この街はいつだって雨が降り注いでいる。365日降り続いているわけはない。ただ俺がこの街に降り立つときだけ、いつもそうだ。俺の心を映し出しているかのように。東京都港区南麻布。その閑静な住宅街にあるマユラの部屋で、彼女と俺は体を寄せ合っている。正面から向き合い、片方の手は彼女の肩に、もう片方は頭の後ろに。「テツヤ……ずっとこうしたかった。ほんとうよ。今まで何人の男に抱かれても、あなたのことが忘れられなかった。もう一度やり直したいって、ずっと願ってた……」俺の背中に手を回し、胸に顔をうずめて、彼女は言う。「マユ……」懐かしい呼び名を口にしながら、それ以上のことは何も言えない。10年もの間、俺のことを想い続けてくれた彼女に感謝の気持ちはない。俺の方こそ、シロカネマユラのことが忘れられなかった。忘れたくても、刺青のように肌に刻み込まれた彼女の感触は、ことあるごとに俺の心をざわめかせた。妻のユキノと初めて出会い、唇を重ねたときも……彼女の処女膜を貫いたときも。マユラとの初めてのキス・セックスに比べたら、興奮の度合いは低かった。それはマユラが俺にとって初めての女だったからだ。理由はそれ以上でも、それ以下でもない。そう自身に言い聞かせていたのに。まだ服は身につけたまま。シャツの裾から手を入れ、生肌に触れる。ただそれだけでマユラの口からは声が漏れる。「あん……」高く、かわいらしい声が。マユラとの初めてもそうだった。シミもシワもない制服を脱がしにかかったとき、マユラの口から出たのはいつも話すような声じゃなかった。発情したメスの声に、俺はそそのかされたのだ。タイプじゃなかった。胸はふくよかでも、それに伴う太ましい胴体・ふともも。丸く幼い顔。「カワイイ」と言っても、ブルドックやマルチーズに対して抱く印象と同じ。それでも恋をしてしまった。いったん彼女の体を知ると、女としか考えられなくなった。彼女と一緒にいるだけでソワソワしだし、手をつなぐだけで股間が盛り上がった。ぜんぶ思春期のせいだ。あの若さが、俺を狂わせたのだ。けれど今。マユラは成熟した大人の女性の色気をたたえている。ムダな肉だけ落ち、やせすぎてもいない。胸の大きさはそのまま、腰にはくびれもある。大根のような足も、パンパンにむくれた顔もない。いや、そんなもの最初からあったのか。彼女と別れた辛さが、記憶を
Terakhir Diperbarui : 2025-07-29 Baca selengkapnya