。 『アムル』の村には『エデル』に到着後、アルベルトに頼んで復興支援の資金を捻出していく予定だが、この町には立派な温泉施設がある。敗戦で『エデル』の属国に下るという結果にはなってしまったが、戦争が終わって今後は平和な世の中になっていくはずだ。傷病者は全て回復して野戦病院の必要は無くなった。あの病院を温泉客の休憩所に作り替えて、この町を日本のように【湯治場】として栄えさせるのも良いかもしれない。「フフフ……こうして温泉につかっていると日本人として暮らしていた時の記憶が思い出されるわ……」子供たちが小さかった頃は家族4人で、月に2回は車で10分程の場所にあるスーパー銭湯によく行っていた。「皆……今頃どう過ごしているのかしら……」この世界で再び「クラウディア」として、回帰してからは気の休まることが殆どない。敵も味方もまだはっきりせず、危うい橋の上を歩いているような状況は息が詰まりそうになってくる。けれど、この温泉につかったことで少しは心と身体の疲れが取れていくような気がする。「この町を救うことが出来て良かったわ……」そして私は少しの間、温泉を堪能した――****「あら?」温泉から上がって、宿屋の廊下を歩いていると部屋の前でリーシャとユダが睨みあっている姿が目に飛び込んできた。一体何があったのだろう?嫌な予感がした私は、慌てて声をかけながら2人に駆け寄った。「どうしたの!? 2人とも!」「「クラウディア様!」」ユダとリーシャが同時にこちらを振り向いた。「い……一体、こんなところで何をしていたの?」駆け寄って来たので、息を整えながら2人に尋ねた。「クラウディア様の宿泊している部屋の前で立っていると、この女が文句を言ってきたのです」ユダは明らかに不機嫌そうな目でリーシャを睨みつけた。「この女っていう呼び方はやめて下さい。私はリーシャと言う名前があるのです
last updateLast Updated : 2025-08-12
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第1章 48 少しの休息

「待って、落ち着いてちょうだい。リーシャ」私は互いに睨み合うリーシャとユダの間に割って入った。「クラウディア様、ですが……」「あのね、実は私からユダに部屋の見張りをお願いしたのよ」「「え?」」リーシャとユダの声が重なるも、彼女はそのことに気付いている様子は無かった。「あの……一体それはどういうことなのでしょうか…?」「ええ、実はね。アルベルト国王に嫁ぐ為に私の血筋を示した家系図を持参するように言われているの。それはとても重要書類で、もし万一無くすようなことがあれば、私の身元を保証することが出来なくなってしまうのよ。そうすれば嫁ぐことすら出来なくなるわ。だから常に無くさないように持ち歩いていたのだけど……流石に温泉に入る時にそんな大事な書類を持って行くわけにはいかないでしょう?」「確かにそうですね……。温泉で濡らしてしまっても大変ですし」「そうなのよ。しかもあの書類は絶対に他の人々の目にも触れないようにしておかなければならないものだから、そこでユダに頼んだのよ。私が温泉に行ってる間に見張りをしてもらうようにね。何しろ彼は身辺警護をしてくれる兵士だから」「そうだったのですか……」リーシャはしんみりと返事をし、次にユダに向き直ると頭を下げた。「申し訳ございませんでした、ユダさん。事情も聞かずに責めたりして」「いや……別にいい。それではクラウディア様も戻られたことですし……俺はここで失礼します」ユダは一度だけ頭を下げると、すぐに行ってしまった。しかも、自分の部屋を通り過ぎ……宿屋の出入り口へ向って。え? ユダの部屋は私の部屋の隣なのに、一体彼は何処へ行ってしまったのだろう?少しの間、去っていくユダの後ろ姿を見つめていると背後に立つリーシャから声をかけられた。「クラウディア様」「何?」振り向き、平静を装って返事をする。「トマスさんに聞きました。『エデル』まで一緒に来られるそうですね」「ええ、そうよ」「しかも私達の馬車に一緒に乗るそうですが……」リーシャは不満そうに唇を研がせる。あ……まただ。こんな癖、回帰前のリーシャには無かった気がする。ユダにはリーシャに気をつけるように言われている。私自身、リーシャを信じたい気持ちはあるものの……少しずつ彼女に対する不信感が湧き上がってきている。ここは何としてもトマスを同じ馬車に乗せ
last updateLast Updated : 2025-08-13
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