東京都民ならご存知のはずです。 東京都玉山市当麻町《とうきょうとたまやましとうまちょう》のことです。 東京のベッドタウンとして知られてますよね。 朝七時から八時まで、上野行の私鉄は通勤客であふれ、座席を確保するのも一苦労です。 私鉄の当麻駅より町はずれの高蔵寺行のバスに乗り、終点の高蔵寺で下車すると光景は一変します。 バス停の周辺には三十軒あまりの家がまばらに散り、その間を田圃や畑が埋めています。 群馬との県境には当麻大山《とうまだいさん》がそびえています。 そしてバス停を降りた人たちは、山の麓に広がる異様な光景に、なにかしら恐怖を感じずにはいられないでしょう。 葉っぱが針のように尖った松や杉の木などの針葉樹が林立する森が広がっています。 ですがここには緑はありません。 けばけばしい血のような原色の赤が森の色なのです。 どの松の木も杉の木も幹から枝、葉っぱに至るまで、赤で塗りつくされています。 そう! ここは赤の森なのです。 真っ赤な幹に真っ赤な枝、真っ赤な葉っぱの木々が立ち並び、風が吹く度に悲鳴のような音を立てるのです。 夕日に照らされ、森が一層赤く輝くとき、僕たちは目の前に不吉な未来を連想するのです。 そして夕焼けが闇に変わる直前、この森からは絶望の叫びや泣き声が聞こえると噂されていました。この森の中心部を御覧なさい。木々の間から、遥か天に伸びる不思議な建物をあなたは見るでしょう。 長細くクネクネと不安定な曲線を描く真っ赤な塔です。高さは99mと云われています。 この塔は、山からの風を受け、不安定に揺れているように見えます。 無慈悲な子どもに踏みつぶされたミミズが、苦し気にのたうち回っている姿にも見えました。 赤い森の中の赤い塔。 この塔の由来について聞きたいと思っても、それはムリな話です。 赤い森のそばに、だれも人はいません。 もし集落まで戻り出会った人に、赤い森と塔について尋ねて御覧なさい。 ある人は苦しそうに首を振って沈黙し、ある人は泣きながら走り去るでしょう。 一体、ここで昔、何が起きたというのでしょうか? 町に戻ってあちこち問い合わせた末、今年、五十九歳になる一宮金太《いちのみやきんた》さんという方が、赤い森と塔の由来について教えてくれることになりました。 金太さんは、今から五十年前に、当麻
Terakhir Diperbarui : 2025-07-27 Baca selengkapnya