Semua Bab 唇に触れる冷たい熱: Bab 51 - Bab 60

86 Bab

嫉妬してるんだろ? 9

「結婚を……前提としたお付き合い?」 私は御堂《みどう》がそんな風に考えているなんて、思いもしてなかったから。真剣に彼と付き合いたいとは思っていたが、だからといって結婚はまだ考えて無くて。  ……ううん。考えなかったんじゃなくて、敢えて考えようとしなかったのかもしれない。御堂がいつ私から離れてもショックが少ない様に、彼の言う未来から目を逸らしていたのだと思う。「真剣に付き合ったからと言って、みんなが必ず結婚を考えるわけじゃないわ。御堂《みどう》だって、結婚を考えない付き合いをしたことくらいあるでしょう?」「……そんな意味のないことに興味はない。俺は真剣に家族になりたいと思うから、今こうして紗綾《さや》と付き合っている」 そんな訳ないじゃない。御堂《あなた》みたいな良い男を、誰もが放っておくわけがないんだから。「疑っています、って顔をしているな。ならば俺の言葉が信じられるようになるまで、何度だってお前に伝えてやる」 「……もし、よ?」 彼の言葉を本当に信じていいの? 私の過去の過ちを、この人は本当に受け止める事が出来る……?「なんだ? 話してみろ」 「もし私が……誰かを――――」 そう言いかけた所で、御堂が放送で呼ばれてハッと正気に戻る。  私は何をやっているの? 彼の優しさに甘えて、こんな醜い自分を受け入れてもらおうだなんて……「変なこと言ってごめんなさい。私は先にデスクに戻るわね」 私はまだ何かを言いたそうにしている御堂と目を合わせないようにして、彼をその場に残し急いでオフィスへと戻った。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-17
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変わらないさ 1

 御堂《みどう》だったら素直に話せば、こんな私だって受け入れてくれるかもしれない。そんな風に期待もするけれど、本当にいいのだろうかと迷ってしまう。 私が御堂を相手に同じ過ちを繰り返さないという保証も無く、このままどんどん彼に惹かれていくのが怖くて。 デスクに座りパソコンの電源を入れる。まず今日の仕事内容とメールフォルダのチェックをしなくては。 送られてきたメールの中に、懐かしい名前を見つけてドキリとする。嫌な感覚が背中に走って、周りに悟られぬよう平然を装った。 それでも…… 「……彬斗《りんと》君、今更どうして?」 伊藤《いとう》 彬斗《りんと》君は二年前までこのオフィスで一緒に仕事をしていた男性で、一年間程は付き合った私の元カレでもある。 今は県外の支社で働いていると、噂で聞いていたのだけれども。 色々あってあまり良くない別れ方をしたのもあり、それからずっと彼とは音信不通の状態だった。 もちろん、今はお互いの電話番号もアドレスだって知らない。だからこそ淋斗君は、こうして社内メールを使ってきたのだろう。 マウスをクリックして恐る恐るメールを開く。不安と緊張から心臓がバクバクと鳴っているのが分かる。『紗綾《さや》、久しぶりだな。近々、俺はそっちに戻る事になりそうなんだ。せっかくだから、今度飲みにでも行こうぜ? 伊藤 彬斗』 短い文を読み終えて大きく息を吐く。今更、私と彬斗君の二人で話すことなんて何もないでしょうに。 ……それともあの時の事を、まだ責めたりないの?「主任!? 顔、真っ青ですよ?」 横井《よこい》さんから声を掛けられて、慌てて見ていたメールを消去する。こんなの彼の気まぐれに違いない、いちいち気にする必要ないはずだ。「大丈夫、ちょっと貧血気味なの。心配かけてごめんなさいね」 そう言って微笑んで見せると、横井さんは「鉄分サプリ、飲んでくださいね」と、サプリメントをボトルごと置いていってくれた。 午前の仕事があらかた終わり、見直しをしているうちに昼休みに入る。  隣席の横井《よこい》さんに「今日、お昼一緒に食べましょう」と声を掛けられて「分かったわ」返事をした後で、水筒を家の玄関に忘れてきてしまった事を思い出した。「ちょっと、自販機でお茶を買ってくるわね?」 そう横井
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-18
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変わらないさ 2

 ああ、馬鹿馬鹿しい。私が誰とどんな恋愛をしようと、本当は興味なんてなかったくせに。御堂《みどう》の相手が私だと分かった途端、そんな過去をほじくり返してくるなんて。「そうね、彼のお陰かしら? もう一度恋愛するのも悪くないかな、って思えるようになったのは」 言われっぱなしになるのも癪で、ちょっとだけ嫌味を含めて言いかえすと三人とも顔を強張らせた。やってしまった、これは流石に逆効果だったかも。「そうですね、その御堂さんを今度こそ、別の女性に奪われないように頑張らないといけませんもんね? ……そう言えば、長松《ながまつ》さんは知っていらっしゃいますか。伊藤《いとう》さん、もうすぐこっちに帰ってくるみたいですよ?」「……ええ、そうらしいわね」 わざとらしい嫌味の言葉は全部無視して、彬斗《りんと》君の事にだけ答える事にする。もうこれ以上、この人たちの挑発に乗ってあげる気はない。「長松さんは彼の事、気になりません? だって、ずっと引きずっていたんでしょう?」 心配そうに声をかけてくるけれど、それこそ余計なお世話よね。そんな事を私から聞き出して一体どうしたいっていうの?「私が彼を引きずっているかどうかは、貴女達には関係ないわよね? また同じオフィスで働くことになるんだし、少しくらいは気にするでしょう?」「ほら! そう言うって事は、やっぱりまだ伊藤さんの事が特別に気になっているんですよね!」 彼女たちはどうしても、私が彬斗君をいまだに引きずっている事にしたいらしい。その方が都合の良い何かがあるという事だろうか?「ねえ、貴女達はいったい……?」「今の聞きましたよね、御堂さん! 長松さんは、まだ伊藤さんの事が好きなんですよ!」 彼女の言葉にギョッとして階下を見れば、そこには御堂《みどう》の姿が……きっとこの女性社員達に、隠れて会話を聞いているように言われたのでしょうね。 まさかこんな言葉を聞かせるためだけに、このくだらない会話をさせられたのだと思うと腹が立って仕方ない。だけど…… この人は、今の言葉を聞いてどう思っただろうか――「御堂……」 彼の事を信じようと思ってはいたけれど、自分の過去を知られることに不安を感じている私はとても怖くなってしまって。「御堂さん、本当にいいですか? 長松《ながまつ》さんは他の男性を好きなまま、御堂さんと婚約しちゃうよ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-18
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変わらないさ 3

 どうしよう、こんな状況で御堂《みどう》の言葉にどう答えればいいのだろう? 私がこの場で「違う」と言っても、きっと彼女達の都合に良いように話を変えられてしまう。 こんな時、上手く返す事の出来ない口下手な自分がとても悔しいけれど……このままでは、この女性達を喜ばせてしまうだけだと思い慎重に言葉を選んだ。「私は御堂に対して、後ろめたいことは一つもしていないわ。例え何かがあったとしても、それは私と彼の二人の問題よね?」 これが今の私に言える精一杯、彼女達が何と思っても御堂……貴方が信じてくれれば、それでいいのだから。「そんな事言って、このまま御堂さんを丸め込むつもりですね? 本当に長松《ながまつ》さんて狡い女性ですよね」「そうですよ! こんな人に誤魔化されないでください、御堂さん」 誤魔化そうなんて、そんなつもりは全くないのに。どうあっても彼女達は私を悪者にして、御堂と仲違いをさせたいらしい。 彼の視線と、彼女達の私を責める言葉がジワジワと胸に刺さってくるから……今すぐにでも、ここから逃げ出したいと思ってしまった。「そうだな、俺も騙されるのはあまり好きじゃない」 一歩、また一歩と御堂は私に近付いて来る。勝ち誇った笑みを浮かべる彼女達とは正反対に、この場に立っているのがやっとになった私。 だけど……「だがな、紗綾《さや》は昔から一度だって俺を騙そうとしたことなんてないんだよ」 そのままそっと私の肩を抱くと「そうだろう?」と御堂は問いかけてくる。そんな小さい頃のことまで、この人はちゃんと覚えてくれていたのね。「御堂……」「それに……君たちと紗綾《さや》どちらかを信じろと言われたら、俺は間違いなく彼女を選ぶから」 ハッキリと女性社員達に向けての言われたその言葉に安心し、私は素直に肩を抱いてくれた彼に寄り掛かる。 彼女たちは悔しさに震えながら私と御堂を睨むだけ。このままでは済まさない、彼女達の表情はそう言いたそうにも見える。 でも大丈夫、御堂《みどう》ならばどんな私も受け入れてくれる。やっとそう思えるようになってきたから。「そんな事言ってると、そのうち長松《ながまつ》さんが伊藤《いとう》さんに……!」 やはりまだ諦めきれないのか、どうあっても私を責めたい様子。でもそんな彼女を見て御堂の目が鋭くなる。「まだ言うのか? お前たちが何を
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-18
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変わらないさ 4

 ◇◇◇◇◇◇◇◇「お久しぶりの方もいらっしゃいますが、自己紹介をさせていただきます。こちらのオフィスで二年前まで働かせていただいていた伊藤《いとう》 彬斗《りんと》です。よろしくお願いします」 あれから女性社員達からの嫌がらせは無くなり、少しの間は落ち着いていたけれど。そんな日はあっという間に過ぎて……彬斗君がこの場所に戻って来たのだった。 二年ぶりという事もあり、男性にも女性社員にも囲まれて忙しそうに話している彼を見てホッとする。この様子なら彬斗君の事はしばらく周りの人が放っておいてくれないでしょうから。「彼が伊藤 彬斗か。見た感じだけなら好青年だが……まあ、それだけじゃないんだろうな」 いつの間にか御堂《みどう》が私の傍に来て、そっと囁いた。そうね、彼には良い所もあったけれど悪い所もあった。もちろんそれは私も同じことなんだけれど。「大丈夫、何かあったとしてももう過去の事よ。それより上司の御堂さんが、こんなところでサボっていていいのかしら?」 そう返せば、御堂はやれやれという顔をして自分のデスクに戻っていったの。 ごめんなさいね、心配してくれるのは嬉しいけれど……私はこれ以上なるべく御堂を巻き込みたくないの。 そう思ってチラリと彬斗君を見ると、彼と目が合った気がして急いで机の書類に視線を戻した。笑っているようで、笑っていない――こちらを見つめる彼の瞳が恐かった。「主任! 伊藤《いとう》さんって前はこのオフィスで働いていたんですね。結構カッコ良いし、人当たりもよさそうな感じ……」「そうね、前から仕事も出来て先輩にも後輩にも好かれる人だったと思うわ」 そう、私の知っている社会人としての伊藤 彬斗《りんと》はそういう人物だった。恋人としての彼は、また違っていたけれど。「そうなんですか。彼女とかいるのかなあ? 何とか、お近づきになれないですかねえ……?」 横井《よこい》さんのその言葉に、私は御堂《みどう》が来た時の朝を思い出してしまう。確か、あの時も隣に座っていた横井さんが……「横井さん、御堂さんが来た初日と同じような事を言っているわよ?」 そう返すと横井さんもそれを思い出したのか、キョトンとした顔をしたがすぐにお互い顔を見合わせて笑ってしまった。「でも、でもっ! ……御堂さんはもう主任だけしか見て無くて私の入る隙なんてありませんし。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-19
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変わらないさ 5

「り……伊藤《いとう》君……」 驚いて名前で呼びそうになって、慌てて言い直す。さっきまで他の社員に囲まれていたのに、どうやって抜け出したのだろう?「伊藤さん! 初めまして、横井《よこい》 麗奈《れな》です。まだ新人なので、伊藤さんに色々教えてもらいたいです」 立ち上がり嬉しそうに挨拶する横井さん。彬斗《りんと》君もいつもの優しい笑顔で彼女と握手をしている。「横井さんかあ、よろしくね?君は隣席の長松《ながまつ》さんと仲が良かったりするのかな……?」 その時、彬斗君に横目でチラリと見られてゾクリと嫌な予感がする。何を考えているか分からない、無機質なあの瞳の奥が恐い。「ええ、仲良しです。でも主任にちょっかい出しちゃだめですよ? 主任は御堂《みどう》さんと婚約されてて、ラブラブなので!」「ちょ、横井さん! そんな事まで言わなくてもいいのよ」 慌てて横井さんの言葉を遮るように二人の間に入ったが、どうやら淋斗君にはしっかり聞かれていたようで。「は、紗綾《さや》が……婚約? あの、課長代理と?」 彬斗君は小さな声でそう呟いて、信じられないようなものを見る目で私を睨んだ。まるで『お前が幸せになるなんて、許さない』とでも言うように……「すっごくお似合いのカップルだと思いません? あーあ、結婚式が楽しみだなあ……」「……そうだね。横井さんから良い話が聞けたな、また今度詳しく聞かせてね?」 横井さんに柔らかな笑顔でそう言うと、彬斗君は他の社員の所へ。嬉しそうな顔をしている横井さんと、怖さで心臓がバクバクと音を立てている私。 これから彬斗君にどう振り回されるのか、頭の中は不安でいっぱいだった。 自分ばかりが頼るだけになりたくない、御堂《みどう》とは対等な関係でいたいのに……自分の弱さに負けて私は彼に甘えてばかりな気がする。 もっと強くならなきゃ、自分のことぐらい自分で解決できるように。「……そうだったんですね、何か様子がおかしいと思いましたけれど」 昼休み、二人きりで話せるように横井《よこい》さんを資料室に呼び出した。 私が彬斗《りんと》君と自分のことを簡単に話すと、彼女は特に驚く様子もなくあっさりと受け入れた様子で。私は時々、横井さんの事を年下だと思えなくなるわ。「それって主任は良いでしょうけれど、見ているだけの御堂さんは気が気じゃないんじゃない
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-19
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変わらないさ 6

「貴方に話したいことがあってきたの……」 ここは御堂《みどう》のマンション。オートロックの前で勇気を出して彼の部屋番号を押して何度も考えた台詞を言った。 会社で話すことも考えたけれど、誰かに聞かれる可能性を考えるとやはり二人きりの方が良かった。「紗綾《さや》、お前はこんな時間にここまで一人で来たのか? ドアを開けるからすぐに上がって来い」 御堂がそう言うと同時に玄関のドアが開く。彼の口調は悪いけれど、まず私の心配をしてくれる本当はとても優しい人。「ありがとう、御堂」 エレベーターに乗って御堂の階へ着きドアが開くと、エレベーターのすぐそばで御堂が待っていた。もう、本当に……「心配性ね、あなたは」「紗綾にだけ、特別にそうなるようにプログラムされているからな」 そんなこと真面目な顔で言わないで欲しい、こっちの方がテレてしまうから。揶揄《からか》うつもりが逆に揶揄われて……やっぱり御堂の方が何枚も上手だわ。「そんな事よりも早く部屋に入れ。まったく、電話をすれば迎えに行ってやったのに」「そう言われると思ったわ。でも話すのに心の準備に時間が必要だったのよ、だから許して?」 御堂の顔を見て微笑むと、彼は仕方がないとでもいうような溜息をついてみせる。ごめんなさいね、貴方を困らせてばかりで。 だけど今から話す事で、私は御堂をもっと困らせることになるのかもしれないけれど…… 言われるまま御堂《みどう》の部屋に入ると、すぐにソファーに座らされる。私に待ってろとだけ言ってキッチンに消えた御堂。そんな彼が戻ってくるまでに、何から話すかをしっかり考える。 今までは誰にも言う事が出来なかった、あのことも……今日こそは御堂に話す事が出来るだろうか?「ほら、ホットミルクだ。今の紗綾《さや》にはこれが良いだろう?」 いつの間にか傍に来ていた御堂に、温かなマグカップを手渡される。飲んでみるとちょうど良い温度で、ホッと緊張がほぐれていくのが分かる。「ふふふ。私の知っている御堂はいつも完璧で、貴方に出来ないことなんてないみたい。でも、たまには弱みなんかも見せて貰いたいものね」「弱み、か……紗綾が俺から逃げない、という確信が持てたら少しくらいは見せてもいいかもな?」 そう言ってゆっくりと隣に座る御堂の持っている飲み物は、きっとブラックのコーヒーでしょう。彼に限って意外
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-19
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変わらないさ 7

「御堂《みどう》は本当の私を知っても、絶対に離れないでくれる?」 そう……私はそれがずっと怖くて、あの時から誰とも付き合ったりすることが出来なくなっていた。誰かに本当に自分を知られてしまう事が恐くて、誰かの傍に立つ勇気も出なかった。 この人に再会するまでは――「ここまで追いかけてきて、やっと捕まえたんだ。紗綾《さや》にどんな秘密を打ち明けられても、俺からは決して離れない」 どんな私も受け入れてくれるという、御堂の言葉にホッとする。本当に、私を捕まえてくれたのが貴方で良かったと思うの。 私は渡されたホットミルクを飲み干して、カップをテーブルに置く。それを合図だと受け取った御堂も、自分のカップの中身を飲み干してテーブルに置いた。「御堂は気付いていると思うけれど、伊藤《いとう》 彬斗《りんと》……彼とは以前、恋人同士だったの」 「ああ、あの女子社員たちの話から大体の想像はついていた」 そうよね、御堂は分かっていたから彬斗君とはあまり関わらないように言ってくれたのよね。「付き合った期間は、一年程度だったけれど……楽しかったのは、最初の半年くらいまでだったわ」 「どうしてか、紗綾が嫌でなければ理由を聞いてもいいか?」 辛かった過去を思い出して、つい俯いてしまう、そんな私の肩を心配そうに抱いてくれる御堂。少しだけ伝わってくる彼の体温が、私の心を穏やかにしてくれる。 「御堂《みどう》に聞いて欲しいの、貴方にはありのままの私を受け入れて欲しいから」 御堂に甘えるように、私は静かに彼の肩に頭を置いてみる。その後頭部にそっと手を添えて、優しく私の髪を梳いてくれるのが好き。「……そうか、ゆっくりでいいから話してみろ。俺が紗綾《さや》の全てを受け止めてやる」 その言葉に目が熱くなって、何かが溢れてしまいそうでギュッと瞳を閉じる。まだ……泣くのは早いでしょ。 涙を堪えているのがバレないように、息を大きく吸って吐くと少しだけ落ち着いてきた気がした。「彬斗《りんと》君は最初は私にとても優しくしてくれて、人気者の彬斗君が私を選んでくれたんだって有頂天になっていたわ。だけど、そんな幸せも最初の半年程度だったの。魅力的な彼には、すぐに別の女性の影がちらつくようになって……」 「それで別れたのか?」 そうよね、普通はそうするべきだったのかもしれない。そうすること
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-20
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変わらないさ 8

「……そうだったのか」 それ以上、御堂《みどう》は何も言わない。そうよね、御堂にとって気分の良くない話をしていることは分かっているけれど…… それでも隠していて、変な形で御堂に知られるよりはいいと思ったの。「私はこれ以上、彬斗《りんと》君の心が私から離れていくことが怖かった。きっと耐えられないと思った、だから……」 一番話さなければいけない事なのに、それ以上はどうしても言葉が出ない。今の私は、この話で御堂を失う事がとても怖いから。「だからその時、私はね……っ!」 いきなり塞がれた唇、触れたその柔らかさに驚きで瞳を閉じることも出来ない。軽く何度か口付けした後に離れていくその温もり、それを少し寂しくも感じてしまった。「御堂、どうして?」「無理に話す必要はないんだ、紗綾《さや》。たとえそれがどんな話だったとしても、紗綾に対する俺の気持ちは少しも変わらないさ」 力強い彼の言葉に、御堂の想いの強さを感じさせてくれる。私への気持ちが永遠に変わらないかのようにも思わせてくれる。「本当に変わらない? 彬斗君の想いは、すぐに変わってしまったのに?」 「俺をそんなくだらない男と一緒にするな。俺はずっと紗綾しか想えない……きっとジジイになっても、だ」 その言葉に吹き出しそうになる。だって……この御堂がお爺さんなんて、想像するだけで楽しいもの。「凄い頑固ジジイになっていそうよね、あなたは」 「そうだろう? そんな頑固ジジイの俺を、紗綾《さや》が傍で支えてくれると思ってるんだが」 そんな先まで……御堂《みどう》は本当に私を必要としてくれているのね。この人はいつも私が欲しい言葉をくれる、不安に感じる未来も明るいものに変えてくれるの。「御堂がそう望んでくれるなら、私はずっと貴方の傍にいたいと思っているわ」 そう、あの事を話しても御堂の私を見る目が変わらなければ。だけど、本当はまだ怖くて……「もう少しだけ心の準備をする時間が欲しいの……ちゃんと貴方に話す心の準備、それが出来たら聞いてくれる?」 「ああ、いつでも受け止めてやる」 そう言ってくれる御堂の胸に身体を預けて強く抱きしめてもらえば、彬斗《りんと》君の事も……あの女性社員達の事も何とかなりそうな気がしてくる。 これは私が、御堂を信じているって事なのかしら。 その体勢のままピンと背筋を伸ばして、彼
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-20
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受け入れるから 1

 彬斗《りんと》君が支社に戻ってきて一週間、表面上は何事もない様に過ぎていた。 しかし時々私の机の中に身に覚えのない悪口を書かれたメモや、カッターの刃などが入っていたりと……やはりまだ燻っているで。「幼稚でくだらない、こんなのは学生レベルの嫌がらせですよねえ?」 今日も私の机からメモ用紙を取り出して内容を確認した後、クシャクシャに丸めて捨てる横井《よこい》さん。 心配してくれるのは嬉しいけれど、彼女にまで被害が出ないか少し心配だった。「御堂《みどう》の事で懲りたのかと思ったけれど、まだまだ平気そうね。この程度なら放っておくわ。」「エスカレートしてきたら、すぐに御堂さんに相談してくださいね。私もなるべく目を光らせますけど!」 本当に力強いわ、横井さんは。私は周りの人に助けてもらってばかり、いつか私も助ける側になれるよう頑張らなきゃ。「……ところで、伊藤《いとう》さんの件はどうなっています? 直接的には関わってきていないようですけど」「……ええ、何度か社内メールが来ているけれど。誰に対しても不自然ではない内容だから、今のところ何とも言えないわね」 横井さんは少し不安そうな顔をしている。もしや彬斗君から彼女の方に何かコンタクトがあったのだろうか?「横井さん?」「実は……伊藤さんから社内メールで何度かお昼に誘われたんです。多分、主任と御堂さんの事を探ろうとしているんじゃないでしょうか?」 横井さんの言葉に背筋がゾクッとした。彬斗君が横井さんに近付いてまで私たちの事を……?「もちろん断っているんですけど、伊藤《いとう》さんが思ったよりもしつこくて……たまにすれ違う時の、彼の視線がちょっと怖いんです」 横井《よこい》さんの言葉に、これ以上彼女に嫌な思いをさせては駄目だと思った。彬斗《りんと》君をこのまま放っておくわけにはいけないわね。 横井さんにこれ以上は彬斗君のメールに返事をしないように伝えておく。 隣の席の横井さんが席を外したのを確認すると、メールボックスを開けて彬斗君のメールアドレスを探した。『これ以上、横井さんにちょっかいを出すのは止めて欲しい。私に用があるのなら私に直接お願い』 という内容を打ち込むと、勇気を出して彼にメールを送る。 この時の私は横井さんを守る事で頭がいっぱいで、その場にいなかった御堂《みどう》にきちんとこの話
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-21
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