深雲の顔色から、さっと余裕が消えた。景凪は思わず冷笑を漏らす。やはり図星だったか。何年も共に過ごしてきた深雲の考えなど、手に取るように分かる。皮肉な話だ。この男は決して冷血漢ではなく、むしろ「家族」を何より大切にする人間なのだ。ただ、彼が最優先に守ろうとする家族が、景凪と築いた家庭ではなく「鷹野家」という一族だったというだけで。「清音。パパとママは大事なお話があるから、あっちで音楽でも聴きながらお勉強しててくれるかな?」深雲は優しい声で清音を促した。景凪は冷ややかにそれを見つめていた。深雲の手には清音のリュックが握られている。用意周到なことだ。空気の違いを敏感に察した清音は、パパとママの顔を交互に見比べた後、不安げに景凪を見上げた。「ママ……私、お勉強してるね」「ええ、偉いわね」景凪は無理に微笑みを作り、清音の頭を優しく撫でた。「分からないところがあったら、いつでもママに聞いてね」「うん!」清音はリュックを抱えて部屋の隅のテーブルに向かい、ヘッドフォンをつけて大人しくノートを広げ始めた。景凪はすぐに歩み寄り、娘の頭からヘッドフォンを外した。「清音、音楽はスピーカーで流していいのよ。ずっと耳を塞いでいると、耳が痛くなっちゃうからね」こんな幼い子供にまでヘッドフォンを強要するとは。深雲の無神経さには本当に呆れる。景凪は忌々しげに男を睨みつけると、そのままツカツカとバルコニーへ向かった。深雲も黙ってその後を追う。バルコニーのドアは半分だけ開けてあるが、部屋の端で音楽を流している清音の耳までは届かない。深雲は目の前の景凪を見つめ、唇をきつく噛み締めた。やはりその目には、本物の痛ましさが浮かんでいる。「……随分、痩せたな」だが、景凪はそんな同情には一切乗らず、冷徹に言い放つ。「私が痩せようが太ろうが、あなたには何の関係もないわ」深雲は小さくため息をつき、一度部屋へ戻って薄手のブランケットを取ってくると、景凪に差し出した。「俺のジャケットは、どうせ着てくれないだろうからな」自嘲気味に苦笑する。「冷えるから羽織っておけ。清音も心配する」「……」差し出されたブランケットを見て、景凪は数秒躊躇ったが、無言でそれを受け取った。「ありがとう」景凪が肩に羽織るのを見て、深雲の表情がわずかに和らいだ。
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