「……だから、あたしも戦うよ」 ぽつりと、道花が決意を言葉にする。「いままで何も知らないで、珊瑚蓮のことだけ考えればいいって言われたけれど。それじゃあいけないよ。女王陛下が塔を抜け出して慈流を攫って、自分が成り代わって仙哉さんを幽鬼にして、操り人形のように従えているんでしょう? 幽鬼の王と呼ばれる鬼神まで一緒になって……かの国に来たあたしにできることは何もないの? 慈流はもしも自分の身に何か起きたらあたしが陛下の花嫁になれって冗談みたいなことを言っていたけどあ」「冗談じゃない」 あたしなんかが、と卑下するような言葉をつづけようとした道花に、九十九が憤った表情で遮断する。「おれが求めていたのは人魚の花嫁ではない。珊瑚蓮の精霊だと何度言ったらわかるんだ!」 周りで木陰と那沙が好奇の視線を投げかけているのにも構わず、九十九は道花に言い募る。「賀陽どの……至高神はおれにこう言った。珊瑚蓮に桜色の花を咲かせるには、愛を注げと。幼き頃の想いを昇華し、実らせろと。おれが愛を注ぐんだ、あのときみたいにきみがひとりで頑張るんじゃない……! だからおれは珊瑚蓮の精霊を探していた。あのときからずっと」 ハクトという真名を名乗って求婚し、珊瑚蓮の花が咲いたらお嫁さんになると応えてくれた少女。九十九が後にバルトから話を聞いて、彼女が人魚の女王の娘でありながら珊瑚蓮の精霊として神殿に預けられているという身の上を知った。あれから五年もしないうちに父王はオリヴィエに殺され、九十九はセイレーンを侵略した後、玉座を勝ち取ったのだ。 ――すべては彼女との約束を護るため。 なのに道花は真名を母親に呪われたためにふたつ名を封じられ、その際の記憶まで失っていたのだ。九十九が彼女に気づかなければ彼女はいつまでも自分が何者であるか辿りつけなかったに違いない。「ハクト……」 熱っぽい瞳が九十九の真名を囀る。九十九もまた、自分だけが知る彼女
Last Updated : 2025-09-29 Read more