浩はしばらく黙り込んだ。「俺自身の事情です。琴葉とは関係ありません」逸平は笑いながら、また一口お茶を啜った。面白い。「君は彼女が好きだ」湯飲みを置く音と共に、逸平の確信に満ちた声が響いた。疑問ではなく、断言だ。浩は琴葉が好きなのだ。浩は唇を動かしたが、反論らしい言葉は出てこなかった。「琴葉は君の気持ちを知っているのかい?」浩の耳が薄紅色に染まり、俯いて首を振った。「知らないと思います」逸平は首を傾けて嗤いた。ふん、また片思いか。「それで、そこまでする価値があるのか?」黙っているだけでは、どれだけ思っても琴葉には伝わらない。「価値があるかどうかなんて。確かに衝動的だったのは認めます。でも、あのことが起きたと知った時、自分は本当に抑えられなかったんです」病院で、浩は遠くから琴葉の姿を見た。あんなに憔悴し、生気のない琴葉は、記憶の中の彼女とは別人のようだった。琴葉はあんな姿じゃない。琴葉のような良い人が、そんな感情的な裏切りに遭うべきじゃない。「高校の時から琴葉が好きでした」高校入学式の日、琴葉を一目見た瞬間、浩の心には恋の種が蒔かれた。落とした教科書を拾ってくれ、笑顔で手を差し伸べてくれたあの少女は、浩の青春のすべてを照らす存在だった。浩は琴葉が自分を振り返ることを決して望まない。ただ琴葉が幸せでいてくれればいいと思っていた。「井上さん、おそらくこの気持ちは理解できないでしょう」浩の声は硬くなっていた。「ただ、この件で琴葉に迷惑がかかりませんように、お願いします。今の琴葉は、状況がもう十分に厳しいですから……」「わかってる」逸平は浩を遮った。浩は驚いて目を上げた。「誰よりも理解しているさ」逸平の瞳は深みを増し、鋭い光を宿していた。「ただ、俺なら君よりもっと手厳しくやっただろう」浩が反応する間もなく、逸平は指で軽く机を叩き、浩を見つめて聞いた。「琴葉のそばにいたいか?」浩は逸平の意味がよくわからなかった。「もしかしたら君なら琴葉を今の苦境から救えるかもしれない」その後、逸平の紹介で、浩は心理カウンセラーとして琴葉の元へ通うようになった。結果は正解だった。浩のカウンセリングとサポートにより、琴葉は日々回復していった。こうして今二人が結ばれたのは、逸平の力が最も大き
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