智美は部屋を出て、食卓に腰を下ろした。彩乃が彼女の手を取って、軽く咎めるように言った。「どうしてそんなに早く出てきちゃったの?」娘と祐介にもっと仲良くしてほしいと思っていたのだ。智美は真っ直ぐに言った。「お母さん、彼は私の意思を無視して、無理やり迫ってくるのよ。それでもあなたは彼の味方をするの?」彩乃は一瞬きょとんとし、すぐに笑顔を浮かべた。「何を言ってるの、この子ったら。祐介くんはあなたを愛してるの。だからこそ、つい衝動的になっちゃうのよ。それを無理やりなんて言わないわ」智美は眉をひそめ、真剣な口調で返した。「女がきっぱり拒んでいるのに、男がわざと聞こえないふりをして無理やり迫る。それは立派なDVよ。法律的にも、性的嫌がらせに当たるの」彩乃はますます混乱した様子だった。「もう、どうしてそんなに頑固なの?」ため息をつき、「夫婦の間に強制なんてあるはずないでしょ」「私たちはもう離婚したの」「離婚してても、また結婚すればいいじゃない。ほら、もう一緒に住んでるんだし」「お母さん!」智美は疲れ果てたように声を上げた。彩乃は瞬きをして、淡々と言った。「私はね、あなたが祐介くんと復縁しない限り、病院には戻らないつもりよ。そのせいで体調を崩したら、責任はあなたにあるわ」智美の顔に怒りがこみ上げ、頬が赤く染まった。「私があなたの病気を心配しているのを分かっていて、まだ彼の肩を持つなんて……」「これはあなたのためなの。お母さんのことなんてどうでもいい。でも、あなたが幸せになるのを見届けたいの。祐介くんと結婚してこそ、あなたは幸せになれるのよ」母の言葉に智美は何も答えることができなかった。母は完全に祐介の味方になったようだ。退勤前、和也は悠人に電話をかけた。「ちょっと飲みに行かないか?」軽い誘いのつもりだったが、悠人は意外にも即答した。「いいよ、場所は?」驚きつつも住所を告げ、「待ってるよ」と言った。悠人が個室に入ると、和也は美穂と長電話の真っ最中であった。画面越しに妻と軽く口づけを交わすと、「悠人が来たよ、話すか?」とスマホを差し出した。悠人は歩み寄り、画面の中の美穂に微笑んだ。「お義姉さん」美穂は柔らかく大人しい雰囲気で、好奇心を含んだ瞳で尋ねた。
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