ショックを受けて呆然としている篠根《ささね》先輩たちをその場に残して、私は一度お手洗いに行き鏡で自分の顔を見る。鏡に映る自分はいつも通りなのに、さっきの出来事で何だか胸が落ち着かない。 大きなため息をついて頬を叩いて気を引き締めると、そのままミーティングルームへと向かった。「横井《よこい》です、失礼します」 扉をノックして返事を確かめて部屋の中へ、そこには梨ヶ瀬《なしがせ》さんが一人でテーブルの傍に立っていた。 そのまま部屋の入り口で黙って立っていると、あちらからゆっくり近づいて来て……「本当に横井さんは何でもかんでも全部自分で抱え込もうとするよね」「そう、かもしれないですね……」 人に頼られるのは大好きなのに、頼るのは得意じゃない。特に男性に弱みを見せるのは、随分前から苦手だった。 こんな性格だから可愛くないのは百も承知だし、それで梨ヶ瀬さんが興味を無くしてくれるのなら万々歳だ。「可愛くないって言われるでしょ?」「それはどうでしょうね? まあ、梨ヶ瀬さんがそう思うのは勝手ですけど」 投げやりな言い方に、梨ヶ瀬さんが少し呆れたように溜息をつく。今になって助けた事を後悔しているのかもしれない、そう思っていたのに……「可愛くなさ過ぎて、俺には可愛くてしょうがなく見える。どれだけこの子は頑張り屋なんだって、撫でて甘やかしてやりたくなるよ」 ……いったい何を言っているの、この人は?「わ、私が言っているのはそういう事じゃなくて……!」 可愛くないと言われて、そんな風に考えてるなんて思わないでしょう? 本当に梨ヶ瀬さんの本性って、滅茶苦茶に歪んでるとしか思えない。 そんな私の考えを読んでいるかのように……「もう横井さんに呆れて興味がなくなるとでも思った? 残念だったね、ますます君の事が欲しくなったよ」「欲しくなったって……また、そんな馬鹿みたいなことを言って」 はっきりと言われた言葉に、一瞬で頭が沸騰しそうになった。普段はのらりくらりとかわして、遠回しな言葉しか言わない人なのに。 一気に梨ヶ瀬さんを異性として意識してしまって、頭がうまく働かない。上手い返しも見つからないまま、顔を赤くさせてしまい梨ヶ瀬さんを喜ばせてしまう。「へえ、そんな顔してくれるようになったんだ? 前よりちょっとは横井さんに、男とし認識されてきたって思っていいのか
Last Updated : 2025-10-20 Read more