マリーの不眠不休の看病と、二人の魂の誓いが奇跡を起こしたのか。夜が明ける頃には、アランを苛んでいた激しい発作は嘘のように治まり、彼の呼吸は穏やかな寝息へと変わっていた。 マリーの調合した薬が、彼の生命力をかろうじて繋ぎとめている。その綱渡りのような状態のまま、一行は谷のさらに奥深くへと進んだ。 そして、運命の夜が訪れる。 谷の瘴気を振り払うかのように、満月が煌々と夜空を照らし始めた。その青白い光が、一行の進む先に信じられないほど幻想的な光景を映し出す。 谷の最深部、小さな泉が湧く開けた場所に、それはあった。 淡い銀色の光を放つ花々が、一面に咲き誇っている。月光を花弁に吸い込んだかのような、儚く美しい光景。 マリーが古文書で見た、幻の薬草『月光花』の群生地だった。「なんて、美しい……」 マリーが息を呑む。その神々しいまでの光景に、リオネルたちも言葉を失っていた。 花々に駆け寄ろうとした瞬間。泉の奥の暗がりから、巨大な影がゆっくりと姿を現した。 それは獅子だった。だが、ただの獅子ではない。体躯は馬の何倍も大きく、たてがみは月光を編み込んだ銀糸のように輝いている。そして何より、琥珀色の瞳には凶暴な獣性ではなく、悠久の時を生きてきた者だけが持つ、深い知性と威厳が宿っていた。 古の魔獣、『月詠みの獅子』。伝説に謳われる、谷の守護者である。 その場にいる全員の頭の中に直接、重々しい声が響き渡った。『この花は、清らかなる魂を持つ者にしか触れることは許されぬ』 魔力による念話。極めて高度な魔法だ。マリーはゴクリと喉を鳴らした。『お前たちの中に、その資格を持つ者はいるか。いるならば、その覚悟を、ここで示せ』 守護者の言葉に、アランがマリーの前に立ちはだかるように剣を抜いた。彼の体はまだ万全ではない。それでも、その青い瞳には愛する者を守るという騎士の誇りが燃えていた。「この花は、我々の未来に必要不可欠なもの。もし力ずくで奪わねばならぬのなら、この命に代えても!」 「お待ちください、アラン様」 アラ
Last Updated : 2025-08-21 Read more