Se connecter冤罪で全てを奪われた元・帝国騎士カインは、地下牢で出会った“禁忌の魔女”リリスと魂の契約を交わす。代償は、心と身体――そのすべて。淫靡な接触と引き換えに得た力で、カインは復讐の炎を燃やし、腐敗した帝国に牙を剥く。リリスの真の目的は、かつて自らが君臨した「魔女の王座」の奪還。契約の快楽に溺れながらも、二人は互いの過去と欲望に踏み込んでいく──これは、禁忌と背徳のダークファンタジー。
Voir plus帝国の地下牢。石と血の匂いが混ざるその場所に、かつて“帝国魔導騎士”と呼ばれた男が囚われていた。
カイン・ヴァルスト。名誉ある階級、誓った忠誠、信じていた仲間──すべてが裏切りの一言で地に落ちた。 罪状は反逆。だがそれは捏造だった。上官の命令で動いただけの任務が、いつの間にか“国家転覆を図った魔女の手引き”と書き換えられていた。 捕縛、尋問、拷問。裁判は開かれず、処刑日も決まらないまま、男は鉄枷に繋がれ放置された。 それでも最初のうちは叫んだ。訴えた。抵抗もした。だが、誰も聞かなかった。 食事は日に一度の腐ったパン。水は泥を混ぜたように濁っている。光も時間の感覚もない。 「……俺は、本当に生きてるのか」 つぶやいても、返ってくるのは水音と自分の息だけだった。 意識が朦朧とする中、彼はひとつの決意にすがっていた。──死ぬまでは、忘れない。裏切った奴らの顔も、誓いを踏みにじった帝国の名も。 だがその夜、牢の空気が変わった。 誰かが来る──それだけでわかる、異質な気配。 コツ……コツ……。鈴を転がすような軽やかな足音が、闇の奥から響いた。 鉄格子の先に現れたのは、一人の女だった。 ピンク色の長髪が揺れ、黒と紫の魔女衣をまとい、蠱惑的な笑みを浮かべていた。 「……あら。まだ生きてたのね。可哀想な罪人さん」 その指先には、紫の炎が揺れていた──契約の魔火。魂を喰らう禁忌の術。 「……誰だ……?」 カインの声は掠れていたが、その目には警戒と敵意が浮かんでいた。 帝国の記録では、魔女は百年前に粛清され、完全に絶滅した存在。 だが──目の前の女は、疑いようもなく“本物”だった。 肌に纏わりつくような魔気。紫の魔火が指先でゆらりと揺れ、空気そのものを蝕んでいるような錯覚さえ起こす。 そして、その瞳──すべてを見透かすような、艶やかで冷たい視線。 「私はリリス。禁忌の魔女。貴方に契約を持ちかけに来たの」 リリスは鉄格子を何の抵抗もなくすり抜け、ゆっくりとカインの前にしゃがみ込んだ。 鎖も枷も、彼女の前では意味をなさない。ただの飾りにすぎなかった。 「君の魂と、ほんの少しの快楽。それを代償に──力を与えてあげる」 耳元で囁かれるその響きは、甘く、心地よく、どこか背徳の香りを含んでいた。 カインの背筋がわずかに震える。 本能が警鐘を鳴らしている。これは危険だ、と。だが同時に、抗いがたい何かが胸に触れた。 「ふざけるな……俺は、そんな力なんて……」 「そう? でも──君を売った上官の名前、私、知ってるわよ?」 一瞬で、カインの目が鋭くなる。 そしてリリスは、その唇を艶やかに歪めて名を告げた。 「クラウス。そうでしょう? 君を“反逆者”に仕立てたのは、あの男よ。 今ごろ出世階段を悠々と登っているわ」 なぜ、知っている──? どうして、この魔女がそこまで把握している──? 怒りと困惑が混ざり合い、胸を焼く。 リリスは微笑んだまま、決定的な一言を添える。 「私もあの人、嫌いなの。だから君に力をあげたいの。 その代わり──私と、契約して?」 しばし沈黙が落ちた。 カインは目を伏せ、荒く息を吐いた。怒り、屈辱、痛み、そして得体の知れぬ衝動。それらが胸の奥で渦巻いていた。 リリスの言葉は、おそらく真実だ。あの男──クラウスの名が脳裏をよぎるたび、沸き上がる怒りは消えなかった。 もし本当に力が手に入るなら、この手で喉元を掴み、すべてをひっくり返してやれるなら── 「……魂でもなんでもくれてやる。だから、力をよこせ」 低く絞り出したその言葉に、リリスの瞳が妖しく輝いた。 「あら……ふふ。素直でよろしいわ」 リリスがそっと顔を寄せる。吐息が肌を撫で、指先がカインの顎を持ち上げる。 「じゃあ……契約、しましょう。 甘くて、痛くて、忘れられない夜になるわよ」 そして、唇が重なった。 その接触は、ただのキスではなかった。 リリスの唇から流れ込んだ魔力が、紫の炎となってカインの胸へと焼き刻まれる。 「……ぐっ……ああああああッ!」 焼けるような激痛。そして同時に、背骨を駆け抜けるほどの甘美な快楽が襲う。 魔女との契約は、痛みと快楽の交差点に存在する。 その瞬間、魂が抉られるようにして、リリスのものへと染まっていく。 紫の紋章が胸に浮かび上がり、皮膚を這い、神経を焼く。 鉄枷が砕け、腐りかけていた傷が癒え、濁っていた瞳に光が戻る。 「契約、成立よ──おめでとう、カイン・ヴァルスト」 リリスの囁きが耳に落ちたとき、カインの中で何かが完全に目覚めた。 紫炎が牢を満たしていた。 焼け落ちた鉄格子の向こうでは、衛兵たちが騒ぐ様子もない。 まるでこの空間だけが、世界から隔絶されているかのようだった。 カインは立ち上がる。 その身には力がみなぎっていた。だがそれは、ただの回復ではない。 魂そのものが変質していた。魔女と契約し、再構築された存在。 胸に刻まれた紫の紋章が熱を帯びて脈打ち、まだ生まれたての何かのように疼いていた。 「どう? 素敵な気分でしょう?」 リリスが微笑みながら問う。 カインは答えない。ただ静かに、牢の奥──その先の世界を見据えていた。 その瞳には、かつての虚無や怒りはもうなかった。 代わりに宿っていたのは、冷たく燃えるような意志。 「……始めてやる。俺の、復讐を」 その言葉がすべてだった。 帝国に裏切られ、踏み潰された人生。今度はその秩序を、この手で壊す。 紫の魔火が彼の背を押すように揺れていた。 リリスは満足そうに微笑む。 「そう、それでいい。君はもう、ただの罪人じゃないわ。 魔女と契約を交わした“魔契の罪人”──反逆の獣よ」 カインは歩き出す。裸足の足元を紫炎が照らす。 リリスはその背中に艶やかな視線を送りながら、そっと囁いた。 「さあ、あなたの世界を取り戻しに行きましょう」 牢獄の闇を破り、魔契の者が世界へと歩み出す。 帝国はまだ知らない。 この夜、地獄の底から背徳の魔女と契約した男が、再び歴史に牙を剥くことを。 そして──それが、すべての始まりであることを。それから、さらに十年後――「おばあちゃん、お話して」小さな女の子が、老女に尋ねた。「『光の魔女』のお話」老女は優しく微笑んで、語り始めた。「昔々、この世界に一人の少女がいました」「その少女の名は、アリア・ヴァルスト」「彼女は、特別な力を持って生まれました」「光の魔法です」老女の声は、穏やかで温かい。「アリアは、幼い頃から、その力で人々を幸せにしたいと願っていました」「でも、特別な力を持つことは、簡単ではありませんでした」「怖がられることもありました」「管理されそうになったこともありました」「それでも、アリアは諦めませんでした」「なぜなら、彼女には愛があったから」「家族の愛、友達の愛、そして人々への愛」女の子は、目を輝かせて聞いている。「アリアには、四人の仲間がいました」「ユウキ、リナ、ミア、ケイ」「五人は『虹の約束』を交わしました」「違う力を持つ者たちが、手を取り合えば、美しい虹ができる」「その約束を胸に、五人は世界を旅しました」老女が遠い目をする。「東の国では、疫病に苦しむ村を救いました」「アリアの光が、人々を癒したのです」「西の国では、争いを止めました」「五人の力を合わせた虹が、人々の心を一つにしたのです」「北の国では、凍える人々を温めました」「南の国では、干ばつに苦しむ大地に雨を降らせました」「五人は、どこへ行っても、人々に希望をもたらしました」「特に、アリアの光は特別でした」「彼女の光は、ただ明るいだけではありませんでした」「人の心を癒し、悲しみを和らげ、希望を与える光でした」
十年後――アリア・ヴァルストは、十六歳になっていた。「おはよう」鏡の前で髪を整えながら、アリアは自分の姿を見つめる。あの頃の面影を残しながらも、すっかり大人びた顔立ち。長く伸びた漆黒の髪、凛とした瞳。そして、胸元には変わらず母からのペンダントが輝いている。「今日が、出発の日ね」部屋を見回すと、旅の荷物が準備されていた。十六歳になったアリアは、世界を旅することを決めた。自分の光で、世界中の人々を幸せにするために。「アリア、準備できた?」ドアをノックする声。リリスだった。「うん、ママ」リビングに降りると、リリスとカインが待っていた。二人とも、十年の歳月を経ても変わらず美しく、そして強かった。「本当に行くのね」リリスが少し寂しそうに言う。「ママ……」「でも、止めないわ」リリスが微笑む。「あなたには、やるべきことがあるもの」「ありがとう」「気をつけろよ」カインが娘の肩に手を置く。「世界は広い。危険なこともある」「大丈夫」アリアが笑顔を見せる。「パパとママが教えてくれたこと、全部覚えてる」「それに……」その時、玄関のチャイムが鳴った。「来たわね」アリアが嬉しそうに駆け出す。玄関を開けると、四人の仲間が立っていた。ユウキ・カミジョウ――十六歳。黒髪に知的な眼鏡をかけた青年。機械工学の天才として、すでに複数の発明で名を馳せている。「おはよう、アリア」ユウキが笑顔で言う。「準備万端だ」リナ・シルヴィア――十六歳。銀髪を風になびかせる、優雅な美少女。風の魔法の使い手として、魔法学院でも一目置かれている。「久しぶり、アリア」リナが抱きつく。「やっと、この日が来たわね」ミア・フレイムハート――十六歳。赤い髪に活発な笑顔。炎の魔法を完璧に制御し、今では料理人としても腕を上げている。「アリア、待ってたよ」ミアが元気よく言う。「さあ、冒険の始まりだ」ケイ・グリーンウッド――十六歳。茶色い髪に穏やかな表情。植物魔法の専門家として、環境保護の活動にも参加している。「おはよう、アリア」ケイが優しく微笑む。「行こうか、僕たちの旅に」十年前に交わした約束。「虹の約束」を守り続けた五人は、今もなお最高の仲間だった。「みんな……」アリアが感動で涙ぐむ。「ありがとう」「何言ってるの」ユウキ
春休みの最終日。明日から、新学期が始まる。アリアは、一人で庭に座っていた。「ママ、パパ」リリスとカインが隣に座る。「どうしたの?」「ちょっと、かんがえごと」アリアが空を見上げる。「この一年のこと」「楽しかった?」カインが尋ねる。「うん。とっても」アリアが微笑む。「ともだちができて、がっこうに、かよって」「たくさんの、けいけんをした」「良かったわ」リリスが娘を抱きしめる。「でも、ママ」アリアが真剣な顔になる。「アリア、おもったの」「何を?」「しあわせって、むずかしい」その言葉に、両親は驚いた。「どうして、そう思うの?」「だって……」アリアが説明する。「みんなを、しあわせに、するのって、たいへん」「ひとりひとり、ちがう、しあわせが、あるから」六歳の少女の、深い洞察だった。「その通りね」リリスが頷く。「みんなを幸せにするのは、簡単じゃない」「でも、アリアは、それでも、やりたい」アリアが決意を込めて言う。「すこしずつでも、いい」「ひとりずつでも、いい」「しあわせを、とどけたい」カインが娘の頭を撫でた。「お前は、本当に優しい子だな」「でも、無理はしないでね」リリスが付け加える。「あなたの幸せも、大切なのよ」「わかってる」アリアが微笑む。「アリアは、もう、しあわせだから」「ママと
冬が終わり、春が訪れた。統合教育実験校の一年生も、もうすぐ終わりを迎えようとしていた。「もう、いちねんせいも、おわりだね」アリアが桜の木の下で呟く。「早かったね」ユウキが隣に座る。「色々あったね」「うん」二人は、この一年を振り返っていた。初めて学校に来た日。友達ができた日。学園祭で虹を作った日。クリスマス会で劇をした日。たくさんの思い出が、走馬灯のように浮かんでくる。「たのしかった」アリアが微笑む。「うん。僕も」ユウキも笑顔だ。「来年も、一緒だね」「うん。ずっと、いっしょ」そこに、リナ、ミア、ケイも加わった。「何話してるの?」「この一年のこと」「ああ、色々あったよね」ミアが懐かしそうに言う。「最初は、アリアちゃんが有名人だから緊張したけど」「でも、すぐに友達になれた」リナが続ける。「今じゃ、一番の親友」「僕もです」ケイも頷く。「アリアちゃんたちと出会えて、人生が変わった」「おおげさだよ」ユウキが笑う。「でも、本当だよ」ケイが真剣に言う。「僕、前はすごく内気だったんだ」「今は、全然そんなふうに見えないけど」「それは、みんなのおかげ」五人は、改めてお互いを見つめ合った。この一年で、みんな大きく成長した。「来年も、よろしくね」アリアが手を差し出す。「もちろん」四人が手を重ねる。「ずっと、友達」春休みに入る前日、エリカ校長が特別な発表をした。「みなさん、素晴らしい一年でした」校長が全校生徒の前で語る。「この学校は、実験校として始まりました」「魔女と人間が、本当に共存できるのか」「多くの人が疑問を持っていました」エリカ校長が微笑む。「しかし、あなたたちが証明してくれました」「違いを認め合い、助け合い、共に成長できることを」会場から拍手が起こる。「特に、一年生の皆さん」エリカ校長がアリアたちを見る。「あなたたちの『虹の約束』は、この学校の象徴となりました」「違う力を持つ者たちが、手を取り合えば、美しい虹ができる」「そのメッセージは、社会全体に広がっています」さらに大きな拍手。アリアたち五人は、少し照れくさそうに顔を見合わせた。「来年度、この学校は正式な学校として認可されます」エリカ校長が嬉しそうに発表する。「実験は成功です。これからは、さらに多くの
六歳になって一週間。アリアは、新しい力に戸惑っていた。「また……」朝、顔を洗おうとすると、水が光り始める。アリアの魔力が、意図せず発動してしまうのだ。「ごめんなさい」リリスが駆けつける。「大丈夫よ。まだ慣れてないだけ」「でも、こまる」アリアが困った顔をする。「なにも、してないのに、まほうが、でちゃう」「それは、魔力が強くなった証拠よ」リリスが説明する。「今まで以上に、繊細な制御が必要なの」学校でも、同じ問題が起きていた。「アリアちゃん、また光ってる」リナが指摘する。「え?」アリアが自分を見ると、体が微かに光っている。「とまって」必死に魔力を抑えようとするが、すぐには止まらない。「だいじょうぶ?」ユウキが心配そうに尋ねる。「だいじょうぶ……じゃない」アリアが弱々しく答える。「どうしたらいいか、わからない」その様子を見ていたミカエラ先生が、近づいてきた。「アリアちゃん、少し保健室で休みましょうか」「すみません……」保健室で横になりながら、アリアは考えていた。このままじゃ、みんなに迷惑をかけてしまう。どうすれば、この力を制御できるのだろう。放課後、セラ先生の特別授業が行われた。「アリア、調子はどう?」「よくない……」アリアが正直に答える。「まほうが、とまらない」「そうね。でも、それは当然のことよ」セラが優しく言う。「あなたの魔力は、急激に成長した。体がまだ慣れていないの」
冬休みが明けて、一月も半ばを過ぎた頃。アリアの六歳の誕生日が近づいていた。「もうすぐ、六歳だね」リリスが朝食の席で言う。「うん」アリアが嬉しそうに頷く。「ろくさいになったら、どうなるの?」「少し大人になるわね」リリスが微笑む。「でも、アリアはアリアのまま」「そっか」学校でも、友達がアリアの誕生日を楽しみにしていた。「アリアちゃん、誕生日パーティーする?」リナが尋ねる。「うん。おうちで、ちいさいパーティー」「僕たちも呼んでくれる?」ユウキが期待を込めて聞く。「もちろん」アリアが笑顔で答える。「みんなに、きてほしい」誕生日の前日。アリアは何となく、体の中に変化を感じていた。魔力が、いつもより強く脈打っている。「ママ……」「どうしたの?」「なんだか、へん」アリアが自分の手を見つめる。「からだの、なかが、あつい」リリスは、すぐに理解した。「セラ先生を呼びましょう」リリスが急いで連絡を取る。三十分後、セラが到着した。「見せてください」セラがアリアの手を取り、魔力を調べる。「……なるほど」「どうですか?」リリスが心配そうに尋ねる。「心配いりません」セラが微笑む。「これは、魔力の成長期です」「成長期?」「ええ。魔女は、特定の年齢で魔力が急激に成長することがあります」セラが説明する。「アリアちゃんの場合、六歳がその時期のようです」「それって、だいじょうぶなの?」アリアが不安そうに聞く。「大丈夫よ」セラが優しく言う。「ただ、数日間は魔力が不安定になるかもしれません」「どうすれば?」「安静にして、無理に魔法を使わないこと」セラが助言する。「そうすれば、自然と落ち着きます」その日の夜、アリアは早めにベッドに入った。体の中の熱は、まだ収まらない。「こわくない、こわくない」アリアが自分に言い聞かせる。ペンダントを握ると、少し落ち着いた。「ママとパパの、あい」そう呟くと、不思議と安心した。しかし、夜中に異変が起きた。アリアの体から、突然強い光が溢れ出したのだ。「きゃっ!」アリアが驚いて目を覚ます。部屋全体が、眩い光に包まれている。「とまって、とまって」アリアが必死に制御しようとするが、光は止まらない。「アリア!」リリスとカインが部屋に飛び込んできた。「大丈
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