闇(くら)い。 瞼をゆっくりと持ち上げると、真っ暗闇の中にいることを認識した。しばらくは自分がどこにいるのか、何をしていたのか思い出せずにいた。記憶の靄が晴れるまで、私は静かに時の流れを待った。 そうだった。血石で装飾された棺の中で、愛する人の魂が再びこの世に現れるのを待っていたのだった。 果たしてあれから何年が経ったのだろうか。時間の感覚は曖昧になっていた。 重い棺の蓋を両手で押し上げると、新鮮な空気が胸いっぱいに満ちた。久しぶりに感じる生の感覚に、私の心は僅かながら躍動した。「お目覚めですか、陛下」 カツカツと靴音を響かせながら、執事のエリックが玉座の間に足を向けてくる。以前とは違い、髪を短く切り揃え、見たことのない服装で私の前に現れた。「あれからどれほど時が過ぎたのだ?」 私は左手の人差し指に嵌められた血石の指輪を指先で撫でながら、エリックの装いをまじまじと見つめた。それから自分の服装に目を向けると、時代錯誤も甚だしい有様だった。 銀の刺繍が施された生地のブラウスに黒いパンツ、そして漆黒のローブを纏った姿は、明らかに吸血鬼であることを示していた。自分でも苦笑してしまいそうになる。 それに比べてエリックは、真っ白なシャツに黒いネクタイ、黒いジャケットと黒いパンツという現代的な装いだった。「陛下がお眠りになられてから、およそ三百年ほどでございましょう」 エリックは涼しい顔でそう答えた。三百年という途方もない時間を、まるで昨日のことのように語る。「陛下がお目覚めになられたということは、あの方がお戻りになられたのですね?」 私は棺の縁に手をかけて外へ出た。血石があしらわれた棺は宝飾品で一面に飾られており、一見すると巨大な宝石箱のようだった。 ローブを翻し、足音を響かせながら玉座へと向かう。どっしりと腰を落ち着け、足を組んだ。「そうであろうな。この胸の感覚は間違いない」 その時、窓から月明かりが差し込んできた。私の青白い肌をさらに白く際立たせる光。月光のように白い瞳に、久しぶりに力が宿るのを感じた。 胸に手を当てると、奥深くで脈打つ懐かしい魂の気配を感じ取ることができた。千年前に愛した、あの美しい青年の魂が――。 この世界のどこかで、再びその魂が息づいている。私は左手人差し指の指輪をそっと撫で、瞼を伏せた。指輪に埋め込まれた血
Last Updated : 2025-07-17 Read more