Semua Bab 会わない恋人: Bab 1 - Bab 10

20 Bab

第1話 醜い私

 洗面台の鏡に映る顔を見るたび、私は心の底から嫌になる。 どうして私はこんなに醜いのだろう。目は小さくて一重で、鼻は大きくて形が悪い。輪郭だってぼんやりしていて、とても十六歳の女の子の顔だなんて思えない。友だちのお母さんに間違われたこともある。それも一度や二度じゃない。 でも、だからって、なにもしないわけにはいかない。 私は丁寧に髪をブラッシングする。昨夜アイロンをかけておいた制服に袖を通し、スカートのプリーツが乱れていないか確認する。靴下もきちんと伸ばして、靴紐も結び直す。 これが私の、せめてもの抵抗だった。 顔は変えられないけれど、せめて身だしなみくらいはきちんとしていたい。そうしていれば、少しはマシに見えるかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら、今日も鏡の前で身支度を整える。「紀子、朝ごはんよ」 一階からお母さんの声が聞こえた。私は最後にもう一度鏡を見て、小さくため息をついた。 今日もまた、長い一日が始まる。 *  家を出るとき、私はいつものように人通りの少ない裏道を選んだ。大通りを歩けば同級生に会う可能性が高いし、なにより人の視線が怖い。すれ違う人たちが私を見て、心の中でどんなことを思っているか想像してしまう。「あの子の顔、可哀想に」「まだ高校生なのに、あんな顔で」 そんな声が聞こえてくるような気がして、私は俯いて歩く。 桜の花びらが風に舞っている。薄いピンク色の花びらが青い空に映えて、とても美しい。普通の女子高生なら、友だちと一緒にこの桜を見て「きれい」って言い合って、写真を撮ったりするんだろうな。 でも私には、そんな友だちはいない。 学校の門をくぐるとき、胸がきゅっと締め付けられた。今日もまた、あの教室に入らなければならない。みんなの視線を感じながら、一人で過ごさなければならない。 私は深く息を吸って、覚悟を決めた。 *  教室に入ると、もうクラスメイトの何人かが登校していた。私はいつものように、一番後ろの隅の席に向かう。ここなら目立たないし、みんなの楽しそうな会話を聞きながらも、無理に参加する必要がない。「昨日のドラマ見た?」「見た見た! 最後のシーン、超感動した」「あの俳優さん、めちゃくちゃイケメンだよね」 女子たちの華やかな会話が教室に響く。中でもひときわ美しい声で話しているのは、桧葉彩音さんだった
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-19
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第2話 届かない想い

 中学三年生の春、私は人生で初めて恋をした。 相手は同じクラスの花崎稔くん。背が高くて、いつもにこにこしていて、誰に対しても優しい人だった。体育祭では応援団長をやっていたし、文化祭では実行委員として活躍していた。クラスの中心にいるような、まばゆい存在。 私なんかとは正反対の人だった。「おはよう、神林さん」 ある朝、教室に入ったところでちょうど稔くんと鉢合わせ、稔くんが私に声をかけてくれた。その瞬間、心臓が止まりそうになった。これまで話なんてしたこともなくて、挨拶でさえろくに交わしたことがなかったから。「お、おはようございます」 私は慌てて返事をしたけれど、きっと顔は真っ赤になっていたと思う。稔くんは困ったような笑顔を浮かべて、すぐに他の友だちのところへ行ってしまった。 それから私は、稔くんのことばかり考えるようになった。 朝起きると、今日は稔くんと話せるかな、なんて思うようになった。学校に行く前は、鏡を見ながら少しでも可愛く見えるように髪を整えた。でも結局、鏡に映った自分の顔を見て、やっぱり無理だと思って絶望した。 こんな私が稔くんに話しかけたら……きっと迷惑に思われてしまう。 授業中も、稔くんの後ろ姿をじっと見つめていた。時々、振り返って笑顔を見せてくれることがあったけれど、それは私に向けられたものじゃなくて、私の後ろの席の友だちに向けられたものだった。当然のことなのに、そのたびに胸が痛んだ。 放課後、図書室で一人で本を読んでいると、稔くんがやってきた。「神林さん、いつもここにいるよね」「あ、はい。静かで……好きなので」「俺も本好きなんだ。今度、おすすめの本教えてよ」 稔くんはそう言って、私の隣の席に座った。こんなに近くに稔くんがいるなんて夢みたいだった。それと同時に、自分の醜い顔を見られているという恐怖で体が震えた。緊張と嬉しさと怖さ……全部の感情で手に汗がにじむ。 それでも私は、稔くんと会話を続けようと声を振り絞って聞いてみた。「ど、どんな本がお好きですか?」「冒険小説とか、SF小説とか。神林さんは?」「私は……恋愛小説を読むことが多いです」「へえ、そうなんだ。今度読ませてもらおうかな」 稔くんはそう言って微笑んだ。その笑顔があまりにも優しくて、私は胸が苦しくなった。 この人が私のことを好きになってくれることなんて
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第3話 新しい扉

 高校生活も数カ月が過ぎた。 高校生になっても、私の立ち位置は中学のころと、まったく変わらなかった。休み時間は一人で本を読み、昼食も一人で食べる。話しかけてくれるクラスメイトもいるにはいるけれど、どこか遠慮がちで、深い関係になることはなかった。 わかりやすいいじめのような嫌がらせなどはないけれど、きっと私の顔を見て、関わりを避けているのだろう。そう思うと、新しい環境でも現実世界では、希望を持つことができなかった。 ――ネットの世界は違った。 最初は恐る恐る触っていたけれど、だんだん使いかたがわかってくると、楽しさが込み上げてきた。インターネットで好きなアニメの情報を調べたり、新刊の発売日を確認したり、たくさんの事が出来るようになった。 そして、SNSというものの存在を知ったときに、私の世界が大きく変わったのだ。 メッセージアプリの『Linc』、写真投稿の『Snapsee』、短文投稿の『Spora』と画面に表示される様々なアプリや掲示板サイトを見ながら、私は迷っていた。どれから始めればいいのか、まったくわからない。 最初に手を出したのは、アニメの感想を書き込める掲示板のサイトだった。『魔法少女リリカル・ナナ』という私の大好きなアニメについて語り合える場所があると知って、興味を持ったのだ。 書き込みをするには、まずアカウントを作らなければならない。「ユーザー名を入力してください」 画面にそう表示されたとき、私は手が止まった。 なんて名前にすればいいのだろう。本名は絶対に嫌だった。もしも現実の知り合いに見つかったら、恥ずかしくて死んでしまう。想像しただけで、恐怖を感じてしまう。 しばらく考えて、私は「NORI」と入力した。「紀子(きこ)」は「のりこ」とも読める。その「のり」から取った、シンプルな名前。これなら本名だとバレることもないし、覚えやすい。「アイコンを設定してください」 次に表示されたのは、プロフィール画像の設定画面だった。 顔写真なんて絶対に無理。本名を使うことより恐ろしい。だからといって、なにも設定しないのも味気ない。 そこで私は思いついた。自分で描いたイラストを使えばいいのではないだろうか。 中学時代から、趣味で漫画やアニメのキャラクターを模写するのが好きだった。特に『魔法少女リリカル・ナナ』の主人公・ナナちゃんを描く
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第4話 逃げる理由

 高校生になってもうすぐ一年が過ぎようとしている。最初はおっかなびっくりだったSNSも、今では私の生活に欠かせないものになっていた。 朝起きて最初にすることは、昨夜の間に来ていた通知をチェックすること。学校から帰って真っ先にするのも、やっぱりスマホを開くこと。現実の世界では相変わらず透明人間のような私だけど、ネットの中では「NORI」として、確かに存在している。 今日も放課後、自分の部屋でスマホを開く。いつものアニメ掲示板には、昨夜投稿した作品の感想レビューに、たくさんのレスがついていた。『NORIちゃんのレビュー、いつも的確で参考になります!』『この作品、私も気になってたんです。今度見てみますね』『NORIさんのイラスト、本当に上手ですね。プロ志望ですか?』 画面を見ながら、自然と口元が緩む。こんな風に誰かに認めてもらえるなんて、現実の世界では考えられない。クラスでは誰とも会話らしい会話をしない私が、ネットでは毎日何十人もの人とやり取りをしている。 特に仲良くなったのは、「アキ」「みー」「タケシ」の三人。みんな同じような年代で、アニメや漫画が大好きな人たち。最初は恐る恐るだった会話も、今では本音で語り合えるようになった。 でも。 スマホが震えて、みーからのメッセージが届く。『NORIちゃん、今度みんなでオフ会しない? もうすぐ春休みでしょ? アキちゃんも賛成してくれてるし、せっかく同じ関東なんだから、会って話そうよ!』 画面を見つめたまま、胃がキューッと縮むような感覚になる。 オフ会。 また、その話しになる……。 いつかは話が出ると思っていても、実際にそうなると気持ちが沈む。 スマホを手にしてネットの世界で交流を始めてから、何度、同じような誘いを受けたことだろう。アキからも、タケシからも、そして他の何人もの人から。みんな善意で、私のことを仲間だと思って誘ってくれる。 でも、私は会えない。 絶対に会えない。 みんなに嫌われたくない。 震える指で、返信を打つ。「ごめん、みーちゃん。私、人見知りがひどくて、まだオフ会は無理かも。声をかけてくれて本当にありがとうございます。今回は無理だけど、またの機会にお願いします」 送信ボタンを押した後、ベッドに身を投げ出す。天井を見上げながら、いつものように自己嫌悪の波が押し寄せてくる。 
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第5話 ショウとの出会い

 オフ会を断り続けてようやく春休みが終わった。今日から高校二年生になる。 アキたちからの連絡はまだ来ているけれど、以前より少し距離を感じる。きっと私が会いたがらないことで、困惑しているんだろう。もしかすると、嫌われてしまったのかも知れない。 でも仕方ない。これが私の現実だから。 今日は金曜日。学校から帰ると、いつものようにスマホを開く。最近よく覗いている新しい掲示板に、興味深いスレッドが立っていた。『今期アニメの隠れた名作について語ろう』 タイトルを見ただけで、心が躍る。まさに私が語りたかった話題だった。最近見始めた作品で、まだあまり話題になっていないけれど、すごく面白いものがある。 スレッドを開いてみると、まだ投稿は少ない。立てた人の書き込みを読んでいくと、私と同じような感性を持っている人のように感じられた。 思い切って、レスを書いてみる。「スレ立てありがとうございます。私も最近、あまり注目されていないけれど素晴らしい作品に出会いました。「星降る街の物語」という作品なんですが、ご存知でしょうか?キャラクターの心理描写が繊細で、特に主人公の内面の成長が丁寧に描かれていて……」 長々と感想を書いて投稿する。こういうときだけは、文章を書くのが楽しい。誰も私の顔を見ていないから、思ったことを素直に表現できる。 しばらくすると、返信が来た。『はじめまして。「星降る街の物語」知ってる人がいるとは思いませんでした! 僕も先週から見始めたところです。確かに心理描写が秀逸ですよね。特に第三話の主人公の独白シーンは鳥肌が立ちました。NORIさんのレビュー、すごく的確だと思います』 投稿者の名前を見ると、「ショウ」と書いてある。私の投稿にきちんと目を通してくれて、しかも共感してくれている。なんだか嬉しくなって、すぐに返信を書いた。「ショウさん、ありがとうございます! 第三話の独白シーン、本当に素晴らしかったですよね。あのシーンで主人公への見方が完全に変わりました。まだ見ている人が少ないのが残念ですが、きっと後から評価される作品だと思います」 そこから、二人の間で活発なやり取りが始まった。作品の細かい演出について、キャラクターの心理について、声優の演技について。話せば話すほど、ショウの感性が私と似ていることがわかってきた。 気がつくと、もう夜の十時を過ぎて
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第6話 同じ痛みを持つ者

 ショウとのやり取りが始まって二週間が経った。毎日のように個人メッセージを交換し、時には深夜までチャットで語り合うこともある。アキたちとの付き合いも、まだ続いているけれど、最近は圧倒的にショウとの時間が多くなっている。 今日は日曜日。午後から、いつものようにショウとチャットをしていた。『昨日見た映画の話なんですが……』 ショウはいつも、私が興味を持ちそうな話題を振ってくれる。今日は最近公開された青春映画の話だった。恋愛要素もある作品で、私はちょっと恥ずかしくなりながら感想を書いている。「主人公の女の子、とても可愛かったですね。ああいう子が恋愛できるのは当然だなって思います」 何気なく送った言葉だったけれど、ショウからの返事は予想外だった。『NORIさんは、自分に自信がないんですね』 ドキッとする。図星だった。どうして気づかれてしまったんだろう。私は慌てて否定した。「そんなことないですよ。ただ、映画の感想を言っただけで……」『でも、「ああいう子が恋愛できるのは当然」って言いかた、なんだか自分と比べているみたいに聞こえました。NORIさんだって、きっと素敵な人だと思うのに』 胸がギュッと締め付けられる。ショウは優しい人だから、そう言ってくれているだけ。会ったことのない私を、気づかってくれている……その優しさが逆に苦しい。「ショウさんは優しいですね。でも、現実はそう甘くないと思います」 しばらく返事が来なかった。もしかして、重い話になってしまって、困らせてしまったかもしれない。そう思って謝ろうとしたとき、メッセージが届いた。『実は、僕も同じようなことを考えることがあります。現実は甘くないって』 ――え?『僕、身長が低いんです。クラスで一番小さくて、中学のときは、それでからかわれることが多くて。「チビ」とか「豆つぶ」って呼ばれたり、みんなに頭をぽんぽん叩かれたり。最初は笑って流してたんですけど、だんだん辛くなってきて』 ショウが? いじめられていた?  信じられない思いに、返信を打つ指先が震える。
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第7話 距離が縮まるとき

 お互いの過去を打ち明けてから、ショウとの関係はガラリと変わった。  メッセージの頻度がこれまでよりも多くなっている。  ついにはメッセージアプリのアカウントも交換してしまった。チャットのときとは違って、リアルタイムで届くメッセージ。 毎朝、目が覚めると真っ先にスマホをチェックする。ショウからの『おはよう』のメッセージを見つけると、自然と頬が緩む。学校にいる間も、休み時間の度にこっそりメッセージを確認する。授業中でさえ、机の下でスマホを握りしめて、震動を待っている。 こんな風に誰かのことを考え続けるなんて、初めてだった。『今日はなにか面白いことありましたか?』 帰宅後、いつものようにショウからメッセージが来る。些細な日常の出来事でも、ショウになら話したくなる。「今日は美術の時間に風景画を描いたんです。先生に褒められて、ちょっと嬉しかったです」『さすがNORIさんですね! 絵が上手なのは知ってましたが、学校でも認められているんですね。その絵、見てみたいです』 見てみたい。そう言われると、本当に見せてあげたくなる。でも、学校で描いた絵には私の本名が書いてある。それを見せるわけにはいかない。「ありがとうございます。でも、まだまだ練習が必要で……今度、別の絵を描いたら見てもらってもいいですか?」『もちろんです。楽しみにしています。僕も小説の書きかた、もっと勉強しなきゃ。NORIさんに読んでもらえるような作品を書けるようになりたいです』 ショウの小説。読んでみたい。どんな物語を書くんだろう。きっと、心が優しくなるような、温かい話なんだろうな。読む人を励ましてくれるような、そんな物語じゃないかと思う。 毎日、ただ他愛もない話を続けていた。何気ない会話が、私にとってはとても大切だった。 ある日の夜、いつものように長時間チャットをしていたときのこと。『NORIさんって、将来の夢はあるんですか?』 将来の夢。考えたことはあるけれど、現実的じゃない。私にはきっと、難しいだろうと諦めていた。「イラストレーターになれたらいいなっ
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第8話 恋の自覚

 昨夜もまた、ショウとのメッセージのやり取りが深夜まで続いた。 気がつけば午前二時を回っていて、慌ててスマホを閉じたのだけれど、布団に入ってからも彼との会話が頭の中でぐるぐると回り続けていた。思い出すとただただ嬉しくて、中々寝付けない。 ずっと胸の奥にくすぶっている思いがあって、それが色々なことを考えさせる。『今日はなにか、いいことあった?』 そんな何気ない彼の言葉に、私はいつも心が温かくなる。学校で嫌なことがあった日でも、家に帰ってショウからのメッセージを見ると、それだけで一日の疲れも嫌な思いも吹き飛んでしまう。 そして、ふと、考える。 これって、もしかして——。 朝の身支度をしながら、鏡に映る自分の顔を見つめる。相変わらず醜い顔だ。どんなに綺麗に髪を整えても、どんなに丁寧にスキンケアをしても、この顔だけはどうしようもない。 それなのに最近、鏡を見るのがそれほど苦痛じゃなくなった。 間違いなく、ショウのおかげだった。「紀子、朝ごはんよ」 母の声に我に返り、私は慌てて階下へ向かった。 学校への道のりも、最近は少し違って見える。木々が青々と茂り、空には大きな入道雲。春から夏へと変わったことを感じさせてくれる。そんな季節の変化に気づけるようになったのも、心に余裕ができたからだろうか。 気持ち一つで、こんなにも変わることがあるんだと実感する。「神林さん、おはよう」 クラスに入ると、何人かの同級生が挨拶してくれる。以前の私なら、彼らの視線が怖くて俯いてしまっていたのに、今日は「おはよう」と返すことができた。 これも、ショウがくれた変化なのかも知れない。少しだけ、ほんの少しだけだけれど、学校が嫌じゃなくなる気持ち……。 ショウの優しさが、私に勇気を与えてくれている気がする。 授業中、私はこっそりとスマホを確認した。案の定、ショウからメッセージが届いている。『おはよう、NORI。今日も一日頑張ろうね』 たったそれだけの言葉なの
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第9話 彩音の登場

「神林さん、またスマホ見てるの?」 突然の声に、私は慌ててスマホを机の下に隠した。振り返ると、桧葉彩音がにこやかな笑顔で私を見下ろしていた。 彩音は私のクラスメイトで、学年でも一、二を争う美人だった。サラサラの長い黒髪、大きくて澄んだ瞳、整った鼻筋に薄いピンクの唇。まさに理想的な美少女という言葉がぴったりの容姿をしている。「あ、えっと……」 私はどぎまぎしながら答えに窮した。授業中にこっそりとショウからのメッセージを確認していたのを見られてしまったのだ。「別に怒ってるわけじゃないよ。ただ、最近よくスマホを見てるなって思って。なにか楽しいことでもあるの?」 彩音は小さく笑った。 その笑顔は一見優しそうに見えたが、なぜか私は背筋がぞくりとした。彩音の瞳の奥を見ていると、なにか冷たいものを感じる。「別に、楽しいだなんて、そんなことは……」「そう? でも最近、ちょっと雰囲気変わったよね。前よりも明るくなったっていうか、楽しそうっていうか」 彩音は私の隣の席に腰かけた。近くで見ると、彼女の美しさがより際立って見える。透き通るような白い肌に、まつげの一本一本まで完璧に整っている。 私はこんな美しい人の隣にいることが恥ずかしくて、つい顔を逸らしてしまった。「私なんて、そんな……桧葉さんみたいに綺麗じゃないから……」「謙遜しなくていいよ。女の子は恋をすると綺麗になるって言うじゃない」 ――恋。 その言葉にドキッと心臓が大きく鳴り、手に汗がにじむ。まさか、彩音に私の気持ちが見抜かれているのだろうか。「恋だなんて、そんなこと……」「あれ? 違うの?」 彩音は首を傾げた。仕草の一つ一つが、私と違ってとても綺麗に見える。 美人だと動作の一つでさえ、私とはこんなにも違うんだ。「てっきり、素敵な人でもできたのかな、って思ったのに」 
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第10話 秘密の時間

『おはよう、NORI。今日もいい天気だね。朝の空、すごく綺麗だよ』 朝一番に届いたショウからのメッセージを見て、私の心は軽やかになった。カーテンを開けて外を見る。 ショウの言うとおり、今朝の空は青く澄んで、とても綺麗に見える。 昨日の彩音との会話で感じた不安も、彼の優しい言葉で少しずつ薄れていく。「おはよう、ショウ。本当に空が綺麗。あなたのメッセージで、いい一日が始まりそう」 返信を送ってから、私は慌てて朝の支度を始めた。最近の私は、ショウとのやり取りが楽しくて、ついつい時間を忘れてしまう。 学校に着くと、彩音が私に手を振ってくれた。「おはよう、神林さん」「おはようございます」 昨日の会話以来、彩音は私に対してより親しげに接してくれるようになった。それは嬉しいことなのだけれど、どこか居心地の悪さも感じていた。 彩音の周りを囲む友だちの視線が、私を不審そうに見ているようで少し怖い。 授業が始まると、私はいつものように教科書を開いた。授業中なのに、ポケットの中のスマホが振動するたびに、気になって仕方がない。 数学の時間、先生が黒板に向かっている隙に、私はそっとスマホを確認した。『今、なんの授業中?』 ショウからのメッセージに、私は小さく微笑んだ。「数学。でも全然わからない」『僕も数学は苦手だったよ。でも、NORIなら大丈夫。君は頭がいいから』 頭がいい。そんな風に言ってくれる人は、ショウが初めてだった。 つい口元が緩んでしまう。「そんなことないよ。でも、ありがとう」『今度、一緒に勉強しない? チャットで問題を出し合ったりして』 一緒に勉強。それは私にとって、とても魅力的な提案だった。 たまに図書室や図書館で見かける、一緒に勉強をしているカップルを見かけることがある。その姿が、とても幸せそうに見えて羨ましいと思っていたから。「それ、すごく楽しそう!」 メッセージを送った後、私は周りを見回した。誰かに見られていない
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