All Chapters of 魔女リリスと罪人の契約書: Chapter 1 - Chapter 10

12 Chapters

禁忌の魔女と背徳の口づけ

帝国の地下牢。石と血の匂いが混ざるその場所に、かつて“帝国魔導騎士”と呼ばれた男が囚われていた。カイン・ヴァルスト。名誉ある階級、誓った忠誠、信じていた仲間──すべてが裏切りの一言で地に落ちた。罪状は反逆。だがそれは捏造だった。上官の命令で動いただけの任務が、いつの間にか“国家転覆を図った魔女の手引き”と書き換えられていた。捕縛、尋問、拷問。裁判は開かれず、処刑日も決まらないまま、男は鉄枷に繋がれ放置された。それでも最初のうちは叫んだ。訴えた。抵抗もした。だが、誰も聞かなかった。食事は日に一度の腐ったパン。水は泥を混ぜたように濁っている。光も時間の感覚もない。「……俺は、本当に生きてるのか」つぶやいても、返ってくるのは水音と自分の息だけだった。意識が朦朧とする中、彼はひとつの決意にすがっていた。──死ぬまでは、忘れない。裏切った奴らの顔も、誓いを踏みにじった帝国の名も。だがその夜、牢の空気が変わった。誰かが来る──それだけでわかる、異質な気配。コツ……コツ……。鈴を転がすような軽やかな足音が、闇の奥から響いた。鉄格子の先に現れたのは、一人の女だった。ピンク色の長髪が揺れ、黒と紫の魔女衣をまとい、蠱惑的な笑みを浮かべていた。「……あら。まだ生きてたのね。可哀想な罪人さん」その指先には、紫の炎が揺れていた──契約の魔火。魂を喰らう禁忌の術。「……誰だ……?」カインの声は掠れていたが、その目には警戒と敵意が浮かんでいた。帝国の記録では、魔女は百年前に粛清され、完全に絶滅した存在。だが──目の前の女は、疑いようもなく“本物”だった。肌に纏わりつくような魔気。紫の魔火が指先でゆらりと揺れ、空気そのものを蝕んでいるような錯覚さえ起こす。そして、その瞳──すべてを見透かすような、艶やかで冷たい視線。「私はリリス。禁忌の魔女。貴方に契約を持ちかけに来たの」リリスは鉄格子を何の抵抗もなくすり抜け、ゆっくりとカインの前にしゃがみ込んだ。鎖も枷も、彼女の前では意味をなさない。ただの飾りにすぎなかった。「君の魂と、ほんの少しの快楽。それを代償に──力を与えてあげる」耳元で囁かれるその響きは、甘く、心地よく、どこか背徳の香りを含んでいた。カインの背筋がわずかに震える。本能が警鐘を鳴らしている。これは危険だ、と。だが同時に、抗いがたい何
last updateLast Updated : 2025-07-25
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紫炎の反動と魔契の代償

契約の炎が消えたあとも、カインの身体はまだ熱を帯びていた。紫の紋章は胸元で脈打ち、まるで魔力が直接、血肉を塗り替えているかのようだった。地下牢の奥、崩れた壁の向こうに続く古びた階段。カインが先導する形で、その道を二人はゆっくりと上っていく。「……ああ、いい眺め。こんな場所でも、君の背中は綺麗よ」リリスは後ろからカインにぴたりと身体を寄せ、くすりと笑う。髪が肩に触れ、むき出しの背中をなぞる指先が艶やかだった。「やめろ……」カインは眉をひそめたが、声には力がない。熱に浮かされるように、身体が重く、感覚が妙に敏感だった。「魔契の直後はね、五感が過敏になるの。触れられるだけで、心までとろけちゃうくらいに」リリスは唇を寄せて耳元で囁いた。指先が鎖骨をなぞり、背筋をくすぐるように滑り落ちる。カインは歯を食いしばりながら階段を上るが、息は徐々に荒くなる。そして──階段の終点、小さな扉の前で、膝が崩れた。「……っ、ぐあ……!」胸の紋章が明滅し、紫の魔火が皮膚の下から噴き出す。全身を駆け巡る疼き。熱く、甘く、焼けるような魔力の奔流。それは、魂と肉体の接合部が暴れ出す“第一反動”だった。リリスは微笑みながら、彼の頬に手を添えた。「これが“魔契者”の第一反動よ」リリスの声は、甘く冷たい。カインの身体を包む紫炎は激しく揺れ、指先から髪の先まで、すべてが焼けるように熱かった。膝をついた彼の背後に、リリスがぴたりと寄り添う。その柔らかな腕がそっと背中を抱きしめ、熱を移すように身体を密着させる。「落ち着いて。ほら……あなたの中の魔力、疼いてるでしょう?」熱い吐息が耳元をくすぐる。リリスの胸が押し当てられ、背中に伝わる感触が、灼熱の中で妙に鮮明だった。紫炎のうねりがわずかに緩み、カインの理性が、かろうじて浮上する。「くっ……なんで、こんな……ッ」「魂と肉体がね、まだ馴染んでないの。魔力は快楽にも反応するから──ああ、こんなに熱くなって……」リリスの指がカインの胸元に這い、紫紋の上を優しく撫でる。そこから魔力がぶわりと噴き出し、カインの全身を内側から揺さぶった。「あッ……!」思わず声が漏れ、カインは奥歯を噛んだ。紫炎が爆ぜるように広がり、通路の石壁が砕ける。「なるほど……君、相当、相性がいいみたいね」くすくすと笑うリリスの
last updateLast Updated : 2025-07-25
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疼きの残火と魔女の指先

リリスの案内で辿り着いたのは、帝都の外れにひっそりと佇む廃礼拝堂だった。石造りの古い建物は外見こそ荒れていたが、中に一歩足を踏み入れた瞬間、空気の密度が変わる。「ここが今の“私の城”よ。かつては神を祀った場所、今は魔女の寝床」リリスが笑う。床に刻まれた魔術陣、天井の梁に吊るされた黒い燭台、香のような妖しい匂い──全てが異質だった。カインが振り返ろうとした瞬間、背後から細い指が背中をなぞる。「あ……っ」緊張と反射で身体が跳ねる。リリスはくすりと笑って、そのまま彼の胸元を押した。ふらつく足取りのまま、カインは部屋の奥にあるベッドへと倒れ込む。「身体、まだ疼いてるでしょ? 魔契の余燼は、簡単には抜けないのよ」ベッドに膝をついたリリスが、彼の上に馬乗りになるようにしてゆっくりとしゃがむ。ぴたりと密着したその体温に、またぞくりと背骨が震える。「……おい、何を……っ」言葉を遮るように、彼女の指先が胸の紋章をそっとなぞった。甘い刺激が神経を這い、魔力が再び脈動する。薄い吐息と共に、リリスが囁く。「制御訓練よ。いまのあなた、触れられるだけで魔力が暴れるでしょう?だから、教えてあげる。快楽に溺れず、魔力を鎮める方法を──私の身体で」リリスの指が、ゆっくりと胸の紋章をなぞる。魔力が反応し、皮膚の下で紫の光がじくじくと明滅を始めた。「ほら……抑えて。暴れたいって疼いてるでしょ?」吐息交じりの声が耳元をくすぐるたびに、理性が削られていく。リリスはまるで、カインの身体の“弱いところ”をすべて知っているかのように──指や爪、吐息を使って、的確に快感の波を与えてきた。「魔契者の魔力はね、精神状態に影響されやすいの。特に、快楽との親和性が高いのよ」言葉とは裏腹に、彼女の指先は胸から腹部、腰骨のラインをなぞるように滑る。ぞわぞわとした魔力が皮膚を這い、熱が身体を内側から突き上げてくる。快感に呑まれそうになるたび、魔力が暴れかける。だが、そのたびにリリスが「はい、我慢」と囁き、カインはなんとかそれを“押し戻す”。この拷問にも似た制御訓練は、甘く、熱く、息苦しい。額に汗がにじみ、身体のあちこちが微細に震えていた。「うまくなってきたじゃない……すぐイきそうな顔してたのに、よく耐えたわ」リリスが顔を近づけ、唇を舐めるようにかすめる。魔
last updateLast Updated : 2025-07-25
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支配と反逆の調律

薄明の光が、古びた隠れ家の窓から差し込んでいた。カインは、浅く息を吐きながら目を覚ました。身体は熱を引きずったまま、皮膚の奥がじんじんと疼いていた。昨夜、何があったのか──明確な記憶があるのに、頭の奥が霞がかったようにぼんやりする。「……目が覚めたのね、カイン」低く艶やかな声が耳を撫でた。振り返ると、リリスが薄布一枚の姿でベッドの縁に腰かけていた。淡いピンクの髪が肩に流れ、胸元はわざとらしいほど緩く開かれている。「魔力、残ってるでしょ? 昨夜、身体の奥に流し込んだままだもの。まだ、じゅくじゅくしてるわ」「……ッ!」カインは顔を背けたが、リリスは微笑を崩さず、指先で彼の頬を撫でた。「恥ずかしがらないで。これは大事な“調律”。魔女の力に身体を慣らすには、ちゃんと触れていかないとね」そう言うと、リリスは膝立ちになり、カインの胸にそっと頬を寄せる。柔らかな感触と甘い吐息が肌を這い、心拍が跳ね上がった。「ふふ……鼓動が早いわ。可愛い」リリスの手が胸元をゆっくりと滑り、服の隙間に指を差し入れていく。拒む力は、どこにも残っていなかった。むしろ、カインの中のどこかが、それを待っていた。「今日から、本格的に始めるわよ。あなたは私の剣──だからこそ、まずは“私の手”で、ちゃんと整えてあげなきゃ」リリスの瞳が、妖しく煌めいた。リリスの指が、カインの胸元から腹部へとゆっくり滑っていく。まるで魔力の流れを追うように、敏感な箇所を撫でていくその動きに、カインは思わず喉を鳴らした。「力を引き出すには、身体に流れる魔力の通り道を意識すること。……そして、それが“快楽と繋がっている”と理解すること」リリスの声は甘く、低く、耳朶をなぞるように滑る。指先が臍の周りを円を描くように動き、カインの呼吸が一段と荒くなる。「ここ、ビクッとしたわね。……やっぱり魔力の溜まりやすい場所ね」そう言いながら、リリスは指を舐めてから、再び肌に這わせた。濡れた指先が触れた瞬間、ゾクリとした電流が背筋を駆け抜ける。「くっ……やめ──」「だめ。これは“訓練”よ」リリスは首筋に唇を寄せ、そこに微かなキスを落とす。すると、魔力が皮膚から深部へと流れ込み、内側から身体が熱を帯びていくのが分かった。「魔女との契約って、こういうこと。気持ちよさと魔力の一致点を探っていく。……そうしていくうちに
last updateLast Updated : 2025-07-29
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黒き覚醒と帝国の追手

帝都の魔導庁──その最深部に位置する制圧指令室には、緊張と沈黙が満ちていた。巨大な魔痕探知機の魔導盤に赤い光点が浮かび上がっている。北東の外縁、帝国から25キロ。周囲に村も拠点もない森の中で、かつて“黒契王”と呼ばれた魔女の魔力反応が検出された。「確定しました。リリス=ネクタリア……およそ十年ぶりの大反応です」若い魔契官の声に、室内の空気がぴんと張り詰める。だが、中央に立つひときわ鋭い眼差しの男は、一切動じることなく短く命じた。「即時出撃。第五制圧部隊に魔封結界装備を持たせろ。戦闘ではない。これは“拘束”だ」クラウス・イェーガー。かつてリリスと共に戦場を駆けた男。今は魔導庁直属の“狩人”として、魔女封殺の先鋒に立つ。クラウスは地図を睨んだまま、懐から一枚の古びた写真を取り出す。そこには戦時中の仲間たちと──その中心で薄く笑う、黒髪の女の姿があった。「……生きていたなら、それでいい。だが次は、逃がさん」その呟きは、かつての情ではなく、任務の刃として吐き出された。「十年も姿を見せなかった理由はなんだ? 今更姿を現すとは……」隣にいた副官が問うた。クラウスは答えなかった。ただ、机の上に並べられた戦闘記録の束を指で弾いた。「力を蓄えていたのか、あるいは……次の契約者を選んだのかもしれん」「まさか、再び“魔契”を?」「可能性はある。相手が男ならなお悪い。あの女は“支配”と“快楽”で心を壊す魔女だ。理性を砕き、魂に呪印を刻む」副官が息をのんだ。「……では、その者もろとも……?」「ああ。全てを、潰す」クラウスの眼光が一瞬、深い哀しみを湛えたのは──誰にも気づかれなかった。森の奥。朝靄が立ちこめ、木々の隙間から差す光が肌を撫でるように柔らかい。その中でリリスは、木の根に腰を下ろし、カインの膝を枕に横たわっていた。昨夜の淫靡な契約の余韻は、まだ肌に残っている。彼女の唇がそっと動いた。「……優しくしてくれて、ありがとう。痛くなかったわよ」「おい、やめろ。そういうことは……」「ふふ、照れるの? でも“契約”なんだから、遠慮はいらないでしょ?」リリスの指がカインの腿をなぞる。布越しに感じる体温と、女の吐息。彼女の髪が揺れ、唇が少しずつ、彼の太腿に近づいていく。「おまっ……おいっ!?」「ねぇ、感じてるの、ここ……♡」リリスの舌が、布越し
last updateLast Updated : 2025-07-29
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黒契の魔導と帝国の狗

「……本当に、その名を?」帝国中央庁の最高機密会議室。音声のみの魔導通信が静かに流れ、場の空気を氷のように凍らせていた。クラウスの報告──「黒契王リリス=ネクタリア、生存確認」──その一言が、帝国の中枢を揺るがせたのだ。「記録では、十年前に抹消処理が完了していたはずだ」「彼女は魔力の特性上、復活も転生も不可能と判断されていた」「では、現れた“リリス”は何者か? 同名の模倣か?」否。通信越しに届いたクラウスの声は、淡々と、しかし決然としていた。「姿形、魔力波形、契約反応……すべて一致。あれは、間違いなく“リリス=ネクタリア”本人です」会議室の片隅で、誰かが喉を鳴らす音がした。「──ならば、対処法は一つだ」帝国魔導参謀長、ヴィルヘルム・ドライエが静かに言った。白髪混じりの顎に手を当て、鋭い眼差しで魔導陣のスクリーンを睨みつける。「クラウスには、新たな命令を。対象“リリス”は生け捕りではなく、即時処分とする。理由は不要、感情も排せ。命令に従え」その瞬間、クラウスの目が一瞬だけ揺れた。だが、声に迷いはなかった。「……了解。命令通りに。ただし、俺の手で殺す──それが俺の罪の償いだからだ」静かに通信が切れた。その場に残された者たちは、誰も言葉を発せず、ただ“黒契王”という禁忌の名が再び歴史に刻まれた事実に、怯えていた──「ここなら……少しは落ち着けそうね」森の奥、誰にも使われなくなった廃村の一角。草木に覆われた屋根、崩れかけた小屋。そのひとつに、カインとリリスは身を潜めていた。月明かりが隙間から差し込むなか、リリスはゆっくりとマントを脱いだ。「見せて、契約痕──もっと深く刻まれてるはずよ」カインの胸元に手を伸ばし、シャツをはだける。浮かび上がるのは、脈動する紫の魔紋。先の戦闘で力を振るった影響か、文様は淫靡に、そして妖しく肥大していた。「……これが、お前の力の源なのか?」「ええ。あなたが“感じる”ほど、私の魔力も満たされていくのよ。快楽と苦痛、その混濁が──私たちを強くするの」そう囁くリリスは、カインの背後に回り、首筋へそっと唇を這わせる。その一瞬、びくりと肩を震わせるカイン。「ちょ、ちょっと……!」「黙って。これは“調律”よ」リリスの指が、魔紋をなぞるたびに熱が走る。腰が抜けそうになるのを、カ
last updateLast Updated : 2025-07-29
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罪の記憶と魔女の温度

夜明け前の森は、しんと静まり返っていた。薄靄の中を歩くふたりの足音だけが、濡れた地面をかすかに踏みしめている。先を行くリリスの背中は、いつになく寂しげに見えた。髪は濡れたように艶やかで、月光を受けて紫がかすかに滲む。ドレスは相変わらず過激だったが、今はそれを見てもカインの気は逸れなかった。「……本当にここで、いいのか?」問いかけると、リリスはふと立ち止まり、ゆっくりと振り返った。「この奥に、“聖域”の残響があるわ。私たち魔女が、かつて最後に集った場所よ」その声は、どこか遠くを見つめていた。普段のような艶やかさはなく、ただ静かで──悲しかった。カインは歩み寄ると、彼女の手を取った。リリスの手は熱い。それは魔力の熱か、それとも感情か。「……少し、補給してもいい?」唐突な言葉に目を見開いたカインだったが、答える間もなくリリスの唇が近づいた。「んっ……ん……ふ、ふふ……ありがとう、カイン」甘い吐息が頬を撫で、舌が首筋を這う。ドレスの隙間から覗いた柔肌が、湿った空気に震えた。「力が、溢れてくるわ……あなたといると、どうしてかしら」彼女が首筋に軽く噛みつき、魔力を吸い上げる。背筋をぞくりと走る快感に、カインは思わず息を呑んだ。その背後で──木々の葉が、わずかに揺れた。気のせいだろうか。誰かの視線を、ほんの一瞬感じた気がした。森を抜けた先にあったのは、廃墟のような広場だった。苔むした石柱、崩れた祭壇、今はもう使われていない魔術陣の痕跡。そこだけが、時の流れから切り離されたような静寂に包まれていた。「……ここが、かつての“聖域”の残響」リリスが呟いた瞬間、石畳に埋め込まれた古い契約石碑が、ぼうっと紫の光を放ち始めた。「魔女の契約は、魔力と記憶を繋げる。過去の誓いは、こうして残響として蘇るの」彼女が手を伸ばし、石碑に触れた──すると、空気が震えた。風もないのに木の葉が揺れ、辺りが紫の霧に包まれていく。やがて霧の中央から、ひとりの少女の幻影が現れた。「……久しぶりね、リリス」その声に、カインは思わず身構えた。現れたのは、華奢な金髪の少女。瞳は翠、笑みを浮かべているが──その奥には鋭い怒気が潜んでいる。「……メルティナ」リリスの声が、わずかに震えた。かつての仲間。七魔女のひとりであり、契約によって深く繋がったはずの存在
last updateLast Updated : 2025-07-29
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罪人の覚悟と魔女の望み

カインが目を覚ましたのは、薄明かりの差す山間の隠れ家だった。木の軋む音と、鼻をくすぐる花の匂い。寝台の隣には──肌の白い、艶やかな肢体がある。「……もう、起きたの?」リリスが仰向けのまま、緩やかに微笑んだ。昨夜、契約の“供給”と称して身体を重ねた。その余韻が、まだ体にじんわりと残っている。「夢かと思った……。でも、リアルすぎる痛みと、快感で……」カインが額に手を当てると、リリスはゆっくり身体を起こし、シーツの端を滑らせた。乳房があらわになるが、まるで気にしていない。彼女の肌はうっすらと汗を帯び、触れたくなるような光沢を放っていた。「魔女との契約は、夢より甘く、現実より毒よ。忘れないで。あなたは、もう“ただの人間”じゃない」言いながら、リリスはカインの胸に指を這わせる。そこには、魔力の刻印──“契印”が、うっすらと赤く浮かんでいた。「契約者としての器が、少しずつ育ってる。昨夜の“供給”で……だいぶ進んだみたい」リリスの唇が、指先に触れ、カインの耳へと近づく。「もう少し……続けてあげてもいいけど?」「ま、待て……っ、朝だぞ……!」「ふふ。朝の方が、興奮するじゃない」そう囁いたリリスの舌が、カインの首筋に軽く触れた──その一瞬で、全身の神経が震える。快感が、毒のように神経を侵食していく。カインの息が乱れた時、リリスはふいに離れて立ち上がった。「……でも、今はそれどころじゃない。そろそろ“説明”しておかないとね」彼女は薄衣を羽織り、窓辺に立つ。視線の先には、薄曇りの空が広がっていた。「この旅の目的。あなたにも知っておいてほしいの」「“黒契王”って、聞いたことある?」窓際で腰掛けながら、リリスはカインに問いかけた。薄衣越しに浮かぶ肢体の線が艶めかしいが、その表情はどこか遠い過去を見ていた。「……なんとなく。魔女の中でも、特別な存在だってくらいは」「そう。私よ」リリスは迷いなく断言した。その声に嘘の響きはなかった。「すべての契約魔女を統べる頂点。それが“黒契王”。欲望を代償に力を得る、最も禁忌な契約体系の象徴」「……でも、今のあんたは……」「落ちぶれたわ。裏切り、封印、喪失。あの頃の力の大半は、もう失われた」リリスは唇を噛み、胸元に指を当てる。そこに“黒き契印”が淡く輝いた。「私の力は、7つの《契約核》に分かれて世界に封じら
last updateLast Updated : 2025-07-29
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歓喜の魔女と悦楽の檻

砂嵐の向こう、蜃気楼のように滲む町並み──カインとリリスが辿り着いたのは、砂漠の辺境にある小都市《リュマラ》だった。「灼けるな……」陽の光に照らされ、カインは額の汗を拭った。肌にまとわりつく熱気は重く、ただ立っているだけで体力が奪われる。「ふふ……暑いの、苦手?」隣のリリスが、どこか楽しげに微笑んだ。いつの間にか、彼女は装いを変えていた。透けるほど薄手の砂漠衣──背中の大きく開いたデザインに、胸元も大胆に晒されている。紫の刺繍が妖艶に揺れ、肌がほのかに輝いていた。「お前、その格好……」「砂漠では、風を通す服が基本。濡れたら透けるくらいがちょうどいいのよ」腰に巻かれた紐帯がゆるく垂れ、太腿まで露出している。歩くたびにちらつくその肌に、カインの喉が鳴った。「……おい、視線が熱いわよ?」「だ、誰が見とるかっ!」慌ててそっぽを向くカインを、リリスはクスリと笑って追い抜いた。リュマラは、砂漠の旅人たちの中継地で、露店や宿が立ち並ぶ小さな繁華街だ。だが、空気の奥にどこか奇妙な“甘さ”がある。「ここ、妙じゃないか?」「ええ……感じるわ。魔力よ。甘く、蕩けるような気配──ファルネアの匂い」宿屋に荷を置いたあと、リリスは窓を開け、遠くの砂漠を見つめた。「この町、すでに“侵されてる”かもしれないわね」「侵されてる……?」「ええ。ファルネアの魔術は“快楽の香気”。この町の空気にはもう、魔女の吐息が染みついてる」カインは町を歩く人々に目を向ける。とある男が、誰もいない空間に向かって囁いた。「……誰か……誰でもいいから、触れてくれ……」目は虚ろで、頬は上気している。「──ヤバいな、これは」「今夜が本番よ。覚悟しておきなさい、カイン」夜が来た。砂の町リュマラは、月光に照らされて艶やかに沈黙していた。風は止み、空気は重く、妙に生ぬるい。「……なんか……変な匂いが……」カインは宿の外に出た瞬間、鼻先をくすぐる香気に立ち止まった。香水のような、しかし花でも果実でもない……もっと本能的で、直接的な“匂い”。「ッ……」視界がぐにゃりと歪んだ。世界が波打つ。肌が勝手に熱を帯び、脳が痺れるような甘さに浸食されていく。──リリスが、いる。目の前に、裸同然の彼女が現れた。「……やっと、二人きりになれたわね」甘い声。濡れた唇。まるで夢の
last updateLast Updated : 2025-07-29
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堕ちた信徒と誓いの契印

その場所は、地上からは隠されていた。表向きは古びた劇場跡──だが、地下へと続く石造りの階段を下ると、空気が一変する。熱い。濡れている。甘い。湿った吐息のような匂いが漂い、壁には艶やかな女たちの絵が描かれていた。喘ぎ声のような音が、どこからか断続的に響いてくる。「ここが……悦楽の檻……」カインが思わず喉を鳴らす。服の下の契印が、さっきから熱を持って疼いている。まるで、ここが“発情の巣”であることを肌が察知しているかのように。「覚悟して。ここは、ただの売春宿じゃない。魂を蕩けさせる、“堕落の霊廟”よ」リリスは薄く微笑みながらも、瞳は鋭かった。紫のドレスは、胸元を大胆に開き、太腿までスリットが入っている。だがここではそれすら“普通”に見えるほど、女たちも男たちも──肌を晒し、愛撫し合っていた。 「ようこそ、悦楽の檻へ♡」迎えに現れたのは、金髪のエルフ風の女。全身を透けるシルクで包み、胸の先端すら隠しきれていない。くすりと笑って、カインにぴたりと寄り添う。「ずいぶんと若くて……固そうなお客様♡ いろんな“初めて”、お教えできますよ?」「ッ……触るな」カインは無意識に睨み返す。しかし女の指先が首筋をなぞった瞬間──「く……っ!」契印が熱を放ち、膝が崩れそうになる。「ほぉ……中々、いい契約してる♡」エルフ女が舌なめずりする。「……手を引きなさい」リリスの声が響いた。その瞬間、空気が震え、周囲の客たちが一瞬だけ動きを止める。リリスが薄く笑っていた。「この男は、私の“所有物”よ。手を出せば、その舌ごと引き抜くわ」「ひっ……し、失礼しましたぁ♡」女が飛び退き、周囲の客たちがささやき始める。──“ネクタリア”だ。──あの“黒契王”が……戻ってきた。 リリスはその視線を無視し、カインの腕を取った。「……我慢できる? ここからが本番よ」「当たり前だ……ッ」熱を帯びたままのカインの目に、決意の光が宿る。ふたりが進んだ先には、豪奢な回廊。壁には赤黒い絨毯が敷かれ、天井からは紫の香が絶えず垂れていた。──淫香。それを吸うだけで理性が緩み、欲望の底へ引きずり込まれる。「リリス……ここ、空気が……」「気を抜かないで。今のあなたは、“欲”を感じるたび、契印が疼く体になってるのよ」リリスの言葉が終わるよりも早く
last updateLast Updated : 2025-07-29
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