Masuk東京都当麻町ではお人よしの鶴葉下照光さんに対して人々の陰湿ないじめが続き鶴葉下さんは町はずれの塔にこもった。 街の人たちは塔を包囲し嫌がらせを繰り返す。 そのとき、大黒天ことマハー・カーラの一族であり、赤の女神、マハー・カミラが出現。 町の人々を殺戮。 塔を血の如く赤く染めた。 半世紀後、幽霊塔に近づく人もいない現代。 心優しい少年、上杉悠馬の前に、美しく残忍な赤の女神、マハー・カミラが現れた。 「森に近づく者がいないため、奪う命もなく退屈していた。お前を五十年ぶりの生贄とする」 あでやかな死の笑い。 悠馬を生贄にすることしか考えていないマハー・カミラ。 果たして悠馬は、ホラーをハッピーエンドのラブコメに変えられるか!
Lihat lebih banyak東京都民ならご存知のはずです。
東京都玉山市当麻町《とうきょうとたまやましとうまちょう》のことです。
東京のベッドタウンとして知られてますよね。
朝七時から八時まで、上野行の私鉄は通勤客であふれ、座席を確保するのも一苦労です。
私鉄の当麻駅より町はずれの高蔵寺行のバスに乗り、終点の高蔵寺で下車すると光景は一変します。
バス停の周辺には三十軒あまりの家がまばらに散り、その間を田圃や畑が埋めています。
群馬との県境には当麻大山《とうまだいさん》がそびえています。
そしてバス停を降りた人たちは、山の麓に広がる異様な光景に、なにかしら恐怖を感じずにはいられな
いでしょう。
葉っぱが針のように尖った松や杉の木などの針葉樹が林立する森が広がっています。
ですがここには緑はありません。
けばけばしい血のような原色の赤が森の色なのです。
どの松の木も杉の木も幹から枝、葉っぱに至るまで、赤で塗りつくされています。
そう! ここは赤の森なのです。
真っ赤な幹に真っ赤な枝、真っ赤な葉っぱの木々が立ち並び、風が吹く度に悲鳴のような音を立てるのです。
夕日に照らされ、森が一層赤く輝くとき、僕たちは目の前に不吉な未来を連想するのです。
そして夕焼けが闇に変わる直前、この森からは絶望の叫びや泣き声が聞こえると噂されていました。
この森の中心部を御覧なさい。木々の間から、遥か天に伸びる不思議な建物をあなたは見るでしょう。
長細くクネクネと不安定な曲線を描く真っ赤な塔です。高さは99mと云われています。
この塔は、山からの風を受け、不安定に揺れているように見えます。
無慈悲な子どもに踏みつぶされたミミズが、苦し気にのたうち回っている姿にも見えました。
赤い森の中の赤い塔。
この塔の由来について聞きたいと思っても、それはムリな話です。
赤い森のそばに、だれも人はいません。
もし集落まで戻り出会った人に、赤い森と塔について尋ねて御覧なさい。
ある人は苦しそうに首を振って沈黙し、ある人は泣きながら走り去るでしょう。
一体、ここで昔、何が起きたというのでしょうか?
町に戻ってあちこち問い合わせた末、今年、五十九歳になる一宮金太《いちのみやきんた》さんという方が、赤い森と塔の由来について教えてくれることになりました。
金太さんは、今から五十年前に、当麻町で起きた無気味な出来事の体験者だったのです。
金太さんの家の壁には、笑顔を浮かべた男性の顔写真がかけられています。金太さんのお父さんです。
五十年前のあの時……。
金太さんはお父さんと一緒だったのです。
お話は50年前に赤の森の惨状を目撃した一宮金太さんのエピソードに移ります。 一宮金太さんのお父さんはマハー・カミラに襲撃されて殉職しました。 それから半世紀経ったいま、一宮金太さんは自営業を営みながら、消防団の団長を務めていたのです。 その頃、新聞やテレビは、不思議な日本人の集団について伝えていました。 総勢百人以上の老若男女からなるメンバーで、その中心にいるのは髪の毛のふさふさした紳士でした。 「鶴葉桂」という名前でした。 ただ一部の人々のいうところでは、その紳士の髪型は不自然なところがあるのでカツラではないかということでした。 この不思議な日本人の集団については、人気司会者の宮根さんのワイドショーでも取り上げられたほどです。 ヨーロッパやアジアなどの名所を観光し、高級ホテルで豪華なディナーを楽しんでいたのです。 この集団が突然、京都に現れ、京都嵐山の高級旅館を借り切って宿泊していました。 昼は京都観光を楽しみ、夜は旅館の大宴会場で大騒ぎをしていたのです。 一宮金太さんが突然、一通の手紙を受け取ったのはその頃のことでした。<父より 金太よ。 突然だが、お前にもう一度、会えることとなった。 これまでのお前の苦労を思うと父も胸が痛い。 だがわたしは、お前が自費出版した『自分史』を読んだよ。 父として息子のお前を誇りに思うよ。金太! 『負けばかりの人生だったと人は笑うかもしれない。 だが自分は、この人生を後悔していない。 わたしは声を大にして自慢したい』 ありがとう。金太。 だが少しはお前も幸福を味わってもよかろう。 わたしを尋ねてきてはくれないか 鶴葉さんという人たちと共に、京都嵐山の旅館に宿泊している。 頼むから来て欲しい> 封筒には京都までの交通費として十万円が入っていました。 金太さんは半信半疑で、京都嵐山の高級旅館を訪れました。 すると父親の紀夫さんが、昔のままの姿で旅館の受付に現れたのです。 父親に案内された畳敷きの和室に案内されました。 窓から美しい山景色を眺めながら、ふたりは芋棒などの名物料理を味わいました。 亡くなったはずの父親が再び自分の前に現れた。 自分はこんなにも老いさらぼえているのに、父親は別れたときのままの姿なのです。 一体、これは夢なのだろうか? 金太
バス停。 次のバスが来るまで十分くらい。 僕、スマホを取り出す。 バス停にたったひとり。 回りには田園が広がる。その奥に僕が一週間過ごした赤の塔が見える。 バス停にたったひとり。 だけど人の気配を十分感じてた。 マハー・カミラさんって神様だけど、時々、子どもみたいな失敗するんだもの。「春奈ちゃん。うん!いまから帰るね。すぐ春奈ちゃんの家に行く」 人の気配がだんだん近づいてくる。 春奈ちゃんの声、わざとスピーカーで流してみる。「ユウちゃん。相談だけどね」 なんだかウキウキした声が聞えてきた。「わたしの家に住まない。両親も認めてくれた。ユウちゃんさえよければ、正式に婚約したいの」 そんなこと言って……。聞いている人がいるのに。「婚約は、いますぐでなくてもいいけど……。とにかく今夜は、わたしんちに泊まって。頭のおかしい赤の女神が、またユウちゃんにひどいことしないか心配だからね」 激しい息遣いが聞えてくる。間違いなく怒ってる。「明日、学校休んでお寺にお祓いに行こうよ。二度と変な神様にひどい目に遇わされないようにね。だいたい神様なんていってるけど、ただのヘンタイおばさんじゃない」 またスマホが消えた。 すぐ後ろにマハー・カミラさんがいた。 さっきからいるって分かってましたけれど……。「ユウはお前のような悪党の顔は二度と見たくないと、わたしに助けを求めてきた。さらばだ」 春奈ちゃんの怒りの声もすぐ聞こえなくなった。 マハー・カミラさんったらスマホ返してくれなかった。 僕を後ろから抱きしめる。 次の瞬間。 十分前と同じように、赤の塔の一室にいた。 マハー・カミラさんに後ろ手に縛られた。僕はされるがままにしていた。 もしかしたらこうなることを、心のどこかで願っていたのかもしれない。「やめる!」 マハー・カミラさんったら、僕の体を自分に向けさせる。「ユウちゃんはね。ずっとこの塔でわたしと一緒にいるんだから。分かった?」 おごそかに宣言。「ユウちゃんが言うことを聞かなければ、春奈と家族は皆殺し。日本は一日で滅びることになる」 そうですよね。 だから僕って、ここにいなきゃいけないんですよね。 僕の目から涙が流れた。 マハー・カミラさんったらね。僕が悲しんでるって思ったんだ。 困ったように顔をしかめた。「
塔の一室。 マハー・カミラさんと僕が向かい合って立ってる。 マハー・カミラさんはおなじみの赤いブレザーの制服姿。 僕らの間にはたくさんの紙袋。 いくつもの有名デパートの名前が印刷されてる。「このシャツは一着三万したんだからね」 マハー・カミラさんが突然、可愛らしい口調に変わった。 紙袋の中身をひとつひとつ説明して、ブランドものだということ、高価だったことを詳しく説明してくれた。「ぜんぶユウちゃんの家に送っておくけど、忘れちゃだめだよ」 マハー・カミラさんが僕の肩に手を置く。「ぜんぶわたしが買ったんだからね。ストーカーでお節介の春奈じゃないからね。忘れるないで」「はい」「帰ったからといって、わたしのこと忘れないで」「はい」「神は人間と恋が出来ない。そんなの不公平だよ」 マハー・カーラさんの声って、だんだん小さくなっていった。 「じゃあ、バス停までわたしが瞬間移動させるから。ちょっと待ってて」 マハー・カミラさんが部屋を出て行く。 僕、黙って見送る。 スマホを立ち上げた。 ロック画面って、春奈ちゃんと僕の2ショット。 黙ってスマホの画面見ていた。 ふいにスマホが宙に浮いた。 いつの間に入ってきたんだろう? 後ろにマハー・カミラさんの姿。 右手に僕のスマホ、握ってる。 スマホの電源を切って僕に返す。「一週間に一日、金曜日。授業終わったらわたしのとこに来てね。バス停に着いたらすぐ迎えに行くから」 えっ?急にそんなこと。 でも僕、おとなしくうなずいていた。「はい。週に一日でしたら」 マハー・カミラさんがイライラしたように叫ぶ。「やっぱり二日にして。月曜日と金曜日。必ず来て」 血走った目。 僕、おとなしくうなずいた。それしかないみたい。「はい。週に二日でしたら」 マハー・カミラさんが首を大きく振る。 不機嫌な顔で部屋中歩き回る。 最後に僕のところへ戻ってくる。 腕をしっかりつかまれる。「やっぱり三日にして。月曜日と水曜日。金曜日。必ず来て。約束だよ」 どんどん帰宅の条件、変わってきている。「覚えておいて。わたしがこの塔の外に出たら必ず日本に異変が起こる。やがて動乱になる。わたしのパワーのこと、ユウちゃんは知ってるもんね」「はい」「ユウちゃんがいるから、わたしのパワーがプラスの方向に調整
シャンデリアが明るく輝く大きな宮殿。 赤い光が横切ります。 赤い髪をなびかせ、赤い顔に赤いドレス。赤のミニスカートから赤くスラリとした脚を伸ばし赤いブーツを履いたマハー・カミラでした。 宮殿の明るい照明にけげんそうな顔をしています。 もっとけげんそうな表情になったのは、黒い頭巾をかぶり、宝物の入った大きな袋を背に打ち出の小槌を手にしたマハー・カーラの姿を見たときでした。 二メートルくらいの背の高さとなり、優しくて頼もしいナイスミドルの表情も、マハー・カミラを驚かせたのです。「伯父上」 マハー・カミラが膝をついて挨拶します。「一体、これは?」「つまりだな。イメチェンだ」 マハー・カーラが珍しく口ごもったのです。「クビラの賢弟に勧められた。つい今しがた、日本から帰って来た聖徳太子殿の意見でもある。『人間と友人になる必要はない。だが強きをくじき、弱きを助ける厳しくても頼りがいのある神であるべきだ』 全く、その通りかと思う。だいたいお前たちはな。そのな。マハーの神の考えを誤解しておるぞ」 マハー・カーラは気まずそうな顔を向けてきます。「あのな!わしはな。人間たちにこう申したかったのだ。己の欲望のためにマハーの神の力を頼りたいなら厳しい修行をせよ」 マハー・カーラの説明にマハー・カミラは耳を傾けます。「例えばだ。なんの修行もせずに己ひとりの栄耀栄華を願い出るような輩は虫が良すぎるというものだ。そのような者には厳しく神罰を与える」「もっともでございます」「だが世のため、他人のために神の力を借りたいなら、我ら神は無条件で助けよう。わしは人間にはだれでも厳しくせよと申したことはない」「おっしゃる意味、よく承知致しました」「しかしだ。いまはわしの教育方針を心より反省している。お前が多くの無辜の民を傷つけた責任はわしにもある」 マハー・カミラは恐縮して頭を下げ、恭順の意を示します。 「中国、日本で広まった大黒天のイメージは、わしにふさわしくないと考えていた。だがな。よくよく考えると、心の正しい人間には頼もしい神であるべきかもしれぬ」「確かにその通りでございます」「これからは、このかっこうでいく。聖徳太子殿が、わしのイメチェンにいろいろ協力してくれた」 宮殿の中に美しい歌声が流れました。
マハー・カミラさんが扉のところに立って僕を見下ろす。 「どの蛇も毒を持っている。お前は苦しむが死ぬことはない。縛られたままのたうち回って苦しみ、涙を流して泣き叫んでも生き続ける」 マハー・カミラさんの恐ろしい言葉に、僕の体はガクガクと震えていた。「体が赤黒く変色し、風船のように膨れあがった頃、耐えきれぬ苦痛の中で体が衰弱し死を迎えることになる。毒にまみれたお前の血と肉はわたしにとって最上のディナーとなる。そして変形したお前の頭蓋骨は、伯父上のコレクションのひとつとなるのだの」 「死ぬのは覚悟しています」 僕はマハー・カミラさんににじり寄った。「だけどこんな死に方イヤです」 マハ
僕、客席に向き直った。 小夜ちゃん、浜島君、笹岡君、小中学生の児童たち。 ステージの上。スカートをひるがえして走るマハー・カミラさんの姿。 「みなさん。今日はありがとうございました」 この後、とっても言いにくいことを言わなければならない。 マハー・カミラさんが僕の肩に手を乗せる。そのまま、僕の肩の上で逆立ち。「なに、やってんの!」 春奈ちゃんの大声。「今日で僕のハーモニカのコンサート、終わりです」 スタンドマイクの前。耳にハンディのある小夜ちゃんにも聞こえるように、出来るだけ大声でハッキリと言葉にする。 小夜ちゃんが立ち上がる。 聞こえたんだ。「どうして!悠馬兄ちゃ
ホールの現在……。 たぶんいい雰囲気なんかじゃない。 観客の男性大喜び! けれども『男女で一緒に男女共同参画社会を進める会』のメンバーの人たちって、すごく怒っている。 マハー・カミラさんの歌を聴いたショックで失神! 点滴して息をゼーゼーさせながらマハー・カミラさんに抗議してる。「こ、こんな歌やめてください。みんな怒ってます」 マハー・カミラさんったらうるさそう。 「下郎! うるさい! だれも怒っていない。みんな喜んでるだろう。この拍手と歓声を聞け。お前たち頭がおかしくて幻覚が見えたり聞こえたりするのか? 早く一緒に喜ばんか!」 マハー・カーラさんが赤い杖を振る。 そうし
塔の寝室に戻ったら、またマハー・カミラさんに手足を縛られた。 その後、マハー・カミラさんは、ひとりでどこかへ行ってしまった。 僕はベッドの上で、ずっと嗚咽していた。 涙が止まらなかった。 春奈ちゃんとなにも話せなかったこと。 そしてなんの関係もない人たちが犠牲になったこと。 僕は春奈ちゃんと最後にもう一度だけ会いたかった。 だけどこんなことになるなら、最初から会わなければよかったのかしら。 僕のために、たくさんの人が……。 ごめんなさい。本当にごめんなさい。 スーッとドアが開いた。 女子高生姿のマハー・カミラさんだった。 僕のこと見ると、気まずそうな顔で横に座った。