研究室で爆発が起きた瞬間、恋人の黒瀬拓真(くろせ たくま)は、施設の一番外側にいた橘小春(たちばな こはる)に駆け寄り、彼女をしっかりと庇った。爆発音が止むと、真っ先に彼女を抱えて病院へ向かった。地面に倒れ、血まみれになっていた私のことなど、一度も振り返らなかった――十八年間も育ててきた「あの子」だけが、彼の心をすべて埋め尽くしていた。他の誰かが入り込む余地なんて、最初からなかったのだ。私は同僚に運ばれて、なんとか一命を取り留めた。ICUを出たあと、泣き腫らした目で恩師に電話をかけた。「先生、やっぱり私……秘密研究に同行します。一ヶ月後に出発して、五年間誰とも連絡を取れなくても大丈夫です」その一ヶ月後、本来なら私の待ちに待った結婚式のはずだった。だけど、もう結婚なんてしたくなかった。……私が入院していた間、見舞いに来てくれた人は途切れることがなかった。親戚や友人たちも、皆顔を見せてくれた。だけど、恋人であるはずの拓真からは、たった一本の電話がかかってきただけだった。「小春が泣き止まなくて、今どうしても手が離せないんだ。理咲(りさ)も自分のことは自分でなんとかしてくれ。小春は不機嫌でご飯も食べないから、俺が食べさせないとダメでさ……もう本当に困ったもんだよ」——なんて、情けない話なんだろう。十年も付き合ってきたというのに、彼にとって私の命の心配よりもあの姪っ子の食事の方が大事だった……そもそも最初に私を好きになって、必死にアプローチしてきたのは拓真のほうだったのに。私のことを陰で中傷する噂が立った時には、その相手に殴りかかって、大問題になる寸前だった。私が昔ながらの下町のエビの餃子を好きだと言えば、雨の日も風の日も構わず買いに走ってくれた。数学が苦手で、いつもテストで足を引っ張ってばかりだった私のために、徹夜でミスノートを作り、苦手問題の分析と解説までしてくれた。「一生一緒にいたい」って、しつこいくらいに私を追いかけて、告白してきたのは彼だったのに。なのに今では、小春のこととなれば、私のことなんてお構いなしに見捨ててしまう……。傷口からまだ血が滲んでいる。その痛みが教えてくれる。私のことを愛していない男なんて、もうとっくに捨ててしまえばよかったんだと。私は涙を堪えながら、S
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