会員制クラブの外で、怜司はにこやかに、ぽかんとした顔の智央を見送り、彼の車が見えなくなるや否や、表情を一変させた。上の階に戻るなり、苛立った様子で悠真に向かって言った。「悠真、あの人ほんっと空気読めないっていうか、あんな好条件まで出してるのに、UMEから抜けようともしない。あんな頑固な人、初めて見たよ」UME側が投資を受ける気がないと察した悠真は、誠司に命じてUMEの技術総監督の情報を調べさせた。そこからは一晩かけて、あらゆる手を尽くした。懐柔も圧力も、それに待遇はUMEの三倍以上――それでも、智央の態度は微塵も揺るがなかった。彼が口にしたのは、たった一言。「UMEは俺がゼロから育ててきた、いわば自分の子どもみたいなもんだ。誰かの子のほうが優秀だからって、その子の面倒なんて見られない。自分の子が貧しくなったからって、放り出すなんて、俺にはできない」怜司もそれなりに頑固者を見てきたが、ここまで信念を貫く人間には初めて出会った。どれだけ利点を並べたところで、彼の心は微動だにしない。最後にはつい頭に血がのぼって、ナイフでも持ち出しかねない勢いだったが――それでも智央は、首を縦に振らなかった。もう、お手上げだった。悠真は、そんな怜司の言葉に、ほんのわずかに眉を動かしただけで、何も返さなかった。怜司は腹の虫が収まらず、しばらく黙っていたが、ふと目を光らせ、喉元を切る仕草をして見せた。「いっそ、今日中にあいつを片づけちまおうか。悠真が手に入れられないもんを、UMEにも持たせるわけにはいかないでしょ?」悠真は、気だるそうに視線を向けてきた。「いいよ」怜司は一瞬言葉を失った。「悠真……本気?」悠真は軽い口調で答えた。「もう覚悟、決めたんだろ?だったら、俺が止めたって無駄だろうし」「……」――いや、べつに覚悟なんて決めてなかった。ただの愚痴だったのに。けれど、あまりにも落ち着いた悠真の様子を見て、怜司は何かを察したように、声をひそめて訊いた。「悠真……もしかして、もう何か考えてる?」悠真は立ち上がり、大きなガラス窓のそばへと歩いていった。「さっき彼が言ってた。UMEの核心の技術やアルゴリズムは、彼のものじゃないって。つまり、まだ裏に「すご腕」がいるってことだ」怜司はあごをなぞりながら、首をかし
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