カノ女と僕の幽霊塔~殺戮の神、大黒天の一族、マハー・カミラに監禁された少年の運命は?

カノ女と僕の幽霊塔~殺戮の神、大黒天の一族、マハー・カミラに監禁された少年の運命は?

last updateDernière mise à jour : 2025-08-25
Par:  倉橋Complété
Langue: Japanese
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東京都当麻町ではお人よしの鶴葉下照光さんに対して人々の陰湿ないじめが続き鶴葉下さんは町はずれの塔にこもった。  街の人たちは塔を包囲し嫌がらせを繰り返す。  そのとき、大黒天ことマハー・カーラの一族であり、赤の女神、マハー・カミラが出現。  町の人々を殺戮。  塔を血の如く赤く染めた。  半世紀後、幽霊塔に近づく人もいない現代。  心優しい少年、上杉悠馬の前に、美しく残忍な赤の女神、マハー・カミラが現れた。 「森に近づく者がいないため、奪う命もなく退屈していた。お前を五十年ぶりの生贄とする」  あでやかな死の笑い。  悠馬を生贄にすることしか考えていないマハー・カミラ。  果たして悠馬は、ホラーをハッピーエンドのラブコメに変えられるか!

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Chapitre 1

~第一部 当麻町の惨劇~  当麻町の惨劇について語ろう

 東京都民ならご存知のはずです。

 東京都玉山市当麻町《とうきょうとたまやましとうまちょう》のことです。 

 東京のベッドタウンとして知られてますよね。

 朝七時から八時まで、上野行の私鉄は通勤客であふれ、座席を確保するのも一苦労です。

 私鉄の当麻駅より町はずれの高蔵寺行のバスに乗り、終点の高蔵寺で下車すると光景は一変します。

 バス停の周辺には三十軒あまりの家がまばらに散り、その間を田圃や畑が埋めています。

 群馬との県境には当麻大山《とうまだいさん》がそびえています。

 そしてバス停を降りた人たちは、山の麓に広がる異様な光景に、なにかしら恐怖を感じずにはいられな

いでしょう。

 葉っぱが針のように尖った松や杉の木などの針葉樹が林立する森が広がっています。

 ですがここには緑はありません。

 けばけばしい血のような原色の赤が森の色なのです。

 どの松の木も杉の木も幹から枝、葉っぱに至るまで、赤で塗りつくされています。

 そう! ここは赤の森なのです。

 真っ赤な幹に真っ赤な枝、真っ赤な葉っぱの木々が立ち並び、風が吹く度に悲鳴のような音を立てるのです。

 夕日に照らされ、森が一層赤く輝くとき、僕たちは目の前に不吉な未来を連想するのです。

 そして夕焼けが闇に変わる直前、この森からは絶望の叫びや泣き声が聞こえると噂されていました。

この森の中心部を御覧なさい。木々の間から、遥か天に伸びる不思議な建物をあなたは見るでしょう。

 長細くクネクネと不安定な曲線を描く真っ赤な塔です。高さは99mと云われています。

 この塔は、山からの風を受け、不安定に揺れているように見えます。

 無慈悲な子どもに踏みつぶされたミミズが、苦し気にのたうち回っている姿にも見えました。

 赤い森の中の赤い塔。

 この塔の由来について聞きたいと思っても、それはムリな話です。

 赤い森のそばに、だれも人はいません。

 もし集落まで戻り出会った人に、赤い森と塔について尋ねて御覧なさい。

 ある人は苦しそうに首を振って沈黙し、ある人は泣きながら走り去るでしょう。

 一体、ここで昔、何が起きたというのでしょうか?

 町に戻ってあちこち問い合わせた末、今年、五十九歳になる一宮金太《いちのみやきんた》さんという方が、赤い森と塔の由来について教えてくれることになりました。

 金太さんは、今から五十年前に、当麻町で起きた無気味な出来事の体験者だったのです。

 金太さんの家の壁には、笑顔を浮かべた男性の顔写真がかけられています。金太さんのお父さんです。

 五十年前のあの時……。

 金太さんはお父さんと一緒だったのです。

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~第一部 当麻町の惨劇~  当麻町の惨劇について語ろう
 東京都民ならご存知のはずです。 東京都玉山市当麻町《とうきょうとたまやましとうまちょう》のことです。  東京のベッドタウンとして知られてますよね。 朝七時から八時まで、上野行の私鉄は通勤客であふれ、座席を確保するのも一苦労です。 私鉄の当麻駅より町はずれの高蔵寺行のバスに乗り、終点の高蔵寺で下車すると光景は一変します。 バス停の周辺には三十軒あまりの家がまばらに散り、その間を田圃や畑が埋めています。 群馬との県境には当麻大山《とうまだいさん》がそびえています。 そしてバス停を降りた人たちは、山の麓に広がる異様な光景に、なにかしら恐怖を感じずにはいられないでしょう。 葉っぱが針のように尖った松や杉の木などの針葉樹が林立する森が広がっています。 ですがここには緑はありません。 けばけばしい血のような原色の赤が森の色なのです。 どの松の木も杉の木も幹から枝、葉っぱに至るまで、赤で塗りつくされています。 そう! ここは赤の森なのです。 真っ赤な幹に真っ赤な枝、真っ赤な葉っぱの木々が立ち並び、風が吹く度に悲鳴のような音を立てるのです。 夕日に照らされ、森が一層赤く輝くとき、僕たちは目の前に不吉な未来を連想するのです。 そして夕焼けが闇に変わる直前、この森からは絶望の叫びや泣き声が聞こえると噂されていました。この森の中心部を御覧なさい。木々の間から、遥か天に伸びる不思議な建物をあなたは見るでしょう。 長細くクネクネと不安定な曲線を描く真っ赤な塔です。高さは99mと云われています。 この塔は、山からの風を受け、不安定に揺れているように見えます。 無慈悲な子どもに踏みつぶされたミミズが、苦し気にのたうち回っている姿にも見えました。 赤い森の中の赤い塔。 この塔の由来について聞きたいと思っても、それはムリな話です。 赤い森のそばに、だれも人はいません。 もし集落まで戻り出会った人に、赤い森と塔について尋ねて御覧なさい。 ある人は苦しそうに首を振って沈黙し、ある人は泣きながら走り去るでしょう。 一体、ここで昔、何が起きたというのでしょうか? 町に戻ってあちこち問い合わせた末、今年、五十九歳になる一宮金太《いちのみやきんた》さんという方が、赤い森と塔の由来について教えてくれることになりました。 金太さんは、今から五十年前に、当麻
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~第一部②~ 鶴葉下さんの涙を知れ!
 東京都玉山市当麻町《とうきょうとたまやましとうまちょう》の当麻駅の近く。 鶴葉下照光《つるはげてるみつ》さんという三十歳くらいのひとり暮らしの男性がいたのです。おとなしく無口な性格でした。いつも下を向いていたと、当時を知る人は語っています。 この人は「鴨下電機《かもしたでんき》」という電化製品の部品工場で働いていたわけですが、誰も彼のことを本名で呼ぼうとはしませんでした。「オイ!ライトマン」「男性用かつらの顧客」「光る頭をオレに見せるな!」などと同僚たちがひどい悪口を浴びせていたのです。 鶴葉下さんは、なんと言われても黙って下を向いたまま、黙々と仕事を続けていました。 すると同僚たちは怒りだして、「このライトマン! 髪の毛がないばかりか耳も悪いのか!」「お前は人間じゃねえ。さっさと自殺せんか!」 そうもっとひどい悪口を浴びせるのでした。 鶴葉下さんは、髪の毛が薄く、耳の回りと後頭部に少しばかり残っているだけでした。 だからといって鶴葉下さんには、なんの落ち度もありません。 それなのに卑劣な会社の人たちは、鶴葉下氏へのいやがらせを止めようとはしませんでした。 やがて町中の人々が、面白がって鶴葉下さんをいじめるようになったのです。 工場へ行く途中。帰り道。 子どもも大人も、鶴葉下さんを見つけると一斉に駈け寄って来て、「こら! ライトマン! なにをしている? また悪いことをたくらんでるな」「髪の毛のない悪党め! 昨日、坂本さんの家に空き巣が入ったが、あれはお前のしわざだろう。白状せんか!」「髪の毛の薄い分際で、よくも道を歩いたな!わしらをバカにしとるのか! 許さんぞ」「お前なんか、この世からいなくなればいいんだ」 なんというひどい話でしょう。 町の人たち、みんなでおとなしい鶴葉下さんをバカにしていじめたのです。「ああ。なんてことだ。どうしてわたしは、こんなひどい目に遇わなければならないんだ」 鶴葉下さんは、ひとり暮らしのアパートの部屋で、一晩中泣くのでした。 アパートの部屋の窓ガラスは、町の人から石やジュースの空ビン、自転車や掃除機を投げつけられ、一枚も残っていませんでした。 新聞紙を貼りつけ、窓ガラスの代わりにしていたのです。 そんなとき、鶴葉下さんは、叔母さんからかなりの遺産を相続することになりました。
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~第一部③~マハー・カミラ見参
 帽子をかぶって背中に大きな袋。宝をもたらす打ち出の小づちを手に持ち米俵に足をかけ、ニコニコと満面の笑みを浮かべる大黒天。 信仰する人たちの願いをかなえ、富や名誉を与えてくれると云われています。 鶴葉下さんの家は代々、大黒天を信仰していたのです。 大黒天の木像は、二メートル近くありました。 窓ぎわと反対側の壁に台座が置かれ、その上に安置されていました。 部屋にはほかに、鶴葉下さんが小説を書くための机と椅子。そして粗末なベッドくらいしか見当たりません。 大黒天は打ち出の小づちを握り、にこやかに微笑んでいます。 でも大黒天と向き合った鶴葉下さんの顔は涙でベトベトでした。 重たい鎧戸《よろいど》を閉めているのに窓の外からは、「鶴葉下さーーーーん! あなたといますぐ結婚したいっていう十六歳の少女が待ってますよ~。「髪の毛のない頭が、とってもセクシーだって体を震わせて悶えているんですのよ。アアーーン」「さあ!勇気を出して塔から出てらっしゃい」  どこまでも鶴葉下さんを恥ずかしめる町の人たち……。 鶴葉下さんは悲しみのあまり、大声で泣き叫んでいました。「もうたくさんだ!たくさんだあーーーーー!」 拳を握って自分の頭をボコボコ殴ったのです。 最後に大黒天の木像の足下に手を伸ばし、絶望に震えながら叫んだのです。「大黒天様!助けてください。わたしを助けて下さい! だれもいないところに連れて行ってください! わたしはひとりになりたいんです」大黒天様はニコニコと柔和に微笑んだままです。「どうか助けてください!大黒天様! 願いがかなうのでしたら、どんなことでもいたします」 鶴葉下さんの絶望の涙は、大黒天の足下を濡らしました。 そして次の瞬間でした。 塔の中を闇が支配したのです。 照明が一瞬のうちに消え、闇のほかは何も見えなくなったのです。 暗黒の静寂。 そして闇を切り裂くように悲鳴のような声が聞こえました。「キャーーーーーーーーッ」 闇の中から、血のようにどんよりした赤い霧が飛び出して来たのです。 赤い霧は塔の中を駆け巡り、一瞬のうちに塔の外観も天井も壁も床も家具も備品も、赤一色に変えてしまったのです。 明るいのに暗く…… 残酷な死の象徴…… それが「赤」という色なのです。 赤く染まった大黒天の木像がカタカタと左右に揺
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~第一部④マハー・カミラの嘲笑
 「わが名はマハー・カミラ」 低く冷たい響きが部屋に響きました。「マハー・カミラ?あなたは一体、誰なんです」 鶴葉下さんは、震える声で尋ねます。 「わ、わ、わたしは大黒天様にお祈りしてたんです。 あ、あ、あなたなんて関係ないんです。ど、ど、どうか、お引き取りください。 呼んでもないのに来るのは、悪徳セールスマンと同じじゃないですか。110番します」 「下郎《げろう》が………」 マハー・カミラが杖を振り上げ、大きく振り下ろしました。 突然、部屋が大きく揺れました 鶴葉下さんの目の前。 天井に頭がつく高さ。部屋いっぱい占領するぐらいの巨大な人が現れたのです。 炎のように赤く光る髪が腰まで伸び、頭上には金色の王冠。王冠には五つのドクロが飾られています。 全身、黒光りした皮膚。 左右の目の間にもうひとつ巨大な目を持ち、瞳は炎のように燃えています。 白い歯を食いしばり、怒りの表情で鶴葉下さんをにらみつけたのです。 腰巻以外には、身になにもつけていませんでした。 腰巻というのは、無数の人間の首を紐でつないだものでした。 巨大な人の腰で揺れている首たち。 目を開けたままの首。眠ったような表情の首。恐怖にひきつった顔の首。泣きじゃくった赤ん坊の首もありました。 丸太のように太い腕を持ち、右手に槍、左手に長い刀。 槍も刀もギラギラと無気味な光を放っています。 丸太のような両足が床を踏みしめています。 「ヒーーッ。こ、これは……」 「お前が毎日、崇めているだろう。 インドの神。マハー・カーラ。巨大な黒い人という意味だ。 ヒンズー教、シーク教、仏教の神を務める。 このマハー・カーラは、仏教が中国に伝わったとき、大黒天と名付けられ、お前たちが崇める姿に変えられた。 これがお前の拝んでいる大黒天の正体だ。愚か者め」 いつのまにか、マハー・カーラは消えていました。 「そしてわたしはマハー・カーラ、マハー・カーリから生み出されたマハー一族の神だ」   
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第一部⑤孔雀王経の文言
「そしてわたしはマハー・カーラ、マハー・カーリから生み出されたマハー一族の神だ」 マハー・カミラを名乗った赤い美女は杖を鶴葉下さんに突きつけました。 杖の先では蛇が大きく口を開き、舌をペロペロさせ鶴葉下さんを見つめているのです。 「マハー・カミラは、お前が呼んだから来ただけだ。 マハー・カーラを呼ぶには最低でも三年の修業が必要だ。お前などの求めに一族の長、マハー・カーラがわざわざお出ましになると思うか? 愚か者め!」 マハー・カミラの叫びの下。 大きく杖が振り下ろされました。 鶴葉下さんが頭を押さえました。 そのまま悲鳴と共に倒れたのです。 指の間から血がしたたり落ちます。 杖の先の蛇の口からも、血がしたたり落ちています。 蛇は笑っているようでした。 「だが呼ばれた以上、このマハー・カミラが希望も未来もないお前の願いをかなえてやろう。 見るがよい」 マハー・カミラが杖を旋回させました。 鶴葉下さんはハツキリ見たのです。 宙に浮く一冊の分厚い古びた本を……。 『孔雀王経《くじゃくおうきょう》』 中国の唐の時代に書かれた仏教に関する書物でした。 頁がひとりでにめくれ、ある頁で静止しました。 <即ちマハー・カーラに願いを託すには、膨大な量の血肉を必要とする。 それを避けるには修行により、ダラニ呪文を会得せねばならぬ。 ダラニ呪文の会得には最低でも三年間の修行を必要とする。更にマハー・カーラより加護を受けるには、なお数年の年月を必要とする 常人がマハー・カーラに願いを託しても、その血肉のみ奪われ屍と果てる> 頁がめくれ、それより後の頁を示します。 <マハー・カミラはマハー・カーラの一族の女性。マハー・カーラの闇に対して赤を基調となす。常人の願いをよく聞き届け、血肉の代償を求めず> 『孔雀王経』はゆっくりと閉じられ、鶴葉下さんの前から消え去りました。「わたしは伯父様と違い、ずいぶんと物分かりのよい神だ。 直ちにお前の願いをかなえてやろう」
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~第一部⑥~塔の前の惨劇を誰が知るか?
 一宮金太《いちのみやきんた》さんは、この日の夕方見聞きしたことを、半世紀経った今も覚えていました。 当時、金太さんは小学三年生でした。 父親の紀夫さんは当麻町の消防団副団長でした。 金太さんは、紀夫さんの運転する消防団の乗用車に乗せられ、塔の回りの空地に到着したのです。 当麻町消防団と白く書かれた赤い車。 紀夫さんが車を降ります。金太さんは眩しげに紀夫さんを見上げました。 責任感に満ちた頼もしい紀夫さんは、金太さんの誇りでした。 「困ったものだ。弱い者いじめをして日頃のイヤなことを忘れようとする。一番悲しいことだ。日本人は美しい陶器や織物をつくるのに、こんな残酷なことをする一面がある。お父さんはなんとかやめさせたいと思っているが、消防団では、自分たちの活動とは関係ないというんだ」 車は塔から二百メートルほど離れていました。 「お父さんはこれでも勘が鋭い方でね。なにか大変なことが起きるような気がしてならない。ただの思いすごしであって欲しい。だがね。もしなにか起きたら、車に設置してある無線で警察に連絡してくれ。無線の使い方は知ってるね」 そう言い残して紀夫さんは、塔に向かってゆっくりと歩いていきました。 金太さんは、紀夫さんの背中をずっと見送っていました。 紀夫さんの姿が、塔の回りの群衆の中に消えたときです。 ゴーーーッ 地面が巨大な叫びをあげたのです。 突然、大きく揺れ始めました。  悲鳴が空地いっぱいに響き渡ったのです。 塔の前で人々が逃げまどっています。「地震だ! 助けて!」 塔の回りの空地。 あちこちが、山のように盛り上がりました。 見る間に地面が裂け、杉の木や松の木が生えてきました。 目にも止まらない速さ! そのまま空高く伸びていき、最後には五十メートル以上の高さになりました。 どの杉の木も松の木も、血のように赤かったのです。 なにもなかった空地が、巨大な赤い杉や松の木で埋め尽くされました。 赤い木の間を人々が逃げまどいます。 空地から逃げ出そうとしています。 そのときです。 赤い杉の木、松の木の枝が、まるで蛇のようにくねくねと動きながら、どんどん長くなっていきました。 赤い枝がものすごい速さで人々を追いかけます。 まさに獲物を追う蛇そのものでした。 逃げる人々に追いつき、蛇のように
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~第二部②~地獄のクラス
 教室の中で思いっきり蹴られて床に転がった。 僕の前に鈴木、宇野、松下が立ちはだかってる。 クラスメイトたちは、なにも見てない。聞こえていない。自分たちの話に夢中。 朝のホームルーム前の教室。「卑怯なマネしやがって」 長身の鈴木が僕のこと、見下ろす。イケメンって言われるのも無理ない。成績もトップだし、スポーツ万能。 僕は成績、クラス二位だけど、スポーツはぜんぜん✖。筆記試験でカバーしてる。 鈴木ってイケメンだからもてもて。僕とかクラスの弱い子いじめてたって、人気は変わらない。「殺すぞ!」「バカヤロー」 クマのような顔の大男の宇野、カマキリみたいな顔の松下が、ふたりで僕に向かって大声。 僕って床に倒れたまま、 鈴木に靴で何度も蹴られた。 楽しそうなクラスメイトの話し声が遠くで聞こえる。「タカ君。もうやめよう」「こんなヤツ。これ以上、痛めつけたってしょうがないよ」 鈴木が僕から離れる。 僕、黙って立ち上がる。 顔面を思いっきり殴られた。鼻血が流れる。「お前の幼馴染に言いつけろよ。お前が喧嘩売ってきたって説明するだけだ。クラスのみんなだって、そう言ってくれるからな。ザマ見ろ」 スクールバッグを取り上げられた。何度も床に叩きつけられ、それで朝は解放された。 昼間、またパンを買いに行かされた。 でもそれで終わりじゃなかったんだ。 授業が終わって教室を出ようってすると、鈴木に呼び止められた。 宇野、松下、それに鈴木のファンの女子たち六人。「一緒に帰るぞ」「ぼく、用事があるから」「オレらと関係ねぇだろう」「死ね!」 鈴木が残忍な目を僕に向ける。「どうしても寄らなきゃならないから」「どうする?」 鈴木が女子を振り返る。「上杉!あんた、あたしのこと盗撮しただろう」 木下さんが大声を出す。「あたし、胸触られた!」 今度は今井さん。「どうする? 六人とも職員室に行くぞ。被害者は今井と木下。女子四人が目撃者だ」「僕、なにも」 涙声になってた。 早くハーモニカの先生のとこ行かなきゃならないのに、どうしたらいいんだろう?「テメーに決定権ねえんだ。来い!」 どうしようもなかった。だけどハーモニカを見てくれる先生に連絡を……。「こいつのスマホ取り上げろ。三神に連絡されたらまずいすらな」 財布まで取られた。
last updateDernière mise à jour : 2025-07-27
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~第二部③~赤の森の秘密
 バスを降りたら、そのまま九人に囲まれた。 宇野に両手を後ろにねじあげられた。手首にロープが巻きつけられる。「あっ、やめてよ」 あわてて声を出したけど知らん顔。手首を後ろ手に固く縛られ、余ったロープで上半身を縛られた。「このヤロー」 鈴木に頭をこづかれた。それが合図のように、全員に足を蹴られたり、胸を殴られたりした。何度も頭をこづかれた。鈴木たちの笑い声が空に消えていく。「痛いよ。やめて」 僕、何度も叫んだけど無視された。「こいつは三神とつるんでで嘘言ってる犯人だ」「逮捕!逮捕!」「死刑」 体中が痛い。そのまま、先頭を歩かされた。「まっすぐ行ったら赤の森だよ」 僕、恐る恐る声をかけた。「まだ日が沈んでねえ。オレたちは引き返すから平気だ」「お前だけ、ずっと森に残るんだ」 九人の男女が僕のこと見てニヤニヤ笑った。 「やめてよ。そんなの!」 僕だって、赤の森の伝説は知っている。 五十年前に地殻変動かなにかで、突然、なにもなかった空地に赤の森が出現した。 それまであった白い塔が赤く変わったけど、原因はよく分かってないって聞いた。 そのとき、空地にいた大勢の人が亡くなったって話。 いまでは真っ赤になった塔のことを、玉山市では『幽霊塔』って呼んでいる。「みんな知ってるだろう」 鈴木が笑いながら言う。「霊能力者が森を見て言ったらしい。『赤の女神と呼ばれる怖ろしい神がこの地を占拠した。太陽が沈んだ後、この森に近づく者は必ず赤の女神の生贄になる。赤い服を着た者が森に近づくと、すぐ幽霊塔に送られる』」 鈴木の言葉を受けて松下が言う。「うん。聞いた!だから殺したい相手を森まで連れてきて動けないように縛り付けておけば、夜になれば赤の女神が幽霊塔に運んで生命を奪うんだ。赤い服を着せておけば、間違いなく赤の女神がすぐ来る。完全犯罪だっ」 この森には五十年前の惨劇の後も、怖ろしいことが続いているみたい。 僕らの目の前に赤い森が現れた。 五十メートル以上ある針葉樹の大木がギッシリと並んでいる。 木の幹も枝も葉も、血のようにどす黒い赤色だった。 そして木の幹には、ところどころ、もっとどす黒い赤色や生々しいピンク色、薄く澄んだ赤色が、星型や大きな楕円形、小さな楕円形など様々な形で点在していた。 この木の幹のまだらな色あいを
last updateDernière mise à jour : 2025-07-28
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~第二部④~僕の前に現れた赤の美女
 空一面が赤くなった。 ちっとも美しくなんかない。どす黒い赤色。 赤い血が、だんだん僕に近づいてくるように見えた。 僕のすぐ目の前で血は渦を巻き、あっという間に夜に変わった。 空は普通の黒色なんかじゃない。 黒い色の中に、かすかに赤色が混ざっている。そんな不気味な恐ろしい色。 空にきらめく星までが、どんよりした赤色に光っている。 こんな空を見たのは初めてだった。  逃げたくてもロープで固く木に縛りつけられているので動けない。 遠くでかすかに声が聞こえた。「捕まった。助けてください! わたしは静かに暮らしたいだけです。どうか、『鶴葉下照光の生活と意見』を書かせてください。わたしのライフワークなんです。ギャッ」 男の人の泣き叫ぶ声。  「助けてくれ!だれか来てくれ!」「イヤだ!死にたくない!」 男の人の悲鳴。 そして……。「お母さん!助けて!」「お父さん!こわいよーー」 女性の声。僕と同じくらいの年齢だろうか?「金太! まだ警察は来ないのか? 金太! 守ってくれ、みんなのことを。頼む!ウワーッ」 空いっぱいに絶望の叫び。 ずっとずっと長く続いた。 そして空いっぱいにギザギザの裂け目が広がった。 目の前を赤い光が一瞬で通り過ぎた。 光の中から、だれかが出てきた。 二メートル近くの長身。 全身は血のような赤色。 赤い髪は肩までのセミロング。 赤い髪を額に垂らしてる。 大きな目と大きな口。 冷たく残忍そうな顔。 だけどとっても美しい。 胸元から下の赤いドレス。 スカートの裾は超ミニ。 スラリとした美しい赤の脚。 赤色のクルーソックスに赤のミニブーツ。 右手には赤い杖。 僕に杖の先を突きつける。 杖の先がハッキリ見えた。 大きく口を開け、舌を出して笑ってる赤い蛇の頭。「十二年ぶりの獲物だ」 赤の女性が僕を見て言った。 「わたしの名はマハー・カミラ」 それから顔いっぱいの大きな笑み。「少年。お前は死ぬのだ」
last updateDernière mise à jour : 2025-07-29
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