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第8話

Auteur: 福原みのり
「陽翔、私、本気で彼に会うつもりなんてなかったの。ただ……」

誤解されたくなくて、私は言いかけた。

けれど説明の言葉を言い終える前に、陽翔が愛おしそうに私を見て、優しく言った。「君は本当に、不器用でただひたすら人に尽くすバカだな。そんな君が、口では正義を語りながら実際にはクズな奴に出会って、たくさん傷ついたんだろ?」

「もう、全部終わったことだよ」

拓真の言葉はいつも甘いけど、あの頃の私は本当に馬鹿だった。

彼の言葉を信じて、あの恋に何年も無駄に費やした。

陽翔は私を抱きしめ、優しく額にキスしてくれた。

翌日の昼、私は彼と一緒に実家へ挨拶に行った。

普段は誰に対しても物怖じせず、自由奔放な若き軍人の陽翔が、この日は終始おどおどしていて、我が家ではまるで別人のように礼儀正しく、控えめで、従順だった。

知らない人が見たら、「こんな猫かぶりもできるんだ?」と驚くだろう。

両親はそんな陽翔をすっかり気に入り、楽しそうにあれこれと話し込んでいた。

私も横で付き添っていたが、彼がここまでお喋り上手だとは、この時初めて知った。

「ホテルなんていらないわ。うちに泊まんなさい!ホテルはキャンセルして!」と母がその場で決定。

その間にも拓真から何度も電話があったが、すべて無視した。

夜、寝る前にふとスマホを見ると、彼からのメッセージが何十件も届いていた。

【理咲、着いたけど君はどこ?】

【道が渋滞してる?車が故障したの?】

【本当に来るつもりあるの?】

他のメッセージは見ず、私は一通だけ返事をした。【今日は急用ができたから、明日の昼12時にしよう。同じ店で】

陽翔が私の返信を見て、ニヤリと意地悪そうに言った。

「明後日は大雨らしいから、彼を山登りに誘って山頂に着いたら『やっぱ行かない』って言えば?あるいはエジプト旅行に誘って、到着してからドタキャンもありだな」

私はそれを「いいかも」と思って、全部実行した。

拓真は一ヶ月も翻弄され、最後にはぼろぼろになって我が家の前に現れた。

「ずっと俺のこと、からかってたのか?理咲……」

「からかってた?そんなつもりはなかったよ。ただ……あなたが私にしてきたことを思い出してただけ」

ドタキャン、すっぽかし、彼が得意としていたこと。私がしたことなんて、まだまだ可愛い方だ。

拓真の喉仏が上下に動き、しぶ
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