既婚者の小説家志望・クロカワテツヤは、Facebookで高校時代の元カノ・シロカネマユラと再会する。雨の降る南麻布で、懐かしい初恋の記憶が蘇り、禁断の不倫関係に溺れていく。妻ユキノの鋭い監視の目を盗みながら、マユラとの密会を重ねるが、彼女の心の傷や復讐心が絡み合い、情熱的な関係は危険なほどエスカレート。やがてマユラは、二人の親密な写真をSNSに投稿してしまいーー。過去と現在の愛が交錯し、罪悪感と欲望の狭間で葛藤するテツヤの心揺さぶる心理ドラマを描きながら、現代のSNS社会の闇を浮き彫りにする作品。
Lihat lebih banyakこの街はいつだって雨が降り注いでいる。365日降り続いているわけはない。ただ俺がこの街に降り立つときだけ、いつもそうだ。俺の心を映し出しているかのように。東京都港区南麻布。その閑静な住宅街にあるマユラの部屋で、彼女と俺は体を寄せ合っている。正面から向き合い、片方の手は彼女の肩に、もう片方は頭の後ろに。「テツヤ……ずっとこうしたかった。ほんとうよ。今まで何人の男に抱かれても、あなたのことが忘れられなかった。もう一度やり直したいって、ずっと願ってた……」俺の背中に手を回し、胸に顔をうずめて、彼女は言う。「マユ……」懐かしい呼び名を口にしながら、それ以上のことは何も言えない。10年もの間、俺のことを想い続けてくれた彼女に感謝の気持ちはない。俺の方こそ、シロカネマユラのことが忘れられなかった。忘れたくても、刺青のように肌に刻み込まれた彼女の感触は、ことあるごとに俺の心をざわめかせた。妻のユキノと初めて出会い、唇を重ねたときも……彼女の処女膜を貫いたときも。マユラとの初めてのキス・セックスに比べたら、興奮の度合いは低かった。それはマユラが俺にとって初めての女だったからだ。理由はそれ以上でも、それ以下でもない。そう自身に言い聞かせていたのに。まだ服は身につけたまま。シャツの裾から手を入れ、生肌に触れる。ただそれだけでマユラの口からは声が漏れる。「あん……」高く、かわいらしい声が。マユラとの初めてもそうだった。シミもシワもない制服を脱がしにかかったとき、マユラの口から出たのはいつも話すような声じゃなかった。発情したメスの声に、俺はそそのかされたのだ。タイプじゃなかった。胸はふくよかでも、それに伴う太ましい胴体・ふともも。丸く幼い顔。「カワイイ」と言っても、ブルドックやマルチーズに対して抱く印象と同じ。それでも恋をしてしまった。いったん彼女の体を知ると、女としか考えられなくなった。彼女と一緒にいるだけでソワソワしだし、手をつなぐだけで股間が盛り上がった。ぜんぶ思春期のせいだ。あの若さが、俺を狂わせたのだ。けれど今。マユラは成熟した大人の女性の色気をたたえている。ムダな肉だけ落ち、やせすぎてもいない。胸の大きさはそのまま、腰にはくびれもある。大根のような足も、パンパンにむくれた顔もない。いや、そんなもの最初からあったのか。彼女と別れた辛さが、記憶を必要以上にゆがめてしまったんじゃないのか。ユキノと結婚して以来、もう彼女以外の女には手を出さないと決めた。風俗通いも辞めるし、ガールズバーさえ行かない。そう約束して妻と結ばれたハズなのに。「……まだ迷っている? はやくブラ外して……ね、お願い……」ホックに手をかけ、しかしそこから次へ進めないでいる俺に、元カノ・マユラは言う。「ゴメン、やっぱり……」そう言いかける俺の唇を、彼女はふさぐ。自分の唇で。ファーストキスのときのように、舌を入れてくる。「う……」俺のノドの奥からも声が漏れる。舌と舌をからめ合いながら、彼女の手が俺のイチモツに触れる。その瞬間、俺の中でなにかがプツンと切れたような音がした。雷が鳴る。東京都港区南麻布、いつだってこの街では雨が降っている。少なくとも俺が降り立つときはいつも。不貞行為を働いているかもしれないという後ろめたさが、俺にそう思わせる。そして今夜、実際に不貞行為に至る。妻に内緒で再会を果たしてしまった元カノを抱く。唾液と唾液を混じり合わせながら、マユラのブラのホックを外す。
「ねぇ、あなたが最近Facebookで友達になったシロカネマユラさんって誰?」2か月前。妻がそう尋ねてきたときは、心臓をナタで切られたような衝撃が走った。「友達だよ、高校時代の」しかしその胸の痛みにも関わらず「友達」の単語が迷わず口にできたのは、自分でも意外だった。もう10年。初恋のころの気持ちなんて、とうになくなったのだろう。28歳にしてようやく俺も大人になったということ。誇らしいことではあれ、青春時代が終わったことへの寂しさもわずかにあった。どちらにしても、妻に元カノだと悟られないことは幸いだ。「なんだー、ただの友達かー」そう言って微笑む彼女を見ながら、ホッと胸をなでおろす。妻がFacebookを始めたのは、マユラから申請を受けたのとほぼ同時期だ。それまで、妻がこれほど嫉妬深い性格だとは思わなかった。彼女に俺のアカウントが見つかった瞬間、いきなり友達のリストを指摘されて戸惑ったものだ。「わー、友達500人!? すごい、多いー。それに女性も……これ、みんな仕事関係の相手? 不倫相手とか混じってないでしょーね」「まさか。昔の知り合いとか、たまたまいっしょに飲んだ人とか片っ端から申請していってたら、そうなっただけだよ。2回以上会ったことある人なんてそんなにいないさ」そう答えながら、内心ヒヤヒヤした。もちろん妻に知られてやましい相手は、そのときはまだいない。が、妻がFacebookを始めたということは、俺の交友関係もすべて妻に監視されているということ。黙って飲み会に行くことも今後できなくなるし、そこで出会った女性とツーショットを撮られるだけでも疑われる可能性が出てくるということだった。そんな状況下での、元カノ・マユラからの友達申請。タイミング的には最悪だ。そんなの承認しないのが当然だろう。けれど、彼女の名前、そして付き合っていた当時の面影が残る顔写真。それらを見て、さまざまな思い出が脳内に、スクラップブックのごとくよみがえった。「クロカワくんって、童貞なの?」「クロカワ……うぅん、テツヤ。私、あなたのこと好きになったみたい……」「安心して、私がぜんぶ教えてあげる」「あぁッ、テツヤ……」目が釘付けになるふくよかな胸。甘いキスの味。耳をくすぐるあえぎ声。やわらかな肌の感触。ただようメスのにおい。彼女の存在が、俺の五感すべてを刺激した。体液
南北線で四ツ谷まで出たところで、次にくる丸ノ内線の電車は中野坂上止まりだった。アパートのある新中野まで一駅歩くか……いや。それなら中野で降りる方が近いな、と、乗り換えは中央線に決めた。そう考えられるほどアタマが冷静なことに驚きもしない。つい30分前まで、妻じゃない女を抱いていたというのに。思考はあっという間に思春期から30代へ戻った。股間はすっかり大人しくなっている。ヌイた分だけ身軽になったようにさえ思う。ただ、興奮が過ぎ去ったあとに押し寄せてきたのは罪悪感だ。後悔はないと思っていたのは、セックスの最中だけだった。シャワーを浴び、スーツをまとったところで、人間としての判断力が戻ってきた。俺は今夜、犯してはならない過ちを犯してしまった。「マユ……ごめん、やっぱ、もう俺たち会わないほうがいい……俺、もう結婚してるし……」「はぁ? なにそれ、私とナマでヤッたやつがよく言うわね。もし子どもできたらどう責任とるの!?」それを言われると、返す言葉がなかった。けれどシロカネマユラは、絶望的な顔になっている俺を見て大いに笑った。「……アハハハハッ、なにそのぬれた子犬みたいな顔。冗談だってば。だいじょうぶ、デキないよ。私、ピル飲んでるんだもん」一瞬、ホッとしてしまったのは認めよう。もちろんそれで安心していい問題じゃない。子どもができる、できないではない。妻以外の女とセックスしたこと自体が罪だ。「バレなきゃいいよ、バレなきゃ。私とテツヤは、今夜なにもなかった。ただFacebookで再会して、何度か会ってるうち一緒に飲むことになって、酔いつぶれた私を家まで運んでくれた。で、介抱してたらこんなに時間かかっちゃった。それだけのことでしょ」しかし当事者のマユラがそう言ってくれるのであれば。もうただただ、感謝するしかないのではないか。「また会おうよ。で、気持ちいいことしよ」はずかしげもなくそう言うマユラに、その場では曖昧な返事しかできなかった。感謝は感謝だ。ならばこそ、おたがいの幸せを願うためならこうするしかない。忘れよう。電車の中で思った。帰ったらFacebookの「友達」からもこっそり外そう。いや、すぐそんなことしたらバレる。徐々に接触を減らし、頃合いを見てブロックだ。あの、あどけなさを残しつつ成熟した美しい顔も、忘れてしまおう。やわらかいおっぱいも。理想的
思春期のころ、初めてマユラの下着姿を見て何を感じただろうか。 「やぁん……」 愛くるしい彼女の声が、はぁはぁと漏れる息が、どくどくと高鳴る心臓が、俺の先端をムクムクと勃ち上がらせた。 今も同じだ。めくりあげたシャツの下からのぞいたブラジャー。ホックを外したばかりで、胸は隠れている。その下を見るのが、まだもったいなくすら思える。 クッキリ形を保っている谷間に、たまらず顔を入れる。ちょうど谷間に鼻が挟まるように。 においをかぐ。洗いたてのようなブラの香りに、少し汗くささが混じっている。胸を締め付けるような刺激的な芳香。下着ごしに、乳房に両手で触れる。 「テツヤ……優しくなったね、触り方が」 少し前屈みの姿勢で低い位置にきた俺の頭を、ぽんぽんと軽くたたく。 「付き合っていたころはもっと激しかった。AVみたいにもみしだいて……おっぱいが千切れるんじゃないかと思うくらい。痛かったけど、嫌いじゃなかったよ」 「……じゃ、じゃあ、またAVみたいなことしようか」 そう吐いた俺に、もうためらいはない。ブラを下から上に持ち上げると、ふたつの乳首が顔をのぞかせた。 「あ……あン……はずかし……」 高校時代のような鮮やかなピンク色では、もうない。けれども上向きで、しゃぶりつきたくなるような形はいまだ健在だ。 舌を伸ばし、片方を舐めあげる。「ひゃっ」もう片方を指でつまむ「はぁあっ……」この声は演技なのか。また俺をそそのかそうとしているのか。まだ引き返せるのでは――。 だが一度切れた「冷静さ」の回路は、そう簡単にはつなぎ直されない。 俺自身もシャツを脱ぎ、ベルトにも手をかける。ズボンをおろし、パンツだけになって、もう一度マユラを抱き寄せる。 勃起した先端がマユラの股に当たる。少しこすれると、彼女の口からまた違うあえぎ声がでる。「ひあ……はうっ……」俺の心は思春期に戻っている。初めて恋を覚えたころに。 「お願い……もう前戯なんていらない。はやく……はやくきて。私の中に……はやく入ってきてぇっ……」 その言葉に、黙って従う。後悔はない。これは自然なことなんだ。男と女であると以前に、俺たちはオスとメスなのだ。その本能に従った行動をしているだけだ。 ベッドにマユラの体を寝かせ、脱ぎかけのシャツも、スカートやショーツも脱がす。俺はパンツを脱ぎ、俺自身をのぞかせる。
この街はいつだって雨が降り注いでいる。365日降り続いているわけはない。ただ俺がこの街に降り立つときだけ、いつもそうだ。俺の心を映し出しているかのように。東京都港区南麻布。その閑静な住宅街にあるマユラの部屋で、彼女と俺は体を寄せ合っている。正面から向き合い、片方の手は彼女の肩に、もう片方は頭の後ろに。「テツヤ……ずっとこうしたかった。ほんとうよ。今まで何人の男に抱かれても、あなたのことが忘れられなかった。もう一度やり直したいって、ずっと願ってた……」俺の背中に手を回し、胸に顔をうずめて、彼女は言う。「マユ……」懐かしい呼び名を口にしながら、それ以上のことは何も言えない。10年もの間、俺のことを想い続けてくれた彼女に感謝の気持ちはない。俺の方こそ、シロカネマユラのことが忘れられなかった。忘れたくても、刺青のように肌に刻み込まれた彼女の感触は、ことあるごとに俺の心をざわめかせた。妻のユキノと初めて出会い、唇を重ねたときも……彼女の処女膜を貫いたときも。マユラとの初めてのキス・セックスに比べたら、興奮の度合いは低かった。それはマユラが俺にとって初めての女だったからだ。理由はそれ以上でも、それ以下でもない。そう自身に言い聞かせていたのに。まだ服は身につけたまま。シャツの裾から手を入れ、生肌に触れる。ただそれだけでマユラの口からは声が漏れる。「あん……」高く、かわいらしい声が。マユラとの初めてもそうだった。シミもシワもない制服を脱がしにかかったとき、マユラの口から出たのはいつも話すような声じゃなかった。発情したメスの声に、俺はそそのかされたのだ。タイプじゃなかった。胸はふくよかでも、それに伴う太ましい胴体・ふともも。丸く幼い顔。「カワイイ」と言っても、ブルドックやマルチーズに対して抱く印象と同じ。それでも恋をしてしまった。いったん彼女の体を知ると、女としか考えられなくなった。彼女と一緒にいるだけでソワソワしだし、手をつなぐだけで股間が盛り上がった。ぜんぶ思春期のせいだ。あの若さが、俺を狂わせたのだ。けれど今。マユラは成熟した大人の女性の色気をたたえている。ムダな肉だけ落ち、やせすぎてもいない。胸の大きさはそのまま、腰にはくびれもある。大根のような足も、パンパンにむくれた顔もない。いや、そんなもの最初からあったのか。彼女と別れた辛さが、記憶を
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