「玲ちゃん、あなたも来てたの?」綾は藤原家の令嬢、彼女の誕生日パーティーは、都内でも名の知れた上流階級の顔ぶれがずらりと揃っていた。政財界の重鎮からセレブ妻たちまで、ほとんどの招待客が足を運んで祝いにきてくれた。その輪の中で、雨音もいた。彼女は玲を見つけるなり眉をひそめ、そっと彼女を人混みの外へと連れ出した。「足をケガしてたでしょ?今日は来ないと思ってた」玲はかすかに首を振った。「何日か安静にしてたら、もうすっかり良くなったの」少し肩をすくめるように続ける。「それに、今回わざわざ綾が私に直接招待状を送ってきてね。朝からお母さんが張り切っちゃって、スタイリストまで呼んで準備してくれたの。断る余地なんてなかったわ。『綾さんに気に入られてるなんて光栄なことよ』って……」雪乃は根っからおめでたい性格だ。綾は玲と仲直りしたから、今回のパーティーに玲を招待したと思っている。弘樹も反対しなかったのだから、玲にとっても名誉なことだと。だが玲には、その招待が名誉どころか、不穏な予感をはらんでいるようにしか感じられなかった。「それにしても……」玲はちらりと甲板に並ぶクルーたちを見回した。「警備員がいるにしても、クルーズのスタッフたち、さすがに多すぎない?」「やっぱりそう思う?私も変だなって思ってたよ」雨音は玲の隣に立ち、周囲を警戒するような目をしたあと、柔らかく微笑んだ。「でも大丈夫。玲ちゃんは私が守るから。こんな美人を、誰にだって指一本触れさせないからね」「……なんだか物騒な言い方ね」「違う違う!褒めてるだけだよ」雨音は軽く咳払いして笑った。「今日の玲ちゃん、ほんとに綺麗だから」それは社交辞令ではなく本心だった。玲はこれまで弘樹の影響もあり、いつも地味で控えめな服装をしていた。たとえ華やかな美貌があっても、それを表に出そうとしなかった。だが今日は違う。雪乃の強いすすめもあって、淡いローズピンクのドレスに身を包み、ウエストのラインを引き立てるデザインが彼女の華奢な体を際立たせている。長い脚を堂々と露出し、繊細なメイクがその整った顔立ちに妖艶さを添えた。雨音の目には、まさに「清純と誘惑」を同時に纏った美しさそのものに映った。けれどよく見ると――「玲ちゃん、最近ちゃんと寝てないでしょ?目の下、少しクマで
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